【短編】妹の代わりに謝り続けた人生を、今日で終わらせます

あまぞらりゅう

文字の大きさ
4 / 11

4

しおりを挟む


「はぁ……」

 ディアナは部屋に着くなり、ぐったりとソファーに倒れ込んだ。まだ頭痛が酷い。

 いつの頃からか、母や妹とは話が全く噛み合わなくなった。言葉は通じるのに、まるで異国人と話しているみたいだ。

 母が甘やかすせいで、ローゼの我儘は年々激しくなっていっていた。妹はいつも自分が世界の中心のように振る舞う。

 さっきみたいな陰口だけではなく、身分が上の貴族令嬢に面と向かって喧嘩を売るのは日常茶飯事だ。
 その度に取り巻きの令息たちが美しいローゼを守るので、妹はますます調子づいている。

 他にも、ローゼが社交界で問題を起こすことは多い。
 既に婚約者を持つ令息に過度にスキンシップをしたり、他人ひとの物を欲しがり手に入らないと分かるとわざと壊して、自分より目立つドレスを着てパーティーに来た令嬢に赤ワインをかけたり……他にも枚挙にいとまがなかった。

 妹は何かやらかす度に「あたし、悪くないもん」と逃げてしまう。
 そこに母や令息たちが味方して耳当たりの良い言葉を並べるので、彼女が反省することは一度たりともなかった。

 それでも、家門としての立場があるので謝罪せねばならない。
 だが母は不在の当主の代理として動くつもりはなく、「長女なのだから責任を取りなさい」とディアナに厳しく言ってくる。
 なので、いつも面倒事は長女だけに押し付けられるのだった。


 ――コン、コン。

 そのとき、扉の向こうから遠慮がちにノックの音がした。それを聞くと、ディアナの顔はつい綻んだ。
 彼女はさっきまでのぐったりした様子とは打って変わって、ソファーから飛び起きてまっすぐに扉へ向かう。

「アルベルト様!」

 ディアナは満面の笑みで扉を開ける。そこには、婚約者のアルベルトが立っていた。
 彼は侯爵家の次男で、クシュタル伯爵家の婿養子になる予定だ。二人の婚姻はまだ先だが、彼は当主見習いとしてクシュタル家の家令から実務を学んでいるところだった。

「ディアナ、久し振り」

「久し振りって……一昨日会ったばかりじゃない」

「はは、そうだっけ? 早く君に会いたくて、時間が長く感じるよ」

「まぁ」

 ディアナはアルベルトを部屋に通して、自らの手でお茶を淹れた。彼が来ると、メイドも呼ばずにいつもこうしている。
 誰にも邪魔されない二人の時間。それは彼女にとって大切な安らぎのひとときだった。

「さっき玄関ホールでローゼ嬢が泣いていたけど、何かあったの?」

「えっ? ローゼが泣いてた?」

「あぁ。『お姉様に怒られた』って僕に泣き付いてきた」

 ディアナはたちまち渋い顔になる。妹は口答えはするが、注意されて泣くことなど一度たりともないのだが……。
 彼女がしかめ面で黙り込んでいると、

「きっと姉に甘えたいんだよ」

 彼はそっと婚約者の頭を撫でた。

「そんな可愛いものじゃないわ。今日も代わりに謝りに行ったし」

 ディアナはムッと口を尖らせ、彼の胸に体重を預けた。ほんのりと体温が伝わって、たちまち安堵感を覚え嫌な気分も消えていく。

 命を賭けて戦っている父に迷惑はかけられない。妹の味方の母なんかには頼れない。
 婚約者だけは、そんな彼女の唯一の理解者だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんな婚約者は貴女にあげる

如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。 初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

侯爵家を守るのは・・・

透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。 母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。 最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

こうして私は悪魔の誘惑に手を伸ばした

綴つづか
恋愛
何もかも病弱な妹に奪われる。両親の愛も、私がもらった宝物もーー婚約者ですらも。 伯爵家の嫡女であるルリアナは、婚約者の侯爵家次男ゼファーから婚約破棄を告げられる。病弱で天使のような妹のカリスタを抱き寄せながら、真実の愛を貫きたいというのだ。 ルリアナは、それを粛々と受け入れるほかなかった。 ゼファーとカリスタは、侯爵家より譲り受けた子爵領へと移り住み、幸せに暮らしていたらしいのだが。2年後、『病弱』な妹は、出産の際に命を落とす。 ……その訃報にルリアナはひっそりと笑みを溢した。 妹に奪われてきた姉が巻き込まれた企みのお話。 他サイトにも掲載しています。※ジャンルに悩んで恋愛にしていますが、主人公に恋愛要素はありません。

悪いのは全て妹なのに、婚約者は私を捨てるようです

天宮有
恋愛
伯爵令嬢シンディの妹デーリカは、様々な人に迷惑をかけていた。 デーリカはシンディが迷惑をかけていると言い出して、婚約者のオリドスはデーリカの発言を信じてしまう。 オリドスはシンディとの婚約を破棄して、デーリカと婚約したいようだ。 婚約破棄を言い渡されたシンディは、家を捨てようとしていた。

(完結)モブ令嬢の婚約破棄

あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう? 攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。 お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます! 緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。 完結してます。適当に投稿していきます。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

処理中です...