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第28章 — 二つの時間線の残響
メアリーはまだ鼓動が早かった。
あの言葉が、遠くで鳴り響く雷鳴のように、頭の中で何度も反響していた。
「み、未来から……?」と、彼女は戸惑いながら繰り返した。
プリンスは静かにうなずいた。
「そうだ。私は、この時代よりずっと遠い未来――戦争が終わったあとの時代から来た。」
メアリーは黙って彼を見つめた。
冗談だと笑うのを待ったが、その笑いは決して訪れなかった。
代わりに、彼女の脳裏をよぎったのは――あの死の記憶。
冷たさ、暗闇、そして再び目覚めた瞬間。
破滅の運命を迎える前の、あの過去の時点に戻った記憶。
彼女は小さく微笑んだ。どこか諦めにも似た穏やかさがあった。
「わたしが死から戻ったんだから、誰かが未来から来ても……不思議じゃない、よね?」
プリンス――アレンは、その落ち着いた反応に思わず目を見張った。
「……もう少し驚いてくれると思っていたんだが」
と、腕を組んで呟いた。
メアリーは眉を上げた。
「どういう反応を期待してたの? 悲鳴でも上げた方がよかった?」
彼は小さくため息をつき、口元にかすかな笑みを浮かべた。
「それも悪くないが……君の冷静さは、あることを示している。」
「あること?」とメアリーが身を乗り出す。
その瞳が一瞬、深い光を宿した。
「君も――この時間線の人間じゃない。」
沈黙。
その言葉が空気を震わせた。
メアリーは視線を逸らした。
彼の言葉が、あまりにも真実味を帯びていたから。
そして、ゆっくりと息を吸い込み、小さくうなずいた。
プリンスは小さく微笑んだ。
「やはりな。君の存在には、ずっと違和感があった。まるで――この世界がまだ知らぬ記憶の欠片のようだった。」
メアリーは目を伏せた。
「それで……あなたはどうするつもりなの?」
「何もしない。」
彼の答えは即座に返ってきた。
「ただ知りたいだけだ。君の物語を。」
「……わたしの?」と、メアリーは驚いたように瞬きをした。
「あなたが自分の過去を話すって言ったのに。」
アレンは軽く笑った。
「そうだな。でも、すべてを語るためには――まず君が何者なのか、知る必要がある。」
メアリーは一瞬ためらったが、やがて静かに口を開いた。
「……わたし、死んだの。」
その声は震えていた。
「妹が……わたしを殺そうとした。冷たさを感じて、血の匂いがして、すべてが消えた。でも――気づいたら、また目を覚ましてたの。結婚式の前に……すべてが崩れる前に。」
アレンは黙って聞いていた。
その瞳には哀しみと理解が宿っていた。
やがて彼は立ち上がり、窓辺へと歩いた。
「……やはり、そうか。」と、低くつぶやいた。
「どういう意味?」と、メアリーが問い返す。
アレンはゆっくりと振り返り、険しい表情を浮かべた。
「私は――そのすべての出来事の“後”から来た。王国の戦争の後、世界が崩れた後からだ。」
メアリーは息をのんだ。
「戦争の……後?」
「そうだ。私は見た。崩れ落ちた城、絶望する民、そして王家の名が歴史から消えるのを。」
その声はかすれ、痛みに満ちていた。
「すべてが終わったその時……何かの力が、私をこの時代へと呼び戻したんだ。」
「運命を変えるために?」と、メアリーは涙ぐみながら尋ねた。
アレンは静かにうなずいた。
「そうだ。だが今、君もまた時間を越えて来たと知って――もしかしたら、運命は私たちに“二人で戦え”と言っているのかもしれない。」
再び、部屋に沈黙が落ちた。
だがその静寂は、以前とは違っていた。
それは二つの時代を越えて出会った、二つの魂の間に生まれた――
言葉では届かぬ、確かな絆の予感だった。
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