妄想ロボ ギジオレ

みつつきつきまる

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第一章

第六話 衝動が

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 ゆっくりとカメ型メカに近づく。あいつはおそらくこちらを認識しているだろうが、あさっての方向を向いている。

 そして再びレーザーを吐く。ゴミは持ち帰りましょうと書かれた看板が燃え上がる。

「レーザーのエネルギー自体は高くないようです」

 クリオナが呟く。

「分かるの?」

 可奈子が振り向く。

「燃えやすい物に当たったためにダメージが大きく見えますが、おそらくはこのロボットさんには傷一つつかないでしょう」

「何でわかるの?」

 晴人が不思議そうな顔をしている。クリオナは晴人にしがみつかれながら、

「惑星セレストでは普通です」

 と、自分の出身惑星を口にしてにっこり笑う。違う惑星の出身だから、地球とは異なる知識だったり感覚はあるのだろうが、レーザーのエネルギーが分かるって、どんな惑星だろう。

 とは言え、そう言われるとそうなんだーとしか言えないので、それ以上の詮索はやめにする。

「じゃあレーザーは気にしなくていいって事だね。燃えてる海の家と看板も、消防隊に任せようか」

 どちらも他に延焼するような物も無いので、下手に手を出さない方がいいだろう。

 俺はギジオレでカメ型メカの元に向かう。慣性は制御されているが、悪路を走る自動車程度は揺れるので、晴人は更にクリオナにしがみつく。

 カメを見下ろす。のそのそ動いている。

 俺は振りかぶってギジオレの拳をカメに叩きつける。

 交通事故のような大きな衝撃音。拳の当たったカメの表面に変化は見られなかった。

「全く変化ないみたいね」

 可奈子がカメを見下ろしながら言う。

「これでもバッタは潰れたんだけどな」

 大きさもあるが、バッタよりも耐久力が強いようだ。

「妄想力は大丈夫か?」

 なぜかわくわくしている晴人。何を考えているんだ?

 俺はそんな不安も抱えながら、もう一度拳を振り上げる。

 拳がぶつかると、多少へこんだ。

「妄想力が足りないんじゃないのか?」

「うるさいなお前は」

 晴人に言い返していると、カメがこちらを向いた。口をゆっくりと開け——

「来るっ」

 俺はとっさにカメの口を掴んで閉じさせる。

 次の瞬間口の隙間から光が漏れ、煙がもうもうと上がり始めた。口の中で暴発したらしい。

 これで行動不能になるかと思いきや、カメはヤケになったようには頭を振りかぶるとギジオレの腕にぶつけてきた。

 鈍い衝撃音と振動。

「可奈子、ダメージは?」

「まだ十パーセント位だから機動には問題ないけど、何度も受けると無視できないダメージになるわね」

 可奈子が機体のダメージを管理するディスプレイを見ながら言う。

 俺は一歩下がって距離をとる。

 カメは頭をぶんぶん振り回しながら迫って来る。ギジオレはじりじと追い詰められていく。さっきまでののろのろ動きはどうした?

