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第一章
第七話 カウンセラーのお姉さん
しおりを挟むここは地球連合軍極東支部のカウンセリング室。
ギジオレの妄想力に異常が見られたと言う事で、俺は呼び出されてカウンセリングを受ける事になった。ギジオレは精神や心に作用するので、そうでなくても定期的にカウンセリングは受けている。
何だか学校には行きづらくて今日はサボってしまったが、事情を説明すると学校は特に何も言わなかった。
俺がいるのは小さな病院の診察室ほどの大きさの部屋。シンプルな机と、大きな本棚くらいしか置かれていない部屋には大きな窓があり、太陽の光が差し込んでいる。
時計の音だけがこちこちと響いている。
「ところで、その顔はどうしたの?」
俺のカウンセリングを担当する森野梢さんが俺の顔に現れた青あざに眉を潜める。二十代前半で俺たちよりは少しお姉さんだが、小柄で少し幼く見える容姿は可愛らしく、大きめの胸を強調するような服を着ている。いや、連合軍の制服なのだが、どうしてもそう見えてしまう。
梢さんはミニスカートから覗く太ももを組み替えると、
「竹浦博士にもちゃんと説明しなかったみたいだけど。私にも言えない?」
二重の大きな瞳で俺の顔を覗き込んでくる。
実は昨日の出来事を俺はよく覚えていない。気がつくとコックピットに倒れており、可奈子は姿を消していた。そして、一部始終を記録していた動画を晴人に見せられて、戦慄を覚えたのだった。
先程源治おじさんこと竹浦博士にも聞かれたのだが、『押し倒したら殴られた』なんた言ったらさすがに怒るだろうか。
「えーと」
自分の口では説明しずらい。しかし、可奈子の父親である源治おじさんよりは梢さんの方が言いやすいかもしれない。
そう思い、簡単に説明した。
「ふぅん」
梢さんは形のいい唇の端を上げる。
「そんな事があったんだ。若いわね」
「どうでもいいんですよ。そんな事は」
俺としては罪悪感で一杯。自分でコントロール出来なかったとは言え、可奈子に乱暴な事をしてしまうなんて。あの時の俺がどういう状態だったのか、未だに理解出来ない。
「とにかく可奈子を怒らせて——いや、傷つけてしまったかもしれないんですよ。俺、どうしたらいいか分からないんです」
可奈子を傷つけてしまったかもしれないという不安。そして、可奈子に嫌われてしまったかもしれないという不安が混ざり合い、俺の感情はぐちゃぐちゃになっていた。
「そうねぇ」
梢さんは唇の横に指を当てて考える素振りを見せる。
「やっぱり素直に謝るしかないわね。まあ、本気かどうかはともかく、押し倒しちゃった訳だから言い難いとは思うんだけど」
謝らなければならない事はわかってる。顔を合わせ難いとは分かっていても。
ただ、やっぱりまだ顔を合わせるには心の準備が必要な気がする。
俺が下を向いていたのでその気持ちに気づいたのか、梢さんは俺の頭を撫でて来た。
「恥ずかしいのは分かるよ。洸平君は童貞だもんね」
「それは余計です」
余計な事は言わなくていいです。事実ですけど。
「でも、ここで謝らなきゃこのままになっちゃうかもよ。このままお別れしちゃって、洸平君は平気なの?」
「いえ、決して平気じゃないです」
幼い頃から一緒にいる可奈子。もう会えないとなると耐えられないかもしれない。
「だったら謝る以外の選択肢は無いんじゃない?それとも」
梢さんは俺と距離を詰めると、下から上目遣いで、
「可奈子ちゃんと疎遠になったら、お姉さんが洸平君を狙ってもいい?」
言われて俺の頭は沸騰する。からかわれているんだろうが、それくらい魅力的な女性ではある。
「それは洸平君がどうにかするとして」
梢さんは再び足を組み替える。ついつい太ももに目がいく。可奈子よりも白く、少しボリュームがある。梢さんの存在は俺の妄想力を上げる為に設定されたのではないかと思えるが、たまたまだろう。
「ギジオレに乗る事で気持ちに変化はある?幼馴染みを押し倒しちゃうくらいだから、変化はあるんだろうけど。自覚はある?」
「多少は」
妄想力とは心に作用する。そんな心の変化を観察する為に、定期的にカウンセリングを受けている。
「何だか、ギジオレに乗っていると可奈子の事が気になるんです。胸がもやもやすると言うか、シクシクすると言うか。乗っていない時はそんな事は無いんですけど」
素直な気持ち。可奈子を押し倒したのもその延長線上だろうか。
「何て言うか、妄想した気持ちが自分の本心だと錯覚したような——そんな気持ちです」
どれが本当の気持ちがわからなくなると言った方が早いだろうか。可奈子を押し倒したのが本当の気持ちなのか、錯覚したの気持ちなのか。
「そうねぇ」
梢さんが俺の目を見つめる。少しドキドキする。
「妄想力って何だと思う?」
ふいに質問される。
「未だによくわかりません」
エロい事を想像するのかな、とは思う。そう説明されたし。
「竹浦博士が洸平君にどんな説明したかわからないけど、私が受けた説明では、人を想う気持ち全般だって」
「人を想う気持ち?」
「そう、この人を大切にしたいとか、守りたいとか、そういう想いがエネルギーに代わるって聞いたな」
え?エロは関係ないの?
「思春期男子にはえっちな事と言った方が話が早いみたいだけど」
間違ってはいないんだ。
「とにかく、人を想う気持ちがエネルギー源で、そのためには記憶が重要な要素となるみたいでね」
「記憶が?」
「そう、ある特定の人の記憶があればあるほど、妄想力は発揮されやすいの。記憶が多いって事は、その人に対する気持ちも多いでしょうから。だから、洸平君の記憶に一番多くあるのが、可奈子ちゃんなんでしょうね」
妄想力に記憶が必要だとは初めて聞いた。とにかくエロい事を考えろとしか言われなかったし。
「可奈子ちゃんは洸平君の記憶を呼び起こす触媒みたいな存在ね」
だから可奈子を隣に置いたのか。
梢さんは机に置いてあったタブレットを手に取る。
「で、洸平君がギジオレに乗っていた時の記憶領域を確認して分かったんだけど、洸平君は胸の奥にしまった気持ちとか無い?」
「胸の奥に?特に自覚は無いですけど」
「妄想力のために記憶が作用すると、自分でも気づかない記憶も呼び起こされれるみたい。もしかしたらそれが、洸平君の心の錯覚の正体かもしれないわね」
「その正体は分かりませんか?このまま胸がもやもやしたままだと、また可奈子にひどい事しそうで怖いです」
俺はそれを一番恐れている。可奈子との関係を壊しかねない、心の影響。
「それは外からはわからなかったわね。人の記憶は見えないものね」
梢さんは言いながらタブレットをぱたぱたさせる。そのタブレットには俺の妄想力と記憶に関する情報が載っているのだろう。
「だから洸平君が自分で注意するか、受け入れるかを決めなきゃいけないかもね。どちらにせよ、私みたいな部外者が決められる事じゃない」
「俺が。自分で」
俺が心の奥にしまった記憶。それを探す事が、当面の目標になりそうだ。
「あと、最後にいいですか?」
「スリーサイズ聞きたい?」
聞きたいです。いや、そうじゃなくて。
「また可奈子にあんな事しそうになった時、どうしたらいいと思いますか?」
殴られたら目が覚めるのだろうが、もっと平和的に出来ないだろうか。
「うーん。そうねぇ」
梢さんは部屋の隅に目を移す。しばらく目を閉じて考え込むと、
「次はちゃんと仕留めるのよ」
そういう事じゃないんですよ。
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