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第19話 証明2
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「四大精霊の名の下に、結ばれし契約の証を我が前に示せ」
迷いのない力に満ちた声が、響き渡った。
次の瞬間、老婆の権利証が手から浮かび上がり光を放ち出した。光は権利証だけに留まらず、ミディを包み込み、さらに強い光を放った。
あまりの眩しさに、ジェネラルも周りの者達も目を瞑る。
閉じた瞼を通す光がなくなった頃、もう大丈夫かと目を開けたジェネラルは、そこに予想もしなかった物を見た。
「……凄いっ!!」
周りからも、それに対する賞賛の声が聞こえる。オルタもシンセも、言葉をなくしたようにただそれを見ていた。
そこには、大人の背丈ほどある巨大なエルザ王家の紋章が、光を放ってミディの前に浮いていたのだ。
太陽の光が当たる度、それは色を変え、違った姿を人々に見せている。紋章の左右にはまるで守っているかのように、巨大な黄金の翼が一対、まるで生きているかのようにゆっくりと羽ばたいていた。羽ばたく度に、黄金の羽がひらひらと舞い、地面に落ちると光の粒となって弾ける。
権利証の欠片は、相変わらず光を放ち、ミディの手の上で浮いていた。
誰もが目を奪われている中、ミディの声が響き渡る。
「呪文を唱えると、正しい権利証からこれが現れるの。例え切り刻まれても、粉々に砕かれても、焼かれても、欠片さえあれば証明出来るように魔法をかけてあるのよ」
聞きなれない単語に、我を忘れて見入っていたオルタの表情が一変して強張った。
体に衝撃が走ったかのように震え、ぎこちない動きでミディに視線を向ける。
「魔法…だと? まっ、まさか、王に協力した者っていうのは……!!」
ミディの口元が緩んだ。そして自らの手を、顔を覆っている兜に伸ばした。
長い髪が、音も立てずに滑り落ちる。
横で見ていたジェネラルの鼓動が、一瞬にして早くなった。手の平に、うっすらと汗が滲み出す。
しかし視線は、まるで神経が麻痺したかのように、彼女から逸らすことは出来ない。
ジェネラルだけではない。周りにいる全ての者が、気高き王女によって五感を奪われていた。
見る者全ての時間を奪う、その美しさ。
彼女を見た瞬間、自らの美の常識を打ち壊されるだろう。
そして安易に、『エルザの華』『エルザの宝石』と呼んでいた自分たちを恥じるだろう。彼女の美しさを、そんな使い古された単語一言で言い表すなど恐れ多い。
光り輝く紋章を手に、それは協力者の名を口にした。
「その者の名は、エルザ王――ライザー・エルザの娘、ミディローズ・エルザ」
肩に流れた一房の髪を後ろに掻き揚げると、澄んだ青い瞳をシンセとオルタに向けた。
「私よ」
名乗らなくても、誰もが目の前にいる人物を知っていた。いや、見た事がなくとも、皆分かっていた。
オルタも、彼女が偽物だと言わなかった。言う必要などなかった。瞳を逸らさず、彼女を見つめる姿が、目の前の女がエルザ王女である事を、言葉もなく語っている。
抵抗する事すら忘れ、ミディに見入っているオルタから視線を外すと、ミディはシンセに声をかけた。
「シンセ隊長。まだ不十分かしら?」
周りと同じく、ミディに魅了されていたシンセが、はっと我を取り戻した。
頬を赤く染めながら、慌ててミディの前で片膝をついて礼をする。周りの部下たちも隊長に従い、その場に跪いた。
シンセは頭を下げたまま、震える声を抑えつつ答えた。
「今までの無礼をお許しください、ミディローズ様。あのような魔法を使えるのは、この世界であなた様しかおられません。非の打ち所がない、完璧な証明です」
