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16 失言
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「う~ん美味しい~!」
ソース味のたこ焼きをまず一つたいらげた大海は、そう心からの喜びを漏らすように叫んだ。てりたま味に続けざまに手を伸ばしながら、おしゃべりも止まらない。
「たこ焼きってさあ、中が赤かったり緑だったりしてなんか見てるとテンション上がるよね!ベースは白だしカラーリング的にクリスマスにぴったりじゃない?俺結構前から主張してるんだけど誰からもそうだねって言ってもらえないんだ」
「……そうか」
謎の理論に、暖雪は言葉少なに生暖かい目線を送る。そんな情報量の少ない暖雪の反応でも何かを察したらしく、途端に大海はむきになった。
「あー、雪ちゃんまで!ほらよく見てよ!めっちゃカラフルじゃん。おしゃれ!これにキラキラのやつとか乗せたら絶対パーティー向けの映える料理になるって!」
「……服のセンスはいいのになあ」
「え、何どういうこと」
片手のたこ焼きを指さした状態ので怪訝な表情を浮かべる大海に、暖雪は遠まわしに言葉を選びながら自分の感想を伝える。
「いや、お前の服の着こなしとか見てさ、さすがデザイナー志望なだけあるなとか思ってたけどそのー……、だいぶ変わった一面も持ってるんだな、お前」
「あああ!遠まわしにひどいことを言われている気がする!」
選べていなかったらしい。
しかしやはり大海は切り替えが早く、たこ焼きをさらに二口ほど頬張ってもぐもぐと咀嚼した後には、また上機嫌に戻っていた。
「たこ焼きは俺にとって青春の味なんだよねえ。さっきの話の続きだけどさ、日本の大学生がよくやるタコパにすごい憧れてて!真似したい~と思ってアマゾンで探したらなんとたこ焼き器売ってて!びっくりじゃない!?そんで友達家に呼んで色々焼いて食べたんだよ~!タコが少ししか手に入らなかったから、残りのには牛肉とか入れたんだけど!」
そんな風にして、アメリカでの学生時代の楽しい思い出など語って聞かせてくれる。合間に鼻歌など歌いながら。
(……面白いけど変なやつ)
上目遣いで眺めつつ食事を進めていた暖雪だったが、次の瞬間大海が放った言葉に思い切りたこ焼きを喉につっかえさせた。
「でも意外だった。雪ちゃん出会い系とかやってるんだね。恋活ってやつ?」
「!?」
途端に激しく咳込んだ暖雪に、慌てて大海が手元のドリンクを差し出す。
「あわわっ?大丈夫雪ちゃん!どうしたの!?」
「うっ、……だ、大丈夫っ。……た、たこ焼きが変なとこに入っただけっ」
大海からドリンクを受け取り、大きく二、三口飲んで、ようやく落ち着く。だが、心の中は全く動揺が収まっていない。
(……な、なぜ蒸し返す!?)
必死に平静を装って、暖雪は早口でぼそぼそと大海に言葉を返した。
「ま、まあ俺もいい歳だし……。いやゲイには結婚とかないから年齢は関係ないんだけど……。て、てか意外ってどういうことだよ」
「いや普通に。雪ちゃんってそういう出会い系アプリとか使わないイメージだったから」
何の気もない様子で、大海はそう答える。おおらかな性格なのはいいが、妙なところで天然なのだろうか。
「あ~。ほ、ほらゲイってどうしても出会いの場がリアルだと少ないから。だからこういうのに頼らざるを得ないところあるんだよね」
「あー、なるほどなあ。……それで、いい人いた?」
「ぜ、全然……」
「そうかあ」
鼓動はドクドクと早鐘のように鳴り続けている。どういう理由で大海がこの話を広げようとしているのかが分からないのだ。そんなに暖雪の恋愛事情が気になるのだろうか。
「俺も今フリーなんだあ。けど友達はリア充ばっかでさあ。SNSにイチャイチャしてる写真がいっぱい投稿されてるの。やんなっちゃうよねえ」
「お、おう……」
しかもこの微妙に反応に困るフリ。会話の上手な人間ならこういう時適切な返しが思いつくのだろうか。いっそこの場での正解の言葉を目の前の男に聞いてみたい。
「今の学生は大変だな。俺くらいの年になるともうそういうのもなくなってくるけどな」
「いやあ、でもみんな楽しそうだよ~。ちょっと羨ましいなあ。そういやこないださ、グループで遊びに行ったのに、その中にいた友達カップルがひたすら自分たち二人だけで写真撮ってたの。でね、みんなで来たんだからみんなで撮ろうよって言ったら“ツーショット撮るのに最高の場所に来たんだからほっといて”だって。俺もみんなもちょっと呆れちゃったけどさ、それだけの相手に出会えるってのは、きっとすごく幸せなんだろうねえ」
(単に愚痴というか、普通の雑談がしたくてそれが恋バナ風になってるだけか……?)
