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第一章
第十二話 なかなか良かった
しおりを挟むギジオレに乗り込んだ俺たちは黒いギジオレに対峙する。やはり似ている。腕の大きさや足の長さ、身長や胴回りに至るまで、全て一致しているように見える。
「連合軍にスパイでもいるんじゃないか?」
似てるだけでは言い表せられないほどの類似点に、俺は思わずそんな事を考える。
「これだけ似てれば、パパも気づいてると思うんだけど」
向こうで観測や分析も行われているんだろうな。
俺はギジオレの両手を動かすと、黒いギジオレ——面倒臭いのでクロオレとする——を掴みにかかる。
クロオレも両手を出し、がっちりと手が組み合った。
至近距離で睨み合う。ぐっと力を込める。この時点では、ギジオレの方が力は強そうだ。パイロットの違いだろうか。つか、クロオレにはパイロットが乗っているのか?
『洸平君』
「あー!びっくりした!」
突然耳に響いた聞き覚えのある声に、俺はおもあず声を上げる。
「パパ!ギジオレに似てるロボットなんだけど」
『それの事なんだが』
源治おじさんは一呼吸おく。
『二人も気づいているだろうが、そのロボットとギジオレとの類似点が多すぎる。内部まではわからんが、少なくとも見た目は瓜二つと言っていい』
「よく分かるよ。目の前だし」
ギジオレとクロオレの力くらべは続いている。ギジオレで押し込んでやると、だんだんとクロオレは後退りを始める。
『今の所こいつが今までと同じ侵略者の作った物かどうかも分からない。だから、出来れば捕まえてほしい。出来なくても、出来る限りデータが欲しい』
「難しい事言うなぁ」
俺は言いながら、一歩後退する。クロオレを後退させすぎるとショッピングモールド内につっこんでしまう。
クロオレが身を低くしてタックルしてくる。脳髄まで響く衝撃音によろめきながら、ギジオレは受け止めた。
足を払ってクロオレを転がす。近くにあった噴水を破壊しながら駐車場の方まで転がって行く。未だに駐車場を脱出できない自動車が急ブレーキを踏んだ。
「思ったより強くないわね」
大袈裟に登場した割には一方的な展開に可奈子が拍子抜けした表情を見せる。
「でも決め手がないなぁ」
倒れたクロオレを押さえつけながら、どうしたものかと考える。源治おじさんには捕まえてほしいとは言われたが、どう捕まえればいいのか。捕まえたとして誰かが迎えに来てくれるのか。
そんな事を考えていると、クロオレの背負うバックパックが低く唸ったような気がした。
クロオレは押さえつけていたギジオレを跳ね返すと、素早く立ち上がった。
「展開が変わったぞ」
警戒しながらクロオレを睨む。
クロオレが滑るようにギジオレの横に移動する。
「え?速い!」
ふいをつかれ、可奈子が声を上げる。気づいた時には右腕を取られていた。
そのまま背中に右腕を回され、地面に押さえつけられる。
「力が・・・急に強くなった」
固定された右腕をどうにか解放しようと動かすのだが、動かす事が出来ない。
『洸平くん!思ったよりも力を秘めているようだ。もっと妄想力を上げないと』
源治おじさんの声が聞こえてくる。
妄想力を上げないと——もっと上げれば問題なく対処できるはず——
ちらりと可奈子を見る。
いや、ダメだ。前回の事件を考えると、気楽に妄想なんてできそうにない。再び可奈子を傷つけてしまう事を考えると、妄想力を上げる事が出来ない。
俺はどうにかギジオレを脱出させ、クロオレを引いてバランスを崩させようとするが、どっしり根が張ったように微動だにしない。逆に軽くひねられて地面を転がる。
「うわぁぁ!」
「きゃぁぁ!」
その拍子にシートのヘッドレストに頭をバウンドさせる。
仰向けに倒されたギジオレは、両手を掴まれて起き上がる事が出来なかった。
「洸平!どうにかならない?」
どうにかと言われても、妄想力をもっと発揮しなければ難しいかもしれない。だが、俺の心の中でブレーキがかかり、妄想力を上昇させる事が出来ないでいる。
ギジオレは引きずられ始める。ガードレールを引きちぎり、逃げ遅れた自動車を踏み潰しながら、クロオレはギジオレをひきずって行く。
