立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

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第45話 襲来2

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「兄い――――――!!」

 その時、何かが青年の体にぶつかり、共に横へ倒れこんだ。衝撃で酷く腰を打ったが、飛び込んできた銀色を見ると、驚きに痛みを忘れ、思わずその名を呼んだ。

「シンク!! お前!!」

「兄いはミディ姉を連れて逃げろ!! ここは、俺が!!」

 兄の言葉を無視し、素早く立ち上がり剣を構えると、シンクがドラゴンの前に立ちはだかった。威勢のいい事を言っていたが、剣先が細かく震えているのが、アクノリッジからも見える。

 無茶をする弟に、アクノリッジが怒鳴りつけた。

「馬鹿か!! 生身の人間が敵う相手か!! 無謀にも程がある!!」

「いいんだよ!! 俺は別にいなくても大丈夫だけど、兄いはモジュール家にとって、なくてはならない存在だ! だから、逃げろって!!」

「何言ってんだよ!! これからのモジュール家は、お前みたいに経済や策略に明るいやつがいないと、生き残れねぇんだよ!!」 

 少し寂しそうな声と内容に、アクノリッジが怒りを露にする。
 
 目の前にドラゴンがいるのにも関わらず、シンクの隣に立つと感情に任せて叫んだ。

「どちらがモジュール家に必要かなんて話、とっくの前に終っただろうが!! お互い生き残る、そう約束しただろう!! 忘れたのか!! お前は!!」

 兄の言葉に、弟の表情が一瞬、何かを思い出したかのように変わった。

「………そうだったな。ごめん、兄い」

 自分を守る為、兄は名誉とプライドを捨てたのだ。その兄に対し、自分はいなくていい存在など言っては、失礼にも程がある。

 兄が傷つく事を言ってしまったことに気がつき、シンクはドラゴンに視線を向けたまま、小さく詫びた。

 弟の心境を感じ取ったのか、アクノリッジは一つ頷く。

 グワアアアアアァァァン!!

 先ほどとは違う怒りに満ちた鳴き声が、鼓膜を震わせた。振動が耳の奥まで伝わり、痛いぐらいだ。餌を横取りされた事に、怒っているのかもしれない。

 2人の表情に、恐怖が走る。

 ドラゴンの無慈悲な瞳が、アクノリッジとシンクを捕らえた。口から垂れる唾液が絨毯を濡らし、大きな染みを作っている。

 ちろちろ隙間から見える、赤い舌。そして、全てを引き裂く牙。

「嫌だ……、まだ…死にたく…な……い……」

 シンクが呟く。先ほど、兄の変わりになろうとしたとは思えない、弱々しい声。

 巨大な口が開き、少年に襲い掛かった。

 剣を取り落とし、ぎゅっと体を縮めるシンク。

 弟を守ろうと、真中に立ちふさがろうとするアクノリッジ。

 どちらにしても、このままいけば、どちらかがドラゴンの餌食になってしまう。

 アクノリッジが、
 シンクが、
 この場にいる、全ての者達が、

 死を覚悟した瞬間。




 ヒュンッ―――――――――

 グオオオオオオオオオオオオ!!!



 何かが空気を切り裂く音がしたかと思うと、ドラゴンが苦しんでいるかのように頭を振り、雄たけびを上げて暴れだしたのだ。

 いつまでたってもこない衝撃とドラゴンの鳴き声に、何が起こったのかと2人は顔を上げた。

「何が…、あったんだ…?」

 状況が把握出来ていない様子で、アクノリッジは暴れるドラゴンを見ている。

 シンクも同じ様子だったが、ドラゴンの瞳に光る物を見つけ、兄の服の裾を引っ張った。

「兄い、見てみろよ!! ドラゴンの目に、何か刺さってる!!」

「何だと!?」

 弟の指摘通り、ドラゴンの瞳に1本の短剣が刺さっていた。瞳からは真っ赤な血が流れ、頭を振るたびに、あちらこちらに飛び散っている。

 普通なら大したダメージも与えられない短剣だが、刺さった場所が場所な為、ドラゴンに効いている様子だ。

「だけど、一体誰が……」

 護衛の者が、2人を守る為に投げたのだろうか。人物を特定する為、シンクが周りを見回したとき、2人の横から現れた1つの影があった。

「遅くなってすみません。大丈夫でしたか?」

 記憶に引っかかる声の調子に、思わず2人は視線をそちらへと向けた。そこには、
 
「お怪我はない見たいですね。よかったです」

と、いつもと変わらず、穏やかな笑みを浮かべるジェネラルが、自分の胸ほどあろうかという、巨大な剣を持って立っていたのである。言葉を失う2人。

 そんな彼らを他所に、少年は剣を構えると、呆然としている2人に声をかけた。

「ドラゴンは僕に任せてください。お二人は、早く安全なところへ!」

 ミディの前でオロオロしていたとは思えない、自信に満ちた声で言い残し、ジェネラルは、暴れ続けるドラゴンに向かって駆け出して行った。

 残された2人は……

「あれ……ジェネラルだよな……」

「多分…そう思うけど……兄い……」
 
 お互いの見たものを確認し、正しい事がまだ信じられない様子で、駆けていく黒髪の後姿を見送っていた。  
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