大海の言葉の真意が図りかねる。こないだまで大学生だった大海だから、そんなノリが好きでもおかしくはない。でも、できれば先ほどからのこの困惑の気持ちを感じ取ってほしいところだ。暖雪の目から見て、大海はそれくらいの空気の読めない人間ではないと思っていた。なのに、これは一体どういうわけなのだろうか。
ぐるぐると考えているうちに、ある一つの仮説が浮かび上がってくる。
(……もしかして、気、使われてるとか?)
アプリでの恋活が上手くいっていないという従兄に対して、自分もあまりそういう方面では良い思いをしていないのだと暗にほのめかし、こっちの気を紛らわそうとしてくれているのではないか。
もしそうだとしたら、それは彼なりの気遣いのつもりかもしれない。でも暖雪としてはあまり嬉しくなかった。そんなことをするくらいなら、この件について一切触れないでいてくれたほうが助かる。
「……」
自分の考えが合っているか否かは当然分からない。しかし、一旦そんな考えに取りつかれてしまうとどうにも抜け出せない。
そもそも、年下から気を使われているという状況そのものが、暖雪にとっては堪えがたいものだった。おまけに、大海は昔から自分のことを“良いお兄ちゃん”として慕ってくれる存在なのだ。
何かが、暖雪を内側から突き動かしていた。暖雪の中にある、暗くて重い後ろめたさだった。それは、誰にも言えず密かにエネマグラを所持していることなどではない。もっともっと昔から暖雪の中にあった、暖雪自身の根幹に関係することだった。
頭がおかしくなりそうな衝動だった。どうすればいいか分からない。冷静な思考を失った暖雪は、堪らずこんなことを口にしていた。
「……け、けどさ、世の中恋人いるとかいないとか関係なしにその場限りの相手探してるやつだらけだよ。みんなやりたい放題。このアプリ使ってる層が悪いのかもしれないけどさ、俺も誰か特定の一人を探すことばかりに一生懸命にならずに、どんどん違う男と出会っていくべきなのかも。違うアプリに乗り換えようかな、最近は同性愛者向けのやつも充実してきてるし」
「……え」
大海の、綺麗なくっきりした二重の眼が、一瞬軽く揺らいだような気がした。
(……しまった)
痛恨の思いが、暖雪を貫く。
その場の時の流れが、止まったかのようだった。時を戻せたらと強く思うが、当然それは叶わなかった。
ソース味のたこ焼きをまず一つたいらげた大海は、そう心からの喜びを漏らすように叫んだ。てりたま味に続けざまに手を伸ばしながら、おしゃべりも止まらない。
「たこ焼きってさあ、中が赤かったり緑だったりしてなんか見てるとテンション上がるよね!ベースは白だしカラーリング的にクリスマスにぴったりじゃない?俺結構前から主張してるんだけど誰からもそうだねって言ってもらえないんだ」
「……そうか」
謎の理論に、暖雪は言葉少なに生暖かい目線を送る。そんな情報量の少ない暖雪の反応でも何かを察したらしく、途端に大海はむきになった。
「あー、雪ちゃんまで!ほらよく見てよ!めっちゃカラフルじゃん。おしゃれ!これにキラキラのやつとか乗せたら絶対パーティー向けの映える料理になるって!」
「……服のセンスはいいのになあ」
「え、何どういうこと」
片手のたこ焼きを指さした状態ので怪訝な表情を浮かべる大海に、暖雪は遠まわしに言葉を選びながら自分の感想を伝える。
「いや、お前の服の着こなしとか見てさ、さすがデザイナー志望なだけあるなとか思ってたけどそのー……、だいぶ変わった一面も持ってるんだな、お前」
「あああ!遠まわしにひどいことを言われている気がする!」
選べていなかったらしい。
しかしやはり大海は切り替えが早く、たこ焼きをさらに二口ほど頬張ってもぐもぐと咀嚼した後には、また上機嫌に戻っていた。
「たこ焼きは俺にとって青春の味なんだよねえ。さっきの話の続きだけどさ、日本の大学生がよくやるタコパにすごい憧れてて!真似したい~と思ってアマゾンで探したらなんとたこ焼き器売ってて!びっくりじゃない!?そんで友達家に呼んで色々焼いて食べたんだよ~!タコが少ししか手に入らなかったから、残りのには牛肉とか入れたんだけど!」
そんな風にして、アメリカでの学生時代の楽しい思い出など語って聞かせてくれる。合間に鼻歌など歌いながら。
(……面白いけど変なやつ)
上目遣いで眺めつつ食事を進めていた暖雪だったが、次の瞬間大海が放った言葉に思い切りたこ焼きを喉につっかえさせた。
「でも意外だった。雪ちゃん出会い系とかやってるんだね。恋活ってやつ?」
「!?」
途端に激しく咳込んだ暖雪に、慌てて大海が手元のドリンクを差し出す。
「あわわっ?大丈夫雪ちゃん!どうしたの!?」
「うっ、……だ、大丈夫っ。……た、たこ焼きが変なとこに入っただけっ」
大海からドリンクを受け取り、大きく二、三口飲んで、ようやく落ち着く。だが、心の中は全く動揺が収まっていない。
(……な、なぜ蒸し返す!?)
