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28 お誕プレを買いに行きますわ!
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ハーバート公爵家の元乳母であるバーバラ・スミス伯爵夫人は困窮していた。
屋敷を解雇されてから不名誉な噂はすぐに社交界に広まって、彼女は爪弾き者になってしまった。
夫の事業も取引の停止が増え、みるみる傾いて、今では小さな領地からの少ない税収でやっと生活をしていた。
おまけに親戚にまでも被害が及び、彼女は一族から激しい非難を浴びて、今ではほとんど縁を切られた状態だ。
このままでは、スミス伯爵家は破滅してしまう。
もう没落寸前だった。
彼女の恨みはぐつぐつと煮詰まって濃くなって、その矛先はある一点へと向かっていく。
「あの女……絶対に許さないわ……。必ず復讐してやる!!」
◇
「旦那様! いってらっしゃいませ!!」
「おとうさま! いってらっしゃいませ!!」
「おとうさま、いってらっしゃいませ」
妻と子たちが、揃って見送りの挨拶をしてくれる。
ハロルドは和やかで可愛らしい光景に目を細めた。
「ああ、行ってくる。お前たちも良い子にしてるんだぞ」
「「「はぁ~い!」」」
最近のハーバート家の日常だ。
あの日以来、ハロルドは家族との時間を作るように努力をした。
朝食もできる限り一緒に食べて、夜もなるべく早く帰宅するように努めた。
家族との何気ない時間が増え、それはとても温かいもので、彼は溢れる幸せを実感するのだった。
家族のためなら、どんなことだって頑張れる。
キャロラインと双子は、笑顔で一家の主の馬車を見送る。
影が完全に見えなくなったあと、
――パン!
キャロラインが穏やかな空気を一新するように、手を大きく叩いた。
「さ、お子たち! ちゃっちゃと準備をして、行きますわよぉ~! ゴーゴーゴーゴーゴー!!」
「ごーごー!」
「わかってるわよ!」
解散とばかりに三人はさっと玄関ホールを離れて、それぞれ自室に戻る。
今日は秘密の作戦を決行するのだ。
ハロルドの誕生日プレゼントを買いに、王都へ!
貴族は、誕生日にはパーティーを開くのが慣わしだ。高位貴族ともなると、家門の権威を示すために大規模な催しを開くのが常だった。
しかしハロルドは派手なパーティーが嫌いで、家族でささやかに祝うことを好んだ。ハーバート家を国王一派に見せたくないという理由もあったが。
でも、今年はちょっとだけ違った。
例年に倣って家族だけの誕生会ではあるが、今年はサプライズでキャロラインと双子で料理を作って、プレゼントもそれぞれが選んで届けようということになったのである。
三人はさっと用意を済ませて、急いで馬車に乗る。出発進行!
「二人はどんなプレゼントにするか決めましたか~?」
「ぼくは、チョコレートにする! おとうさまは、チョコが、だいすきなんだ!」
「バカっ! みんなでチョコレートケーキをつくるって、きめたでしょう? なんで、プレゼントもチョコにするのよ」
「だいすきなものは、いっぱいあるほうが、いいの!」
「チョコはたべたら、なくなるじゃない? あたしは、おとうさまが、ふだんづかいできるものにするわ」
「ロレッタはもう決まってるみたいねぇ~。チョコレートケーキの材料も買わないといけないから、色んなお菓子屋さんを見てみましょう~!」
「あたし、おあじみしてあげても、いいわ!」
「ぼくもー!」
「ふふふ。楽しみですわねぇ~!」
3人でお喋りをしていると時間が流れるのがあっという間で――……。
「とうちゃーーく!」
双子は勢いよく馬車から飛び降りた。
「二人とも、気を付けるのですよー! 最近、治安が悪いみたいだから」
「あたしなら、だいしょうぶよ。だって……」
ロレッタはドレスの裾を掴んでくるりと一回転する。アースカラーを基調にした服装で、華やかな金髪を隠すように帽子を被っていた。
今日は父親にも内緒の、お忍びのお出かけなのだ。
公爵家の者だと悟られないように、全員が地味な格好をしていた。
レックスもロレッタも、久しぶりの王都の街並みにはしゃいでいた。乳母は二人を外に連れ出すのが面倒だったので、屋敷から出ることがほとんどなかったのだ。
「ぼく、アレたべたい!」
「きゃあ! かわいいブレスレット!」
双子はキョロキョロと周囲を見回しながら、楽しそうに寄り道しながら歩いていた。数歩後ろを歩くキャロラインは、にこやかな顔で二人を見つめている。
(いつか旦那様も一緒に来られるといいですわねぇ。おスマホがあればお子たちのおムービーを撮れますのに!)
なんてことをしみじみと考えていると、
「喧嘩だ、喧嘩だー!」
一行が歩く少し先で、何やら騒ぎが起きていた。
キャロラインたちも驚いて騒ぎのほうに視線を向ける。
護衛のあいだで緊張が走った。奥様たちを守ろうと喧嘩の起こっている方角を注意していると……、
――ドン!
