21 / 220
第20話 解決
しおりを挟む
「こんにちは」
「お婆さーん!」
果物屋の老婆が荷物をまとめている時、外で二種類の声がした。
聞き覚えのある声に、荷物をまとめる手を止め、外に出る老婆。さらに見覚えのある二人に、驚きの声を上げた。
「あ、あんたたちは」
甲冑を身にまとった女性――ミディと、不思議な力を使う少年――ジェネラルの姿があったのだ。
ニコニコと嬉しそうに笑う少年の手には、完全に復元させた権利証がある。あの騒動の後、ミディから欠片を取り戻し魔法で直したのだ。
「お婆さん、もう大丈夫だよ! この土地を狙う人たちは捕まったし、この権利証が本物だということも証明出来たから。だから安心してお店続けてよ」
ジェネラルは権利証を老婆に差し出すと、嬉しさはちきれんばかりに言った。
先ほどの不思議な光景に感覚が麻痺したままの老婆は、差し出されるままジェネラルから権利証を受け取った。
表を見たり裏返したりして異常を探してみたが、どこにもそれらの形跡は見当たらない。
まるで、破り捨てられた事自体が夢だったかのようだ。
権利証の確認を終え、老婆は顔を上げた。
「……何だか分からないけれど、本当にありがとう。でも、何故こんな婆に、ここまでしてくれるんだい?」
不思議そうに問う老婆を見て、ミディは小さく笑った。
「美味しい果物のお礼よ」
「あ~、それ僕が言おうと思ってたのに!」
台詞を取られ、不満そうに唇を尖らせるジェネラル。
ぴしっと無言でジェネラルの額にデコピンを食らわせると、優雅に一礼をし、ミディは店とは反対方向に足を向けた。
痛むおでこを抑えつつ、ジェネラルも礼をして立ち去ろうとした時、老婆に呼び止められた。
「あんた……。さっき不思議な力を使ってたね? あれが奇術だとは思えない。……一体、何者なんだい?」
「復元の魔法のこと? 不思議な力って、魔法使えないんですか?」
老婆の言葉に、きょとんとして返すジェネラル。彼の反応に、今度は老婆が驚く番だった。
「何言ってんだい。人間は、誰も魔法なんて使えないよ。ただ一人、この国の王女であるミディ様を除いてはね」
老婆の言葉に、ジェネラルは先ほどの騒動を思い出した。
“そういえば、シンセ隊長も同じようなことを言ってたっけ。そっか、やっぱり人間って魔法が使えないんだ”
人間が、魔法を使えない事は知っていた。
しかし、魔界が移動して初めてやってきた人間――ミディが魔法を使っていた為、てっきり長い時間の中で人間も魔法が使えるようになったのかも?と、思っていたのだ。
この老婆の言葉がなければ、ずっとその間違った知識を持っていたに違いない。危うく魔王である彼が、皆に笑われる所だった。
ジェネラルは、戸惑いの表情を浮かべながら返事を待っている老婆に、優しく微笑みかけた。
そして、自分が何者であるかを名乗った。
「僕の名前はジェネラル。魔界の王です」
一瞬、老婆は彼が何を言ったのか分からなかった。無意識のうちに、少年の言葉を繰り返す。
「まっ、魔王……?」
その時、
「ジェネ? 置いていくわよ!」
ミディが、ジェネラルを呼んでいる。ジェネラルは慌てて返事をすると、
「じゃあ、お婆さんお元気で! 果物、本当にありがとう!!」
と老婆の前で一礼し、彼女の方へと走っていった。
* * *
二つの影が見えなくなった頃……。
「ここに鎧を身に着けた女性と、黒髪の少年が来なかったか!?」
息を切らしたシンセが、果物屋にやって来た。
老婆はゆっくりと椅子に腰を掛けながら、隊長の問いに答える。
「さっきまでここにいたんだけどねえ。それがどうしたんだい?」
「いたのか!? そっ、その鎧を着けた方は、ミディ王女なんだ!」
オルタたちを役所に連れて帰った時、ミディ家出の報告と見つけたらすぐに城に連れて帰る、もしくは城に報告するよう命令書が届いていたのだ。
てっきりお忍びでありながらも、王公認でやって来たと思いすぐに別れたのだが、役所に戻るとこの命令書。
慌てて王女を探しに来たのである。
もうこの場にいない事を知り、シンセは悔しそうに呟いた。
「ミディ王女がお忍びで出られる時は、我々の印象に残らない為の魔法をかけていらっしゃる。もう捕まえることは難しいだろうな……」
何か悟ったような穏やかな様子で、「そうかい」と一言言うと、老婆は小さく笑った。
『エルザの華』と呼ばれるミディ王女、そして魔王と名乗った謎の少年ジェネラル。それらがさっきまで、自分の傍にいたのだ。
それにもし少年の言う事が本当ならば、自分は悪の王と言われる者と、エルザ王女に助けられたことになる。
もう驚きすぎて、何が凄いのか分からない。
特別驚く様子のない老婆を見て、諦めたようにシンセはため息をついた。
「それにしても、ミディ王女と共にいた少年。今思えば一体何者だったのだろうか?」
老婆は、土地の権利書が本物かもう一度確かめると、笑いを含んだ声で言った。
少年の優しい笑顔を、思い出しながら。
「魔王だってさ」
「お婆さーん!」
