【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう

文字の大きさ
85 / 124

第十四話(二)

しおりを挟む

「じゃあ……」

 しばらくのあいだ黙り込んでいた秋葉は、震える唇をやっと開いた。

「じゃあ、春菜は? 春菜が白龍の花嫁なんじゃないの……?」

「憶測だが、今は白龍が二重契約状態になっているんだと思う。過去にこのような事例はないが、神が二人の花嫁を持つことは禁忌ではない。つまり……」

 憂夜は言葉を続けるのを止めた。視線を落として、全身をわなわなと震わせている。
 少しして、彼は意を決したように顔を上げて、まっすぐに秋葉の目を見て行った。

「つまり…………秋葉も・・・白龍の花嫁になる権利を持っている。

 …………その契約が有効な限り、俺の――黒龍の花嫁には、決してなれない」

「なんてこと……」

 ついに全身の力抜けて、秋葉はがくりと地面に崩れ落ちた。視界は急激に狭まり呼吸が苦しくなって、気味の悪い脂汗が吹き出る。

 憂夜は宝物を掬い取るように、彼女の身体を優しく支えながら抱きしめた。
 でも、彼女は全身が痺れていて、彼の腕に包まれている感覚がない。視界はもう、真っ黒だった。

「私は……ここでも必要ないの?」

 せっかく自分の本当の居場所ができたって思ったのに。
 大切な仲間ができたのに。

 そして……心から愛したい神様ひとができたのに。

「っ……!」

 秋葉は卒然と立ち上がって、出口に向かって駆けていった。

「おいっ! 秋葉っ!」

 憂夜は呼び止めるが、追い掛けることができなかった。

 自分にはその資格がないと思ったのだ。
 なぜなら、彼女は白龍のものなのだから。

「くそっ!!」

 やるせない気持ちで、頭がどうにかなりそうだった。強く握った拳から血が滴り落ちる。

 やっと手に入れたと思ったのに、簡単にすり抜けてしまった。
 死ぬまで大切にしようって誓ったのに、自分は彼女を守る権利さえ持っていない。

 神の世界でことわりは絶対だ。一度結ばれた契約を、他者がどうかすることは出来ないのだ。

 こんなに……秋葉を愛しているのに。

「ちっくしょおおぉぉぉぉぉっ!!」

 憂夜の悲痛な咆哮が、暗闇に轟いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました 幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。 心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。 しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。 そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた! 周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――? 「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」 これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...