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第31話 秘めたる想い
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ダグの部屋をでた私たちは、黙って廊下を歩いていた。
先ほどの怒りが、まだ胸の中に渦巻いている。だけど、
(私……少しだけだけど、ダグに言ってやったわ)
私を嘲笑う彼に対し、会話する価値はないと言ってやった。
それだけでも私にとって大きな進歩だと思う。
だけどその勇気を出せたのは、きっと――
(マーヴィさんが、私を庇ってくれたから……)
『だが、アウラを貶すのはやめろ。彼女はこの地を蘇らせてくれた英雄だ』
英雄という言葉は褒めすぎだと恐縮してしまうけれど、嬉しかった。
「マーヴィさん、ありがとうございます」
「? 何をだ?」
「私を、庇ってくれたじゃないですか」
私の言葉に、マーヴィさんがぽつりと呟いた。
「俺は、本当のことを言ったまでだ。大したことはしてない」
「それでも、です」
その言葉がどれだけ私を勇気づけてくれたのか、マーヴィさんは気付いていない。気持ちに気づかれていないことに対する安堵と、少し残念な気持ちがせめぎ合う。
心の内を隠すように笑ってみせた私から、マーヴィさんはツイッと視線を逸らした。
「それなら俺だって礼を言わなければいけないな」
「え?」
「あんたも俺のことを庇ってくれただろ?」
あっと小さく声を洩らしてしまった。
私、あの時凄く感情的になってしまって……今思い出すと、もの凄く恥ずかしい。
つま先に視線を落としながら、小さな声で答える。
「それだって本当のことじゃないですか。旅の間、マーヴィさんが体を張って私たちを守ってくれたこと」
「……ダグに反論するとき、怖くなかったか?」
「怖いと思う気持ちの余裕はありませんでした。それ以上に怒りと悔しさが勝ってしまって……だってダグが安全に戦えたのは、マーヴィさんが盾になってくれていたからなんですよ? それを全て自分の手柄みたいに……」
今思い出しても、ムカムカする。
ダグに少し言い返せたと喜んでいたけれど、もっともっと色々と言ってやれば良かったと後悔が過った。
そんな私の怒りは、マーヴィさんの穏やかで優しい声によって別の感情へと塗り替えられた。
「俺のために怒ってくれてありがとう、アウラ」
「いいえ、そんなこと……」
マーヴィさんにお礼を言われただけなのに、ひとりでに顔が熱くなる。薄暗い廊下だから、私が赤面しているのに気付かないはずだけど、一刻も早く顔の赤みを消すため、そっと両手で頬を包んだ。
彼のことが好きだと認識してから、感情の制御が出来なくなっている気がする。今まで、優しいと感じるだけだった彼の行動一つ一つに、一喜一憂してしまう自分がいる。
でも、この気持ちは封じておかなければならない。
だって彼は貴族。
この地の発展のため、いずれ然るべき家門から花嫁を迎え入れるのだから。
平民の私が並び立てる相手じゃない。
本来はここにいることすらおこがましいのに、彼や彼の御家族の好意に甘え、浅ましく居座り続けている。
なのに、マーヴィさん宛てに貴族から招待状が届いただけで、嫉妬してしまうなんて……馬鹿げてる。
だから取り繕うように笑って見せた。
「……私だけじゃないですよ。マーヴィさんのことを知っている人なら皆、ダグの発言に怒ったはずです」
だってあなたは、故郷や人を大切にする、素晴らしい人なのだから。
マーヴィさんの眉が上がった。
彼の足が止まる。
こちらを見つめる黒い瞳は、どこか寂しそうに見えた。
「例えそうであっても、怒ってくれたのがあんたで嬉しかった」
「えっ」
私がマーヴィさんのために怒ったことが、嬉しい――?
