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第十二章 ―― 星空の下とビール
しおりを挟む遠くでエンジンの音が響くなか、ミイとハルはガソリンスタンドにたどり着いた。
黄色い照明が古びた地面を照らし、数人のトラック運転手たちが酒瓶を片手に笑い声を上げている。
「おやおや、かわいい子が来たじゃねぇか」
そのうちの一人が、にやついた笑みを浮かべながら言った。
ハルは眉をひそめた。
「……今、なんて言った?」
一歩踏み出そうとした瞬間、柔らかな感触が彼の手を包んだ。
ミイが微笑みながら首を振る。
「ねえ……やめとこう? あんなの、相手するだけ時間のムダだよ。今日は楽しい夜にしよう。」
照明の光に照らされた彼女の瞳を見た瞬間、ハルの怒りは静かに消えた。
深く息を吐き、苦笑する。
「……分かった。君の勝ちだ。」
二人はコンビニの中へ入った。
冷房の涼しさが肌をなで、外の喧騒が一気に遠のく。
ミイはまっすぐ冷蔵庫へ向かい、銀色の缶を二本取り出した。
「じゃーん! ビール二本! ハルは何飲む?」
「うーん……俺はソーダでいいかな。」
ミイはじっと彼を見つめ、わざとらしくため息をつく。
「えぇ~? 一緒に飲まないの?」
ハルは肩をすくめ、いたずらっぽく微笑んだ。
「誰かは酔わずに見張っておかないとな。……君が飲みすぎた時のために。」
「むっ……」
ミイは腕を組み、ぷいっと顔を背けるが、すぐに笑ってしまった。
「ふん、まったく。責任感のかたまりなんだから。」
二人は窓際のテーブルに腰を下ろした。
冷蔵庫の低い音が、夜の静けさに溶けていく。
缶を開ける音、小さな笑い声、どうでもいい話。
教師の愚痴、退屈な授業、そしてちょっとした日常の失敗談。
気づけば、デジタル時計の表示は午前零時を指していた。
レジの店員が、疲れた笑みを浮かべながら近づいてくる。
「すみません……そろそろ閉店なんです。」
ミイは顔を赤くして、半分笑いながら手を振った。
「えぇ~、まだ早いってば! もう一杯だけ~!」
「ダメだ。」
ハルは立ち上がると、ためらいなくミイを背中に担ぎ上げた。
「さあ、お嬢さん。お開きの時間だ。」
「ちょ、ちょっと! 私はまだ帰らな——あははっ、降ろしてよ~!」
笑いながら彼の背中を軽く叩くミイ。
店員は思わず吹き出し、手を振った。
「お二人とも、おやすみなさい!」
「おやすみ!」
ハルは笑顔で返し、そのまま外へ出た。
夜風がふたりを包み込む。
街灯の光がミイの瞳に反射し、彼女はハルの肩越しに星空を見上げていた。
「……ハル。」
ミイが小さな声でつぶやく。
「あなたって、本当に頑固。でもね……そんなあなたが、好き。」
ハルは足を止めた。
驚いて振り返ろうとしたが、ミイはすでにくすくす笑っていて、
その言葉を自分で覚えていないようだった。
彼は小さく笑い、彼女を背中で支え直す。
「……帰ろう、ミイ。」
満天の星の下、二人は歩き出した。
一歩、一歩。
まるで世界に自分たちしかいないかのように、
静かな夜道を進んでいった。
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