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プロローグ
しおりを挟む嵐の中、大きくうねる荒波の中で、ずぶ濡れの美少女が何かを叫びながら僕の体をゆすっていた。
何も聞こえない、何も感じない。石のように冷たくなった体は指一本動かす事が出来なかった。
大きな波が僕と美少女を飲み込む。僕の命運を握っているのは、この小さな板切れだけ。どうにか浮かんではいるが、また同じような波が僕たちを襲ったらひとたまりもないだろう。
高校時代最初の夏休み。一人旅で離島に向かうところ、突然の嵐に見舞われて乗っていた船は沈没寸前。僕はあっと思った時には海に投げ出され、どうにか流れて来た甲板の一部と思しき板にしがみついているだけだった。
他の乗客はどうしただろうか?無事でいるだろうか?
傍の美少女は何かを叫んでいる。頬から流れるのは雨か、涙か。
そう言えばこの美少女はどうやって僕の傍にいるのだろうか。僕が今しがみついている板以外には足場になりそうな物などないのに。
それに僕はこの美少女に見覚えがない。金髪碧眼で、雨でずぶ濡れのはずなのだが、神々しさすら感じられるほどの美貌。こんな美少女、船の中どころか、町ですれ違っただけでも忘れるはずがない。
雨で肌に張り付いた服は彼女の豊満なボディラインをくっきりと浮かび上がらせる。こんな状況じゃなかったら、思わず見惚れていたかもしれない。
僕はなぜかとても眠かった。凍える寒さも、体中の痛みも何も感じず、ただただ夢の世界へと誘われようとしていた。
ああ、そうか——
もしかしたらこの美少女は天使で、僕を天国へと連れて行こうとしているのかもしれない。そう思って見ると、背中には大きな翼が生えている。
こうして天使に連れて行かれるなら悪くない。
女の子には縁がなく、一人でやってきた僕にとってはふさわしい結末かもしれない。でももし天国に行っても、この天使には俺の側にいてほしい。寂しい人生の、せめてもの慰めとして側にいてくれるだけでいい。
おそらく、この哀れな少年のために、僕の理想的な天使を遣わしてくれたに違いない。だとすれば、天国もやるじゃないか。
全てを受け入れられそうだ——
ゆっくりと僕は目を閉じた。耳の奥で何かが響いているが、それが何だって言うんだ。僕はもう、この天使と天国に行く。
目覚めるはずのないの眠りに、僕は恐れはなかった。
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