11 / 22
第一章
第十話 水着
しおりを挟むまた日曜日。青あざの消えた俺は、いつものショートパンツ姿の可奈子と、スキニーパンツ姿のクリオナに連れられ、駅前のショッピングセンターにやって来ていた。
高級そうな宝飾店やら、庶民的な洋服店、玩具屋に百円ショップなど、様々な店舗が並ぶ虎杖浜市最大の商業施設、コジョーガーデン。ここに無い物は無いと言われるほどの品揃えを誇る。
クリオナに説明しながら歩く可奈子に気づかれないように模型屋に入ろうとしたものの、結局見つかって耳を引っ張られたりしながら、俺はとぼとぼと二人の後を追う。
二人は目的の物を目指してエスカレーターで2階に向かう。女子向けのショップが並ぶフロア。
「これなんかクリオナに似合うんじゃない?」
「そうですか?可奈子さんはこれが似合うと思いますよ」
目的の場所を目指しながら、途中で見かけた別の店に立ち寄り、女子二人で盛り上がっている。俺は少し居心地の悪さを感じながらも、長くなりそうな買い物を見守る。
そして、ゆらゆら揺れるポニーテールを眺めながら二人の後をついていると、目的の場所についたらしい。
読み方もよくわからない名前のセレクトショップ。
ここは夏の時期だけ、水着売り場と化す。そう、以前約束した、水着を買いに来たのだ。
限りなく少ない布面積の衣料の売り場に、俺はさらに居心地の悪さを感じる。
圧倒的に女子の割合の多いその売り場に、同じような居心地の悪さを抱えた男子を見つけて少しほっとした。
ふたりは手前の水着から順に手にとって行く。
「可奈子さんはこんな水着が似合うんじゃないでしょうか」
クリオナが白いビキニを手に取る。
「白いのはちょっとなー。刺激が強いと思うんだけど」
と言いつつ俺をちらりと見る。俺に言ってるの?
「可奈子さんはスタイルがいいので、もっと大胆でいいと思いますけど」
「あんまり大胆にすると興奮する人がいるからね」
俺に言ってる?
「クリオナはどう?こんなのは」
可奈子が水色のビキニを手に取る。
「私は、あまり大きくないので」
何が、とは言わないが。
「じゃあこんな感じは?」
スカートのついたワンピース。子供っぽいが、何だか似合いそうな気がする。
「では可奈子さんはこちらでしょうか。似合うと思いますよ」
青に白いワンポイントの入ったセパレートの水着。ビキニ程大胆ではない。
「洸平さんも気に入るかと」
俺の名前を出すんじゃない。
「洸平さん」
「何?」
ふいにクリオナに話しかけられてそちらを見る。
「洸平さんはやはり布面積が小さい水着が好みですか?」
「真面目な顔して何聞いてんの」
いつになく真剣な表情のクリオナに呆れ顔で返す。この子、ちょっとズレてるんだよな。
「だったらどんなのが似合うと思う?選んでみなさいよ」
可奈子はどうして偉そうなんだ。
俺は渋々適当に手近なところにあった水着を手に取る。
「これとか?」
俺が適当に手に取ったのは限りなく布面積を小さくした、果たしてこれで隠せるのか疑問な水着だった。
「こんなのが趣味なの?」
引かれた。
「やっぱりそうなんですね」
勘違いしないで。
「いやいや!違う違う。間違えた」
何でここにこんな水着が。
「こっちこっち」
別の水着に手を伸ばす。黒いハイレグ水着。なぜか網タイツとウサギの耳がついている。
「・・・何考えてるの」
また引かれた。
「いやいや、これも違う!」
つか、これ水着じゃないだろ。売る場所間違えてるんじゃないか。
適当に選ぶと地雷を踏みかねない事が分かった俺は、真面目に選ぶ事にする。
とは言え、選ぶと言ってもどうやって選べばいいのだろうか。今までは買い物に付き合ってはいたが、結局可奈子が自分で選んでいたし、俺は適当に相槌を打つだけだった。
それが今は俺が選ぶのを待っているかのようだ。うーむ。試されているのか?
