14 / 39
第14話 バックスの疑問(別視点)
しおりを挟む
「アウラ殿は頑張ってくださっているようだな」
バックスは、目の前にいる息子マーヴィに話しかけた。
ここは彼の自室。部屋には部屋主と息子しかいない。父親の言葉に、マーヴィは少し苦笑いを浮かべながら頷いた。
「ああ、そうですね。汚染の浄化も終わったのだからゆっくりするように言っているのに、毎日畑の様子を見に行っては人々と混じって農作業をしたり、神殿では人々の話を聞いたり、困りごとを魔法で解決しているようです」
「……アウラ殿が来てくださってから、領民たちの表情が以前よりもずっと明るくなっただけでなく、領地存続に関わる深刻な問題ですら、簡単に解決なさった。見たか、マーヴィ。この間収穫された作物の量を」
そう言われマーヴィは、先日行われた収穫を思い出した。
土地が痩せている可能性も考え、育ちやすい作物を植えたのだが、マーヴィの予想以上に作物が育ったため、街の住人たち総出で収穫を行ったのだ。
「そうですね。あまりの収穫量の多さに、皆が驚いていました」
倉庫に入りきらず山積みになっている作物を思い出し、マーヴィは苦笑した。
しかし父親の表情は厳しい。
喜ぶべきことなのに、何故そんな渋い顔をしているのだろうか。
バックスは思い詰めた表情で自身の手元を見つめながら、口を開いた。
「アウラ殿には大変感謝している。しているんだが……神官の力とは、あれほど強いものなのかと気になってな」
父親の言葉に、マーヴィは瞳を見開いた。同じ疑問が、自分の中にもずっとあったからだ。
とはいえマーヴィ自身、神官の力について良く知っているわけではない。
マーヴィの知る神官は先日戦いで亡くなった彼だけであり、この土地の人間らしく、良くも悪くも大らかな人物だった。
神聖魔法の力も、アウラほど強くはなかった記憶がある。
しかし、
「彼女自身、自分の力は大したことは無いとずっと言っていました。俺も神官の力についてよく知らなかったから、そういうものかと……」
「もちろん、わしだって神官様の力については詳しくはない。ただスティアの神官を基準に考えると、アウラ殿の力はその基準から外れたところにいるように思えてならないのだ。先日、魔獣討伐に向かう兵士たちに守護の神聖魔法をかけてくださったが、魔法をかける人数が多いから一日しかもたないとおっしゃった。わしの知ってる守護の神聖魔法の効果時間は数時間なんだが……」
「……そういえば俺一人にかけた時は、五日間しかもたないって言われたな」
「…………」
マーヴィの呟きに、バックスの口があんぐりと開いたままになった。が、すぐに口を閉じると立ち上がり、窓の方へと寄った。
そしてマーヴィを手招きすると窓の外――訓練場の端に作られた小さな畑を指さす。
緑が茂る中、ポツポツと白い蕾が見える。あの蕾が花開き、しばらく経てば実をつけるのを知っているのは、あの植物が先日大量に収穫した作物と同じ物だからだ。
「あんな所にも畑を作っていたのですか。実がなるには、もうしばらくかかりそうですね」
「そうだな。ちなみにあれは、この間収穫された作物と同じタイミングで育て始めたものだ」
「……はっ?」
父の言葉に、マーヴィは目下に広がる作物を二度見した。
どう見ても、魔王汚染されていた土地で育てた作物と、同じタイミングで育てたとは思えなかったからだ。
明らかに、こちらの方が成長が遅い。
「訓練場の畑の栄養があまりなかったんですかね。魔王汚染されていた土地の方が栄養があり、だから生育に差が出たとか」
「わしも最近までそう思っていたのだが……アウラ殿を見ていると、単純に土壌の違いでは説明出来ない気がしてきてな」
「そうは言っても、向こうの土地は魔王汚染を浄化しただけで、特別なことはしていないでしょう」
それも魔王汚染を浄化するのに使ったのは、解毒の神聖魔法だ。作物の育ちにまで影響を与えるようには思えなかった。
(それに浄化後の土に、他の畑との違いは無かったはず)
この手で、浄化された土を見たのだ。
間違いない。
しかし、父は思いも寄らぬことを指摘した。
「特別なことをしているだろ。豊穣の儀式を」
「しかし、あれはただの儀式。それに最後に使ったのは空間浄化の神聖魔法で病魔を祓う魔法ですよ? それが作物の育ちに影響してくるなんて思えません」
「分かっている、分かってるんだが……どうも引っかかるのだ」
バックスは立ち上がると、部屋の隅に置かれた銀色の大盾の前に立った。
マーヴィが魔王討伐の旅に出る際に持たせた、家宝の大盾。修理が終わり、バックスの元に返ってきたのだ。
太い指が、表面に彫られた盾と花の紋様――クレスセル家の家紋をなぞり、その下あるこぶし大のくぼみに触れる。
マーヴィと同じ黒い瞳が鋭くなる。
「アウラ殿は本当に、ただの神官なのか?」
バックスは、目の前にいる息子マーヴィに話しかけた。
ここは彼の自室。部屋には部屋主と息子しかいない。父親の言葉に、マーヴィは少し苦笑いを浮かべながら頷いた。
「ああ、そうですね。汚染の浄化も終わったのだからゆっくりするように言っているのに、毎日畑の様子を見に行っては人々と混じって農作業をしたり、神殿では人々の話を聞いたり、困りごとを魔法で解決しているようです」
「……アウラ殿が来てくださってから、領民たちの表情が以前よりもずっと明るくなっただけでなく、領地存続に関わる深刻な問題ですら、簡単に解決なさった。見たか、マーヴィ。この間収穫された作物の量を」
そう言われマーヴィは、先日行われた収穫を思い出した。
土地が痩せている可能性も考え、育ちやすい作物を植えたのだが、マーヴィの予想以上に作物が育ったため、街の住人たち総出で収穫を行ったのだ。
「そうですね。あまりの収穫量の多さに、皆が驚いていました」
倉庫に入りきらず山積みになっている作物を思い出し、マーヴィは苦笑した。
しかし父親の表情は厳しい。
喜ぶべきことなのに、何故そんな渋い顔をしているのだろうか。
バックスは思い詰めた表情で自身の手元を見つめながら、口を開いた。
「アウラ殿には大変感謝している。しているんだが……神官の力とは、あれほど強いものなのかと気になってな」
父親の言葉に、マーヴィは瞳を見開いた。同じ疑問が、自分の中にもずっとあったからだ。
とはいえマーヴィ自身、神官の力について良く知っているわけではない。
マーヴィの知る神官は先日戦いで亡くなった彼だけであり、この土地の人間らしく、良くも悪くも大らかな人物だった。
神聖魔法の力も、アウラほど強くはなかった記憶がある。
しかし、
「彼女自身、自分の力は大したことは無いとずっと言っていました。俺も神官の力についてよく知らなかったから、そういうものかと……」
「もちろん、わしだって神官様の力については詳しくはない。ただスティアの神官を基準に考えると、アウラ殿の力はその基準から外れたところにいるように思えてならないのだ。先日、魔獣討伐に向かう兵士たちに守護の神聖魔法をかけてくださったが、魔法をかける人数が多いから一日しかもたないとおっしゃった。わしの知ってる守護の神聖魔法の効果時間は数時間なんだが……」
「……そういえば俺一人にかけた時は、五日間しかもたないって言われたな」
「…………」
マーヴィの呟きに、バックスの口があんぐりと開いたままになった。が、すぐに口を閉じると立ち上がり、窓の方へと寄った。
そしてマーヴィを手招きすると窓の外――訓練場の端に作られた小さな畑を指さす。
緑が茂る中、ポツポツと白い蕾が見える。あの蕾が花開き、しばらく経てば実をつけるのを知っているのは、あの植物が先日大量に収穫した作物と同じ物だからだ。
「あんな所にも畑を作っていたのですか。実がなるには、もうしばらくかかりそうですね」
「そうだな。ちなみにあれは、この間収穫された作物と同じタイミングで育て始めたものだ」
「……はっ?」
父の言葉に、マーヴィは目下に広がる作物を二度見した。
どう見ても、魔王汚染されていた土地で育てた作物と、同じタイミングで育てたとは思えなかったからだ。
明らかに、こちらの方が成長が遅い。
「訓練場の畑の栄養があまりなかったんですかね。魔王汚染されていた土地の方が栄養があり、だから生育に差が出たとか」
「わしも最近までそう思っていたのだが……アウラ殿を見ていると、単純に土壌の違いでは説明出来ない気がしてきてな」
「そうは言っても、向こうの土地は魔王汚染を浄化しただけで、特別なことはしていないでしょう」
それも魔王汚染を浄化するのに使ったのは、解毒の神聖魔法だ。作物の育ちにまで影響を与えるようには思えなかった。
(それに浄化後の土に、他の畑との違いは無かったはず)
この手で、浄化された土を見たのだ。
間違いない。
しかし、父は思いも寄らぬことを指摘した。
「特別なことをしているだろ。豊穣の儀式を」
「しかし、あれはただの儀式。それに最後に使ったのは空間浄化の神聖魔法で病魔を祓う魔法ですよ? それが作物の育ちに影響してくるなんて思えません」
「分かっている、分かってるんだが……どうも引っかかるのだ」
バックスは立ち上がると、部屋の隅に置かれた銀色の大盾の前に立った。
マーヴィが魔王討伐の旅に出る際に持たせた、家宝の大盾。修理が終わり、バックスの元に返ってきたのだ。
太い指が、表面に彫られた盾と花の紋様――クレスセル家の家紋をなぞり、その下あるこぶし大のくぼみに触れる。
マーヴィと同じ黒い瞳が鋭くなる。
「アウラ殿は本当に、ただの神官なのか?」
527
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる