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5 どうすんだこのオナニーグッズ……
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暖雪の父親は翔子叔母さんの実兄である。当然今日のこのやり取りはすぐ両親の耳に入るだろう。この話を断ったと聞けば、“なんで?”と聞いてくるのが容易に想像できる。非常に無邪気に、“なんで?”と聞いてくる両親の姿が。
よもや、自分の息子が歳下の従弟に一方的に因縁を抱いているなんて考えもしないはずだ。“昔仲良かったんだから、ちょっと数年ブランクがあるけどすぐまた打ち解けられるでしょ”くらいだろう。おまけに暖雪の両親は共に、“困っている人は助けてあげるのがごく当然だ”という考えの持ち主だ。
(親戚ってこういう時厄介だよな……)
暖雪は内心悶々としていた。答えに窮している未来の自分がありありと見える。そもそも暖雪は、昔から人に期待されるのに弱い。期待に応えようと頑張るのはいいのだが、その匙加減が分からずついキャパオーバーしがちだ。27年生きてるんだからさすがにそんな自分の性質は理解していて、だから頼まれごとは打診された時点でできそうにないと判断したら断わりたいのが本音だ。
けれど、やっぱりそれはできなかった。何せ兄弟のように親しかったあの大海が、こうして人生の大事な局面で直接連絡をしてきてくれている。それなのに自分はこんな煮え切らない態度しか取れないなんて。そんなの人として間違っているような気がしてならない。
大海が。
あの大海が、未来に向けて大きな一歩を踏み出そうとしている。それはもちろん応援したい。そのような純粋な気持ちに加えて、矢野親子があの頃の“良いお兄さん”だった自分を頼ってコンタクトを取ってきてくれていると思うと、もうだめだった。角を立てずに断る方法が分からない。
(ま、まあ確かに日中はお互い仕事だし……。帰宅後や休みの日は自分の部屋にいればそこまで今と何かが変わるわけでもない、か?)
そう思い、暖雪はとうとう頷いてしまった。
「わ、分かった」
見事に承諾させられる方向へ持っていかれた。ごり押し力がすごすぎる。
いや、彼らがどうとかではなく自分の意志が弱いのが悪い。今日のこの時ほど暖雪は自分の性格を恨んだことはなかった。
「一緒に住むだけなら大丈夫。でも俺も残業あったりするし、本当家にいるだけになるかもしれないから。大したことできないからな?」
それは、過度な期待を防ぐための予防線のつもりだった。だが、その言葉を聞いた途端、二人がもろ手を挙げて喜ぶ。
『うわー、ありがとう雪ちゃん!めちゃくちゃ助かる!!』
『こんなこと頼んでごめんね!一緒に住んで何か問題が起こったら何でも私に相談してね!』
「あ、ああ……。ははは」
彼らの喜びようから、本当に心の底から感謝してくれているのが伝わってくる。“これでよかったんだ”と、じわじわと感じてきた。
だがしかし。
その一方で、一つの大きな懸念がこれもまたじわっとだが暖雪の中で大きくなってきていた。現段階でのスケジュールを大海から伝達されている間の時間も、そのせいでつい心が上の空になってしまう。
(……どうしよう)
焦りが顔に出ないよう必死で自分の心をなだめる。けれど、一旦膨れ始めた感情は簡単には消えてくれない。今自分が浮かべている笑顔が、張り付いたものになってしまっていないだろうかと非常に心配だ。
『……えーと。今ちゃんと決まってるのはこれくらいかな!』と画面の向こうで大海が朗らかに告げた。
『その他のことも、決まったらなるべく早めに伝えるからね』
「お、おう。頼む」
終話を予期させられる台詞に、暖雪は安堵する。違和感を抱かせぬよう振る舞うのももう限界だ。
(早く切りたい……)
そんなことを暖雪が考えているところへ、大海が液晶越しにこう語りかけてきた。
『雪ちゃん』
不意を突かれて目線を少し上げると、そこにはこちらをじっと見る年下の従弟がいる。
「ん?」
『……ありがとね。本当に』
大海はニッコリと笑みを向けてきた。
瞬間、暖雪は自分の中で小さな宇宙が爆発したかのような衝撃を感じる。
「い、いいや。きっ、気にすんなよ……!」
なんとかその一言を口から出せたが、心の中は嵐だった。色んな意味で。
(そ、そんな綺麗な笑顔で俺を見るなっ……!)
とんでもない罪悪感に苛まれる。自分はそんな無垢な清々しい笑顔を向けられるような人間ではないのだ。心がそう叫んでいる。
『本当にありがとうね、暖雪くん。聞きたいことあったらすぐに連絡ちょうだいね!』
「わ、わかった……」
叔母さんの言葉にあわあわと返答すれば。
『じゃあまたね、雪ちゃん。貴重な休日にごめんね』
というやや控えめな大海の言葉を最後に、ようやく通話が切れた。曖昧な笑顔を作っていた暖雪の一人座る部屋が、途端にしんと静まり返る。矢野親子のフルパワーを全身で浴びた後だと、余計に静けさが際立つようだった。
「ふう……」
暖雪は、力なくため息をつく。
我が身に今しがた起きたことが信じられない。
(……すごいことになった)
本当なのだろうか。二ヶ月後、大海と一つ屋根の下に住むなんて。壮大なドッキリではなくてか。全く実感が湧かない。
「大海と……。あの、大海と……」
牛乳を一口飲んで、その冷たさでどうにか心を静める。
改めて思い出してみる。幼少期の思い出の数々を、大切にしまい込んでいた心のアルバムから丁寧に取り出して、一つ一つをそっと指先でなぞるように。
「……うん。やっぱり、可愛い年下の弟だ、あいつは」
そうして確かめることができた。自分は大海を嫌いになってはいない。その気持ちを確認し、安心する。同居そのものに抵抗はないと。
しかし。
「“これ”、どうしよう……」
先ほどからじわじわと湧いてきた焦りが、次第に濃いものになっていく。
暖雪は顔を上げ、ベッド脇に転がっているエネマグラを見た。
もちろんズームからは見えない画面外に置かれてはいる。だがそれは大海たちと話している最中もずっとそこで存在感を放っていた。
(……もはやアプリで会った男からフイにされたから憂さ晴らし、程度のものじゃなくなってきてるんだよな)
そう。エネマグラはもはや暖雪にとって精神安定剤も同然だった。
恋活で惨敗した時には決まってこれを使って文字通り自らを慰めている。それだけじゃない。仕事でストレスが溜まった日にスムーズに入眠するため、何となく寝つきが悪い夜にリラックスするため。そんな時にも暖雪はこの頃エネマグラを使っていた。
他人が家の中にいるという理由で、これを自分の好きなタイミングで使用できなくという生活に、これからなってしまう。
いや、そもそも。
あの大海に、こんなものを所有しているともしバレたら……。
「……ヤバい」
ヤバい。ヤバすぎる。
広範囲にとんでもない被害をもたらすであろう。想像したくないくらい恐ろしい。
(やっぱり、断ればよかった……)
いたく後悔する暖雪であったが、もう完全に後の祭りなのであった……。
よもや、自分の息子が歳下の従弟に一方的に因縁を抱いているなんて考えもしないはずだ。“昔仲良かったんだから、ちょっと数年ブランクがあるけどすぐまた打ち解けられるでしょ”くらいだろう。おまけに暖雪の両親は共に、“困っている人は助けてあげるのがごく当然だ”という考えの持ち主だ。
(親戚ってこういう時厄介だよな……)
暖雪は内心悶々としていた。答えに窮している未来の自分がありありと見える。そもそも暖雪は、昔から人に期待されるのに弱い。期待に応えようと頑張るのはいいのだが、その匙加減が分からずついキャパオーバーしがちだ。27年生きてるんだからさすがにそんな自分の性質は理解していて、だから頼まれごとは打診された時点でできそうにないと判断したら断わりたいのが本音だ。
けれど、やっぱりそれはできなかった。何せ兄弟のように親しかったあの大海が、こうして人生の大事な局面で直接連絡をしてきてくれている。それなのに自分はこんな煮え切らない態度しか取れないなんて。そんなの人として間違っているような気がしてならない。
大海が。
あの大海が、未来に向けて大きな一歩を踏み出そうとしている。それはもちろん応援したい。そのような純粋な気持ちに加えて、矢野親子があの頃の“良いお兄さん”だった自分を頼ってコンタクトを取ってきてくれていると思うと、もうだめだった。角を立てずに断る方法が分からない。
(ま、まあ確かに日中はお互い仕事だし……。帰宅後や休みの日は自分の部屋にいればそこまで今と何かが変わるわけでもない、か?)
そう思い、暖雪はとうとう頷いてしまった。
「わ、分かった」
見事に承諾させられる方向へ持っていかれた。ごり押し力がすごすぎる。
いや、彼らがどうとかではなく自分の意志が弱いのが悪い。今日のこの時ほど暖雪は自分の性格を恨んだことはなかった。
「一緒に住むだけなら大丈夫。でも俺も残業あったりするし、本当家にいるだけになるかもしれないから。大したことできないからな?」
それは、過度な期待を防ぐための予防線のつもりだった。だが、その言葉を聞いた途端、二人がもろ手を挙げて喜ぶ。
『うわー、ありがとう雪ちゃん!めちゃくちゃ助かる!!』
『こんなこと頼んでごめんね!一緒に住んで何か問題が起こったら何でも私に相談してね!』
「あ、ああ……。ははは」
彼らの喜びようから、本当に心の底から感謝してくれているのが伝わってくる。“これでよかったんだ”と、じわじわと感じてきた。
だがしかし。
その一方で、一つの大きな懸念がこれもまたじわっとだが暖雪の中で大きくなってきていた。現段階でのスケジュールを大海から伝達されている間の時間も、そのせいでつい心が上の空になってしまう。
(……どうしよう)
焦りが顔に出ないよう必死で自分の心をなだめる。けれど、一旦膨れ始めた感情は簡単には消えてくれない。今自分が浮かべている笑顔が、張り付いたものになってしまっていないだろうかと非常に心配だ。
『……えーと。今ちゃんと決まってるのはこれくらいかな!』と画面の向こうで大海が朗らかに告げた。
『その他のことも、決まったらなるべく早めに伝えるからね』
「お、おう。頼む」
終話を予期させられる台詞に、暖雪は安堵する。違和感を抱かせぬよう振る舞うのももう限界だ。
(早く切りたい……)
そんなことを暖雪が考えているところへ、大海が液晶越しにこう語りかけてきた。
『雪ちゃん』
不意を突かれて目線を少し上げると、そこにはこちらをじっと見る年下の従弟がいる。
「ん?」
『……ありがとね。本当に』
大海はニッコリと笑みを向けてきた。
瞬間、暖雪は自分の中で小さな宇宙が爆発したかのような衝撃を感じる。
「い、いいや。きっ、気にすんなよ……!」
なんとかその一言を口から出せたが、心の中は嵐だった。色んな意味で。
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とんでもない罪悪感に苛まれる。自分はそんな無垢な清々しい笑顔を向けられるような人間ではないのだ。心がそう叫んでいる。
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「わ、わかった……」
叔母さんの言葉にあわあわと返答すれば。
『じゃあまたね、雪ちゃん。貴重な休日にごめんね』
というやや控えめな大海の言葉を最後に、ようやく通話が切れた。曖昧な笑顔を作っていた暖雪の一人座る部屋が、途端にしんと静まり返る。矢野親子のフルパワーを全身で浴びた後だと、余計に静けさが際立つようだった。
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暖雪は、力なくため息をつく。
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「大海と……。あの、大海と……」
牛乳を一口飲んで、その冷たさでどうにか心を静める。
改めて思い出してみる。幼少期の思い出の数々を、大切にしまい込んでいた心のアルバムから丁寧に取り出して、一つ一つをそっと指先でなぞるように。
「……うん。やっぱり、可愛い年下の弟だ、あいつは」
そうして確かめることができた。自分は大海を嫌いになってはいない。その気持ちを確認し、安心する。同居そのものに抵抗はないと。
しかし。
「“これ”、どうしよう……」
先ほどからじわじわと湧いてきた焦りが、次第に濃いものになっていく。
暖雪は顔を上げ、ベッド脇に転がっているエネマグラを見た。
もちろんズームからは見えない画面外に置かれてはいる。だがそれは大海たちと話している最中もずっとそこで存在感を放っていた。
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そう。エネマグラはもはや暖雪にとって精神安定剤も同然だった。
恋活で惨敗した時には決まってこれを使って文字通り自らを慰めている。それだけじゃない。仕事でストレスが溜まった日にスムーズに入眠するため、何となく寝つきが悪い夜にリラックスするため。そんな時にも暖雪はこの頃エネマグラを使っていた。
他人が家の中にいるという理由で、これを自分の好きなタイミングで使用できなくという生活に、これからなってしまう。
いや、そもそも。
あの大海に、こんなものを所有しているともしバレたら……。
「……ヤバい」
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