【完結】ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

あまぞらりゅう

文字の大きさ
17 / 88
第一章 地味な、人生でした

17 私の知らない間に二人で話が進んでいました

しおりを挟む
 スコットと――その隣にはコートニーがちょこんと目ざとく座って、二人きりのお茶会が始まる。

 彼は義妹に正面に座るように勧めたが、彼女はふるふると無言で首を横に振って、義兄から離れようとしなかった。
 彼は苦笑いをして彼女の無礼を受け入れる。本人も言っていたが、まだ平民の頃の習性が抜けていないのだろう。
 だが、そんな様子も微笑ましい。


 しばらく菓子を食べながら、互いの身の上の話をした。
 コートニーは平民時代の話を面白おかしく喋っていたが、その端々には苦労が滲み出ていて、スコットは不憫に思った。つくづく運命というものは残酷だと、歯がゆい気持ちになった。


「クロエのことを訊いてもいいかな?」

 ひとしきり話を終えたところでスコットが尋ねると、コートニーはこくりと深く頷いた。
 彼女の微かな緊張感が伝わる。やはり、異母姉から辛い目に合っているのだろうかと、彼は一抹の不安を覚えた。

「まずは……そうだな。そのネックレスは、今はもう完全に君のものになったんだね?」

 今日もコートニーは、スコットが去年のクロエの誕生日に贈ったネックレスを胸元に身に着けていた。ピンクダイヤモンドの小さなリボン型の、可愛らしいアクセサリーだ。

 彼女はパッと瞳を輝かせて、

「このネックレス、あたしの一番のお気に入りなの! だから毎日着けているんだよ? えへへ」

 はにかむような笑顔を見せる。

「そうか」

 嬉しそうなコートニーの顔を見て、スコットも思わず相好を崩した。どうやら彼女は、周りを明るく照らすような、華やかな雰囲気を持っているらしい。

 ネックレスの本来の贈り先はクロエだったが、義妹がこんなにも気に入ってくれたとなると、彼も悪い気はしなかった。
 思い返せば、クロエはこのネックレスを特別な日にしか身に着けてくれなかった。いつも君の側にいるよと、自分だと思って欲しいと……想いを込めて贈ったのに。

(そうだ、次のコートニー嬢の誕生日には、彼女に向けたプレゼントを贈ろう。彼女ならきっと喜んでくれるはずだ)

 スコットは、コートニーにはなにが似合うだろうか、なにを贈れば喜ぶだろうか……と、頭の中でぼんやりと考える。今、身に着けているネックレスは、クロエに似合うデザインだったので、次はコートニーのためだけの一点物を用意しようか。


「あの……」

「えっ――」思考を巡らせている彼はコートニーの声ではっと我に返って「ごめん、ごめん。考え事をしていたよ」

「それって、お異母姉様のことですか?」

「あ、まぁ……そうだね」

 彼が苦笑いで答えると、彼女はしゅんと目を伏せた。

「ごめんなさい……。この子……本当はあたしなんかより、お異母姉様に着けて欲しかったですよね」と、彼女は胸元のネックレスを愛玩動物のようにぽんぽんと優しく撫でる。

「それは――」と、言いかけたところでスコットはおもむろに首を横に振った。「いや……僕はネックレスを大切にしてくれる人が着けてくれるほうが嬉しいかな」

(その通りだ……本当に……)

 彼は呪文のように、自身に言い聞かせた。
 プレゼントを気に入らないからと易々と妹に譲る姉より、大事に毎日身に着けてくれる妹のほうが良いに決まっている。

 そう考えると、だんだんと腹が立ってきた。
 クロエの奴、プレゼントしたときはあんなに喜んでいたのに、いとも簡単に妹に譲渡して、しかもそれを黙っているだなんて。なんと薄情な。


 
 コートニーはスコットの様子をじっと観察する。彼の気持ちの変化を隣に座っている彼女も肌で感じていた。

(もうちょっと、ってところね。お母様の言う通り、男って単純だわ)

 彼女はほくそ笑む。次に異母姉の婚約者に会ったときは、勝負を賭けようと考えていた。母親から教わった手練手管で、婚約者の愛情を自分に向けるのだ。


 名門ジェンナー公爵家の嫡子の婚約者を、魔力のない無能な姉から天才的な才能を持つ妹へ挿げ替えることは簡単だったが、それだけでは彼女の腹の虫がおさまらなかった。

 本来なら自分の居場所だったところに、長々と居座っていた異母姉。
 父と母から愛されて育つはずだった居場所を盗られて。加えて屋敷に図々しくも住み込んで、澄ました顔で高位貴族の令嬢面をして。

 貴族の証である魔法も使えないくせに。
 きっと、本当に平民との不義の子なんだわ。

 そんな穢らわしい娘は要らない。
 パリステラ家の令嬢は自分だけでいい。

 だから、奪ってやる。
 あの女から、居場所を。婚約者を。

 そして……婚約者の愛情を。



 一方スコットは、義妹の濁水のような本音など微塵も知らずに、ただひらすら胸がもやもやと疼いていた。
 彼の気持ちが、確実にクロエからコートニーに傾いた瞬間だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

処理中です...