29 / 51
第29章 — 繰り返される運命の残響
メアリーはしばらく黙っていた。
王子の言葉の重みが彼女の心に深く突き刺さった。
王子は椅子に深く腰掛け、視線を遠くへと移した。
まるで忘れたい過去を再び訪ねているかのようだった。
「……メアリー」
低く押し殺した声で、彼は口を開いた。
「私のいた現実では、君が……すべての始まりだった。」
メアリーは目を瞬かせた。
「……始まり?」
「そうだ。」
彼は視線を逸らし、淡々と続けた。
「君が死んだあと、王国は崩壊し始めた。たった一ヶ月も経たないうちに、別の結婚式が開かれた。君の悲劇を覆い隠すためだけの、派手で冷たい式だった。」
彼の声には、かすかな苦味が混じっていた。
「その日、私はそこにいなかった。詳しくは知らない。すべて、人づてに聞いた話だ。」
メアリーは膝の上で両手を組んだ。
「彼はそこにいなかったのよ。」
そうだ。考えてみれば、王子様は彼女の結婚式には現れなかった。
彼が現れたのは「次の」結婚式だった。
王子は再び口を開いた。
声はますます暗くなっていった。
「それで…兄とローズが反乱を起こしたんです。」
ローズの名前を口にした途端、彼の声は明らかに毒々しく変わった。
「彼らは野心的な貴族たちを操り、あっという間に父と母を王位から追い落としました。
」「こうして、王国は内戦に巻き込まれました。」
メアリーは口元を押さえた。
「……戦争……」
「そうだ。私はその戦争で戦った。」
アレンの目が鋭く光る。
「王家に忠誠を誓う軍の一部を率い、兄の兵を何百人も討った。
だが、最後には――代償を払うことになった。」
彼はゆっくりと目を閉じた。
「兄に仕えていた将軍の手で……殺されたんだ。」
短い沈黙。
「そして、気がつくと――君の結婚式の十五日前に戻っていた。」
メアリーは息を呑んだ。
「……じゃあ、あなたも……時間を越えたのね。」
アレンは静かにうなずいた。
「そうだ。目を覚ましたのは王国の前線の砦だった。すぐに城へ戻ったよ。
君の死を止めるために。……だが、到着したときには、すでに君が運命を変えていた。」
彼は小さく笑った。どこか誇らしげに、そして温かく。
「君は私の助けなど必要としなかったようだ。」
メアリーの頬が赤く染まった。
「そ、そんなことないわ。ただ……できることをしただけよ。」
「それが君の強さだ。」
アレンは穏やかに微笑んだ。
「だからこそ、私は君に手を差し伸べた。
……それに――」
言葉を選ぶように一瞬ためらい、彼は小さく続けた。
「君は昔から……大切な友人だったから。」
その言葉に、メアリーの顔はさらに熱を帯びた。
二人の間の空気が、一瞬だけ柔らかく温もりを帯びる。
だが、すぐにメアリーは真剣な表情に戻った。
「……もし未来を知っていたのなら、なぜ城への襲撃を止めなかったの?」
アレンは深く息を吐いた。
「そんなに単純な話じゃない。私は未来を“本”のように読めるわけじゃない。
ただ、いくつかの“可能性”を知っているだけだ。
その中で、いくつかの悲劇は避けられた……だが――」
彼は拳を握りしめ、視線を落とした。
「時間の流れは一定ではない。私たちの選択ひとつで、新しい道が生まれる。」
「つまり……」
メアリーがそっとつぶやく。
「戻ったとしても、運命を完全には操れない……ということね。」
「その通りだ。」
アレンは悲しげに微笑んだ。
「私はただ、できる限り多くの命を救おうとしている。
けれど時々思うんだ。
――運命を変えようとするほど、運命は私を罰しようとしているのではないか、と。」
メアリーは言葉を失った。
窓の外で雨のしずくが静かに落ち、部屋に淡い響きを残す。
まるで世界そのものが、彼らとともに泣いているかのように。
やがて彼女は小さくつぶやいた。
「……私たちは、同じ輪の中にいるのね。
壊れた時間を、直そうとしながら。」
アレンはゆっくりとうなずいた。
「そうかもしれない。
――けれど今は違う。
この戦いで、私はもう一人じゃない。」
そして二人の間に、静かで確かな共鳴が生まれた。
それは時を越えて、同じ運命に挑む二つの心が放つ――
消えることのない“絆”の音だった。
王子の言葉の重みが彼女の心に深く突き刺さった。