必死に平静を装って、暖雪は早口でぼそぼそと大海に言葉を返した。
「ま、まあ俺もいい歳だし……。いやゲイには結婚とかないから年齢は関係ないんだけど……。て、てか意外ってどういうことだよ」
「いや普通に。雪ちゃんってそういう出会い系アプリとか使わないイメージだったから」
何の気もない様子で、大海はそう答える。おおらかな性格なのはいいが、妙なところで天然なのだろうか。
「あ~。ほ、ほらゲイってどうしても出会いの場がリアルだと少ないから。だからこういうのに頼らざるを得ないところあるんだよね」
「あー、なるほどなあ。……それで、いい人いた?」
「ぜ、全然……」
「そうかあ」
鼓動はドクドクと早鐘のように鳴り続けている。どういう理由で大海がこの話を広げようとしているのかが分からないのだ。そんなに暖雪の恋愛事情が気になるのだろうか。
「俺も今フリーなんだあ。けど友達はリア充ばっかでさあ。SNSにイチャイチャしてる写真がいっぱい投稿されてるの。やんなっちゃうよねえ」
「お、おう……」
しかもこの微妙に反応に困るフリ。会話の上手な人間ならこういう時適切な返しが思いつくのだろうか。いっそこの場での正解の言葉を目の前の男に聞いてみたい。
「今の学生は大変だな。俺くらいの年になるともうそういうのもなくなってくるけどな」
「いやあ、でもみんな楽しそうだよ~。ちょっと羨ましいなあ。そういやこないださ、グループで遊びに行ったのに、その中にいた友達カップルがひたすら自分たち二人だけで写真撮ってたの。でね、みんなで来たんだからみんなで撮ろうよって言ったら“ツーショット撮るのに最高の場所に来たんだからほっといて”だって。俺もみんなもちょっと呆れちゃったけどさ、それだけの相手に出会えるってのは、きっとすごく幸せなんだろうねえ」
(単に愚痴というか、普通の雑談がしたくてそれが恋バナ風になってるだけか……?)
大海の言葉の真意が図りかねる。こないだまで大学生だった大海だから、そんなノリが好きでもおかしくはない。でも、できれば先ほどからのこの困惑の気持ちを感じ取ってほしいところだ。暖雪の目から見て、大海はそれくらいの空気の読めない人間ではないと思っていた。なのに、これは一体どういうわけなのだろうか。
ぐるぐると考えているうちに、ある一つの仮説が浮かび上がってくる。
(……もしかして、気、使われてるとか?)
アプリでの恋活が上手くいっていないという従兄に対して、自分もあまりそういう方面では良い思いをしていないのだと暗にほのめかし、こっちの気を紛らわそうとしてくれているのではないか。
もしそうだとしたら、それは彼なりの気遣いのつもりかもしれない。でも暖雪としてはあまり嬉しくなかった。そんなことをするくらいなら、この件について一切触れないでいてくれたほうが助かる。
「……」
自分の考えが合っているか否かは当然分からない。しかし、一旦そんな考えに取りつかれてしまうとどうにも抜け出せない。
そもそも、年下から気を使われているという状況そのものが、暖雪にとっては堪えがたいものだった。おまけに、大海は昔から自分のことを“良いお兄ちゃん”として慕ってくれる存在なのだ。
何かが、暖雪を内側から突き動かしていた。暖雪の中にある、暗くて重い後ろめたさだった。それは、誰にも言えず密かにエネマグラを所持していることなどではない。もっともっと昔から暖雪の中にあった、暖雪自身の根幹に関係することだった。
頭がおかしくなりそうな衝動だった。どうすればいいか分からない。冷静な思考を失った暖雪は、堪らずこんなことを口にしていた。
「……け、けどさ、世の中恋人いるとかいないとか関係なしにその場限りの相手探してるやつだらけだよ。みんなやりたい放題。このアプリ使ってる層が悪いのかもしれないけどさ、俺も誰か特定の一人を探すことばかりに一生懸命にならずに、どんどん違う男と出会っていくべきなのかも。違うアプリに乗り換えようかな、最近は同性愛者向けのやつも充実してきてるし」
「……え」
大海の、綺麗なくっきりした二重の眼が、一瞬軽く揺らいだような気がした。
(……しまった)
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その場の時の流れが、止まったかのようだった。時を戻せたらと強く思うが、当然それは叶わなかった。
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