立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

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その後の話:未来の話をしよう

第6話 案内人

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 約5日間の旅を経て、兄妹はセンシングの町についた。

 首都であるディートよりも北に位置するこの町は、決して大きくはないのだが、北部で作られた生産物が集められている為、活気に満ちていた。店が多く並ぶ通りには、新鮮な食材やさらに北に位置する村や町の品物を求める人たちと、それらを売る商人たちの声でとても賑やかだ。

 そんな中、二人は時折旅に必要な物やレシオの装備を調達しつつ、父親が示した魔界への案内人がいる場所へと向かっていた。

 手紙で指示され、たどり着いたのは、宿屋の一室だった。宿の廊下には、旅の疲れを癒すために宿を求めた旅人たちが所狭しと行き来している。
 レシオは指定された部屋を見つけると、少しためらいがちにノックをした。

「……誰だ?」

 彼のノックに、しばしの間の後、男性にしては少し高めの声が返ってきた。
 レシオは、これから始まる魔界への旅を思い浮かべながら、部屋主の声に答えた。

「レシオアークと申します。道への案内人がいると聞き、参りました」

 『道』という単語を聞き、中の人物が一瞬息を飲む音が聞こえた。そして中の足音がドアに近づいてくると、鍵を開ける音と共に部屋主が現れた。フードつきのマントを羽織っている為、顔は隠れていて見えない。

「……入ってくれ」

 部屋主は短い言葉で、兄妹を部屋の中へと招き入れた。
 レシオは、無意識のうちに腰の剣に意識を向けながら、その心象を相手に悟られぬように笑顔を浮かべて部屋の中に入った。彼の後ろを、ティンバーが続く。

 部屋の扉が閉じられ、再度鍵が掛けられた。部屋の扉を背に、部屋主が二人を振り返る。

「君たちの事は、事前に連絡を受けている。エルザ王国第一王子レシオアーク・エルザ、そして第一王女ティンバー・エルザ」

 自分たちの素性、そして名を呼ばれ、部屋主を見る兄妹の視線が鋭いものに変わった。レシオが口を開く。

「あなたが、魔界とプロトコルを繋ぐ『道』とやらの案内人ですか?」

「……そうだ。ああ、僕の事は……、ハルと呼んで貰えれば結構だ」

「……ハル……さん?」

「ハルでいい。歳もそう変わらないだろう? その代わり、僕も君たちの事を、レシオとティンバーと呼ばせて貰う。王子王女の扱いはしないから、そのつもりでいてくれ」

 そう言って案内人は、フードをとり、その顔を兄妹に晒した。

 そこには、レシオと変わらない歳の少年が姿を現した。

 少し長めの髪の毛を一つにまとめ、前髪を紺色のバンダナで上げ、額を出している。綺麗で澄んだ青い瞳は、少し伏せがちな為か本来の大きさよりも細く鋭さを感じさせた。レシオのような、少し汚れた旅に適した服を着ているが、彼が然るべき場所で身なりを整えれば、世のお姉様がこぞって群がってくるだろう容貌は隠しきれていない。

 歳は彼が言うようにレシオと同じくらいに見えるが、彼の方が線が細く、レシオよりも小柄だ。こんな事を言うのもなんだが、ティンバーの方がしっかりした体つきをしている。

 ハルは右手の皮手袋を外すと、レシオに向かって手を差し伸べた。それを握り返し、レシオも答える。その手もレシオよりも細く、小さい。

 てっきり魔界への案内人なので、厳つい顔の男が出てくると思っていたレシオは、自分たちよりも華奢な少年がやってきたので拍子抜けした。

 しかし人は見た目で判断してはいけない。そう思い直し、レシオは早速本題に入った。

「さっそくですがハル、俺たちを魔界とプロトコルを繋ぐ『道』とやらに連れて行ってもらえますか?」

「分かっている。だがその前に、君たちの口から何故魔界に行きたいのかを聞かせてほしい」

 ハルはそう言って、自分の側に椅子を引き寄せるとそれに座って話を聞く体制になった。そして視線で、ベッドにでも腰かけるように示す。この部屋は一人部屋の為、椅子は一つしかないのだ。

 父親とのやり取りを思い出し、レシオはため息をついてベッドに腰を掛けた。その横にティンバーがちょこんと座る。

「まあ多分聞いていると思いますが……、20年ぐらい前に、俺たちの伯母さんに当たるミディローズ王女が魔王に攫われたので、それを今になって助けに行くんです」

「ふうん。でも20年前の話なんだろ? 冷たい反応で申し訳ないが、何故今さら?」

「……父であるエルザ王が、何だか懐かしくなって一緒に茶を飲みたいらしいです」

「…………」

 ハルが、言葉を失ったことが分かった。そりゃそうだろう、とレシオは心の中で毒付く。
 今まで攫われても放置していたのに、いきなり一緒に茶を飲みたいからという理由で救出に向かうなど、舐めているとしか言いようがない。

 ハルは咳ばらいをして一瞬放心した自分を取り戻すと、レシオに言葉をかけた。

「君も大変だな。そんな理由で、魔王に攫われた王女を助けに行くなんて」

 そう話すハルの表情には、同情が滲んでいる。全くだと欠片も謙遜せず、レシオは頷いた。

「そうですよね。ほんと、誰が好き好んで40歳のおばさんを助けにいかなきゃいけないんだか……」

「……君、結構毒を吐くんだな」

「あなたも俺と同じ立場だったら、毒の一つも吐きたくなりますよ……」

 レシオはため息をついて言葉を返した。ハルからの同情が一層増した気がした。

 しかしこのまま彼のマイナスオーラに飲み込まれまいと気を取り直し、ハルはティンバーに視線を向けた。
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