「では、この者たちを連れて行きなさい。エルザの地で愚かな行いを繰り返す者たちに、相応の裁きの場を用意するのです」
「……仰せのままに」
シンセが合図すると、部下達が素早く動き、オルタたちを連れて行った。
オルタと手下たちは状況が状況でありながらも、ミディから視線をそらせず、名残惜しそうに連れて行かれた。
ようやく終わったと、ジェネラルがほっと息を付いた時、
「ミディローズ様、私にも罰をお与え下さい。町を守るという、エルザ王から仰せつかった任務を、私は果たすことが出来ませんでした。今回の事、オルタの不正を知りつつも証拠を見つける事が出来ず、防ぐ事が出来なかった、私の責任です」
シンセが自らの処分を求めた。先ほどと同じく、ミディの前で跪いている。
王女がどういう処分を彼に下すのか、ジェネラルは心配そうに成り行きを見守った。
しかし心配は、杞憂に過ぎなかった。
「顔を上げなさい、シンセ隊長」
ミディの指示に従い、シンセは顔を上げた。
怯えを隠し、自分を見つめるシンセに対し、ミディは光しか知らない無垢な笑みを浮かべた。
「不正を知りつつも捕える事が出来なかった悔しさ、私はあなたとの会話から感じていました。確かに不正は起こってしまった。しかし人々を守れなかったのは、私も同じことです。罰を望むなら……」
その笑みに、再び全てが魅せられる。
「この町、そしてエルザ王国の発展の為、死力を尽くすのです」
寛大な王女の言葉に、周囲が歓声を上げた。
王女を称える民衆の声に、ミディは手を振って答える。
ジェネラルが周りを見回した時、丁度ミディと目が合った。
お互い一瞬目を合わしたまま止まってしまったが、次の瞬間、ミディが声を上げて笑った。それにつられ、ジェネラルも笑い声を上げる。
“何だかんだ言って、自分の国で悪い事が起こったら放っておける程、ミディも人間辞めてないって事だね”
ミディが知ったら間違いなくげんこつを食らう程酷い事を考えているが、まあ彼なりの高評価だったことには間違いない。
こうしてマージの町に、平和が戻ったのであった。
迷いのない力に満ちた声が、響き渡った。
次の瞬間、老婆の権利証が手から浮かび上がり光を放ち出した。光は権利証だけに留まらず、ミディを包み込み、さらに強い光を放った。
あまりの眩しさに、ジェネラルも周りの者達も目を瞑る。
閉じた瞼を通す光がなくなった頃、もう大丈夫かと目を開けたジェネラルは、そこに予想もしなかった物を見た。
「……凄いっ!!」
周りからも、それに対する賞賛の声が聞こえる。オルタもシンセも、言葉をなくしたようにただそれを見ていた。
そこには、大人の背丈ほどある巨大なエルザ王家の紋章が、光を放ってミディの前に浮いていたのだ。
太陽の光が当たる度、それは色を変え、違った姿を人々に見せている。紋章の左右にはまるで守っているかのように、巨大な黄金の翼が一対、まるで生きているかのようにゆっくりと羽ばたいていた。羽ばたく度に、黄金の羽がひらひらと舞い、地面に落ちると光の粒となって弾ける。
権利証の欠片は、相変わらず光を放ち、ミディの手の上で浮いていた。
誰もが目を奪われている中、ミディの声が響き渡る。
「呪文を唱えると、正しい権利証からこれが現れるの。例え切り刻まれても、粉々に砕かれても、焼かれても、欠片さえあれば証明出来るように魔法をかけてあるのよ」
聞きなれない単語に、我を忘れて見入っていたオルタの表情が一変して強張った。
体に衝撃が走ったかのように震え、ぎこちない動きでミディに視線を向ける。
「魔法…だと? まっ、まさか、王に協力した者っていうのは……!!」
ミディの口元が緩んだ。そして自らの手を、顔を覆っている兜に伸ばした。
長い髪が、音も立てずに滑り落ちる。
横で見ていたジェネラルの鼓動が、一瞬にして早くなった。手の平に、うっすらと汗が滲み出す。
