35 / 124
第六話(七)
しおりを挟む
「はぁ……」
「あっ、そうだそうだ」
まだ釈然としない狐宵を気にせず、憂夜は打って変わって妙な明るい声音で言った。
「これまで秋葉を育ててくれた両親には、たんまり礼をしないといけねぇなぁ~」
主の妙に弾んだ声と、何やら良からぬことを企んでいるような含み笑いに、狐宵は嫌な予感を覚えて顔を引きつらせる。
「憂夜様……神々の理を乱すような行為はなさらないでくださいませ」
「はっはっは。俺がそんな馬鹿な真似をすると思うか~?」
「貴方様ならやりかねないから、こうやって進言をしているのです!」
「真面目だなぁ~、狐宵は~」
「憂夜様が不真面目すぎるのです!」と、彼は声を荒げたあとに深いため息をついた。
この主様は、いつも自由奔放すぎるのだ。今日だってちょっと目を離した隙に、一人で下界へ赴いて花嫁を連れて帰って来るし。
いや、今日だけではない。
白銀を拾ってきたときだって、いつの間にか瑞雪が住み着いたときだって、主の気まぐれで決まったのだ。
……まぁ、結果的にはいつも良い方向へ向かうのだが。
「まぁ、あれだよ、狐宵」
憂夜は従者の密かな悩みなどどこ吹く風で、いたずらっぽく笑った。
「俺は神だが万能じゃねぇ。疲労が溜まって、仕事が疎かになる日もあるってことよ」
「…………はぁ」
主がこれから何をしようとしているのか察した彼は、またぞろ深いため息をつくのだった。
憂夜は足取り軽く去っていく。ぽつねんと残された狐宵は、所在なさげに窓の外の夜空を見上げた。
今日は新月。物事のはじまりの日だ。
それが悪い出来事の始まりではないと良いが…………。
「あっ、そうだそうだ」
まだ釈然としない狐宵を気にせず、憂夜は打って変わって妙な明るい声音で言った。
「これまで秋葉を育ててくれた両親には、たんまり礼をしないといけねぇなぁ~」
主の妙に弾んだ声と、何やら良からぬことを企んでいるような含み笑いに、狐宵は嫌な予感を覚えて顔を引きつらせる。
「憂夜様……神々の理を乱すような行為はなさらないでくださいませ」
「はっはっは。俺がそんな馬鹿な真似をすると思うか~?」
「貴方様ならやりかねないから、こうやって進言をしているのです!」
「真面目だなぁ~、狐宵は~」
「憂夜様が不真面目すぎるのです!」と、彼は声を荒げたあとに深いため息をついた。
この主様は、いつも自由奔放すぎるのだ。今日だってちょっと目を離した隙に、一人で下界へ赴いて花嫁を連れて帰って来るし。
いや、今日だけではない。
白銀を拾ってきたときだって、いつの間にか瑞雪が住み着いたときだって、主の気まぐれで決まったのだ。
……まぁ、結果的にはいつも良い方向へ向かうのだが。
「まぁ、あれだよ、狐宵」
憂夜は従者の密かな悩みなどどこ吹く風で、いたずらっぽく笑った。
「俺は神だが万能じゃねぇ。疲労が溜まって、仕事が疎かになる日もあるってことよ」
「…………はぁ」
主がこれから何をしようとしているのか察した彼は、またぞろ深いため息をつくのだった。
憂夜は足取り軽く去っていく。ぽつねんと残された狐宵は、所在なさげに窓の外の夜空を見上げた。
今日は新月。物事のはじまりの日だ。
それが悪い出来事の始まりではないと良いが…………。
15
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした
鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました
幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。
心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。
しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。
そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた!
周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――?
「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」
これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』
鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
--
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
婚約お断り令嬢ですわ ~奇行で縁談を潰していたら本命騎士に再会しました~
鍛高譚
恋愛
婚約話? 結構ですわ。
私には――子供の頃に命を救ってくれた“黒髪の騎士”がいるのですから。
公爵令嬢アンネローゼ・フォン・グレイシアは、才色兼備の完璧令嬢……だった。
だが、ある日から突如“奇行”に走り始める。正座で舞踏会に参加? スープにストロー? 謎のポエム朗読?
そう、それはすべて――望まぬ婚約をぶち壊すため!
王族、貴族、策略家、演技派……次々と舞い込む政略結婚の話。
アンネローゼはあの手この手で縁談をぶった斬り、恋も名誉も自由も手に入れる!
すべての婚約破棄は、たった一人の人に出会うため――
「破談のアンネローゼ様」が貫く、“本当の婚約”とは?
痛快!恋愛ざまぁ×ラブコメディ×ハッピーエンド!
破談上等のお嬢様が、本物の愛を掴むまでの逆転劇が今、始まりますわ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる