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23 見栄とハンバーグ
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「!?」
大海が、食べていたハンバーグを一かけらフォークに刺し暖雪の口元に突き出したのだ。つい反射的に、暖雪は口を開いて“あーん”を受け入れてしまう。
「あぐっ、……むぐぐっ?」
口の中に、どっしりとしたハンバーグの塊が濃厚なソースをまとって転がり込んできた。思わず舌と歯で押しつぶす。ひき肉が柔らかくほどけ、じゅわっとした大量の肉汁が口の中を満たした。香ばしい炒め玉ねぎとナツメグが脳にダブルパンチを喰らわせ、ダメ押しに半熟目玉焼きの黄身までついてくる。
“めっちゃうめえ”という気持ちと、“何してんだこいつ!?”という気持ちがないまぜになるも、咀嚼の最中で言葉を発することができない。結果、暖雪は「うぐぐぐ……」と喉の奥からくぐもった声しか出せなかった。
「ふふ、おーいしい?」
一人バタバタと慌てふためく暖雪の前で、大海は妙にご満悦だ。先ほど暖雪の口に突っ込んだそのフォークを、片手でくるくる弄んでいる。
「美味い」
ようやく暖雪はごくんと口の中のものを飲み込み。
「ていうか、え。……な、何してんの?」
やっとそれだけ言うと、目の前の従弟はしれっとこう答えた。
「いやあ、雪ちゃんといえば何か目玉焼きハンバーグのイメージあったから。つい」
「……ついって。いっ、いやいやそんなっ、そんなんでいきなりいい大人が“あーん”とかするかよ!」
憤然としてみせる暖雪だったが、正直、メニューを見ていた時から目玉焼きつきのハンバーグはとても気になっていた。大海の言う通り、子供の頃からの好物なのだ。ただ、今ここでそれを頼むのが妙に気恥ずかしく、ちょっと格好つけてビーフシチューを選んだのだった。それももちろんとても美味しかったが、大海の前に置かれたハンバーグを見て自分の選択を微妙に後悔したりもしていたのである。
もちろん、そんなこと誰にも口が裂けても言えないが。
「ごめんごめん。ちょっと気になっちゃって」
大海は動じず自分の食事を再開している。そんな彼の姿を見ていると、まるで動揺している自分の方がおかしいような気がしてきてしまう。狐につままれたような気分とはこのことか。
「昔さあ、じいちゃんち行った時みんなでよく連れてってもらったレストランあるじゃん?雪ちゃん毎回目玉焼きハンバーグ頼んでたから」
「そ、そんなにいつもハンバーグ頼んでたっけ?よく覚えてるなそんなこと」
そして始まる、唐突な思い出話。
暖雪はとぼけてみせたが、内心は全く違った。まるで、背伸びしていた自分を大海に見透かされたような気がしたのだ。
「頼んでたよ~。いつも大人っぽい雪ちゃんがさ、あの時だけすごく可愛い笑顔見せるからすごく印象に残ってる。」
「か、可愛い……?」
呆然としてしまう。可愛い。そう言えば昨夜も大海からかけられた言葉だ。
いくら従兄弟とはいえ、年上に何度もそんな言葉をかけるのはどうだろう。しかも男同士だ。
「うん、ちょうど今みたいなね、すごく可愛い目してた」
おまけに、こっちは遥々アメリカから来た従弟の面倒を見てやらねばと多少なりとも気を張っているにも関わらず。
「ひっ、ひひ人に可愛いとか言うなっ!」
「ふふふっ」
手のひらの上でコロコロ転がされているような会話だ。コミュニケーションの取り方の癖が強すぎる。大海という人間に対して言うにはあまりにも今さらだが、突拍子がないにも程があるだろう。
どうしていいか分からずぎゅっと両手を握るも、でもそれでもやはり暖雪は嫌な感じがしなかった。それどころか。
(……何だろう、この気持ち)
何だかやたらと、……心地がいいような。
目まぐるしく変化する自分の感情の手綱を、自分自身が握れない。いつもそうだ、大海といると心を乱され、全くコントロールが利かなくなってばかりの状況に陥ってしまう。なぜ大海といると自分はこうなってしまうのだろう。
「……よかった、ほっとした」
「な、何の話だ?」
穏やかな微笑と共にかけられた謎の言葉の意味を短く問いただすと、大海は珍しく口をきゅっと結んでみせた。暖雪が何も言えないでいると、「……雪ちゃん」と不自然な間を開けて名前を呼ばれる。
「な、なんだよ」
「……ううん、何でもない」
呼びかけに反応して返ってきたのは、彼らしくない不明朗な言葉だった。
「な、なんだよ気味わりぃな。言えって」
「ねえ雪ちゃん。雪ちゃんは休みの日とかいつも何してるの?」
「はあ?」
それどころか、空気をぶった切られてしまう。困惑したが、気まずい雰囲気にこれ以上触れたくなかったのも正直なところだ。素直に話題の切り替えに付き合う。
「さっきも言ったけど、家のこと以外は特に何も。趣味もないし……」
言いながら、少し引け目を感じる。先ほど家ではいつも暇だと大海に言ったのは、別に気を使わせまいとしてのことではなく真実だ。飲まない、吸わない、打たない、もちろん買わない、それが暖雪である。
「強いて言うなら勉強してるかな。仕事で使う法律のこととか。あとは他の自治体のやってることも知りたいから地方のニュース見たり」
「うわあすげえ!本当雪ちゃん真面目なんだなあ!」
「そ、そんな褒められるようなことじゃないよ」
暖雪からすると、大海のように自分の特技に磨きをかけたり、夢に向かって邁進する人生が羨ましいくらいだ。
だからそんな言葉をかけられても、嬉しい以前にますます反応に困ってしまう。
一方、なぜか大海の方が暖雪の代わりに自分のことのように誇らしげな表情をしていた。
誇らしげを通り越して、ドヤ顔みたいな表情を浮かべている。
「……それ今何の感情?」
「ふふ、別に」
(……変な奴)
これとそっくりな大海を、暖雪は見たことがある。そう、まるで。
まるで。
(……昔、川遊びの帰り大人たちに俺と遊んだことを報告してる時みたいな)
大海が、食べていたハンバーグを一かけらフォークに刺し暖雪の口元に突き出したのだ。つい反射的に、暖雪は口を開いて“あーん”を受け入れてしまう。
「あぐっ、……むぐぐっ?」
口の中に、どっしりとしたハンバーグの塊が濃厚なソースをまとって転がり込んできた。思わず舌と歯で押しつぶす。ひき肉が柔らかくほどけ、じゅわっとした大量の肉汁が口の中を満たした。香ばしい炒め玉ねぎとナツメグが脳にダブルパンチを喰らわせ、ダメ押しに半熟目玉焼きの黄身までついてくる。
“めっちゃうめえ”という気持ちと、“何してんだこいつ!?”という気持ちがないまぜになるも、咀嚼の最中で言葉を発することができない。結果、暖雪は「うぐぐぐ……」と喉の奥からくぐもった声しか出せなかった。
「ふふ、おーいしい?」
一人バタバタと慌てふためく暖雪の前で、大海は妙にご満悦だ。先ほど暖雪の口に突っ込んだそのフォークを、片手でくるくる弄んでいる。
「美味い」
ようやく暖雪はごくんと口の中のものを飲み込み。
「ていうか、え。……な、何してんの?」
やっとそれだけ言うと、目の前の従弟はしれっとこう答えた。
「いやあ、雪ちゃんといえば何か目玉焼きハンバーグのイメージあったから。つい」
「……ついって。いっ、いやいやそんなっ、そんなんでいきなりいい大人が“あーん”とかするかよ!」
憤然としてみせる暖雪だったが、正直、メニューを見ていた時から目玉焼きつきのハンバーグはとても気になっていた。大海の言う通り、子供の頃からの好物なのだ。ただ、今ここでそれを頼むのが妙に気恥ずかしく、ちょっと格好つけてビーフシチューを選んだのだった。それももちろんとても美味しかったが、大海の前に置かれたハンバーグを見て自分の選択を微妙に後悔したりもしていたのである。
