エッチな玩具オナニーがやめられないのにコミュつよイケメン従弟(ぶっちゃけ苦手)と同居することになってしまった

松任 来(まっとう らい)

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28 出張料理講師

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二日後……。
時刻は二十一時。疲れた身体を引きずり、暖雪は家路を急いでいた。
せめて最初の一週間くらいは、大海より先に帰っていてやろうと思っていたのだが、今日は突発的な仕事が重なりどうしても残業せざるを得なくなってしまったのだ。

(結局こうなるのかあ……)
大海と同居してたった数日で、こんな風にバタバタしてしまっていることが少し悲しい。事前に自分が予想していた通り、大海のサポートなどろくにできやしないのである。
大海の方は、今日も七時過ぎに帰宅できているらしい。『雪ちゃんの分も夕飯用意しとくからね!』という笑顔の絵文字つきラインが、退勤直前に送られてきていた。何かスーパーで適当に買っておいてくれたのだろうか。こんなにも気を回してもらって申し訳ない。
(そのうち二人ともが帰り遅いって日も出てくるだろうから、大海と相談して二人分の宅配弁当利用しないか誘おうかな)

そんなことを考えながら、暖雪は自宅扉を開けた。
「……え?」
玄関に、何だか見覚えのある女性もののサンダルが揃えて置いてある。
強烈な懐かしさを感じる、このサンダルの持ち主は……。

「……った、ただいま!」
慌てて廊下を駆け抜け、暖雪はリビングに入った。
 
「あ、雪ちゃんおかえりー!」
「暖雪!お疲れさま!」
そんな二人分の声に迎えられ、暖雪は驚きで立ち尽くしてしまう。
「……か、母さん!?」
そこには、大海と、暖雪の母親の姿があった。ついこないだまで物件巡りを一緒にしていたから特に久しぶりの再会でもない。

「てか、何?料理してんの?二人で?」
思わず矢継ぎ早な質問になってしまう。大海と母親が二人並んで立つキッチンには、野菜などの食材が切られた痕跡と、何かが煮えているらしい鍋が湯気を立てている。
「大海くんからね、料理教えてほしいって連絡もらったのよ。ちょうど私も都合がついたし、じゃあ今日色々買いこんで一緒にやろうかって」
「マジかよ……」
二人ともに行動力と体力がすごすぎる。というか、この母親、いきなり息子の新居で馴染みすぎではないか。目線を移すと、にっこり笑ってお玉を持つ大海と目が合った。
「仕事もっと本格的に始まったら、家事覚える暇なんてないしなと思って。早いうちに早苗伯母さんに習うことにしたんだ」
近づいて、鍋の中を覗き込む。野菜が数種類入った味噌汁だった。味噌の香りに、ふんわりと包まれるようだ。

「お米の炊き方と、お味噌汁の作り方と野菜の切り方マスターしたよ!ていっても簡単なのだけど」
そう言ってから、大海は少しばつが悪そうに続ける。
「こうやって料理の初歩的なことは最初に覚えておいて、あとは仕事の合間に少しずつ勉強したいと思ってるんだ……。いいかな?」
先日の暖雪の言葉を受けてのことだろう。正直、ここまでやってくれるのは悪い気はしなかったし、そんなにしてまで家事を覚えたいという大海の気持ちを無下にもできなかった。
「……おう、分かった。ただ絶対に無理はするなよ?仕事が優先な?」
きちんと言い含めておかなければ。これで大海が仕事で躓きでもしたらどう責任をとっていいのか分からない。

「今時はお出汁の入ったチューブのお味噌なんてあるから煮込んで計量するだけでお味噌汁できるのよね。あとは米さえ炊いちゃえば最低限の献立は完成したも同然ね」
母親がてきぱきと生ごみの始末をしながら言う。何だかその声色がどうも嬉しそうなことに、暖雪は気が付いた。
 
