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しおりを挟む「はぁ……」
ディアナは部屋に着くなり、ぐったりとソファーに倒れ込んだ。まだ頭痛が酷い。
いつの頃からか、母や妹とは話が全く噛み合わなくなった。言葉は通じるのに、まるで異国人と話しているみたいだ。
母が甘やかすせいで、ローゼの我儘は年々激しくなっていっていた。妹はいつも自分が世界の中心のように振る舞う。
さっきみたいな陰口だけではなく、身分が上の貴族令嬢に面と向かって喧嘩を売るのは日常茶飯事だ。
その度に取り巻きの令息たちが美しいローゼを守るので、妹はますます調子づいている。
他にも、ローゼが社交界で問題を起こすことは多い。
既に婚約者を持つ令息に過度にスキンシップをしたり、他人の物を欲しがり手に入らないと分かるとわざと壊して、自分より目立つドレスを着てパーティーに来た令嬢に赤ワインをかけたり……他にも枚挙にいとまがなかった。
妹は何かやらかす度に「あたし、悪くないもん」と逃げてしまう。
そこに母や令息たちが味方して耳当たりの良い言葉を並べるので、彼女が反省することは一度たりともなかった。
それでも、家門としての立場があるので謝罪せねばならない。
だが母は不在の当主の代理として動くつもりはなく、「長女なのだから責任を取りなさい」とディアナに厳しく言ってくる。
なので、いつも面倒事は長女だけに押し付けられるのだった。
――コン、コン。
そのとき、扉の向こうから遠慮がちにノックの音がした。それを聞くと、ディアナの顔はつい綻んだ。
彼女はさっきまでのぐったりした様子とは打って変わって、ソファーから飛び起きてまっすぐに扉へ向かう。
「アルベルト様!」
ディアナは満面の笑みで扉を開ける。そこには、婚約者のアルベルトが立っていた。
彼は侯爵家の次男で、クシュタル伯爵家の婿養子になる予定だ。二人の婚姻はまだ先だが、彼は当主見習いとしてクシュタル家の家令から実務を学んでいるところだった。
「ディアナ、久し振り」
「久し振りって……一昨日会ったばかりじゃない」
「はは、そうだっけ? 早く君に会いたくて、時間が長く感じるよ」
「まぁ」
ディアナはアルベルトを部屋に通して、自らの手でお茶を淹れた。彼が来ると、メイドも呼ばずにいつもこうしている。
誰にも邪魔されない二人の時間。それは彼女にとって大切な安らぎのひとときだった。
「さっき玄関ホールでローゼ嬢が泣いていたけど、何かあったの?」
「えっ? ローゼが泣いてた?」
「あぁ。『お姉様に怒られた』って僕に泣き付いてきた」
ディアナはたちまち渋い顔になる。妹は口答えはするが、注意されて泣くことなど一度たりともないのだが……。
彼女がしかめ面で黙り込んでいると、
「きっと姉に甘えたいんだよ」
彼はそっと婚約者の頭を撫でた。
「そんな可愛いものじゃないわ。今日も代わりに謝りに行ったし」
ディアナはムッと口を尖らせ、彼の胸に体重を預けた。ほんのりと体温が伝わって、たちまち安堵感を覚え嫌な気分も消えていく。
命を賭けて戦っている父に迷惑はかけられない。妹の味方の母なんかには頼れない。
婚約者だけは、そんな彼女の唯一の理解者だった。
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