【完結】ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

あまぞらりゅう

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第一章 地味な、人生でした

18 話はどんどん歪んでいきました

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「他に、お異母姉様のことで知りたいことは、ありますか?」

 コートニーは合図するように、険しい表情で黙り込んでいるスコットの腕をぎゅっと掴む。そして上目遣いで長い睫毛をぱちくりと揺らしながら訊いた。

「っ……!」

 スコットははっと我に返る。
 そうだった、今日はクロエと話し合うために、パリステラ家に赴いたのだった。
 この状況だと……もう答えは出ている気がするが、今後の両家の関係のためにも、念の為に確認しておいたほうが良いだろう。

「君はさっき、クロエは最近は昼過ぎまで寝ているって言っていたけど、夜に出かけているということなんだね?」と、彼は念を押すように義妹に尋ねた。

「はっきりとしたことはよく分かりませんが、なにやら夜中……たまに明け方まで、ごそごそと何かされているようですねぇ……」と、コートニーは困惑気味に答えた。

 途端にスコットは渋面を作る。身体中が燃えるように熱くなって、どっと冷たい汗が吹き出た。

(……ま、本当は部屋で朝まで、無駄な魔法の特訓をしているだけだけど。嘘は言っていないわ。あたしは聞かれたことに答えているだけだからね)

 彼女は動揺する義兄の様子を見て、してやったりと心の中でぺろりと舌を出す。

(やっぱり……噂通りに夜遊びを……!)

 スコットは知りたくなかった残酷な事実を突き付けられて、頭がぐらりと揺れた。婚約者の、真っ白いマーガレットの花のような清廉潔白なイメージにぴしりとひびが入って、ぼろぼろと崩れていく。

 クロエは、清楚で純粋な姿に擬態して、本当のところはとんでもない悪女だったのだろうか。
 これまでは上手く隠していたが、母親の死でたがが外れた? どちらが本当の彼女なんだ……?

(……いずれにせよ、僕はずっと騙されていたのか?)

 スコットの胸の中に、疑念や不信感がゆっくりと染み込んでいく。擦り切れた心が傷んだ。傷口に大量に軟膏を塗って、全てに蓋をしたかった。

 だが、目の前の無慈悲な現実から顔を背けるなんて、ジェンナー家の嫡男として許されない。貴族とは責任を負うものなのだから。時には、冷酷な決断を下さないといけないのだ。


「それで……」彼は掠れた声を絞り出す。「侯爵夫人が彼女の行動を止めようとしたって聞いたんだけど……」

「そういうことも、あったかもしれませんね」と、コートニーは曖昧に答えた。

「っ……!?」

 スコットは目を剥いて身体を強張らせた。
 やはり、噂は本当だったのか。クロエは噂の通りの悪女だったのか。

 張り詰めた空気が、彼をこのまま圧縮して潰してしまいそうだった。


(ま、本当はあの女が婚約者の屋敷へ行こうとしてたのを、お母様が邪魔しただけなんだけど)

 コートニーは、またまた心の中で舌を出す。
 あの日、クロエの侍女が手配した馬車でジェンナー公爵家へ向かおうとしているとの情報を得て、母クリスはすぐに行動に出た。
 それは、婚約者との接触を断つと同時に、継子の評判を落とそうと画策したものだった。

 お誂え向きにも、あのときは比較的に人通りが多くて、その中には社交に顔が利く者も混じっていたらしい。
 継子の悪評はさざなみのように広がって、社交界でも母娘がクロエの様子を訊かれることが幾度もあった。

 その頃は夫であるロバートの指示もあって、継子は社交の場に出さないようにしていたので、貴族たちは真実を知る由もない。だから母娘は、前侯爵夫人の娘の悪い噂の真相を尋ねられると、困ったように曖昧に微笑を浮かべてやり過ごすのだった。

 それが憶測を招いて、やがて肯定となって、クロエの悪い評判はじわじわと定着していったのだった。


 ふと、スコットの視線がコートニーに向けられた。彼女が見つめ返すと、彼の瞳は陽炎のように揺らいでいた。
 二人の間に沈黙が落ちる。

「君は……」ややあってスコットがぽつりと声を出す。「クロエとは仲良くやっているのか? 家での彼女の様子はどう? 彼女は……噂通りの令嬢なのか…………?」

 その掠れた弱々しい声には、懇願に近いものが帯びていた。
 婚約者として、長く付き合ってきたクロエ。
 彼の瞳に映った彼女は、優しくて、陽だまりみたいな笑顔を向けてくれて、貴族令嬢としていつも頑張っていて。決して悪女と称されるような行為はしないはずだ。

 だから、嘘だと言って欲しかった。
 クロエは、これまでと同じ無垢な彼女であって欲しい。

 だが、隣に座っている未来の義妹は、彼の求める答えを与えてはくれなかった。


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