(……わざわざうるさくは言わなかったけど、やっぱり俺の食生活のこと気にしてたのかな)
密かに、親に心配をかけていたのだろうか。暖雪の心が、僅かに暗くなる。
「うちで余ってた調理器具も一通り持ってきたからね。包丁とかまな板とかボウルとか。とりあえず使ってなさい」
その言葉からは、やはり自分の息子が、これからはしっかり自炊をしてくれるのだという期待しているように感じる。
(……そういや、前も一度実家にある調理器具送る、って言われたんだった。めんどくさくて、自分で買うからいいよなんて言ってそのままずるずる来てたんだよな)
そんな風に自己嫌悪に陥る暖雪に、大海が明るく語りかけた。
「てなわけで、今日のご飯は俺が炊いた米と、俺が切った野菜の味噌汁と和え物とサラダね!……肝心のメインはとりあえず今日も買ってきたお惣菜で。えへへ、ごめんね時間なくて」

「い、いやありがとう。すごく嬉しい……」
礼の言葉が、どうしてもぎこちなくなってしまう。暖雪にとって、この食事は色んな人への罪悪感で調味されたものになりそうだ。
 
料理を作り終えた母親は、明日の仕事の都合でもう帰らなければならないという。「本当は夕飯ご一緒したかったんだけど~」と残念そうに靴を履く母親を下の駐車場まで送ろうと、暖雪と大海も家を出た。

「今日は本当ありがとうね。またぜひ近いうちに来てよ!それまでに俺、料理の腕磨いとくからさ!」
「わあ楽しみ。じゃあ今度会う時はホームパーティーね」
大海とにこやかに言葉を交わし、母親はスマホをちらりと見た。「もうこんな時間かあ」と呟いた後、暖雪の方に向き直る。
「いつも帰りこのくらいの時間なの?」
「いやそんなことないよ。今日はたまたま色々重なって」
生あくびをしながら答える暖雪に、母親の声のトーンが一段低くなった。
「……そう。問い合わせの電話とかいっぱい来てるの?」
「いや。件数自体は大したことなかったけど、話聞いてると色々心配になるような人多くてさあ」

大事な税金を払ってくれる市民の相談に乗るのも暖雪たちの大事な仕事だ。役所がそこまで一市民に肩入れする必要はないという意見もある。だが、暖雪としてはわざわざ足を運んだり電話をくれる目の前の市民には極力向き合いたいのだった。
困っている人には少しでも助けになる制度を案内するし、その申請のサポートもする。控除やら還付やらを上手く使って、上手く税金と付き合ってほしい。相談にさえ来てくれれば、そこから福祉に繋げることもできるのだ。税金は市民の暮らしを向上させるために納めるものであって、こっちは搾り取ろうとしてなんていない。そのことも極力伝えていきたいという思いがあった。

一方、役所をはなから敵として見なしてくるような人々にもたびたび出会う。
いちゃもんのような、“こんな高い金払えるわけない”という相談という名の文句を今日だって連続で受け、そうしてやっと窓口の時間が片付いたと思えば今度は割り振られた書類仕事だ。
効率良く終わらせようと毎日工夫してはいるのだが、やはりどうしても課全体の傾向として残業は多くなってしまう。

「頑張ってるんだね」
「別に。これくらい褒められるようなことじゃないよ」
母親から労わりの目を向けられるが、暖雪はそんなことを言ってしまう。いや、本心からの言葉である。心身共に疲弊してはいるが、これくらいは不平を言わずこなしていかなければならない業務量だと思っていた。

「…………」

「何?」
母親は、なぜか暖雪が仕事で苦労しているという話を聞くと、とても歯切れが悪い様子を見せる。それは、ほぼ毎回だ。
暖雪の体調を心配しているのかもしれない。だが、それだけではなさそうな雰囲気を感じるのだ。暖雪はその度に訳を尋ねるが、毎回はぐらかされるような気がする。
「ううん、何でもない」
”気がする”、だけだ。“気がする”という、あくまでそれだけだから。

暖雪は、それ以上深堀りしたことはない。
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