立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

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その後の話:未来の話をしよう

第8話 出発

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 先に外に出た兄妹は、後からやってきたハルと合流した。
 ハルは二人の前に立つと、これから向かう方向に視線を向けた。

「今から君たちを、魔界につながる『道』に案内しよう。でもここからまだ離れているから、数日は歩いて移動をしなければならないが……」

 少し申し訳なさそうに、ハルは道までまだ距離がある事を伝えた。しかし、すでに5日間の旅をしてきた兄妹だ。

「あっ、それなら馬で来ているから大丈夫なのですっ、ハル!」

 ティンバーが、問題ないと伝える。彼女の言葉を証明するかのように、丁度宿屋の使用人が馬を引きつれ、二人に引き渡した。

 馬と聞き、ハルの表情が少し曇った。

「ああ、そうなのか。すまない、僕には馬がない。どこかで調達する必要があるな」

 ハルの荷物は少ない。それを見ても、彼が元々歩いて移動する事を考えていた事が分かった。
 これから馬を探す時間も、費用も惜しい。そう思ったレシオは、ハルの細い体つきを見ながら提案をした。

「それなら一緒に乗りませんか? ハルなら、2人乗りでもきっと問題ないですよ」

「えっ?」

 ハルの表情に、戸惑いが浮かんだ。戸惑うハルとは正反対に、ティンバーが嬉しそうに自分の後ろに乗るよう勧める。

「わーい! 私、ハルと一緒に乗りたいのですっ。ミディ様のお話、いっぱい聞いて欲しいのですっ」

「だーめーだ!! 男と馬に乗ったって父上が知ったら、ハルに迷惑が掛かる」

 レシオはぴしゃりと言い切った。

 娘を溺愛している父親だ。ティンバーが誘ったとはいえ、男と馬に乗ったなど知られようものなら、責任を取らせるために結婚させるくらいはやりかねない。

 そんな迷惑をハルに絶対かけたくないし、そんな理由で家族が増えるのも嫌だ。

 ティンバーは、ぷーっと不満そうに頬を膨らませると、名案がまた浮かびましたとばかりに、兄に提案する。

「じゃあ、私がお兄様の馬に乗るのですっ。それならいいでしょう?」

「それはもっとダメだ。俺は、金輪際お前と一緒に馬に乗らないと四大精霊に誓っている。……忘れてないぞ? 一緒に乗った時、俺の脇腹をくすぐるならまだ可愛いものの、鳩尾に一発食らわされて、落馬をしたのを……」

「ううっ……、お兄様。そんな昔のお話しを持ち出すなんて……酷いのですっ……」

 口元を押さえ涙ぐみながら、ティンバーは声を詰まらせた。妹を、キツイ言葉で泣かせた兄をハルが咎める。

「レシオ……、昔ってことは、ティンバーも小さかったんだろ? 確かに大変な事故だったかもしれないが、そんな言い方は可哀想じゃないか?」

「……つい3ヵ月前ぐらいのことですけど、何か?」

「すまない、横から口を出して」

 間髪入れずに、ハルが頭を下げた。レシオは彼の謝罪に満足そうに頷く。

「分かって貰えれば結構です。と言うわけですから、ハル。あなたは俺の後ろに乗ってください。それが一番平和ですから」

「……まあそうなんだろうが」

「何悩んでるんですか? ほらほら、乗った乗った」

「ちょっ……、無理やり押さないでくれっ!」

 ハルが声を上げたが、レシオは無視して、彼を半ば無理やり馬に乗せた。そして、ハルの後ろに自分も乗ると、手綱を握った。

「俺が手綱を引くんで、ハルはどちらに向かえばいいかの案内をお願いしますね」

「あっ……、ああ、分かった……」

 言葉に詰まりながらも頷くハルの身体は、がちがちに固まっている。レシオに身体が少しでも触れようものなら、隙間を空けようと必死だ。先ほどまで冷静に会話していた彼の様子が不自然になり、レシオは不思議に思った。しかし、

”まあ、ただでさえ野郎二人が一緒の馬に乗るだけでも戸惑うのに、くっつきたくはないわな”

 そんな事を思う。ハル的には歩いて移動する方が良かったかもしれないな、と乗せた後になってちょっと申し訳なく思った。
 前にいるハルの髪の毛が、さわさわとレシオの顔の前で揺れると、その度に微かではあるが甘い香りが鼻腔をくすぐった。

“何だ、この香り……?”

 どこかで嗅いだことがあった気がする香りの正体を探るべく、自然とレシオの顔がハルの後頭部に近づく。が、兄の謎の行動を、ティンバーは見逃さなかった。

「お兄様っ! ハルの頭を、くんかくんかしちゃ駄目なのですっ!」

「誤解を招く表現はやめろ―――っ!!」

「じゃあ、何をしていたのですかっ!!」

「いや……、何かハルからどこかで嗅いだ事のある香りがして、思い出す為にくんくんしてただけだ!!」

「……表現方法が違うだけで、ティンバーと全く同じことを言っている気がするのは、僕だけか?」

 レシオを振り返るハルの目は、物凄く冷たい。細めの瞳をさらに軽蔑を込めて細めている。視線が痛いとはこの事だろう。

 今の彼に言い訳は無駄だ。そう咄嗟に判断した王子は瞬時に両手を合わせ、ハルに言葉無き謝罪をした。このまま彼の機嫌を損ね、『道』の案内を放棄されては困る。

 ハルは何とも言えない顔をすると、さっとフードを被った。しかし彼が馬から降りる事はなかった為、レシオはホッと胸を撫で下ろした。 
 この事により、野郎二人で一緒に馬にのる緊張がハルからなくなったようだ。真っすぐな声で、二人に行き先を告げる。
 
「では、町を出たら街道を真っすぐ行って欲しい。確か、センシングとベンドの町の間くらいに、『道』があるはずだ」

「了解です、ハル隊長」

「了解なのですっ、ハル隊長っ!」

「君たちは……、本当に緊張感というものがないんだな……」

 自分に向かって、悪戯っこのように笑みを浮かべて敬礼する兄妹に、ハルは呆れたように呟いた。
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