【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう

文字の大きさ
1 / 124

第一話 秋、色葉散る(一)

しおりを挟む






『あなたと一緒になれる日を、指折り数えて居りました。』












「けいやく……?」

 まだ七つになったばかりの秋葉あきはに、はたしかにそう言った。

「そう。契約。君が血を分けてくれたから、私たちは契約したんだよ」

「……それって、あなたの命が助かったってこと?」

 いまいち彼の言っている意味が理解できなくて、秋葉はきょとんとした顔で尋ねる。
 彼はふっと柔らかく微笑んで、

「あぁ。もう大丈夫。君の血のおかげだ」

「えへへ。なら、よかった」

 さっきまで血まみれの瀕死状態だった彼が、すっかり元気になったみたいで秋葉は一安心した。

 今日は、なぜか朝から不安定な胸騒ぎがしていた。
 理由は分からなかった。でも、なにやら胸の奥底から突き上げる衝動のようなものを、ずっと彼女は感じていた。

(山に行かないと……!)

 どうしようもない焦燥感が、彼女を急き立てていく。母に「女の子がはしたない」と咎められながらも急いで朝食を掻き込むと、一目散に山へと駆け出した。
 そこで、彼と出会ったのだ。

 それは、秋葉が両腕で抱きかかえられるほどの小さな龍だった。純白の鱗は七色に輝いて、とても美しいと感じた。

「どうして瞳を閉じたままなの?」

 もう治ったはずなのに、一向に目を開けない彼を不思議に思って尋ねる。

「あぁ、これかい? 生まれつきなんだ」

 彼は穏やかな様子で言う。

「もしかして、目が見えないの?」

 たちまち秋葉の顔色が曇った。鮮やかな新緑、さらさらと流れる青い小川。こんな素敵な世界を見ることができないなんて、なんて悲しいことなのだろう。

「そうだね……。でも、心で感じてる」

「こころ?」

「そうだよ。私は心で見ているんだ。光溢れる新緑や、流れる水の生命の息吹。……もちろん、君の素晴らしい霊力も」

「……よく分からないわ」

「見えてないけど、見えてるってことさ」

 風のざわめきと川のせせらぎが強くなった。二人はしばしのあいだ、聞き耳を立てて世界の音を楽しむ。

「ありがとう」

 不意に、彼は浮き上がった。

「君の名前は?」

「私は、秋葉! 秋の葉っぱで秋葉よ」

「秋葉、か。良き名だ」

「あなたのお名前は?」

「私の名は――」

 その時、にわかに強風がどうと吹いた。

「きゃっ」

 風はひと塊りになって、轟々と渦を巻いていく。そして彼を包み込んだと思ったら、遥か上空へとり上がって――消えた。

「……」

 秋葉は呆然と空を見上げる。秋の空は、からりと晴れ上がって爽やかだった。
 これが、秋葉ととの出会いだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

完結 女性に興味が無い侯爵様、私は自由に生きます

ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ! そんな私に好都合な相手が。 女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。

『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。 その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。 だが、思惑はことごとく空回りする。 社交界での小さな失態。 資金繰りの綻び。 信用の揺らぎ。 そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。 決して大事件ではない。 けれど積み重なれば、笑えない。 一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。 血筋とは何か。 名乗るとは何か。 国家が守るものとは何か。 これは、派手な復讐劇ではない。 怒号も陰謀もない。 ただ―― 立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。 そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。 世界は静かに、しかし確実に動いている。

処理中です...