私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki

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第2章 – 婚約破棄

メアリーの心はまだ渦を巻いていた。
恐ろしい死の瞬間が、鋭い刃のように記憶を切り裂いてよみがえる。
――目から流れ落ちる血。群衆の嘲笑。ローズの残酷な笑い声。
すべてがスローモーションのように繰り返され、まるで世界そのものがその恥辱を魂に刻み込もうとしているかのようだった。

心臓は激しく鼓動し、両手は震えた。
突然のめまいに足元が揺らぎ、危うく真紅の絨毯につまずきそうになる。

「お嬢様、大丈夫ですか?」
近くの侍女の一人が慌てて支えようとした。

メアリーは深く息を吸い込み、姿勢を正した。
「……ええ、大丈夫です。」

嘘だった。内心は粉々に砕け散っていた。
けれど、取り繕わなければならない。

――私は戻ってきた。本当に戻ってきた。だから……落ち着かないと。すべてを変えなければ。

そっと両手を見つめる。そこには傷も、血の跡もない。
かつて掌を突き刺した花束も、もう消えていた。
安堵の吐息が漏れる。

しかし、それも束の間だった。

――もしAの計画があったなら、Bもあるはず。いや、Cだって。
彼らは私を壊すまで決して止まらない。

背筋に冷たい戦慄が走る。
祭壇へと歩みを進めるたび、前世の記憶が重なり合う。
口の中に広がる熱い血の感覚。真紅に染まった純白のドレス。
そして――王子が顔に唾を吐き捨てるあの瞬間。

メアリーは震えた。
幼い頃から夢見てきた王子との結婚――それは今や、ただの残酷な冗談に思えた。
どうしてあんなにも愚かだったのだろう。
どうして、あの男が心を捧げるに値すると思えたのだろう。

立ち止まり、視線を上げる。
祭壇の前で王子が待っていた。
あの甘い笑顔――かつては心を惑わせた微笑み。
だが今の彼女には、それはただの醜い仮面にしか見えなかった。

メアリーは目を閉じ、深く息を吸い込み、決断した。

「……殿下。」
その声は堂内に響き渡る。
「この結婚……取り消させていただきます。」

衝撃は瞬時に広がった。
ざわめきが乾いた草に火が移るように一気に燃え広がる。

「な、なんだと!?」
驚愕の声を上げる貴族たち。

「これは侮辱だ!」
「我々は遠方から、この儀式を見届けるために来たのだぞ!」

父は蒼白な顔で立ち上がった。
「メアリー!落ち着きなさい!あまりに緊張して……正気を失っているのだ!」

視界の端に映ったのは、ローズの歪んだ笑み。
蛇のように毒を含み、姉の苦悩を楽しむその表情。

王子の顔は怒りに紅潮していた。
「……正気を失ったのか、メアリー!」
彼は一歩踏み出し、声を轟かせる。
「王家を愚弄するつもりか!? 祭壇の前で婚約を破棄だと!? これは国全体への反逆だ!」

メアリーは王と王妃に向かい、気品を失わぬ所作で頭を下げた。
「陛下……お許しください。式は美しく感動的でした。ですが……私は結婚できません。」

王妃は驚きに眉をひそめる。
「理由を……せめて理由を聞かせなさい。」

メアリーは顎を上げ、凛とした声で答えた。
「……殿下は、私を失望させました。私の心を託すに値しません。」

一瞬にして、場は静寂に包まれる。
王子は激昂し、メアリーの腕を乱暴に掴んだ。

「ふざけるな!これ以上私を辱めるつもりか!」

痛みに顔をしかめながらも、メアリーは冷ややかな瞳で彼を見返した。
もはや、その瞳に恐怖はなかった。

そのとき――低く、重い声が響き渡った。

「……その手を放せ。」

堂内が揺れるように視線が集まる。

ステンドグラスの光を受け、儀式用の衣装を纏った一人の青年が祭壇へと歩み出ていた。
堂々たる姿勢、鋭い眼差し。
彼の放つ威圧感は、ただ存在するだけで人々の囁きを封じた。

それは――シャパイア王国 第二王子。
花婿の弟であった。

彼は兄とメアリーの間に立ち、掴まれた手を払い除ける。

「淑女の手を、そのように乱暴に扱うべきではありません。
ましてや、この場で――全ての目が見ている前で。」

再びざわめきが広がる。
メアリーは胸の鼓動を早めながら、その姿を見つめた。

――そして、生まれ変わってから初めて。
彼女は心の奥で感じた。

……もしかしたら。
今度の人生は、ひとりではないのかもしれない、と。
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