「ぎゃっ!」
何者かが勢いよくキャロラインにぶつかってきた。
屋敷を解雇されてから不名誉な噂はすぐに社交界に広まって、彼女は爪弾き者になってしまった。
夫の事業も取引の停止が増え、みるみる傾いて、今では小さな領地からの少ない税収でやっと生活をしていた。
おまけに親戚にまでも被害が及び、彼女は一族から激しい非難を浴びて、今ではほとんど縁を切られた状態だ。
このままでは、スミス伯爵家は破滅してしまう。
もう没落寸前だった。
彼女の恨みはぐつぐつと煮詰まって濃くなって、その矛先はある一点へと向かっていく。
「あの女……絶対に許さないわ……。必ず復讐してやる!!」
◇
「旦那様! いってらっしゃいませ!!」
「おとうさま! いってらっしゃいませ!!」
「おとうさま、いってらっしゃいませ」
妻と子たちが、揃って見送りの挨拶をしてくれる。
ハロルドは和やかで可愛らしい光景に目を細めた。
「ああ、行ってくる。お前たちも良い子にしてるんだぞ」
「「「はぁ~い!」」」
最近のハーバート家の日常だ。
あの日以来、ハロルドは家族との時間を作るように努力をした。
朝食もできる限り一緒に食べて、夜もなるべく早く帰宅するように努めた。
家族との何気ない時間が増え、それはとても温かいもので、彼は溢れる幸せを実感するのだった。
家族のためなら、どんなことだって頑張れる。
キャロラインと双子は、笑顔で一家の主の馬車を見送る。
影が完全に見えなくなったあと、
――パン!
キャロラインが穏やかな空気を一新するように、手を大きく叩いた。
「さ、お子たち! ちゃっちゃと準備をして、行きますわよぉ~! ゴーゴーゴーゴーゴー!!」
「ごーごー!」
「わかってるわよ!」
解散とばかりに三人はさっと玄関ホールを離れて、それぞれ自室に戻る。
今日は秘密の作戦を決行するのだ。
ハロルドの誕生日プレゼントを買いに、王都へ!
貴族は、誕生日にはパーティーを開くのが慣わしだ。高位貴族ともなると、家門の権威を示すために大規模な催しを開くのが常だった。
しかしハロルドは派手なパーティーが嫌いで、家族でささやかに祝うことを好んだ。ハーバート家を国王一派に見せたくないという理由もあったが。
でも、今年はちょっとだけ違った。
例年に倣って家族だけの誕生会ではあるが、今年はサプライズでキャロラインと双子で料理を作って、プレゼントもそれぞれが選んで届けようということになったのである。
三人はさっと用意を済ませて、急いで馬車に乗る。出発進行!
「二人はどんなプレゼントにするか決めましたか~?」
「ぼくは、チョコレートにする! おとうさまは、チョコが、だいすきなんだ!」
「バカっ! みんなでチョコレートケーキをつくるって、きめたでしょう? なんで、プレゼントもチョコにするのよ」
「だいすきなものは、いっぱいあるほうが、いいの!」
「チョコはたべたら、なくなるじゃない? あたしは、おとうさまが、ふだんづかいできるものにするわ」
「ロレッタはもう決まってるみたいねぇ~。チョコレートケーキの材料も買わないといけないから、色んなお菓子屋さんを見てみましょう~!」
「あたし、おあじみしてあげても、いいわ!」
「ぼくもー!」
「ふふふ。楽しみですわねぇ~!」
3人でお喋りをしていると時間が流れるのがあっという間で――……。
「とうちゃーーく!」
双子は勢いよく馬車から飛び降りた。
「二人とも、気を付けるのですよー! 最近、治安が悪いみたいだから」
「あたしなら、だいしょうぶよ。だって……」
ロレッタはドレスの裾を掴んでくるりと一回転する。アースカラーを基調にした服装で、華やかな金髪を隠すように帽子を被っていた。
今日は父親にも内緒の、お忍びのお出かけなのだ。
公爵家の者だと悟られないように、全員が地味な格好をしていた。
レックスもロレッタも、久しぶりの王都の街並みにはしゃいでいた。乳母は二人を外に連れ出すのが面倒だったので、屋敷から出ることがほとんどなかったのだ。
「ぼく、アレたべたい!」
「きゃあ! かわいいブレスレット!」
双子はキョロキョロと周囲を見回しながら、楽しそうに寄り道しながら歩いていた。数歩後ろを歩くキャロラインは、にこやかな顔で二人を見つめている。
(いつか旦那様も一緒に来られるといいですわねぇ。おスマホがあればお子たちのおムービーを撮れますのに!)
なんてことをしみじみと考えていると、
「喧嘩だ、喧嘩だー!」
一行が歩く少し先で、何やら騒ぎが起きていた。
キャロラインたちも驚いて騒ぎのほうに視線を向ける。
護衛のあいだで緊張が走った。奥様たちを守ろうと喧嘩の起こっている方角を注意していると……、
――ドン!
「ぎゃっ!」
何者かが勢いよくキャロラインにぶつかってきた。
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