11 / 17
11
しおりを挟む
◆
ディアナとアルベルトの婚約が社交界へ周知され、だんだんと受け入れられていた、そんな時だった。
彼女自身も新しい婚約者との生活に慣れ、これまで抱いていた嫌悪感もすっかり消えてしまっていた。
相変わらず婚約者は優しくて、あんなにいがみ合っていた日々も遠くのことに思えてきていた。
今日も魔法隊長に頼まれて総司令官のもとへ報告書を届けに行き、アルベルトから「少しばかりお茶でも……」と捕まった帰りだった。
「いい気なものだな。伯爵令嬢様は」
棘のある声にふと視線を向けると、柱の陰から二人の人物が憎々しげにディアナを睨め付けていたのだ。
見覚えのある顔ぶれだった。むしろ、忘れたくとも、嫌でも顔を思い出してしまう人たち。
彼らは、総司令官の直属の部下で、なおかつ苛烈な「過激派」として知られた人物だ。
当然、ディアナとは相性が悪く、これまで度々ぶつかり合っていた。
「……何がですか?」
ディアナも負けじと睨み返す。
最近の過激派の連中は、婚約の影響か彼女に対して敵意をなくした様子だったが、この二人だけは相変わらず難癖をつけてくるのだ。
「はっ、白々しい」
女のほうの部下が顔を歪めながら鼻で笑う。たしか、男爵令嬢だっただろうか。
同じ令嬢同士、しかもディアナのほうが身分も騎士階級も上だからか、彼女は何かと突っかかってくる。
彼女はディアナの鼻先までずいと顔を寄せて、
「第二王子に振られたからって、次は公爵閣下か? 地位があれば誰でもいいんだな。尻軽め」
「そっ……」
ディアナは言い返そうとしたが、次の言葉が出なかった。
自分自身でも分からないのだ。……胸の奥の感情が。
ディアナとアルベルトの婚約が社交界へ周知され、だんだんと受け入れられていた、そんな時だった。
彼女自身も新しい婚約者との生活に慣れ、これまで抱いていた嫌悪感もすっかり消えてしまっていた。
相変わらず婚約者は優しくて、あんなにいがみ合っていた日々も遠くのことに思えてきていた。
今日も魔法隊長に頼まれて総司令官のもとへ報告書を届けに行き、アルベルトから「少しばかりお茶でも……」と捕まった帰りだった。
「いい気なものだな。伯爵令嬢様は」
棘のある声にふと視線を向けると、柱の陰から二人の人物が憎々しげにディアナを睨め付けていたのだ。
見覚えのある顔ぶれだった。むしろ、忘れたくとも、嫌でも顔を思い出してしまう人たち。
彼らは、総司令官の直属の部下で、なおかつ苛烈な「過激派」として知られた人物だ。
当然、ディアナとは相性が悪く、これまで度々ぶつかり合っていた。
「……何がですか?」
ディアナも負けじと睨み返す。
最近の過激派の連中は、婚約の影響か彼女に対して敵意をなくした様子だったが、この二人だけは相変わらず難癖をつけてくるのだ。
「はっ、白々しい」
女のほうの部下が顔を歪めながら鼻で笑う。たしか、男爵令嬢だっただろうか。
同じ令嬢同士、しかもディアナのほうが身分も騎士階級も上だからか、彼女は何かと突っかかってくる。
彼女はディアナの鼻先までずいと顔を寄せて、
「第二王子に振られたからって、次は公爵閣下か? 地位があれば誰でもいいんだな。尻軽め」
「そっ……」
ディアナは言い返そうとしたが、次の言葉が出なかった。
自分自身でも分からないのだ。……胸の奥の感情が。
38
あなたにおすすめの小説
愚か者たちの婚約破棄
あんど もあ
ファンタジー
ライラは、父と後妻と妹だけが家族のような侯爵家で居候のように生きてきた。そして、卒業パーティーでライラの婚約者までライラでは無く妹と婚約すると宣言する。侯爵家の本当の姿に気づいているのがライラだけだと知らずに……。
夫が「未亡人を我が家で保護する」と言ってきました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
伯爵夫人カタリナの前に、夫が“行くあてのない未亡人”を連れて帰ってきた。
夫は「保護だ」と言い張り、未亡人を家に住まわせようとするが──その素性には不審な点が多すぎた。
問いただしても夫は曖昧な説明ばかり。
挙げ句の果てには「ずっと家にいればいい」「家族になればいいだろう」と、未亡人を第2夫人にする気満々。
家を守るため、カタリナは未亡人の身元を調査する。
そして判明するのは……?
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
殿下、愛を叫ぶ前に契約書を読み直してください。
一ノ瀬和葉
恋愛
婚約破棄を告げられたクラリッサの返答は一言。
「愛は自由ですが、契約違反には請求書が付きますよ?」
論理と皮肉で殿下を追い詰める彼女の次の一手とは――。
ギャグありの痛快ざまあ短編です。
※ご都合です。
なろうにも投稿しています。
60000PV誠に感謝です
三年分の涙を飲み込んで離婚を決めた私に、今さら愛してると言わないでください
まさき
恋愛
「別れてください」
笑顔で、声を震わせずに、澄花はそう言った。
三年間、夫の隣に立ち続けた。残業続きの夫を待ち、不満を飲み込み、完璧な妻を演じた。幼なじみの麗奈が現れるまでは、それが愛だと信じていた。
嫉妬も、怒りも、とうに泣き尽くしていた。残ったのは、静かな決意だけだった。
離婚届を差し出した翌朝、夫・誠は初めて泣いた。
――遅すぎる。三年分、遅すぎる。
幼なじみに夫を奪われかけた妻が、すべてを手放す覚悟をしたとき、夫はようやく目を覚ます。泣き終わった女の強さと、取り戻せないものの重さを描く、夫婦の崩壊と再生の物語。
私より幼馴染を選んだ婚約者に別れを告げたら謝罪に来ましたが、契約を守れない貴族とは取引しませんので
藤原遊
恋愛
祖父が創立した大商会で、跡継ぎとして働いている私。
けれど婚約者は、私より幼馴染を選びました。
それなら構いません。
婚約という契約を守れない相手と、これ以上関係を続けるつもりはありませんから。
祖父の商会は隣国と新たな取引を始めることになりました。
――その途端、なぜか元婚約者が謝罪に来るようになりましたが、もう遅いです。
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しい私の話
あんど もあ
ファンタジー
王太子が真実の愛とか言って婚約破棄を宣言。廃太子と決まりました。おかげで妹の私に王太子になれと言われたのですが、不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しくて政略結婚の役にも立たないと言われていた私がですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる