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78 公爵令息の独白④
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※残虐なシーンあり※
それは、青天の霹靂だった。
私が隣国へ赴いている僅かな間に、その凄惨な所業は速やかに行われていたのだ。
あの恥知らずの卑しい娘は有ろう事か私の目を潜って、水面下で内密にシャーロット嬢の処刑計画を――あの男と共に進めていたのだった。
私がグレトラント国に帰国した際には、もう手遅れだった。
その時には……既にシャーロット嬢は亡き人だった。彼女は不名誉な称号を背負ったまま、不遇の死を遂げたのだ。
ヨーク家自体も一族郎党皆処刑台へ送られ、あまつさえ家門自体も取り潰しになり、この国の歴史から存在自体を抹消されてしまった。
あの高貴な誇り高いヨーク家が! 薄汚い平民の血の二人によって!
……私の地獄の底から隆起するような苛烈な怒りは、最愛の人を失った深い悲しみと共に全身から溢れ出て、それはとどまる所を知らなかった。
ロージー・モーガンは、笑顔で私に報告して来た。
「二人の計画に邪魔なあの女は先に処刑してやったわよ」と。
その平凡な顔は戦慄するほどに憎らしくて、常に気を張って平静を装っていないと今にもあの女を切り刻んでしまいそうだった。
私は、この時もただひたすら耐えた。本音は気がおかしくなりそうだった。
シャーロット嬢を失った哀傷は、じわじわと私の精神を蝕み続け、動悸や不眠に悩まされる日々を送っていた。
だが、ここで私が立ち止まるわけにはいくまい。
我が一族の悲願の王位奪還――それは必ず私の代で成し遂げなければならなかった。
私は、この世で一番憎々しいあの娘に対しても、これまでと同じように接した。
甘い言葉を掛ける度に、乾いた舌が千切れそうだったが、精神を振り絞って辛抱して、強請るあの女の身体を抱いた。
吐き気がした。
あの女のことは、もう気味の悪い腐った肉塊にしか見えなかった。
それでも王弟派の王家への裁きは続く。
我らが同胞たちの悲願のは、私の双肩に掛かっているのだ。止めるわけにはいかなかった。
まずは王妃、そして国王。
そして、花畑の中で生きているような役立たずの第二王子。
……この男もシャーロット嬢に恋慕の情を抱いていたようだが、儚くも叶わなかったようだ。
まぁ、私も奴と同じく敗北を喫した負け犬の一人なのだから、これ以上は何も言うまい。
仕上げに――王太子エドワード・グレトラント。
当初の計画通りに、ヨーク家への罪の捏造を全てこの男に擦り付け、衝撃に揺れる全ての国王派を派閥に取り込んで、処刑台へと送ったのだ。
だが、そこには達成感など何一つもなく、ただ心の中にあるのは、虚無……それだけだった。
絶望に打ちひしがれるあの男の顔を目の当たりにしても、愉悦の感情など少しも生まれなくて、流れ作業のように景色として通り過ぎていくだけだ。
あの女の手前、演技は続けていたが、ただ虚しいだけだった。
何故ならば、私の愛するシャーロット嬢は、もうこの世に存在しないのだから。
私は国王になった。
最初にしたことは――……ロージー・モーガンへの報復。
あの女は、あの男を処刑した瞬間からもう王妃気取りで振る舞って、不愉快極まりなかった。
長い間、腹の奥底に沈んでいた怒りは、とてつもない推進力となって、爆ぜていった。
私は自らあの女の四股を切り落として、首に鎖を付けて放置し、男たちの慰み者にした。
やがてあの女の生命力が枯れかけると、生きたまま火に炙って葬った。勿論、あれの犯した罪を大衆に知らしめて。
泣き叫ぶ卑しい血の火だるまを眺めても、何の感情も湧かなかった。
ただ馬鹿みたいに大声で笑い転げただけだ。あのような平民のような下品な振る舞いは、生まれてこのかた初めてだった。
もう、全てがどうでも良かった。
いくら宿願の国王になっても、報復を遂げても、歴史に名を刻んでも……私がシャーロット嬢と結ばれる瞬間は永遠に来ないのだ。
彼女が王妃でなければ意味がなかった。最早、生きる気力さえも失った私は自暴自棄になって、それから――その後の記憶は持っていない。
そして、気が付いたら、私は12歳の姿に戻っていたのだ。
それは、青天の霹靂だった。
私が隣国へ赴いている僅かな間に、その凄惨な所業は速やかに行われていたのだ。
あの恥知らずの卑しい娘は有ろう事か私の目を潜って、水面下で内密にシャーロット嬢の処刑計画を――あの男と共に進めていたのだった。
私がグレトラント国に帰国した際には、もう手遅れだった。
その時には……既にシャーロット嬢は亡き人だった。彼女は不名誉な称号を背負ったまま、不遇の死を遂げたのだ。
ヨーク家自体も一族郎党皆処刑台へ送られ、あまつさえ家門自体も取り潰しになり、この国の歴史から存在自体を抹消されてしまった。
あの高貴な誇り高いヨーク家が! 薄汚い平民の血の二人によって!