「やっぱり妄想力じゃないのか?」

 さっきから何を期待しているんだよ。

「カメさんですから、お腹が弱いんでしょうか」

 クリオナがそんな事を言って来る。

「そりゃあ、甲羅よりお腹の方が弱いけど——そこまで実際のカメを忠実に再現してるのかしら?」

 異星人が地球の生物をどこまで再現しているのか、それは分からない。形をただ真似ているだけかもしれない。

 とは言え、やってみる価値はあるかもしれない。

「よっ」

 俺は迫ってきたカメの頭を捕まえると、そのまま捻ってひっくり返そうと——したのだが、頭の衝撃に弾かれて手を離してしまった。

 もう一度頭を掴む。逃さないように脇で抱え、足も使って裏返そうとする。

「こいつ・・・随分重いな」

 今のギジオレのパワーでは持ち上げられない。

「やっぱり妄想力か?」

 晴人がしつこく言う。見ると、妄想力インジケーターは半分を下回っている。

 妄想力を上げるのか。意識してやるのは難しい。えーと、いやらしい事と言えば・・・

「お?少し上がったか?」

 目ざとく晴人がインジケータに気づいた。半分を少し超える位の妄想力。

「洸平、さっきのデートを思い出してみろ」

「さっきの?」

 なぜか目を輝かせる晴人に問い返す。頭を振ってくるカメにも注意しながら。

「膝枕は気持ちよかったか?」

 思い出す。そう言われると。

 インジケーターがまた上がる。

「おんぶした時背中に何か当たらなかったか?」

 思い出す。

 インジケーターが上がる。そろそろマックスくらい。

「なるほどね」

 晴人が理解した模様。どうすれば俺の妄想力が上がるのかを。

「妄想力とはこうして上がるものなのですね」

 クリオナも理解したのかしていないのか。

 俺は胸がシクシクし始めるのを感じた。

 そんな中、何度目か飛んできたカメの頭を俺は受け止める。先程とは打って変わったしなやかな動きで、脇に抱えて捻るとカメの首ごと引きちぎられた。

 そのまま砂浜を滑るように反対側に回り込むと、
砂とカメの体の間に手を突っ込み、思い切りひっくり返す。

 裏返ったカメは足をばたばたと動かす。戻る事が出来ないようだ。

「さっきと随分動きが違うな」

 晴人が目を丸くしている。

「妄想力が上がるとこうなのよ」

 可奈子が不満そうに言う。いや、これは晴人に誘導されただけで。
 
 俺が可奈子への言い訳を考えていると、晴人が可奈子の横に移動した。小さい声で何かを耳うちしている。

「えー!何でそんな事を・・・」

「いや、さっきとあんまり変わらないよ。変わらないからこそ、効果があると思うんだ」

 晴人が言うと、可奈子はおもむろにシートベルトを外し始める。・・・何だか服を脱ぐみたいで少しいやらしく見えるのは、俺が少しおかしくなっているからだろうか。

 インジケーターが上がる。もうマックスだ。これ以上上げても意味が無いかもしれない。

 シートベルトを外した可奈子が俺の方を見ている。少し怒ったような、困ったような顔で、少し顔を赤くしている。

 インジケーターに表示はされないが、妄想力が更に上がった気がする。

「変な事考えないでよ」

 少し視線を外してそう言うと、可奈子は俺の首に腕を回して抱きついてきた。

「・・・」

 確かに先程おぶった時と同じような体制ではある。密着度もさほど変わらない。ただ、今はまるで全身のセンサーが過敏に反応しているように、柔らかな可奈子の感触が伝わって来た。

 可奈子の温かな体温が伝わって来る。血管一つ一つの脈動さえも感じられる程で、二人の心臓の鼓動が歌うようにシンクロしている。

 いつものシャンプーの匂い。石鹸の匂い。それらの奥にある汗の匂い。それらが鼻腔をくすぐり、血液と共に全身を駆け巡った。

「・・・」

 頭は思わず可奈子の体に手を回し、が真っ白になる。

 ギジオレは右拳を大きく振り上げると、カメ型メカの腹めがけて振り下ろした。

 空気さえ引き裂く衝撃波を残して直撃した拳は、カメを通りぬけて砂浜を大きく掘り起こして
クレーターのようになった。

 舞上げられた砂が雨のように降り注ぐ。

 寄せてきた波がクレーターに入り込み、バラバラになったカメ型メカを沈めてゆく。

「・・・」

「何だ?今の」

 晴人の声が聞こえる。

「これが、妄想力?」

 抑揚のないクリオナの声。

 そんな声も俺の耳には届かなかった、

「ちょっと、洸平」

 可奈子が俺の腕から逃れようと身を捩る。

 いや、離さない。可奈子を逃さないようにしながら、シートベルトを外す。

 俺は手に力を込める。可奈子の温かさを全身で感じていたい。可奈子の感触をもっと感じていたい。そんな衝動を抑えきれなくなった俺は、

「ま、待って!」

 気がつくと可奈子をシートに押し倒していた。足を絡めて、首すじを唇で撫でる。

 可奈子の体がぴくりと反応する。

「ちょ、やめ——」

「おい!洸平、やめろって!」

 可奈子の声も晴人の声も聞こえない。衝動のままに可奈子の体を撫でまわし、強く抱きしめる。

「洸平、これ以上はちょっと——動画とっておくか」

 晴人に静止されるが、俺の体は治る様子が無い。自分でも制御出来なくなっている。

 俺は一旦体を離すと、怯えたように涙を溜めた可奈子の瞳を見つめる。その揺れる瞳に俺の頭はくらくらする。

 そして小さな唇。その花びらのような唇に触れたくて、ゆっくりと顔を近づける。

「だ・・ダメ・・・」

 次の瞬間、目の前に握り拳が現れる。惚けていた俺は避ける事も出来ずに左頬に激しい衝撃。

 脳が揺さぶられた俺は、スローモーションのように仰向けに倒れてゆく。

 ヘッドギアが外れて飛んでいく様子を見たのが、最後の記憶だった。


 

  
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