「どこへ連れて行く気だ・・・」
どうにかクロオレの前に目を移すと、巨大な黒い宇宙船の姿。ギジオレを連れ去るつもりか。
捕まえてくれといわれたのは俺の方だったんだが・・・でもこのまま連れ去られる訳にはいかない。
「このっ」
どうにか身を捩って逃れようとするが、妄想力の発揮されていないギジオレには力が足りない。
だが今この瞬間に前回の事件を忘れて気持ちを入れ替えられる程、俺は人生経験が豊富でもない。
すぐさま解決出来る方法は思い浮かばない。ならばせめて、
「可奈子、とりあえず一人で逃げろ!」
仰向けに引きずられている状態だ。コックピットからの高さもさほど無い。飛び降りれば逃げられるだろう。
「でも!洸平を残して一人で逃げるなんて!」
可奈子が俺の裾を握って来る。真っ直ぐな瞳に心が揺らぎそうになる。でも、このままではギジオレごと二人とも連れ去られてしまう。
「俺は大丈夫だよ。どうにか逃げる方法を考える。でもそれ以上に」
可奈子の目を見つめる
「これ以上可奈子を傷つける訳にはいかない」
俺が言うと、可奈子は唇を噛んで目を伏せた。
数秒、考えたようだが、
「わかったわよ。バカ」
そう言ってシートベルトを外す。可奈子が俺の気持ちを理解してくれたことにほっとしながら、
「地面はこっちだから気をつけろよ」
可奈子の手を取る。今までと床の位置が違うので足を踏み外しかねない。
「分かってるわよ——あっ」
案の定可奈子は足を踏み外し、倒れてしまった。俺の上に。可奈子の胸が顔に迫ってくる。
「むぐっ」
可奈子の体が顔面に覆い被さってきて視界が真っ暗になる。顔に感じる柔らかい二つの感触、これはまさか——
「もがががぐががが」
マズイ。息が出来ない。
「ちょっと!動かないでよ!」
俺の顔に覆い被さった可奈子は声を上げるが、とにかく息が出来ないのでどいて欲しい。でも、この感触が——
「んんんんがががんもがが」
「変なところに息を吹きかけないで!」
それはいいから早くどいてくれないと。感触は正直気持ちいいが、そんな事を言っている場合ではない。
幼馴染みの胸に挟まれて窒息死するなんて、格好いいものではない。
「もうちょっと、取手を掴めれば——」
可奈子が手を伸ばしているようだ。そのせいで、柔らかい感触がより顔に押し付けられる。ほのかに感じる汗の匂いが、俺の中枢神経を刺激する。
温かく柔らかい感触に気が遠くなる。いや、呼吸が出来ないからか。
「んんんん、んんんん」
二つの柔らかい感触に挟まれた俺の頭がだんだんとホワイトアウトしていき、力が抜けてゆく。このまま死んでしまうのだろうか。
いや、このまま甘美な感触に包まれたまま死ぬのも悪くないのかもしれない。
この柔らかな感触に身を委ねようか。
そう考えた瞬間、頭の中でスイッチが切り替わるような感覚。
明確に脳裏に浮かぶ、ギジオレが立ち上がった映像。浮かんだと同時に、ギジオレはクロオレの手を振り解いて立ち上がった。
「きゃっ!」
突然地面の向きが変わり、可奈子が俺の膝の上に落ちてきた。
呼吸は出来るようになった。
頭がクリアになった俺は、ギジオレを操作してクロオレの手首を掴む。
「ふんっ」
軽く捻ると、クロオレの手首を引きちぎった。
そのまま反対の手を握り、クロオレの肩の辺りを狙ってパンチを繰り出す。肩から腕がちぎれ飛ぶ。
クロオレが後方に飛んだ。俺は捕まえようと手を伸ばすが、寸でのところでギジオレの手をすり抜け、背中のブースターを稼働させて遠ざかってゆく。
俺は手近なところに落ちていた自転車を投げつけてやるが、当たる事はなかった。
クロオレは黒い宇宙船に収納されると、どこかへ消えた。
「はぁはぁはぁ」
思い出したように呼吸を始める。
「洸平・・・」
可奈子が俺の膝の上で俺の顔を見上げている。
「可奈子・・・」
言いたい事はいろいろあるが、口をついて出てきたのは一つだけだった。
「なかなか、良かったよ」
すかさず平手打ちが俺の右頬を直撃する。
いや、そんなつもりじゃないんだ。多分、ギジオレがその言葉を導いたに違い無い。
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