王子は椅子に深く腰掛け、視線を遠くへと移した。
まるで忘れたい過去を再び訪ねているかのようだった。
「……メアリー」
低く押し殺した声で、彼は口を開いた。
「私のいた現実では、君が……すべての始まりだった。」
メアリーは目を瞬かせた。
「……始まり?」
「そうだ。」
彼は視線を逸らし、淡々と続けた。
「君が死んだあと、王国は崩壊し始めた。たった一ヶ月も経たないうちに、別の結婚式が開かれた。君の悲劇を覆い隠すためだけの、派手で冷たい式だった。」
彼の声には、かすかな苦味が混じっていた。
「その日、私はそこにいなかった。詳しくは知らない。すべて、人づてに聞いた話だ。」
メアリーは膝の上で両手を組んだ。
「彼はそこにいなかったのよ。」
そうだ。考えてみれば、王子様は彼女の結婚式には現れなかった。
彼が現れたのは「次の」結婚式だった。
王子は再び口を開いた。
声はますます暗くなっていった。
「それで…兄とローズが反乱を起こしたんです。」
ローズの名前を口にした途端、彼の声は明らかに毒々しく変わった。
「彼らは野心的な貴族たちを操り、あっという間に父と母を王位から追い落としました。
」「こうして、王国は内戦に巻き込まれました。」
メアリーは口元を押さえた。
「……戦争……」
「そうだ。私はその戦争で戦った。」
アレンの目が鋭く光る。
「王家に忠誠を誓う軍の一部を率い、兄の兵を何百人も討った。
だが、最後には――代償を払うことになった。」
彼はゆっくりと目を閉じた。
「兄に仕えていた将軍の手で……殺されたんだ。」
短い沈黙。
「そして、気がつくと――君の結婚式の十五日前に戻っていた。」
メアリーは息を呑んだ。
「……じゃあ、あなたも……時間を越えたのね。」
アレンは静かにうなずいた。
「そうだ。目を覚ましたのは王国の前線の砦だった。すぐに城へ戻ったよ。
君の死を止めるために。……だが、到着したときには、すでに君が運命を変えていた。」
彼は小さく笑った。どこか誇らしげに、そして温かく。
「君は私の助けなど必要としなかったようだ。」
メアリーの頬が赤く染まった。
「そ、そんなことないわ。ただ……できることをしただけよ。」
「それが君の強さだ。」
アレンは穏やかに微笑んだ。
「だからこそ、私は君に手を差し伸べた。
……それに――」
言葉を選ぶように一瞬ためらい、彼は小さく続けた。
「君は昔から……大切な友人だったから。」
その言葉に、メアリーの顔はさらに熱を帯びた。
二人の間の空気が、一瞬だけ柔らかく温もりを帯びる。
だが、すぐにメアリーは真剣な表情に戻った。
「……もし未来を知っていたのなら、なぜ城への襲撃を止めなかったの?」
アレンは深く息を吐いた。
「そんなに単純な話じゃない。私は未来を“本”のように読めるわけじゃない。
ただ、いくつかの“可能性”を知っているだけだ。
その中で、いくつかの悲劇は避けられた……だが――」
彼は拳を握りしめ、視線を落とした。
「時間の流れは一定ではない。私たちの選択ひとつで、新しい道が生まれる。」
「つまり……」
メアリーがそっとつぶやく。
「戻ったとしても、運命を完全には操れない……ということね。」
「その通りだ。」
アレンは悲しげに微笑んだ。
「私はただ、できる限り多くの命を救おうとしている。
けれど時々思うんだ。
――運命を変えようとするほど、運命は私を罰しようとしているのではないか、と。」
メアリーは言葉を失った。
窓の外で雨のしずくが静かに落ち、部屋に淡い響きを残す。
まるで世界そのものが、彼らとともに泣いているかのように。
やがて彼女は小さくつぶやいた。
「……私たちは、同じ輪の中にいるのね。
壊れた時間を、直そうとしながら。」
アレンはゆっくりとうなずいた。
「そうかもしれない。
――けれど今は違う。
この戦いで、私はもう一人じゃない。」
そして二人の間に、静かで確かな共鳴が生まれた。
それは時を越えて、同じ運命に挑む二つの心が放つ――
消えることのない“絆”の音だった。
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!
【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。