……私の地獄の底から隆起するような苛烈な怒りは、最愛の人を失った深い悲しみと共に全身から溢れ出て、それはとどまる所を知らなかった。
ロージー・モーガンは、笑顔で私に報告して来た。
「二人の計画に邪魔なあの女は先に処刑してやったわよ」と。
その平凡な顔は戦慄するほどに憎らしくて、常に気を張って平静を装っていないと今にもあの女を切り刻んでしまいそうだった。
私は、この時もただひたすら耐えた。本音は気がおかしくなりそうだった。
シャーロット嬢を失った哀傷は、じわじわと私の精神を蝕み続け、動悸や不眠に悩まされる日々を送っていた。
だが、ここで私が立ち止まるわけにはいくまい。
我が一族の悲願の王位奪還――それは必ず私の代で成し遂げなければならなかった。
私は、この世で一番憎々しいあの娘に対しても、これまでと同じように接した。
甘い言葉を掛ける度に、乾いた舌が千切れそうだったが、精神を振り絞って辛抱して、強請るあの女の身体を抱いた。
吐き気がした。
あの女のことは、もう気味の悪い腐った肉塊にしか見えなかった。
それでも王弟派の王家への裁きは続く。
我らが同胞たちの悲願のは、私の双肩に掛かっているのだ。止めるわけにはいかなかった。
まずは王妃、そして国王。
そして、花畑の中で生きているような役立たずの第二王子。
……この男もシャーロット嬢に恋慕の情を抱いていたようだが、儚くも叶わなかったようだ。
まぁ、私も奴と同じく敗北を喫した負け犬の一人なのだから、これ以上は何も言うまい。
仕上げに――王太子エドワード・グレトラント。
当初の計画通りに、ヨーク家への罪の捏造を全てこの男に擦り付け、衝撃に揺れる全ての国王派を派閥に取り込んで、処刑台へと送ったのだ。
だが、そこには達成感など何一つもなく、ただ心の中にあるのは、虚無……それだけだった。
絶望に打ちひしがれるあの男の顔を目の当たりにしても、愉悦の感情など少しも生まれなくて、流れ作業のように景色として通り過ぎていくだけだ。
あの女の手前、演技は続けていたが、ただ虚しいだけだった。
何故ならば、私の愛するシャーロット嬢は、もうこの世に存在しないのだから。
私は国王になった。
最初にしたことは――……ロージー・モーガンへの報復。
あの女は、あの男を処刑した瞬間からもう王妃気取りで振る舞って、不愉快極まりなかった。
長い間、腹の奥底に沈んでいた怒りは、とてつもない推進力となって、爆ぜていった。
私は自らあの女の四股を切り落として、首に鎖を付けて放置し、男たちの慰み者にした。
やがてあの女の生命力が枯れかけると、生きたまま火に炙って葬った。勿論、あれの犯した罪を大衆に知らしめて。
泣き叫ぶ卑しい血の火だるまを眺めても、何の感情も湧かなかった。
ただ馬鹿みたいに大声で笑い転げただけだ。あのような平民のような下品な振る舞いは、生まれてこのかた初めてだった。
もう、全てがどうでも良かった。
いくら宿願の国王になっても、報復を遂げても、歴史に名を刻んでも……私がシャーロット嬢と結ばれる瞬間は永遠に来ないのだ。
彼女が王妃でなければ意味がなかった。最早、生きる気力さえも失った私は自暴自棄になって、それから――その後の記憶は持っていない。
そして、気が付いたら、私は12歳の姿に戻っていたのだ。
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