立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

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その後の話:未来の話をしよう

第5話 妹

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「ええっと……、魔界に行くためには、プロトコルと魔界を繋ぐ『道』を通っていく必要がある。『道』へは、センシングの街にいる案内人を訪ねるがいい。案内人の居場所はここ……、とセンシングの町の地図に、丸がついているのです、お兄様っ!」

「……何でごく自然に、お前まで付いて来てるんだ、ティンバー……」

 父親からの手紙と地図を読み上げ、自分の隣を自然に歩く妹の姿を見ながら、レシオは尋ねた。

 突然の父親からの命令により、強制的に旅立たされてから、約2時間程経っていた。

 何か滅茶苦茶準備を急がされた為、最低限の旅支度しかさせて貰えなかったのだが、その短時間の中で、いつも使う装備、そして彼が「絶望的に軽い」と表現した金、そして移動の足である馬だけは何とか確保し、今に至る。

 兄の言葉に、ティンバーはキラキラした笑顔を浮かべて答える。

「お兄様の行くところ、私がお供をするのは宿命なのですっ!」

「それ、宿命じゃない。お前の意志だろ。父上と言いお前と言い、何故自分の意志をすぐに第三者の意志にしたがるんだ……。自分の意志に、ちゃんと責任持てよ」

 父親も、今回の旅を『四大精霊の試練』などと言っていたことを思い出し、レシオはため息をついた。
 ティンバーは少し考えると、パッと表情を明るくし手を打った。何か良い表現を思いついたらしい。

「ならば、こっちはどうですか? お兄様がいないと耐えられない身体に……」

「誤解を招く発言はやめろ――――――――!!」

 ティンバーの発言に、同じ道を行く人々が、レシオたちをみてコソコソ何か言っている。兄妹仲良くて微笑ましい、ではなく、兄妹のくせに何ていかがわしい、そしてそんな時代が嘆かわしいと眉を潜めている。

 悲しい事に、その視線は妹ではなく兄に向けられているのだから、たまったものではない。

 レシオは苦虫を噛み潰したように顔を歪めると、その場を離れる為、馬の足を速めた。兄の後ろを慌てて付いてくる妹の気配を感じながら、彼女に振り向かずに強い口調で城への帰還を言いつけた。

「ティンバー、お前はすぐに城に戻れ。これは俺が命令された事だ。それに今から向かう場所がどんなところかも分からない以上、お前の身まで守る自信はない」

 兄の言葉に、ティンバーは失礼なと言いたげに言葉を荒げた。自分よりも弱い兄に心配され、プライドが傷ついたらしい。

「自分の身ぐらい、自分で守れるのですっ! それに少しでも戦力は必要だと思うのですっ! あの魔王と戦うかもしれないのですよ?」

「まあ……、出来たら魔王との戦いは避けて、伯母さんだけ助けることが出来れば、一番いいんだけど……」

 そう簡単にはいかないかと思いつつ、レシオは希望だけ言葉にした。

 ティンバーは魔王と戦う気満々の様子だが、レシオには欠片も戦う気はない。伯母救出の労力と被害を最小限にするためにはどうしたらよいのか、それだけがグルグルと頭の中で回っている。が、良い案はまだ見つかっていない。

 少しずれつつある話を、本来の筋に戻した。

「まあそれは置いといて……。お前、父上に旅の許可、貰ってないんだろ? お前が勝手に出て行ったって知ったら、どれだけ心配するか……」

 妹を溺愛する父の事だ。この事を知ったら、軍を率いて魔界に侵攻する恐れもある。そんな最悪の事態を想定していたレシオだったが、 

「お父様には、ちゃんと行ってきますって言ってきたのです。そしたら、気を付けて行ってくるんだぞって言って、新しい武器と沢山のお金を貰ったのですっ!」

「……へっ?」

 ティンバーはそう言って、馬にかけている荷物をごそごそすると、レシオが持っているよりも2倍近くは膨らんでいる革袋を見せた。
 予想しなかった返答、膨らんだ革袋に、レシオは間の抜けた声を上げてしまった。彼女のいう事が本当かを確認する為、改めて妹の姿をきちんと見る。

 ティンバーの服装は、レシオの物よりも上等できれいで機能的な物に着替えられていた。確か、最近モジュール家が開発した、軽いがちょっとやそっとでは切れない特殊な糸で編まれた服だったとレシオは記憶を探る。もちろん、特殊な糸を使っているので、お値段もそれなりだ。

 手綱を引く小さな可愛らしい両手には、指先があいた手袋をしており、手の甲の部分が不自然に盛り上がっている。硬い鉛が埋め込まれているのを、そしてその破壊力がどれ程のものかを、レシオは嫌と言う程知っている。

 さらに言うなら、その背中には弓がセットになって掛けられている。こちらも特殊で、一度に最大2本セット出来、トリガーを引くことで発射出来るタイプだ。お値段もそこそこはる。

 装備、拳鍔、弓、そしてお金。

 ティンバーには、全てが揃っていた。
 レシオはそれを認めると、がっくりと肩を落とし、背中に影を背負いながら妹に問いかけた。

「ティンバー……、俺って……、もう何か見捨てられてるのかなあ……」

「そっ、そんなことないのですっ!! だからお兄様、そんな絶望的な目で空を見つめな……、そこで悲しそうに小さく笑わないで下さいなのですっ!!」

 家族の愛を信じられず、闇落ちしそうになっている兄を、ティンバーが慌てて慰めた。そして持論を説く。

「お父様は、お兄様の事も大好きなのですっ! でもお父様はちょっと素直じゃないから……、きっと私にお金を渡すことで、間接的にお兄様に支援をして下さったのですっ! 絶対そうですっ!」

 父親がああいう性格の為、レシオとよくぶつかるのだが、本気で嫌われていると思うとさすがにダメージがある。しかし、

”まあティンバーの言う通り、父は素直じゃない部分も多いからな……。感謝の仕方も、斜め上の発想をしてくることも多いし……”

 過去、父から感謝と称して行われてきた迷惑を思い出しながら、レシオは今回も歪んだ父の愛情なのだろうと前向きに考える事にした。

 そして沈んだ気持ちから丸くなってしまった背中を真っすぐ伸ばすと、妹に行き先を尋ねた。

「分かった分かった。俺の装備は、お前の貰った金で揃えなおすよ。で、俺らはセンシングに行けばいいんだな?」

「はいっ! センシングまでは馬で5日ぐらいかかるのですっ。でもちゃんとご飯も寝袋もあって食う寝るところは困らないので、ご安心下さい、お兄様!」

「……食料や寝袋などの旅の準備も、父上がお前の為に?」

「そうなのですっ」

「……やっぱり俺って」

 大まかな旅支度しか出来なかった自分に対し、妹には旅に必要な物が完璧に揃っていた。妹と自分の扱いの違いを思い、レシオは再び親の愛を疑った。
 しかし、そんなダークサイドに傾きそうな兄の心を、妹が慈愛に満ちた瞳で見つめる。

「大丈夫です、お兄様っ。お父様は、ちゃーんとお兄様の分もご用意して下さっているのですよ」

「……ううっ、父上」

「お、お兄様っ! 泣かないでくださいっ!」

 兄の心は救われた。

 馬上でそんな兄妹の茶番が繰り広げられていたが、馬は我関せずとばかりにセンシングへと進んで行くのであった。
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