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第十三話(四)
しおりを挟む「憂夜様」
狐宵の声に顔を上げると、彼と瑞雪が薬箱を持ってやって来ていた。二人ともほっとしたように微笑み、温かい眼差しを向けていた。
「二人とも無事で良かったですー!」
「傷が残らないうちに治療を」
「あぁ、そうだな。頼む」
式神は単なる物理攻撃だけではなく呪いも埋め込む。瑞雪たちは、秋葉と白銀の傷口を入念に確認しながら傷薬を塗った。
「秋葉様、申し訳ございませんでした」
治療が終わった途端、狐宵が秋葉に深々と頭を下げた。
「な、なんで狐宵が謝るのよ。むしろ助けてくれたんだから感謝しているわ」
狐宵は少しのあいだ思案するように黙り込んでから、
「……私は、あなたが憂夜様の花嫁になることを反対していました」
恥じるように声を出した。
「そりゃそうだわ。だって、霊力のない人間が龍神様の花嫁になるなんて前代未聞だもの」と、秋葉は苦笑しながら肩を竦める。
「いえ……。それでも私は憂夜様の臣下として、きちんと物事の本質を見極めなければなりませんでした。
秋葉様は確かに霊力がありませんでしたが、でも、美しい心を持っている。それは、憂夜様の花嫁になる方の最重要な条件です」
「そ、そんな……。美しい心だなんて……」
秋葉の顔がみるみる赤くなる。こんなことを言われたのは初めてなので、気持ちが落ち着かなくて胸がどぎまぎした。
「秋葉様は美しく、強いです。微力ながら、私も霊力回復のお手伝いをさせてください」
「そんな、照れるわ……」
秋葉が両手を頬にあてて「えへへ」と身体を左右に揺らせながらもじもじしていると、
「おい、狐宵」
突如、どすの効いた低音が響いた。
そして、憂夜が秋葉の腰を抱いてぐいと自身に引き寄せて言った。
「お前、人の嫁を口説いてんじゃねぇよ」
きっと従者を睨め付ける。黄昏色の瞳が、怒りに満ちていた。
「別に口説いておりません」
対して狐宵は、真顔で冷静に反論する。
「嘘こけ。『秋葉様は、美しい』とか言ってたじゃねぇか」
「それは心です。憂夜様も『結婚は魂だ』って、以前おっしゃっていたじゃありませんか」
「てめぇっ! 秋葉の顔は美しくねぇってかー!?」
憂夜は狐宵の襟元を掴んで、がっくんがっくんと首を揺らした。狐宵は死んだような目で主にされるがままだ。それでも、どこか楽しそうな雰囲気だった。
「狐宵さんは、本当は奥様のことが心配だったんですよねー。素直じゃないんだからぁ~。このこの~~」
瑞雪が肘で彼を突くと、白銀も面白がって「このこの~」と言いながら頭突きをした。
秋葉はくすくす笑いながら眺めていたが、狐宵の思い遣りを嬉しく思った。こんなに素敵な仲間ができて、ここに来て良かったと心から思った。
ちなみに憂夜だけは本気になって怒っていた。
「そうだっ!」
にわかに秋葉の大音声が響いて、憂夜の動きをぴたりと止める。
どうやら、頭に血が上っていても花嫁の声はちゃんと耳に届くようだ。
「どうした?」
「私、憂夜にお願いがあるのっ!」
秋葉は真剣な表情で彼を見た。
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