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その後の話:未来の話をしよう
第4話 命令2
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「それにしても、何故今頃ミディ伯母さんの救出を思いついたのですか?」
身内が攫われているのだ。20年経っているからとは言え、救出しない理由はないとは思うのだが、それを何故今このタイミングで、という気持ちの方が正直大きかった。薄情だとは思われるが、一度も会った記憶がない為、命の危険を冒してまで救出に向かうほど、レシオには伯母さんに思い入れがなかった。
まあ何故自分が? という気持ちが一番大きいのだが。
レシオは唾をのみ込み、父親の言葉を待った。きっと重要な事が語られるに違いない、そう思いながら。
父は瞳を閉じ、どこか懐かしい表情を浮かべて理由を述べた。
「それはなぁ……、部屋の整理をしていたら、ミディ伯母さんの絵が出てきてな。何だか懐かしくなって、久しぶりに茶を一緒に飲みたいと思ったのだよ」
「……それならお前が行け―――――!! クソ親父っ!!!!!」
完全にブチ切れたレシオの叫びが、部屋中に響き渡った。
そして、彼の近くに飾ってあった甲冑像の槍を手にすると、エルザ王に向かって突きつけたのだ。
息子からの突然の攻撃だったが、王は全く動かない。動揺すらせず、ただこちらに向かって武器を突きつける息子を、余裕の笑みすら浮かべて見ている。
その理由は、
「お兄様、いけません!!」
声と共に父親に向かって突き出された槍を、横から掴む小さな手。しかし、この手によってレシオの攻撃は完全に封じられてしまった。
手の主は、ティンバー。
父親から一番遠くに座っていた彼女だったが、咄嗟に兄の行動を読むと、王女とは思えない素早い動きで父親の間に入り、槍攻撃を封じたのだ。
レシオは必至で槍を引っ張るが、ティンバーにつかまれた槍はびくともしない。恐るべき握力だ。
しかし槍を引っ張るのを止めず、レシオは抵抗しながら、ティンバーに向かって叫んだ。
「ティンバー、離せ!! 今日という今日は……、このクソ親父に一発食らわせねえと気が済まねえ!!」
「お兄様! 息子とはいえ、エルザ王に武器を向けるなど、謀反と取られ罰せられても仕方ないのですっ! 私は……、大好きなお兄様が罰せられるのも、大好きなお父様がお兄様を罰する姿も、見たくないのですっ!」
ティンバーが泣きそうになりながら、説得して兄を止めようとした。家族同士が争う事を憂う妹の言葉を聞き、レシオは戦意を喪失した。妹を悲しませることは、本意ではない。
王の口元には笑みが浮かんだままだ。こうなることを読んでいたのだろう。
”だから、ティンバーをここに呼んだのか……。本当に、抜け目ねえな!!”
レシオは心の中で、口汚く父親を罵った。
本来の彼は口が悪い。その為、意識して丁寧な口調を心がけているのだが、怒りが募るとどうしても本来の口調が出てきてしまう癖があった。
恨めしそうに、兄の暴走を止めたティンバーを最上級の褒め言葉で称える父親を睨みつけた。
エルザ王家には謎の家訓がある。それが、
――強くあれ。
この家訓により、エルザ王家の王子王女は、武術を徹底的に極めなければならないのだ。もちろん、レシオもティンバーも例外ではない。
レシオは剣術。
ティンバーは弓と体術。
自身が選んだ武術を幼い時から学び続けた結果、今では王子王女とは言え、そんじゃそこらの人間には負けないぐらい強い。たまに、害獣退治の指揮をとることもあるくらいだ。
ただレシオが納得いかないのは、代々伝わる家訓ではなく、父親が勝手に追加したものだということだ。勝手に継承しなければならない事を増やされ、子どもも子孫も迷惑極まりない。
ちなみに、ティンバーはレシオよりも強い。と言うのも、ティンバーは強い女性が大好きで、特にミディ伯母さんの事を心の師と勝手に仰いでいる。彼女が理想に近づく為、レシオ以上に熱心に日々訓練を積んでいるのは言うまでもない。
なので父親は、怒りに任せて攻撃してくるであろう息子を予想し、彼より強い妹をこの場に置いたのだ。それが、レシオが父親に対し抜け目ないと評した理由であった。
レシオは悔しそうに唇を噛みながら、槍から手を離すと、怒りに任せて椅子に座った。
とりあえず息子に攻撃の意思がない事を感じ取った王は、テーブルの上に革袋を置いた。金属同士が当たる音から判断して、お金が入っているのだろう。
その袋をレシオに向けて滑らせると、テーブルに両肘をつき、組んだ手に顎を載せた状態で話しかけた。
「色々と苦難はあるだろう……。しかしお前ならやり遂げられると信じておる」
「いや、そう言って渡されたお金の袋の重さが、絶望的に軽いんですけど……。何ですか? さっき武器を突きつけた事、根に持ってるんですか? それとも俺、もう何か見放されてるってことですか?」
「そんな事は断じてないぞ、レシオ!! お前の事も、もちろん我が息子として大切に思っている!! 私も心苦しい……、こんな若くして、このような試練を四大精霊がお与えになるとは……」
「いや、試練を与えてるのはあなたでしょう!! それに言葉と表情が全くあってない事への説明を求めてもいいでしょうか!?」
「言葉と表情が合ってないだと!? 失礼な!! そっ、そんなことは……ぷぷっ」
「……ティンバー、もう止めるなよ」
「おっ、お兄様、おやめくださいっ!!」
ティンバーは、再び槍に手をかけた兄に慌てて抱き着き、彼の暴走を止めようとしている。
そんな兄妹のやり取りを一瞥すると、王は気にせず立ち上がり、威厳のある声を発した。
「では、レシオアーク・エルザよ! 今からミディローズ救出の為、魔界へと向かうがよい! 四大精霊のご加護があらんことをっ!!」
「ちょっ、おいっ!! 今からとか聞いてねえぞ!!」
「すぐに王子の身支度を整えよ!!」
今すぐ行けと言われ、レシオは抵抗の意を示した。しかし彼の言葉は、王の言葉に召喚された侍女や兵士達の足音によってかき消されてしまった。
そして召喚されし者たちが、抵抗するレシオを羽交い締めにして引きずっていく。王子なのに、えらく酷い対応である。
父親はにこやかに手を振ると、呪いの言葉を吐きながら連れ出されていく王子の姿を見送っていた。
「くっっっそオヤジ――――――!!! 帰ってきたら、覚えとけよ――――――!!!」
音を立てて扉が閉まった時、レシオの一番大きな叫び声が、城中に響き渡った。
こうして彼の平和は、一瞬にして終わりを迎えたのであった。
身内が攫われているのだ。20年経っているからとは言え、救出しない理由はないとは思うのだが、それを何故今このタイミングで、という気持ちの方が正直大きかった。薄情だとは思われるが、一度も会った記憶がない為、命の危険を冒してまで救出に向かうほど、レシオには伯母さんに思い入れがなかった。
まあ何故自分が? という気持ちが一番大きいのだが。
レシオは唾をのみ込み、父親の言葉を待った。きっと重要な事が語られるに違いない、そう思いながら。
父は瞳を閉じ、どこか懐かしい表情を浮かべて理由を述べた。
「それはなぁ……、部屋の整理をしていたら、ミディ伯母さんの絵が出てきてな。何だか懐かしくなって、久しぶりに茶を一緒に飲みたいと思ったのだよ」
「……それならお前が行け―――――!! クソ親父っ!!!!!」
完全にブチ切れたレシオの叫びが、部屋中に響き渡った。
そして、彼の近くに飾ってあった甲冑像の槍を手にすると、エルザ王に向かって突きつけたのだ。
息子からの突然の攻撃だったが、王は全く動かない。動揺すらせず、ただこちらに向かって武器を突きつける息子を、余裕の笑みすら浮かべて見ている。
その理由は、
「お兄様、いけません!!」
声と共に父親に向かって突き出された槍を、横から掴む小さな手。しかし、この手によってレシオの攻撃は完全に封じられてしまった。
手の主は、ティンバー。
父親から一番遠くに座っていた彼女だったが、咄嗟に兄の行動を読むと、王女とは思えない素早い動きで父親の間に入り、槍攻撃を封じたのだ。
レシオは必至で槍を引っ張るが、ティンバーにつかまれた槍はびくともしない。恐るべき握力だ。
しかし槍を引っ張るのを止めず、レシオは抵抗しながら、ティンバーに向かって叫んだ。
「ティンバー、離せ!! 今日という今日は……、このクソ親父に一発食らわせねえと気が済まねえ!!」
「お兄様! 息子とはいえ、エルザ王に武器を向けるなど、謀反と取られ罰せられても仕方ないのですっ! 私は……、大好きなお兄様が罰せられるのも、大好きなお父様がお兄様を罰する姿も、見たくないのですっ!」
ティンバーが泣きそうになりながら、説得して兄を止めようとした。家族同士が争う事を憂う妹の言葉を聞き、レシオは戦意を喪失した。妹を悲しませることは、本意ではない。
王の口元には笑みが浮かんだままだ。こうなることを読んでいたのだろう。
”だから、ティンバーをここに呼んだのか……。本当に、抜け目ねえな!!”
