20 / 220
第19話 証明2
しおりを挟む
「四大精霊の名の下に、結ばれし契約の証を我が前に示せ」
迷いのない力に満ちた声が、響き渡った。
次の瞬間、老婆の権利証が手から浮かび上がり光を放ち出した。光は権利証だけに留まらず、ミディを包み込み、さらに強い光を放った。
あまりの眩しさに、ジェネラルも周りの者達も目を瞑る。
閉じた瞼を通す光がなくなった頃、もう大丈夫かと目を開けたジェネラルは、そこに予想もしなかった物を見た。
「……凄いっ!!」
周りからも、それに対する賞賛の声が聞こえる。オルタもシンセも、言葉をなくしたようにただそれを見ていた。
そこには、大人の背丈ほどある巨大なエルザ王家の紋章が、光を放ってミディの前に浮いていたのだ。
太陽の光が当たる度、それは色を変え、違った姿を人々に見せている。紋章の左右にはまるで守っているかのように、巨大な黄金の翼が一対、まるで生きているかのようにゆっくりと羽ばたいていた。羽ばたく度に、黄金の羽がひらひらと舞い、地面に落ちると光の粒となって弾ける。
権利証の欠片は、相変わらず光を放ち、ミディの手の上で浮いていた。
誰もが目を奪われている中、ミディの声が響き渡る。
「呪文を唱えると、正しい権利証からこれが現れるの。例え切り刻まれても、粉々に砕かれても、焼かれても、欠片さえあれば証明出来るように魔法をかけてあるのよ」
聞きなれない単語に、我を忘れて見入っていたオルタの表情が一変して強張った。
体に衝撃が走ったかのように震え、ぎこちない動きでミディに視線を向ける。
「魔法…だと? まっ、まさか、王に協力した者っていうのは……!!」
ミディの口元が緩んだ。そして自らの手を、顔を覆っている兜に伸ばした。
長い髪が、音も立てずに滑り落ちる。
横で見ていたジェネラルの鼓動が、一瞬にして早くなった。手の平に、うっすらと汗が滲み出す。
しかし視線は、まるで神経が麻痺したかのように、彼女から逸らすことは出来ない。
ジェネラルだけではない。周りにいる全ての者が、気高き王女によって五感を奪われていた。
見る者全ての時間を奪う、その美しさ。
彼女を見た瞬間、自らの美の常識を打ち壊されるだろう。
そして安易に、『エルザの華』『エルザの宝石』と呼んでいた自分たちを恥じるだろう。彼女の美しさを、そんな使い古された単語一言で言い表すなど恐れ多い。
光り輝く紋章を手に、それは協力者の名を口にした。
「その者の名は、エルザ王――ライザー・エルザの娘、ミディローズ・エルザ」
肩に流れた一房の髪を後ろに掻き揚げると、澄んだ青い瞳をシンセとオルタに向けた。
「私よ」
名乗らなくても、誰もが目の前にいる人物を知っていた。いや、見た事がなくとも、皆分かっていた。
オルタも、彼女が偽物だと言わなかった。言う必要などなかった。瞳を逸らさず、彼女を見つめる姿が、目の前の女がエルザ王女である事を、言葉もなく語っている。
抵抗する事すら忘れ、ミディに見入っているオルタから視線を外すと、ミディはシンセに声をかけた。
「シンセ隊長。まだ不十分かしら?」
周りと同じく、ミディに魅了されていたシンセが、はっと我を取り戻した。
頬を赤く染めながら、慌ててミディの前で片膝をついて礼をする。周りの部下たちも隊長に従い、その場に跪いた。
シンセは頭を下げたまま、震える声を抑えつつ答えた。
「今までの無礼をお許しください、ミディローズ様。あのような魔法を使えるのは、この世界であなた様しかおられません。非の打ち所がない、完璧な証明です」
「では、この者たちを連れて行きなさい。エルザの地で愚かな行いを繰り返す者たちに、相応の裁きの場を用意するのです」
「……仰せのままに」
シンセが合図すると、部下達が素早く動き、オルタたちを連れて行った。
オルタと手下たちは状況が状況でありながらも、ミディから視線をそらせず、名残惜しそうに連れて行かれた。
ようやく終わったと、ジェネラルがほっと息を付いた時、
「ミディローズ様、私にも罰をお与え下さい。町を守るという、エルザ王から仰せつかった任務を、私は果たすことが出来ませんでした。今回の事、オルタの不正を知りつつも証拠を見つける事が出来ず、防ぐ事が出来なかった、私の責任です」
シンセが自らの処分を求めた。先ほどと同じく、ミディの前で跪いている。
王女がどういう処分を彼に下すのか、ジェネラルは心配そうに成り行きを見守った。
しかし心配は、杞憂に過ぎなかった。
「顔を上げなさい、シンセ隊長」
ミディの指示に従い、シンセは顔を上げた。
怯えを隠し、自分を見つめるシンセに対し、ミディは光しか知らない無垢な笑みを浮かべた。
「不正を知りつつも捕える事が出来なかった悔しさ、私はあなたとの会話から感じていました。確かに不正は起こってしまった。しかし人々を守れなかったのは、私も同じことです。罰を望むなら……」
その笑みに、再び全てが魅せられる。
「この町、そしてエルザ王国の発展の為、死力を尽くすのです」
寛大な王女の言葉に、周囲が歓声を上げた。
王女を称える民衆の声に、ミディは手を振って答える。
ジェネラルが周りを見回した時、丁度ミディと目が合った。
お互い一瞬目を合わしたまま止まってしまったが、次の瞬間、ミディが声を上げて笑った。それにつられ、ジェネラルも笑い声を上げる。
“何だかんだ言って、自分の国で悪い事が起こったら放っておける程、ミディも人間辞めてないって事だね”
ミディが知ったら間違いなくげんこつを食らう程酷い事を考えているが、まあ彼なりの高評価だったことには間違いない。
こうしてマージの町に、平和が戻ったのであった。
迷いのない力に満ちた声が、響き渡った。
次の瞬間、老婆の権利証が手から浮かび上がり光を放ち出した。光は権利証だけに留まらず、ミディを包み込み、さらに強い光を放った。
あまりの眩しさに、ジェネラルも周りの者達も目を瞑る。
閉じた瞼を通す光がなくなった頃、もう大丈夫かと目を開けたジェネラルは、そこに予想もしなかった物を見た。
「……凄いっ!!」
周りからも、それに対する賞賛の声が聞こえる。オルタもシンセも、言葉をなくしたようにただそれを見ていた。
そこには、大人の背丈ほどある巨大なエルザ王家の紋章が、光を放ってミディの前に浮いていたのだ。
太陽の光が当たる度、それは色を変え、違った姿を人々に見せている。紋章の左右にはまるで守っているかのように、巨大な黄金の翼が一対、まるで生きているかのようにゆっくりと羽ばたいていた。羽ばたく度に、黄金の羽がひらひらと舞い、地面に落ちると光の粒となって弾ける。
権利証の欠片は、相変わらず光を放ち、ミディの手の上で浮いていた。
誰もが目を奪われている中、ミディの声が響き渡る。
「呪文を唱えると、正しい権利証からこれが現れるの。例え切り刻まれても、粉々に砕かれても、焼かれても、欠片さえあれば証明出来るように魔法をかけてあるのよ」
聞きなれない単語に、我を忘れて見入っていたオルタの表情が一変して強張った。
体に衝撃が走ったかのように震え、ぎこちない動きでミディに視線を向ける。
「魔法…だと? まっ、まさか、王に協力した者っていうのは……!!」
ミディの口元が緩んだ。そして自らの手を、顔を覆っている兜に伸ばした。
長い髪が、音も立てずに滑り落ちる。
横で見ていたジェネラルの鼓動が、一瞬にして早くなった。手の平に、うっすらと汗が滲み出す。
しかし視線は、まるで神経が麻痺したかのように、彼女から逸らすことは出来ない。
