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第六話(二)
しおりを挟む「ぶっはぁっ!」
にわかに憂夜の顔が浮かんできて、秋葉は飲んでいたほうじ茶を吹き出した。
慌てて手ぬぐいで口元と寝間着を拭くあいだも、顔は熱を放ったままだ。
(全く……。あいつ、なに言ってんのよ……!)
憂夜のせいで感情が掻き乱されるのを歯痒く感じる。胸は早鐘を打って、妙な汗が止まらなかった。
あのときは頭が真っ白になって、慌てふためきながら彼の背中を押して部屋から追い出した。しかし冷静に考えると、龍神様に対してひどく無礼だったと思う。
(でも……あんなこと言うほうが悪いのよ!)
秋葉も無垢な幼子ではない。夫婦になった二人が、なにをするのかは聞き及んでいる。
でも、あんなに真正面から言うなんて!
「べ……別に嫌じゃ、ないんだけど……ね……」
熱が顔に集中して、つい机の上に顔を突っ伏す。磨かれた木製の表面が、ひんやりとして気持ちいい。
今の自分は、彼の妻に相応しいとは思っていない。
現に、今この瞬間も、彼の神力で肉体が保護されているのが分かる。高い霊力を持つ人間でなければ、神と同じ空間に立つには耐えられないからだ。
その霊気は、それこそ『千年に一人』と呼ばれていた過去の秋葉……そして現在の春菜くらいの強さでなければ。
なのに、彼はこんな自分をすんなりと受け入れてくれて。
……などと、うだうだと悩んでいたところ、秋葉ははっと我に返って弾かれるように顔を上げた。
「いやいやいや! 自分を卑下するのは彼に失礼でしょ!」
憂夜は黒龍で、神様の中でも上位にあたる。そんな雲の上の方から自分は選ばれたのだ。
もっと自信を持ってもいいし、彼に相応しい妻になるためにもっともっと頑張らなければ……!
黒龍と白龍は、陰と陽。白龍は光を司り、黒龍は闇を司る。
人間にとって太陽は生きるうえで欠かせないもの。闇夜は死者の世界に近く、恐ろしく忌むべきもの。
ゆえに黒龍信仰はほとんど存在でず、人々は白龍を崇めていることが多かった。
(憂夜も孤独だったのかな……)
賑やかな従者たちはいるけど、屋敷には他の者の気配はなかった。それに、この場所自体がひどく孤立しているように見える。
妻として、夫に寄り添うことができればいいなと思った。
自分にはまだ夫婦というものが理解っていないけど、きっと互いに助け合う関係が夫婦なのだと思う。
だから、憂夜ともそんな関係になりたい。
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