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第4章 — メアリーの選択
王宮礼拝堂は混乱の渦に包まれていた。
祝福の歌声だったものは今やざわめきに変わり、貴族たちは蛇のように顔を寄せ合い、囁き合っていた。
「第二王子…彼が新たなお気に入りなのか?」
「ヘイタンが彼女の前で跪いただと…しかも皆の前で!」
「これはすべてを変えるぞ。」
長子の王太子アルブレヒトは、怒りに駆られて抑えきれなかった。
数歩前に進み、憎悪に燃える目で叫ぶ。
「私の結婚に口を出すな! 婚約者を自分の城に泊めるなど、私の名誉と地位への侮辱だ!」
彼は王へと振り返り、まるで拗ねた子供のように声を張り上げた。
「父上! 彼にそんなことをさせてはなりません! メアリーは私に誓われたのです!」
だが王が手を上げると、場は一瞬で静まり返った。
その表情は冷たく、むしろ退屈そうですらあった。
「黙れ、アルブレヒト。」
王太子は息を呑んだ。
「で、ですが父上…!」
「そんな簡単なことも自分で解決できぬのなら、どうやってこの国を治めるつもりだ?」
王の声は鋭く、容赦がなく、刃のように深く突き刺さった。
「これはお前の問題だ。王子として相応しく解決してみせよ。」
場の空気が凍りついた。
公衆の面前での辱めに、アルブレヒトの顔は怒りで紅潮し、拳を握りしめ、唇を噛んで血が滲むほどだった。
「こんなこと…許さぬ。奴も…彼女も…そして父上までも…必ず報いを受ける。」
内心で憎悪が煮えたぎっていた。
その間、ヘイタンはゆっくりと立ち上がり、なおも優しくメアリーの手を取っていた。
暗い瞳を彼女へとまっすぐに向ける。
「レディ・メアリー…」
低く、それでいて確固たる声が混乱を貫いた。
「あなたのご決断は?」
メアリーは深呼吸した。胸は激しく鼓動し、思考は嵐のように駆け巡っていた。
実家へ戻るのは狂気の沙汰。姉が再び命を狙うのは目に見えている。
別の領地へ逃れても、味方など誰もいないかもしれない。
「家族は信用できない。姉は私を滅ぼすまで諦めない。」
選べる道はひとつしかなかった。そしてそれは…象徴的な意味をも持つ。
「もしヘイタンの誘いを受ければ、それはアルブレヒトへの痛烈な一撃になる。あの男は決して予想していない…」
彼女は顎を上げ、澄んだ声を堂内に響かせた。
「はい…」
皆の驚きの中で宣言した。
「私は殿下、ヘイタン王子のお招きを受けます。殿下の城で休暇を過ごせることを光栄に存じます。」
大広間は一気にざわめきと叫びで爆発した。
「彼女は王太子を拒絶した!」
「前代未聞の大醜聞だ…」
「アルブレヒトの権威が目の前で崩れていく!」
ヘイタンは厳かに礼をし、メアリーの手に口づけを落とした。
「この麗しき淑女を我が城にお迎えできることは、何よりの名誉です。」
メアリーの心臓は高鳴っていたが、視線は逸らさなかった。
彼女が見つめていたのはただ一人。ローズだった。
異母姉の体は硬直し、口元には無理に作った笑みが貼り付いている。
だが、その瞳は…凄まじい憎悪に燃えていた。
仮面のような甘さは剥がれ落ち、計画を皆の前で潰された怒りが剥き出しになっていた。
その時、アルブレヒトの怒声が爆発した。
野獣の咆哮のように、言葉は毒を吐き散らす。
「この婚姻は破棄だ! メアリー・ド・ボーモンとの婚約は公式に解消する!」
雷鳴のごとき衝撃が場を走った。
「彼は…本当に婚約を破棄したのか?」
「王太子がこんな形で誓約を破るなど前例がない…」
「この件は何十年も国中で語り継がれるぞ!」
メアリーは沈黙を保ち、心は不思議なほど穏やかだった。
なぜなら彼女だけはすでに知っていたからだ。
その婚約は…始まる前から死んでいたのだと。
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