レシオは心の中で、口汚く父親を罵った。
本来の彼は口が悪い。その為、意識して丁寧な口調を心がけているのだが、怒りが募るとどうしても本来の口調が出てきてしまう癖があった。
恨めしそうに、兄の暴走を止めたティンバーを最上級の褒め言葉で称える父親を睨みつけた。
エルザ王家には謎の家訓がある。それが、
――強くあれ。
この家訓により、エルザ王家の王子王女は、武術を徹底的に極めなければならないのだ。もちろん、レシオもティンバーも例外ではない。
レシオは剣術。
ティンバーは弓と体術。
自身が選んだ武術を幼い時から学び続けた結果、今では王子王女とは言え、そんじゃそこらの人間には負けないぐらい強い。たまに、害獣退治の指揮をとることもあるくらいだ。
ただレシオが納得いかないのは、代々伝わる家訓ではなく、父親が勝手に追加したものだということだ。勝手に継承しなければならない事を増やされ、子どもも子孫も迷惑極まりない。
ちなみに、ティンバーはレシオよりも強い。と言うのも、ティンバーは強い女性が大好きで、特にミディ伯母さんの事を心の師と勝手に仰いでいる。彼女が理想に近づく為、レシオ以上に熱心に日々訓練を積んでいるのは言うまでもない。
なので父親は、怒りに任せて攻撃してくるであろう息子を予想し、彼より強い妹をこの場に置いたのだ。それが、レシオが父親に対し抜け目ないと評した理由であった。
レシオは悔しそうに唇を噛みながら、槍から手を離すと、怒りに任せて椅子に座った。
とりあえず息子に攻撃の意思がない事を感じ取った王は、テーブルの上に革袋を置いた。金属同士が当たる音から判断して、お金が入っているのだろう。
その袋をレシオに向けて滑らせると、テーブルに両肘をつき、組んだ手に顎を載せた状態で話しかけた。
「色々と苦難はあるだろう……。しかしお前ならやり遂げられると信じておる」
「いや、そう言って渡されたお金の袋の重さが、絶望的に軽いんですけど……。何ですか? さっき武器を突きつけた事、根に持ってるんですか? それとも俺、もう何か見放されてるってことですか?」
「そんな事は断じてないぞ、レシオ!! お前の事も、もちろん我が息子として大切に思っている!! 私も心苦しい……、こんな若くして、このような試練を四大精霊がお与えになるとは……」
「いや、試練を与えてるのはあなたでしょう!! それに言葉と表情が全くあってない事への説明を求めてもいいでしょうか!?」
「言葉と表情が合ってないだと!? 失礼な!! そっ、そんなことは……ぷぷっ」
「……ティンバー、もう止めるなよ」
「おっ、お兄様、おやめくださいっ!!」
ティンバーは、再び槍に手をかけた兄に慌てて抱き着き、彼の暴走を止めようとしている。
そんな兄妹のやり取りを一瞥すると、王は気にせず立ち上がり、威厳のある声を発した。
「では、レシオアーク・エルザよ! 今からミディローズ救出の為、魔界へと向かうがよい! 四大精霊のご加護があらんことをっ!!」
「ちょっ、おいっ!! 今からとか聞いてねえぞ!!」
「すぐに王子の身支度を整えよ!!」
今すぐ行けと言われ、レシオは抵抗の意を示した。しかし彼の言葉は、王の言葉に召喚された侍女や兵士達の足音によってかき消されてしまった。
そして召喚されし者たちが、抵抗するレシオを羽交い締めにして引きずっていく。王子なのに、えらく酷い対応である。
父親はにこやかに手を振ると、呪いの言葉を吐きながら連れ出されていく王子の姿を見送っていた。
「くっっっそオヤジ――――――!!! 帰ってきたら、覚えとけよ――――――!!!」
音を立てて扉が閉まった時、レシオの一番大きな叫び声が、城中に響き渡った。
こうして彼の平和は、一瞬にして終わりを迎えたのであった。
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