しかし視線は、まるで神経が麻痺したかのように、彼女から逸らすことは出来ない。
ジェネラルだけではない。周りにいる全ての者が、気高き王女によって五感を奪われていた。
見る者全ての時間を奪う、その美しさ。
彼女を見た瞬間、自らの美の常識を打ち壊されるだろう。
そして安易に、『エルザの華』『エルザの宝石』と呼んでいた自分たちを恥じるだろう。彼女の美しさを、そんな使い古された単語一言で言い表すなど恐れ多い。
光り輝く紋章を手に、それは協力者の名を口にした。
「その者の名は、エルザ王――ライザー・エルザの娘、ミディローズ・エルザ」
肩に流れた一房の髪を後ろに掻き揚げると、澄んだ青い瞳をシンセとオルタに向けた。
「私よ」
名乗らなくても、誰もが目の前にいる人物を知っていた。いや、見た事がなくとも、皆分かっていた。
オルタも、彼女が偽物だと言わなかった。言う必要などなかった。瞳を逸らさず、彼女を見つめる姿が、目の前の女がエルザ王女である事を、言葉もなく語っている。
抵抗する事すら忘れ、ミディに見入っているオルタから視線を外すと、ミディはシンセに声をかけた。
「シンセ隊長。まだ不十分かしら?」
周りと同じく、ミディに魅了されていたシンセが、はっと我を取り戻した。
頬を赤く染めながら、慌ててミディの前で片膝をついて礼をする。周りの部下たちも隊長に従い、その場に跪いた。
シンセは頭を下げたまま、震える声を抑えつつ答えた。
「今までの無礼をお許しください、ミディローズ様。あのような魔法を使えるのは、この世界であなた様しかおられません。非の打ち所がない、完璧な証明です」
「では、この者たちを連れて行きなさい。エルザの地で愚かな行いを繰り返す者たちに、相応の裁きの場を用意するのです」
「……仰せのままに」
シンセが合図すると、部下達が素早く動き、オルタたちを連れて行った。
オルタと手下たちは状況が状況でありながらも、ミディから視線をそらせず、名残惜しそうに連れて行かれた。
ようやく終わったと、ジェネラルがほっと息を付いた時、
「ミディローズ様、私にも罰をお与え下さい。町を守るという、エルザ王から仰せつかった任務を、私は果たすことが出来ませんでした。今回の事、オルタの不正を知りつつも証拠を見つける事が出来ず、防ぐ事が出来なかった、私の責任です」
シンセが自らの処分を求めた。先ほどと同じく、ミディの前で跪いている。
王女がどういう処分を彼に下すのか、ジェネラルは心配そうに成り行きを見守った。
しかし心配は、杞憂に過ぎなかった。
「顔を上げなさい、シンセ隊長」
ミディの指示に従い、シンセは顔を上げた。
怯えを隠し、自分を見つめるシンセに対し、ミディは光しか知らない無垢な笑みを浮かべた。
「不正を知りつつも捕える事が出来なかった悔しさ、私はあなたとの会話から感じていました。確かに不正は起こってしまった。しかし人々を守れなかったのは、私も同じことです。罰を望むなら……」
その笑みに、再び全てが魅せられる。
「この町、そしてエルザ王国の発展の為、死力を尽くすのです」
寛大な王女の言葉に、周囲が歓声を上げた。
王女を称える民衆の声に、ミディは手を振って答える。
ジェネラルが周りを見回した時、丁度ミディと目が合った。
お互い一瞬目を合わしたまま止まってしまったが、次の瞬間、ミディが声を上げて笑った。それにつられ、ジェネラルも笑い声を上げる。
“何だかんだ言って、自分の国で悪い事が起こったら放っておける程、ミディも人間辞めてないって事だね”
ミディが知ったら間違いなくげんこつを食らう程酷い事を考えているが、まあ彼なりの高評価だったことには間違いない。
こうしてマージの町に、平和が戻ったのであった。
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