ジェネラルだけではない。周りにいる全ての者が、気高き王女によって五感を奪われていた。
見る者全ての時間を奪う、その美しさ。
彼女を見た瞬間、自らの美の常識を打ち壊されるだろう。
そして安易に、『エルザの華』『エルザの宝石』と呼んでいた自分たちを恥じるだろう。彼女の美しさを、そんな使い古された単語一言で言い表すなど恐れ多い。
光り輝く紋章を手に、それは協力者の名を口にした。
「その者の名は、エルザ王――ライザー・エルザの娘、ミディローズ・エルザ」
肩に流れた一房の髪を後ろに掻き揚げると、澄んだ青い瞳をシンセとオルタに向けた。
「私よ」
名乗らなくても、誰もが目の前にいる人物を知っていた。いや、見た事がなくとも、皆分かっていた。
オルタも、彼女が偽物だと言わなかった。言う必要などなかった。瞳を逸らさず、彼女を見つめる姿が、目の前の女がエルザ王女である事を、言葉もなく語っている。
抵抗する事すら忘れ、ミディに見入っているオルタから視線を外すと、ミディはシンセに声をかけた。
「シンセ隊長。まだ不十分かしら?」
周りと同じく、ミディに魅了されていたシンセが、はっと我を取り戻した。
頬を赤く染めながら、慌ててミディの前で片膝をついて礼をする。周りの部下たちも隊長に従い、その場に跪いた。
シンセは頭を下げたまま、震える声を抑えつつ答えた。
「今までの無礼をお許しください、ミディローズ様。あのような魔法を使えるのは、この世界であなた様しかおられません。非の打ち所がない、完璧な証明です」
「では、この者たちを連れて行きなさい。エルザの地で愚かな行いを繰り返す者たちに、相応の裁きの場を用意するのです」
「……仰せのままに」
シンセが合図すると、部下達が素早く動き、オルタたちを連れて行った。
オルタと手下たちは状況が状況でありながらも、ミディから視線をそらせず、名残惜しそうに連れて行かれた。
ようやく終わったと、ジェネラルがほっと息を付いた時、
「ミディローズ様、私にも罰をお与え下さい。町を守るという、エルザ王から仰せつかった任務を、私は果たすことが出来ませんでした。今回の事、オルタの不正を知りつつも証拠を見つける事が出来ず、防ぐ事が出来なかった、私の責任です」
シンセが自らの処分を求めた。先ほどと同じく、ミディの前で跪いている。
王女がどういう処分を彼に下すのか、ジェネラルは心配そうに成り行きを見守った。
しかし心配は、杞憂に過ぎなかった。
「顔を上げなさい、シンセ隊長」
ミディの指示に従い、シンセは顔を上げた。
怯えを隠し、自分を見つめるシンセに対し、ミディは光しか知らない無垢な笑みを浮かべた。
「不正を知りつつも捕える事が出来なかった悔しさ、私はあなたとの会話から感じていました。確かに不正は起こってしまった。しかし人々を守れなかったのは、私も同じことです。罰を望むなら……」
その笑みに、再び全てが魅せられる。
「この町、そしてエルザ王国の発展の為、死力を尽くすのです」
寛大な王女の言葉に、周囲が歓声を上げた。
王女を称える民衆の声に、ミディは手を振って答える。
ジェネラルが周りを見回した時、丁度ミディと目が合った。
お互い一瞬目を合わしたまま止まってしまったが、次の瞬間、ミディが声を上げて笑った。それにつられ、ジェネラルも笑い声を上げる。
“何だかんだ言って、自分の国で悪い事が起こったら放っておける程、ミディも人間辞めてないって事だね”
ミディが知ったら間違いなくげんこつを食らう程酷い事を考えているが、まあ彼なりの高評価だったことには間違いない。
こうしてマージの町に、平和が戻ったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる