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第一章
第十一話 黒い
しおりを挟むその後俺の水着を女子二人が選んでくれたのだが、ブーメランパンツを選ぼうとした以外は特におもしろい事は無かったので割愛。
いや勿論、自分で払いましたとさ。
そうして用事を済ませた俺たちは、コジョーガーデンの真ん中に位置する、フードコートのオープンテラスでコーヒーなんぞを飲みながら一休みしている。
今日は日曜日と言う事もあって人が多い。家族連れやカップルが通りを歩く中、俺は相変わらず居心地の悪さを感じながらコーヒーを口にする。
晴人はいればこんな気持ちにはならないのだろうが。
俺の存在をよそに、可奈子とクリオナは盛り上がっている。
「クリオナは海水浴とか行ったことある?」
「いえ。セレストには海はありませんでした。虎杖浜市で初めて海を見たくらいですから」
海の無い星なんてあるんだ。
「じゃあ海に入るのは初めてなんだ」
「はい。海は本当にしょっぱいのでしょうか」
可奈子とクリオナの会話をなんとなく聞きながら外を眺める。商業施設の外には広い駐車場が広がっている。
「では、それをニガリと言うんですね?」
どうしてその話になったかは知らない。
「でも洸平」
ふいに話しかけられる。
「海水浴はいつ行こうか。やっぱり夏休みがいいよね」
子供のような笑顔で可奈子は言う。可奈子は海が好きだからな。
「夏休みでいいんじゃない?それに、いちいち予定決めなくたって、すぐ行けるだろうし」
家から歩いて行ける距離に海岸はある。
「そうだけど・・・情緒が無いなぁ」
悪かったな。
「いつもみたいに来たい時に起こしに来ればいいだろう。俺が断るわけがない」
風邪をひいた時以外に可奈子に起こされて起きなかった事はなかったはずだ。そうやって起こしに来れば、俺を連れ出す事は可能になる。
「起こすと言えば」
俺の言葉に可奈子は思い出した事があるようだ。
「私がプレゼントした枕。大丈夫だった?枕って合う合わないがあるだろうけど」
あの日、誕生ぶプレゼントでもらったのは枕だった。俺が眠れないと言っていたのを覚えていたのだろう。
「ああ、バッチリだ。最近よく眠れるよ」
「よかった。池田君が洸平と体型が似てたから、合えばいいなって思ってたんだ」
「枕を共にしたい、って言う意味ではないんですか?」
「そんな訳無いでしょう。どうしてそんな事思い当たるのよ」
「プレゼントには隠された意味がある、と聞いたもので」
「どこで誰に聞いたのよ」
「晴人さんです」
あいつめ。
「そう言えば、クリオナは晴人とはどうなの?」
「どうなの。と言われますと?」
「晴人が随分クリオナにご執心みたいだから、クリオナがどう思ってるのかな、って」
確かに俺も気になる。だが俺からはなんだか聞きにくいので、可奈子が聞いてくれるのはありがたい。
「晴人さんですか」
クリオナは独り言のように呟くと、カフェオレを一口。
「良いお友達だと思っています」
あー。
「もちろん可奈子さんも、洸平さんも」
三人横並びか。
クリオナはにっこりと残酷な事を言う。がんばっているようだが、晴人にとってはまだ長い道のりのようだ。
「そんな事よりも」
空になったカップを手で弄びながらクリオナが聞いてく来る。
「お二人はどうなんですか?」
「どうなんですかと聞かれても」
「ねえ」
俺は隣の可奈子と顔を見合わせる。これまで飽きるくらい見合わせた、可奈子の顔。
「洸平さんは可奈子さんの事が好きではないのですか?」
「いや、あの、そりゃあね」
「好きではないのですか?」
「やっぱり、そうだと思うよ」
「好きではないのですか?」
にっこりとした圧力がすごい。機械のように同じ言葉を同じ抑揚で発してくる。
そりゃ、まあ、好きだとは思う。ただそれが友人としてだったり家族としてだったりしたとしても、はっきりとは口にしにくい。
「でも、彼女として、とか恋人として、とかいうのとは違うと思うんだけど」
「好きではないのですか?」
許してくれない。俺がはっきり言うまでこのやりとりは繰り返されるのだろうか。
「はは。洸平がしどろもどろになってる」
可奈子が無邪気に笑っているが、この流れから考えると次は可奈子の番だぞ。
女子二人の笑顔に気圧されて、俺は少し身を引く。ここで俺の悪戯心が発動して、『実はオンナとして見てました』なんて言ったらどういう反応するのだろうか。
その反応を見てみたいという気持ちもあるが、そんな俺の悪戯心はあまり笑える展開にならない事も分かっている。
俺は後頭部をかくと、呪いの言葉のように喉に引っかかるその言葉を発しようとする。
「そりゃあ、す——」
そこで突然の衝撃。何かが地面にぶつかった衝撃音と、ガラスが割れる音。巻き上がる砂埃。その全てが異常事態である事を示している。
「な、な、何これ!」
思わず立ち上がった可奈子を落ち着かせようと手を取る。クリオナは案外冷静そう。
断続的な振動が繰り返され、フードコートの灯りが明滅している。天井から吊るされている広告やイルカの人形等が激しく揺れる。
「ここは冷静に行動しないと」
「そんな事わかってるって!」
だがどこへ逃げればいいのだろうか。まずはこの騒ぎの発生源を探さないと——
「あれは、何でしょうか」
クリオナがふいに指を差す。
フードコートから見えるショッピングモールの一番奥、三階吹抜けになったイベントホールに、黒い大きな人影が佇んでいた。
黒いギジオレのようなその人影は、ゆっくりとこちらに向かって来た。
「ひとまず外に出よう!」
あの黒いギジオレが何のかはよくわからない。ただ、生身で対処出来るわけがないので、屋外へと逃げることにした。
混乱する人混みをかき分けながら店舗前の広場に出る。
「あれって・・・ギジオレみたいじゃない?」
「よく見えなかったけど、そんな感じだな」
可奈子も同じ事を感じたらしい。
「侵略者が送り込んだ物かしら」
「さあな。今までと随分違う雰囲気だけど」
「先日はカメさんでしたよね?」
俺に手を引かれた可奈子に手を引かれているクリオナが厳しい表情をしている。
「何かあったのでしょうか」
独り言のように呟く。
俺は立ち止まると後ろを振り返る。虎杖浜市で一番大きな商業施設、コジョーガーデンは三階建で5年前にオープンしたての比較的新しい商業施設だ。
「少し振動してるな」
「中で暴れてなければいいけど」
「もう少し離れましょう」
クリオナに言われ、入り口から少し離れた場所にあるコジョーガーデン内の小さな公園に移動する。
ここで地球連合軍を待った方がいいのか、それともギジオレが転送されて来るのか、どちらかはわからないが、様子を見る必要があるかもしれない。
入り口から吐き出されるように人びとが逃げ出して来る。カップルやら家族連れやら、飛び出して来ては自家用車に乗り、猛スピードで脱出しようとする。が、それがあちこりで起こっており、駐車場はカオス状態。身動きがとれなくなっている自動車も数々見受けられる。
クラクションや怒号が響く中、入り口から吐き出される人々の姿が見えなくなった。全ての人が屋外へ逃げる事ができたのだろうか。
すると、黒いギジオレが入り口を突き破って姿を現した。
「やっぱり似ているな」
砂煙の中瓦礫を踏み潰しながら現れたそれは、見れば見るほどギジオレに似ている。
身長二十メートル程の筋肉質な人間を模した、ロボット。胸には球ではなく、正三角形を複数組み合わせたような多面体で作られたコックピットらしき物があるが、表面が薄暗く塗られているため中の様子は確認出来ない。
小さめな頭。インカムをつけたような顔をしているのと、顔の両サイドにアンテナが三本立っているのがギジオレとの違いか。
「これ、まさか地球連合軍の新しいロボットじゃないわよね?」
可奈子がそう思うのも無理はない程似ている。
「地球連合軍の兵器がショッピングモールで破壊活動するでしょうか?」
クリオナの指摘ももっとも。もしそうなら地球連合軍の不祥事以外の何物でもない。
「それよりどうするんだ——」
と言っていると、公園の噴水横に赤い魔法陣が現れる。
「やっぱり来るのか」
「来るのね」
俺たちに見守られながら、赤い魔法陣はゆっくりと回転しながら収束をはじめ、眩い光が弾けた次の瞬間には跪いたギジオレが佇んでいた。
ちなみに赤い魔法陣は、ギジオレを転送するためのマーキングの意味と、転送予定地が安全かどうか、人などに危害を加える可能性が無いかなどを確認している。
「来たな」
「来たわね」
ギジオレを見上げる俺と可奈子。
「ギジオレさんの対処が必要だと理解しているんですね」
連合軍で対処出来るならそうしてるだろうしな。
そして、対処しなければならない対象だと言う事でもある
しかし、次世代機を作っていると聞いたが、それはいつになったら出来るのだろうか。それまでのツナギのつもりで乗っていただけなのに、まだまだこき使われるのだろうか。
まあ、少し高めの水着を二着買えるくらいのアルバイト代貰ってるからいいんだけどさ。
「仕方ないから行こうか」
「うん。クリオナは待ってて」
可奈子は言うと、水着の入った紙袋をクリオナに手渡した。
「はい。ではここからは若い二人で」
どういう意味ですか?
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