もちろん、そんなこと誰にも口が裂けても言えないが。
「ごめんごめん。ちょっと気になっちゃって」
大海は動じず自分の食事を再開している。そんな彼の姿を見ていると、まるで動揺している自分の方がおかしいような気がしてきてしまう。狐につままれたような気分とはこのことか。
「昔さあ、じいちゃんち行った時みんなでよく連れてってもらったレストランあるじゃん?雪ちゃん毎回目玉焼きハンバーグ頼んでたから」
「そ、そんなにいつもハンバーグ頼んでたっけ?よく覚えてるなそんなこと」
そして始まる、唐突な思い出話。
暖雪はとぼけてみせたが、内心は全く違った。まるで、背伸びしていた自分を大海に見透かされたような気がしたのだ。
「頼んでたよ~。いつも大人っぽい雪ちゃんがさ、あの時だけすごく可愛い笑顔見せるからすごく印象に残ってる。」
「か、可愛い……?」
呆然としてしまう。可愛い。そう言えば昨夜も大海からかけられた言葉だ。
いくら従兄弟とはいえ、年上に何度もそんな言葉をかけるのはどうだろう。しかも男同士だ。
「うん、ちょうど今みたいなね、すごく可愛い目してた」
おまけに、こっちは遥々アメリカから来た従弟の面倒を見てやらねばと多少なりとも気を張っているにも関わらず。
「ひっ、ひひ人に可愛いとか言うなっ!」
「ふふふっ」
手のひらの上でコロコロ転がされているような会話だ。コミュニケーションの取り方の癖が強すぎる。大海という人間に対して言うにはあまりにも今さらだが、突拍子がないにも程があるだろう。
どうしていいか分からずぎゅっと両手を握るも、でもそれでもやはり暖雪は嫌な感じがしなかった。それどころか。
(……何だろう、この気持ち)
何だかやたらと、……心地がいいような。
目まぐるしく変化する自分の感情の手綱を、自分自身が握れない。いつもそうだ、大海といると心を乱され、全くコントロールが利かなくなってばかりの状況に陥ってしまう。なぜ大海といると自分はこうなってしまうのだろう。
「……よかった、ほっとした」
「な、何の話だ?」
穏やかな微笑と共にかけられた謎の言葉の意味を短く問いただすと、大海は珍しく口をきゅっと結んでみせた。暖雪が何も言えないでいると、「……雪ちゃん」と不自然な間を開けて名前を呼ばれる。
「な、なんだよ」
「……ううん、何でもない」
呼びかけに反応して返ってきたのは、彼らしくない不明朗な言葉だった。
「な、なんだよ気味わりぃな。言えって」
「ねえ雪ちゃん。雪ちゃんは休みの日とかいつも何してるの?」
「はあ?」
それどころか、空気をぶった切られてしまう。困惑したが、気まずい雰囲気にこれ以上触れたくなかったのも正直なところだ。素直に話題の切り替えに付き合う。
「さっきも言ったけど、家のこと以外は特に何も。趣味もないし……」
言いながら、少し引け目を感じる。先ほど家ではいつも暇だと大海に言ったのは、別に気を使わせまいとしてのことではなく真実だ。飲まない、吸わない、打たない、もちろん買わない、それが暖雪である。
「強いて言うなら勉強してるかな。仕事で使う法律のこととか。あとは他の自治体のやってることも知りたいから地方のニュース見たり」
「うわあすげえ!本当雪ちゃん真面目なんだなあ!」
「そ、そんな褒められるようなことじゃないよ」
暖雪からすると、大海のように自分の特技に磨きをかけたり、夢に向かって邁進する人生が羨ましいくらいだ。
だからそんな言葉をかけられても、嬉しい以前にますます反応に困ってしまう。
一方、なぜか大海の方が暖雪の代わりに自分のことのように誇らしげな表情をしていた。
誇らしげを通り越して、ドヤ顔みたいな表情を浮かべている。
「……それ今何の感情?」
「ふふ、別に」
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