【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう

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第七話(五)

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「あの者に何かされたのですか?」

 遅れてやって来た別の女中たちに乱れた着物を直されながら、春菜は不貞腐れたように口を尖らす。

「あの子、わたしが嫌いな魚を出したのよ。しかも二日連続で」

「……」

 そんなこと・・・・・でこのような騒ぎを起こしたのかと、彼は半ば呆れた様相で女主人を見た。

 神の世界からの追放は非常に重い。それは当人は勿論、一族の名誉にも関わるのだ。それこそ一生の。
 それを、こんな簡単に。下らない理由で。

 百歩譲って、食物しょくもつの過敏症を狙って暗殺を企てたのならば追放も止む無しだが、児戯のようなただの好き嫌いとは……。

「あの者に他意はなかったのでしょう。光河様のご加護の鮮魚は、特別な意味合いがございますから」

「聞こえなかったの? 龍神の花嫁のわたしが嫌いって言ったの。こんな侮辱、不愉快極まりないわ」

 春菜の鋭い視線が、紫流に向けられる。それは脅迫の意味合いがこもっていた。

「申し訳ございませんでした。私の不手際です」

 心の隅に浮かんだ疑問を押し殺して、彼は深々とこうべを垂れる。理由はともあれ、白龍の最側近である己が責任を取らないといけないと思った。

「酷いわ。わたしが人間だから、意地悪をしているのね」

 すると春菜は、さっきとは打って変わってぽろぽろと涙を流しはじめた。
 人形のような大きな瞳から溢れ出る涙はとても儚げで、彼には不思議と罪悪感が生じてくる。

「い、いえ……我々は、そのようなことは……」

「何をしているんだい?」

 その時、騒ぎを聞きつけた白龍――光河がゆったりとした足取りで部屋に入ってきた。
 いつも瞳は閉じている中でも穏やかな表情をしている彼だが、微かに眉間に皺が寄っているのを紫流は見逃さなかった。
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