ここで下手にエロスを感じるような水着を選んでしまっては、せっかく改善した可奈子との関係に再びヒビが入りかねない。かと言って、無難な面白みもない水着を選んでしまってはがっかりされてしまう。わざわざ俺に選べと言っているのだし。
これは難題。
「洸平さんが着て欲しいって思うような水着でいいと思いますよ」
クリオナはそう言ってくれるが、これがまた難しい。俺の性癖が反映されていると思われそうで。
ともかく、可奈子に似合いそうという理由で選ぶ以外はなさそうだ。下心も妄想力もなく、素直な気持ちで。
「こんなのはどう?」
悩みに悩んで選んだのは、カップの部分が赤と白のチェックになった控えめなビキニ。
「可奈子は赤が似合うと思うんだけどな」
「じゃあ、それにする」
「ちゃんと見ろって」
ろくに見る事もなく即決しようとした可奈子に思わず言う。何でもいいのかよ。
「ふーん」
可奈子は俺の選んだ水着を受け取ると、
「着て欲しいんだ」
悪戯っ子のような顔をする。
「いや、そんな事は」
「ちょっと待ってて」
可奈子は言うと、試着室へ向かう。クリオナも先程可奈子に選んでもらった水着を持ってそちらに向かう。
「開けたらダメよ」
可奈子は意味深な事を言って、試着室のカーテンを閉めた。
フリかな?いやいや、シャレにならん。
クリオナも隣の試着室に入る。
複雑な気持ち。このカーテン一枚隔てた向こうで、二人の女子がほぼ裸になって着替えている。特に意識している訳ではないが、おそらく俺の妄想力は高まっている事だろう。
悶々としていると可奈子が顔だけ出した。
「あんまり見て欲しくないんだけど」
さっきと随分と威勢が違うな。少し顔が赤いような。
「嫌なら見せなくてもいいぞ」
半分本音。俺も少し恥ずかしい。
だがその言葉をかけるのは可奈子には悪手だったようで、口をへの字にするとカーテンを開けた。
「うお」
思わず声が出る。水着姿なので当然と言えば当然だが、肌の露出が多い。赤い水着に白肌が映える。赤と白のチェック柄のカップに包まれた胸は俺の記憶よりも成長しているように思えるし、くびれから腰、太ももにかけての丸みを帯びたラインは女性らしさの象徴とすら思える。
「・・・」
言葉が浮かばない。ついつい黙って眺めてしまう。
「あんまりジロジロ見ないで」
可奈子はそう言いつつも、ゆっくりと一回転する。思いの外大胆な背中と、形のいいお尻に目眩がしそう。
「どう?」
言いながら可奈子は体を腕で隠す。
「い、いいと思うけどな」
我ながら上ずった声だと思う。
「じゃあ、これにする。サイズも多分大丈夫かな」
そう言いながら胸の辺りを引っ張る。あんまりそういう行動はしてほしくない。
「私の方もいいでしょうか」
隣のクリオナも顔を出した。
俺に言ってる?
疑問に思っているとクリオナもカーテンを開けて水着姿を披露して来る。露出の少ない水色のワンピースに少し安心する。
「いいんじゃない?」
隣の更衣室から覗き込んだ可奈子が言う。
「うん。似合ってると思うよ」
安心感からそう言うと、可奈子が俺の方を見た。
「私には言ってくれなかった」
そう言ってまた口をへの字にする。
あ、そうか。
「可奈子も似合ってるよ」
女の子って面倒くさい。
可奈子は照れ笑いを浮かべると、カーテンを閉めた。服に着替え直すようだ。
隣のクリオナもカーテンを閉めた事を確認し、俺は大きく息を吐く。
水着を買いに来ただけなのに、心臓に悪い。
カーテンの前で気持ちを落ち着けていると、カーテンが開いて満足気な可奈子が出てきた。
そして水着に関して講釈を聞いていると、クリオナも試着室から出てきた。
「はい」
可奈子は手に取った水着を俺に渡してくる。
「??」
俺に着ろと言うのか?
「明日、洸平の誕生日でしょ」
ああ、7月15日は俺の誕生日。可奈子からは誕生日プレゼントの枕をもらったぞ。俺がよく眠れないと言ったのを覚えていたらしい。
まさかこの水着も誕生日プレゼント?
「来週は私の誕生日じゃない」
そうだった。来週7月21日は可奈子の誕生日だった。昔はふた家族合同の誕生日会を開かれたものだった。これを誕生日プレゼントにしろと言うのだろう。
「だから選んで欲しかったの」
はにかんだ笑みを浮かべる可奈子。
「いいよ。お詫びも込めた誕生日プレゼントって事で」
これで全てチャラになるとは思っていないが、多少の償いになるだろうか。
「じゃあ、クリオナのも」
そう言って可奈子はクリオナの水着も俺に渡す。
「ありがとうございます」
遠慮しないクリオナ。まあ、この状況だと断れないよな。晴人に申し訳ないとは思うが。
そんな事を思いながらレジに向かう。
そして、思いの外多い数字を見て凍りついたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる