私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki

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第29章 — 繰り返される運命の残響

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メアリーはしばらく黙っていた。
王子の言葉の重みが彼女の心に深く突き刺さった。
王子は椅子に深く腰掛け、視線を遠くへと移した。
まるで忘れたい過去を再び訪ねているかのようだった。

「……メアリー」
低く押し殺した声で、彼は口を開いた。
「私のいた現実では、君が……すべての始まりだった。」

メアリーは目を瞬かせた。
「……始まり?」

「そうだ。」
彼は視線を逸らし、淡々と続けた。
「君が死んだあと、王国は崩壊し始めた。たった一ヶ月も経たないうちに、別の結婚式が開かれた。君の悲劇を覆い隠すためだけの、派手で冷たい式だった。」
彼の声には、かすかな苦味が混じっていた。
「その日、私はそこにいなかった。詳しくは知らない。すべて、人づてに聞いた話だ。」

メアリーは膝の上で両手を組んだ。
「彼はそこにいなかったのよ。」
そうだ。考えてみれば、王子様は彼女の結婚式には現れなかった。
彼が現れたのは「次の」結婚式だった。

王子は再び口を開いた。
声はますます暗くなっていった。
「それで…兄とローズが反乱を起こしたんです。」
ローズの名前を口にした途端、彼の声は明らかに毒々しく変わった。
「彼らは野心的な貴族たちを操り、あっという間に父と母を王位から追い落としました。
」「こうして、王国は内戦に巻き込まれました。」

メアリーは口元を押さえた。
「……戦争……」

「そうだ。私はその戦争で戦った。」
アレンの目が鋭く光る。
「王家に忠誠を誓う軍の一部を率い、兄の兵を何百人も討った。
だが、最後には――代償を払うことになった。」

彼はゆっくりと目を閉じた。
「兄に仕えていた将軍の手で……殺されたんだ。」
短い沈黙。
「そして、気がつくと――君の結婚式の十五日前に戻っていた。」

メアリーは息を呑んだ。
「……じゃあ、あなたも……時間を越えたのね。」

アレンは静かにうなずいた。
「そうだ。目を覚ましたのは王国の前線の砦だった。すぐに城へ戻ったよ。
君の死を止めるために。……だが、到着したときには、すでに君が運命を変えていた。」

彼は小さく笑った。どこか誇らしげに、そして温かく。
「君は私の助けなど必要としなかったようだ。」

メアリーの頬が赤く染まった。
「そ、そんなことないわ。ただ……できることをしただけよ。」

「それが君の強さだ。」
アレンは穏やかに微笑んだ。
「だからこそ、私は君に手を差し伸べた。
……それに――」
言葉を選ぶように一瞬ためらい、彼は小さく続けた。
「君は昔から……大切な友人だったから。」

その言葉に、メアリーの顔はさらに熱を帯びた。
二人の間の空気が、一瞬だけ柔らかく温もりを帯びる。

だが、すぐにメアリーは真剣な表情に戻った。
「……もし未来を知っていたのなら、なぜ城への襲撃を止めなかったの?」

アレンは深く息を吐いた。
「そんなに単純な話じゃない。私は未来を“本”のように読めるわけじゃない。
ただ、いくつかの“可能性”を知っているだけだ。
その中で、いくつかの悲劇は避けられた……だが――」
彼は拳を握りしめ、視線を落とした。
「時間の流れは一定ではない。私たちの選択ひとつで、新しい道が生まれる。」

「つまり……」
メアリーがそっとつぶやく。
「戻ったとしても、運命を完全には操れない……ということね。」

「その通りだ。」
アレンは悲しげに微笑んだ。
「私はただ、できる限り多くの命を救おうとしている。
けれど時々思うんだ。
――運命を変えようとするほど、運命は私を罰しようとしているのではないか、と。」

メアリーは言葉を失った。
窓の外で雨のしずくが静かに落ち、部屋に淡い響きを残す。
まるで世界そのものが、彼らとともに泣いているかのように。

やがて彼女は小さくつぶやいた。
「……私たちは、同じ輪の中にいるのね。
壊れた時間を、直そうとしながら。」

アレンはゆっくりとうなずいた。
「そうかもしれない。
――けれど今は違う。
この戦いで、私はもう一人じゃない。」

そして二人の間に、静かで確かな共鳴が生まれた。
それは時を越えて、同じ運命に挑む二つの心が放つ――
消えることのない“絆”の音だった。
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