固まる私に、マーヴィさんからおやすみが告げられる。そして私の挨拶を聞く前に、立ち去ってしまった。
私は彼の後ろ姿を黙って見送った。
マーヴィさんの右手首に視線を向けると、未だに外す方法が見つかっていないのか、私とペアのブレスレットが着いたままだった。
その事実が、恋心を隠し続ける私の決意を、酷くぐらつかせた。
先ほどの怒りが、まだ胸の中に渦巻いている。だけど、
(私……少しだけだけど、ダグに言ってやったわ)
私を嘲笑う彼に対し、会話する価値はないと言ってやった。
それだけでも私にとって大きな進歩だと思う。
だけどその勇気を出せたのは、きっと――
(マーヴィさんが、私を庇ってくれたから……)
『だが、アウラを貶すのはやめろ。彼女はこの地を蘇らせてくれた英雄だ』
英雄という言葉は褒めすぎだと恐縮してしまうけれど、嬉しかった。
「マーヴィさん、ありがとうございます」
「? 何をだ?」
「私を、庇ってくれたじゃないですか」
私の言葉に、マーヴィさんがぽつりと呟いた。
「俺は、本当のことを言ったまでだ。大したことはしてない」
「それでも、です」
その言葉がどれだけ私を勇気づけてくれたのか、マーヴィさんは気付いていない。気持ちに気づかれていないことに対する安堵と、少し残念な気持ちがせめぎ合う。
心の内を隠すように笑ってみせた私から、マーヴィさんはツイッと視線を逸らした。
「それなら俺だって礼を言わなければいけないな」
「え?」
「あんたも俺のことを庇ってくれただろ?」
あっと小さく声を洩らしてしまった。
私、あの時凄く感情的になってしまって……今思い出すと、もの凄く恥ずかしい。
つま先に視線を落としながら、小さな声で答える。
「それだって本当のことじゃないですか。旅の間、マーヴィさんが体を張って私たちを守ってくれたこと」
「……ダグに反論するとき、怖くなかったか?」
「怖いと思う気持ちの余裕はありませんでした。それ以上に怒りと悔しさが勝ってしまって……だってダグが安全に戦えたのは、マーヴィさんが盾になってくれていたからなんですよ? それを全て自分の手柄みたいに……」
今思い出しても、ムカムカする。
ダグに少し言い返せたと喜んでいたけれど、もっともっと色々と言ってやれば良かったと後悔が過った。
そんな私の怒りは、マーヴィさんの穏やかで優しい声によって別の感情へと塗り替えられた。
「俺のために怒ってくれてありがとう、アウラ」
「いいえ、そんなこと……」
マーヴィさんにお礼を言われただけなのに、ひとりでに顔が熱くなる。薄暗い廊下だから、私が赤面しているのに気付かないはずだけど、一刻も早く顔の赤みを消すため、そっと両手で頬を包んだ。
彼のことが好きだと認識してから、感情の制御が出来なくなっている気がする。今まで、優しいと感じるだけだった彼の行動一つ一つに、一喜一憂してしまう自分がいる。
でも、この気持ちは封じておかなければならない。
だって彼は貴族。
この地の発展のため、いずれ然るべき家門から花嫁を迎え入れるのだから。
平民の私が並び立てる相手じゃない。
本来はここにいることすらおこがましいのに、彼や彼の御家族の好意に甘え、浅ましく居座り続けている。
なのに、マーヴィさん宛てに貴族から招待状が届いただけで、嫉妬してしまうなんて……馬鹿げてる。
だから取り繕うように笑って見せた。
「……私だけじゃないですよ。マーヴィさんのことを知っている人なら皆、ダグの発言に怒ったはずです」
だってあなたは、故郷や人を大切にする、素晴らしい人なのだから。
マーヴィさんの眉が上がった。
彼の足が止まる。
こちらを見つめる黒い瞳は、どこか寂しそうに見えた。
「例えそうであっても、怒ってくれたのがあんたで嬉しかった」
「えっ」
私がマーヴィさんのために怒ったことが、嬉しい――?
固まる私に、マーヴィさんからおやすみが告げられる。そして私の挨拶を聞く前に、立ち去ってしまった。
私は彼の後ろ姿を黙って見送った。
マーヴィさんの右手首に視線を向けると、未だに外す方法が見つかっていないのか、私とペアのブレスレットが着いたままだった。
その事実が、恋心を隠し続ける私の決意を、酷くぐらつかせた。
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