果物屋の老婆が荷物をまとめている時、外で二種類の声がした。
聞き覚えのある声に、荷物をまとめる手を止め、外に出る老婆。さらに見覚えのある二人に、驚きの声を上げた。
「あ、あんたたちは」
甲冑を身にまとった女性――ミディと、不思議な力を使う少年――ジェネラルの姿があったのだ。
ニコニコと嬉しそうに笑う少年の手には、完全に復元させた権利証がある。あの騒動の後、ミディから欠片を取り戻し魔法で直したのだ。
「お婆さん、もう大丈夫だよ! この土地を狙う人たちは捕まったし、この権利証が本物だということも証明出来たから。だから安心してお店続けてよ」
ジェネラルは権利証を老婆に差し出すと、嬉しさはちきれんばかりに言った。
先ほどの不思議な光景に感覚が麻痺したままの老婆は、差し出されるままジェネラルから権利証を受け取った。
表を見たり裏返したりして異常を探してみたが、どこにもそれらの形跡は見当たらない。
まるで、破り捨てられた事自体が夢だったかのようだ。
権利証の確認を終え、老婆は顔を上げた。
「……何だか分からないけれど、本当にありがとう。でも、何故こんな婆に、ここまでしてくれるんだい?」
不思議そうに問う老婆を見て、ミディは小さく笑った。
「美味しい果物のお礼よ」
「あ~、それ僕が言おうと思ってたのに!」
台詞を取られ、不満そうに唇を尖らせるジェネラル。
ぴしっと無言でジェネラルの額にデコピンを食らわせると、優雅に一礼をし、ミディは店とは反対方向に足を向けた。
痛むおでこを抑えつつ、ジェネラルも礼をして立ち去ろうとした時、老婆に呼び止められた。
「あんた……。さっき不思議な力を使ってたね? あれが奇術だとは思えない。……一体、何者なんだい?」
「復元の魔法のこと? 不思議な力って、魔法使えないんですか?」
老婆の言葉に、きょとんとして返すジェネラル。彼の反応に、今度は老婆が驚く番だった。
「何言ってんだい。人間は、誰も魔法なんて使えないよ。ただ一人、この国の王女であるミディ様を除いてはね」
老婆の言葉に、ジェネラルは先ほどの騒動を思い出した。
“そういえば、シンセ隊長も同じようなことを言ってたっけ。そっか、やっぱり人間って魔法が使えないんだ”
人間が、魔法を使えない事は知っていた。
しかし、魔界が移動して初めてやってきた人間――ミディが魔法を使っていた為、てっきり長い時間の中で人間も魔法が使えるようになったのかも?と、思っていたのだ。
この老婆の言葉がなければ、ずっとその間違った知識を持っていたに違いない。危うく魔王である彼が、皆に笑われる所だった。
ジェネラルは、戸惑いの表情を浮かべながら返事を待っている老婆に、優しく微笑みかけた。
そして、自分が何者であるかを名乗った。
「僕の名前はジェネラル。魔界の王です」
一瞬、老婆は彼が何を言ったのか分からなかった。無意識のうちに、少年の言葉を繰り返す。
「まっ、魔王……?」
その時、
「ジェネ? 置いていくわよ!」
ミディが、ジェネラルを呼んでいる。ジェネラルは慌てて返事をすると、
「じゃあ、お婆さんお元気で! 果物、本当にありがとう!!」
と老婆の前で一礼し、彼女の方へと走っていった。
* * *
二つの影が見えなくなった頃……。
「ここに鎧を身に着けた女性と、黒髪の少年が来なかったか!?」
息を切らしたシンセが、果物屋にやって来た。
老婆はゆっくりと椅子に腰を掛けながら、隊長の問いに答える。
「さっきまでここにいたんだけどねえ。それがどうしたんだい?」
「いたのか!? そっ、その鎧を着けた方は、ミディ王女なんだ!」
オルタたちを役所に連れて帰った時、ミディ家出の報告と見つけたらすぐに城に連れて帰る、もしくは城に報告するよう命令書が届いていたのだ。
てっきりお忍びでありながらも、王公認でやって来たと思いすぐに別れたのだが、役所に戻るとこの命令書。
慌てて王女を探しに来たのである。
もうこの場にいない事を知り、シンセは悔しそうに呟いた。
「ミディ王女がお忍びで出られる時は、我々の印象に残らない為の魔法をかけていらっしゃる。もう捕まえることは難しいだろうな……」
何か悟ったような穏やかな様子で、「そうかい」と一言言うと、老婆は小さく笑った。
『エルザの華』と呼ばれるミディ王女、そして魔王と名乗った謎の少年ジェネラル。それらがさっきまで、自分の傍にいたのだ。
それにもし少年の言う事が本当ならば、自分は悪の王と言われる者と、エルザ王女に助けられたことになる。
もう驚きすぎて、何が凄いのか分からない。
特別驚く様子のない老婆を見て、諦めたようにシンセはため息をついた。
「それにしても、ミディ王女と共にいた少年。今思えば一体何者だったのだろうか?」
老婆は、土地の権利書が本物かもう一度確かめると、笑いを含んだ声で言った。
少年の優しい笑顔を、思い出しながら。
「魔王だってさ」
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる