201 / 220
その後の話:未来の話をしよう
第8話 出発
しおりを挟む
先に外に出た兄妹は、後からやってきたハルと合流した。
ハルは二人の前に立つと、これから向かう方向に視線を向けた。
「今から君たちを、魔界につながる『道』に案内しよう。でもここからまだ離れているから、数日は歩いて移動をしなければならないが……」
少し申し訳なさそうに、ハルは道までまだ距離がある事を伝えた。しかし、すでに5日間の旅をしてきた兄妹だ。
「あっ、それなら馬で来ているから大丈夫なのですっ、ハル!」
ティンバーが、問題ないと伝える。彼女の言葉を証明するかのように、丁度宿屋の使用人が馬を引きつれ、二人に引き渡した。
馬と聞き、ハルの表情が少し曇った。
「ああ、そうなのか。すまない、僕には馬がない。どこかで調達する必要があるな」
ハルの荷物は少ない。それを見ても、彼が元々歩いて移動する事を考えていた事が分かった。
これから馬を探す時間も、費用も惜しい。そう思ったレシオは、ハルの細い体つきを見ながら提案をした。
「それなら一緒に乗りませんか? ハルなら、2人乗りでもきっと問題ないですよ」
「えっ?」
ハルの表情に、戸惑いが浮かんだ。戸惑うハルとは正反対に、ティンバーが嬉しそうに自分の後ろに乗るよう勧める。
「わーい! 私、ハルと一緒に乗りたいのですっ。ミディ様のお話、いっぱい聞いて欲しいのですっ」
「だーめーだ!! 男と馬に乗ったって父上が知ったら、ハルに迷惑が掛かる」
レシオはぴしゃりと言い切った。
娘を溺愛している父親だ。ティンバーが誘ったとはいえ、男と馬に乗ったなど知られようものなら、責任を取らせるために結婚させるくらいはやりかねない。
そんな迷惑をハルに絶対かけたくないし、そんな理由で家族が増えるのも嫌だ。
ティンバーは、ぷーっと不満そうに頬を膨らませると、名案がまた浮かびましたとばかりに、兄に提案する。
「じゃあ、私がお兄様の馬に乗るのですっ。それならいいでしょう?」
「それはもっとダメだ。俺は、金輪際お前と一緒に馬に乗らないと四大精霊に誓っている。……忘れてないぞ? 一緒に乗った時、俺の脇腹をくすぐるならまだ可愛いものの、鳩尾に一発食らわされて、落馬をしたのを……」
「ううっ……、お兄様。そんな昔のお話しを持ち出すなんて……酷いのですっ……」
口元を押さえ涙ぐみながら、ティンバーは声を詰まらせた。妹を、キツイ言葉で泣かせた兄をハルが咎める。
「レシオ……、昔ってことは、ティンバーも小さかったんだろ? 確かに大変な事故だったかもしれないが、そんな言い方は可哀想じゃないか?」
「……つい3ヵ月前ぐらいのことですけど、何か?」
「すまない、横から口を出して」
間髪入れずに、ハルが頭を下げた。レシオは彼の謝罪に満足そうに頷く。
「分かって貰えれば結構です。と言うわけですから、ハル。あなたは俺の後ろに乗ってください。それが一番平和ですから」
「……まあそうなんだろうが」
「何悩んでるんですか? ほらほら、乗った乗った」
「ちょっ……、無理やり押さないでくれっ!」
ハルが声を上げたが、レシオは無視して、彼を半ば無理やり馬に乗せた。そして、ハルの後ろに自分も乗ると、手綱を握った。
「俺が手綱を引くんで、ハルはどちらに向かえばいいかの案内をお願いしますね」
「あっ……、ああ、分かった……」
言葉に詰まりながらも頷くハルの身体は、がちがちに固まっている。レシオに身体が少しでも触れようものなら、隙間を空けようと必死だ。先ほどまで冷静に会話していた彼の様子が不自然になり、レシオは不思議に思った。しかし、
”まあ、ただでさえ野郎二人が一緒の馬に乗るだけでも戸惑うのに、くっつきたくはないわな”
そんな事を思う。ハル的には歩いて移動する方が良かったかもしれないな、と乗せた後になってちょっと申し訳なく思った。
前にいるハルの髪の毛が、さわさわとレシオの顔の前で揺れると、その度に微かではあるが甘い香りが鼻腔をくすぐった。
“何だ、この香り……?”
どこかで嗅いだことがあった気がする香りの正体を探るべく、自然とレシオの顔がハルの後頭部に近づく。が、兄の謎の行動を、ティンバーは見逃さなかった。
「お兄様っ! ハルの頭を、くんかくんかしちゃ駄目なのですっ!」
「誤解を招く表現はやめろ―――っ!!」
「じゃあ、何をしていたのですかっ!!」
「いや……、何かハルからどこかで嗅いだ事のある香りがして、思い出す為にくんくんしてただけだ!!」
「……表現方法が違うだけで、ティンバーと全く同じことを言っている気がするのは、僕だけか?」
レシオを振り返るハルの目は、物凄く冷たい。細めの瞳をさらに軽蔑を込めて細めている。視線が痛いとはこの事だろう。
今の彼に言い訳は無駄だ。そう咄嗟に判断した王子は瞬時に両手を合わせ、ハルに言葉無き謝罪をした。このまま彼の機嫌を損ね、『道』の案内を放棄されては困る。
ハルは何とも言えない顔をすると、さっとフードを被った。しかし彼が馬から降りる事はなかった為、レシオはホッと胸を撫で下ろした。
この事により、野郎二人で一緒に馬にのる緊張がハルからなくなったようだ。真っすぐな声で、二人に行き先を告げる。
「では、町を出たら街道を真っすぐ行って欲しい。確か、センシングとベンドの町の間くらいに、『道』があるはずだ」
「了解です、ハル隊長」
「了解なのですっ、ハル隊長っ!」
「君たちは……、本当に緊張感というものがないんだな……」
自分に向かって、悪戯っこのように笑みを浮かべて敬礼する兄妹に、ハルは呆れたように呟いた。
ハルは二人の前に立つと、これから向かう方向に視線を向けた。
「今から君たちを、魔界につながる『道』に案内しよう。でもここからまだ離れているから、数日は歩いて移動をしなければならないが……」
少し申し訳なさそうに、ハルは道までまだ距離がある事を伝えた。しかし、すでに5日間の旅をしてきた兄妹だ。
「あっ、それなら馬で来ているから大丈夫なのですっ、ハル!」
ティンバーが、問題ないと伝える。彼女の言葉を証明するかのように、丁度宿屋の使用人が馬を引きつれ、二人に引き渡した。
馬と聞き、ハルの表情が少し曇った。
「ああ、そうなのか。すまない、僕には馬がない。どこかで調達する必要があるな」
ハルの荷物は少ない。それを見ても、彼が元々歩いて移動する事を考えていた事が分かった。
これから馬を探す時間も、費用も惜しい。そう思ったレシオは、ハルの細い体つきを見ながら提案をした。
「それなら一緒に乗りませんか? ハルなら、2人乗りでもきっと問題ないですよ」
「えっ?」
ハルの表情に、戸惑いが浮かんだ。戸惑うハルとは正反対に、ティンバーが嬉しそうに自分の後ろに乗るよう勧める。
「わーい! 私、ハルと一緒に乗りたいのですっ。ミディ様のお話、いっぱい聞いて欲しいのですっ」
「だーめーだ!! 男と馬に乗ったって父上が知ったら、ハルに迷惑が掛かる」
レシオはぴしゃりと言い切った。
娘を溺愛している父親だ。ティンバーが誘ったとはいえ、男と馬に乗ったなど知られようものなら、責任を取らせるために結婚させるくらいはやりかねない。
そんな迷惑をハルに絶対かけたくないし、そんな理由で家族が増えるのも嫌だ。
ティンバーは、ぷーっと不満そうに頬を膨らませると、名案がまた浮かびましたとばかりに、兄に提案する。
「じゃあ、私がお兄様の馬に乗るのですっ。それならいいでしょう?」
「それはもっとダメだ。俺は、金輪際お前と一緒に馬に乗らないと四大精霊に誓っている。……忘れてないぞ? 一緒に乗った時、俺の脇腹をくすぐるならまだ可愛いものの、鳩尾に一発食らわされて、落馬をしたのを……」
「ううっ……、お兄様。そんな昔のお話しを持ち出すなんて……酷いのですっ……」
口元を押さえ涙ぐみながら、ティンバーは声を詰まらせた。妹を、キツイ言葉で泣かせた兄をハルが咎める。
「レシオ……、昔ってことは、ティンバーも小さかったんだろ? 確かに大変な事故だったかもしれないが、そんな言い方は可哀想じゃないか?」
「……つい3ヵ月前ぐらいのことですけど、何か?」
「すまない、横から口を出して」
間髪入れずに、ハルが頭を下げた。レシオは彼の謝罪に満足そうに頷く。
「分かって貰えれば結構です。と言うわけですから、ハル。あなたは俺の後ろに乗ってください。それが一番平和ですから」
「……まあそうなんだろうが」
「何悩んでるんですか? ほらほら、乗った乗った」
「ちょっ……、無理やり押さないでくれっ!」
ハルが声を上げたが、レシオは無視して、彼を半ば無理やり馬に乗せた。そして、ハルの後ろに自分も乗ると、手綱を握った。
「俺が手綱を引くんで、ハルはどちらに向かえばいいかの案内をお願いしますね」
「あっ……、ああ、分かった……」
言葉に詰まりながらも頷くハルの身体は、がちがちに固まっている。レシオに身体が少しでも触れようものなら、隙間を空けようと必死だ。先ほどまで冷静に会話していた彼の様子が不自然になり、レシオは不思議に思った。しかし、
”まあ、ただでさえ野郎二人が一緒の馬に乗るだけでも戸惑うのに、くっつきたくはないわな”
そんな事を思う。ハル的には歩いて移動する方が良かったかもしれないな、と乗せた後になってちょっと申し訳なく思った。
前にいるハルの髪の毛が、さわさわとレシオの顔の前で揺れると、その度に微かではあるが甘い香りが鼻腔をくすぐった。
“何だ、この香り……?”
どこかで嗅いだことがあった気がする香りの正体を探るべく、自然とレシオの顔がハルの後頭部に近づく。が、兄の謎の行動を、ティンバーは見逃さなかった。
「お兄様っ! ハルの頭を、くんかくんかしちゃ駄目なのですっ!」
「誤解を招く表現はやめろ―――っ!!」
「じゃあ、何をしていたのですかっ!!」
「いや……、何かハルからどこかで嗅いだ事のある香りがして、思い出す為にくんくんしてただけだ!!」
「……表現方法が違うだけで、ティンバーと全く同じことを言っている気がするのは、僕だけか?」
レシオを振り返るハルの目は、物凄く冷たい。細めの瞳をさらに軽蔑を込めて細めている。視線が痛いとはこの事だろう。
今の彼に言い訳は無駄だ。そう咄嗟に判断した王子は瞬時に両手を合わせ、ハルに言葉無き謝罪をした。このまま彼の機嫌を損ね、『道』の案内を放棄されては困る。
ハルは何とも言えない顔をすると、さっとフードを被った。しかし彼が馬から降りる事はなかった為、レシオはホッと胸を撫で下ろした。
この事により、野郎二人で一緒に馬にのる緊張がハルからなくなったようだ。真っすぐな声で、二人に行き先を告げる。
「では、町を出たら街道を真っすぐ行って欲しい。確か、センシングとベンドの町の間くらいに、『道』があるはずだ」
「了解です、ハル隊長」
「了解なのですっ、ハル隊長っ!」
「君たちは……、本当に緊張感というものがないんだな……」
自分に向かって、悪戯っこのように笑みを浮かべて敬礼する兄妹に、ハルは呆れたように呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる