旦那様と浮気相手に居場所を奪われた伯爵夫人ですが、周りが離縁させようと動き出したようです(旧題:私を見下す旦那様)

・めぐめぐ・

文字の大きさ
13 / 17

第13話 ディア視点

しおりを挟む
「よお、トーマ商会の嬢ちゃん。おまいさん、ちょっと時間あるか?」

 そう言って現れたのは、オグリス商会代表であるレブナンド・オグリスだった。

 見るからに、力仕事得意です! というでかい図体をしている。
 オグリスの傍には、フードを被った男がいた。
 
 奥様と親交があるとはいえ、相手はライバル商会。
 何か企んでいる可能性だってある。

 だけどオグリスからでた言葉は、あまりに意外過ぎる提案だった。

「フェリーチェさんをあの無能旦那から何とか離縁させてぇんだけど、お前も一枚嚙まねえか?」

 *

「これほど酷い状況だとは……思いませんでした……」

「全ては、解雇された使用人たちの話ですから、今はもっと酷いかもしれませんね」

「嬢ちゃんが悔しがるのも分かる。俺だって、まさかあのフェリーチェさんが、そんな状況に陥ってるなんて思ってもなかったからな……」

 あの人には山ほど恩があるからな、というオグリスの悔しそうな呟きに唇を噛んだ。

 フェリーチェ様が……あのクソ旦那と愛人から、さらに酷い仕打ちを受けているなんて思ってもみなかったから。

 同時に、一刻を争う状況なのに見守っていた自分の不甲斐なさに、腹が立った。

 フードを被っていた男――ブルーノー商会の代表であるウェイターによってもたらされたフェリーチェ様の話は、聞いているこちらが苦しくなるほど辛いものだった。

 それなのにあの方は、あたしたち――いや、あたしに何もご相談下さらなかった。
 悔しくて、涙が滲んだ。

「で、私は何をすればいいのですか? あの方を、クソ野郎から救い出せるなら――あたしはなんでもする」

「あなたの知恵を借りたいのです。多分、私やオグリスさんが離縁を勧めても、あの方は納得されないでしょうから」

「でも、あたしの言葉だって聞き入れて下さらない。フェリーチェ様は自己肯定感が低すぎるの。商会が大きくなったのは、常々私たちとあのクソ旦那のお陰だって仰ってる。自分は……無能で何も出来ない女なんだって……」

「ふむ……それはかなり重症ですね……」

「離縁しろって言っても絶対に聞き入れない。離縁した後のご自身の進退もあるだろうけど、残ったあたしたちに迷惑を掛けることを一番に恐れていらっしゃるから。せめてご自身の能力の高さに気づいて下されば、あんな扱い受けないのに……それか騙して離縁させるか……」

「あ、そうしましょう」

「……え?」

 いきなりポンっと手を打つ音が響いたかと思うと、ウェイターの指があたしに向けられた。
 オグリスも、ニヤっと笑ってあたしを見ている。

「そうだよな。もうこうなったら、騙して離縁させるしかないよな!」

「え? ええ⁉ ちょ、ちょっとどういう――」

「作戦は後ほど立てるとして、ディアさん。あなたに一つ確認したいことがあります。もしフェリーチェ様の離縁が成立すれば、あの方はもうトーマ商会との関りがなくなります。その場合、あなたはどうするつもりですか?」

 ウェイターの視線が鋭くなった。
 あたしは頭が悪いけど、奴が言わんとしている意味は分かる。

「……あたしはフェリーチェ様についていく」

 だってあたしの天職は、フェリーチェ様の傍でお仕えすることなんだから。

「あなたの覚悟が聞けて良かった。フェリーチェ様の傍にいるあなたを味方に出来れば、色んな案が立てられるでしょう。そうですねー……例えば、こちらが偽装した離縁届を部屋に置いておくとか」

「楽勝よ。必要なら、奥様の署名だって用意出来る」

「それは心強い」

「おい、俺を空気にするな。俺だって協力出来るんだぞ」

「もちろん。レブナンドさんには、その他の商会の代表にお話を通しておいて頂きたい。私より、あなたの方が顏が広いでしょう。ローランド卿が騒ぎ立て、フェリーチェ様に関する変な噂を流されても困りますからね」

 口元を緩ませ、ウェイターが手を差し伸べた。
 だけどそれを握る前に、あたしには聞きたいことがあった。

「フェリーチェ様を離縁させてくれるなら、誰とだって手を組むわ。だけど教えて。あんたは奥様の知り合いなの? 何故あの方を助けようと思ったの?」

 オグリスだって、フェリーチェ様の状況は知らなかった。ということは、今オグリスが持つ情報は、目の前の男からもたらされたものってことになる。
 
 あいつは小さく息を吐き出すと、あたしを見つめながら別の何かを思い出している様子だった。

 頬が緩み、茶色い瞳が細められている。

「私もあなたと一緒です。以前フェリーチェ様に救って頂いた御恩を返したいだけですよ」

 フェリーチェ様が、どういういきさつでウェイターを救ったのかは語らなかった。

 でも懐かしくどこか遠くを見つめる瞳に真剣な色を見た時、差し伸べた手を握る迷いは消えた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

大嫌いな従兄と結婚するぐらいなら…

みみぢあん
恋愛
子供の頃、両親を亡くしたベレニスは伯父のロンヴィル侯爵に引き取られた。 隣国の宣戦布告で戦争が始まり、伯父の頼みでベレニスは病弱な従妹のかわりに、側妃候補とは名ばかりの人質として、後宮へ入ることになった。 戦争が終わりベレニスが人質生活から解放されたら、伯父は後継者の従兄ジャコブと結婚させると約束する。 だがベレニスはジャコブが大嫌いなうえ、密かに思いを寄せる騎士フェルナンがいた。   

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢マリオンの婚約者アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

処理中です...