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第8章 – 断ち切られた鎖
しおりを挟む馬車の車輪が石畳を鳴らし、その響きがメアリーの胸中の混乱と重なっていた。キャビンの壁に身を預け、彼女は目を閉じて思考を整理しようとする。
「たった一日で……私はすべてを失った。」
体はまだ凛としていたが、心には押し潰されそうな重みがあった。ローズの記憶が冷たい刃のように脳裏をよぎる。いつも隣で微笑み、抱擁を交わし、秘密を分かち合っていた姉妹――。だが実際には、ずっと前から彼女の破滅を準備していたのだ。
「突発的な裏切りじゃない……計画されていた。ずっと待っていて……そして機が熟した瞬間、みんなの前で私に毒を盛った。」
喉に硬い塊がこみ上げる。今までメアリーは貴族たちの視線や非難の中で毅然と振る舞い続けてきた。だが、馬車の中ひとりきりになると、その仮面は剥がれ落ちた。
涙が静かに頬を伝い、やがて抑えきれなくなる。 muffledなすすり泣きは、朝から飲み込んできた痛みを吐き出そうとするかのように響いた。
御者は小さな窓から心配そうに覗き込む。
「お嬢様……大丈夫でございますか?」
メアリーは慌てて涙を拭い、震える声を隠して答えた。
「……平気よ。進んでちょうだい。」
男はうなずき、再び馬を操った。
やがて馬車は広大なド・ブランシュフォール家の敷地入口に差しかかる。その門前に、一つの影が立っていた。
それは――父だった。
彼は鋭い仕草で御者に停車を命じる。馬が嘶き、扉が無造作に開かれた。伯爵の顔は重く、険しかった。
「……娘よ。本当にそれを続けるつもりなのか?」
その声は厳しく響いたが、どこか疲れと懇願の色が混じっていた。
メアリーは顔を上げ、毅然と答える。
「ええ、お父様。そのつもりです。」
伯爵の目が細められる。
「令嬢が貴族の城に住み込むなど、決して相応しくはない。しかも一人でだ。人々が何を言うと思う?」
メアリーは深く息を吸い、声を強めた。
「言わせておけばいいわ。私は何も悪いことをしていない。それに……誰にも借りはないのです。お父様にさえも。」
伯爵は言葉を詰まらせた。だがメアリーは冷たく続ける。
「母の遺産の一部は、私の正当な権利です。金銭的に、私はお父様に頼る必要はありません。」
重い沈黙が流れる。伯爵はその場に立ち尽くし、拳を握り締めたまま目を逸らして、ゆっくりと扉を閉じた。
「……好きにするがいい。」
低く、それだけを告げた。
鞭の音とともに馬車は再び動き出す。
しかしメアリーは、どうしても後ろを振り返らずにはいられなかった。小さな窓から、門の前で立ち尽くす父の姿が見える。動かずに、ただ彼女の背を見送っていた。
胸が一瞬、締めつけられる。
「……彼は私を守ってはくれなかった。過去も、今も。そしてこれが、この家族のために泣く最後の時になる。」
馬車は進み続ける。背後に残されたのは、邸宅だけではなかった。長きにわたって彼女を縛りつけていた鎖までも――。
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