エッチな玩具オナニーがやめられないのにコミュつよイケメン従弟(ぶっちゃけ苦手)と同居することになってしまった

松任 来(まっとう らい)

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36 欺瞞

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「ありがとな。色々考えてくれて。アプリの方の成果も見ながら検討してみるよ」
何かが明らかにおかしい。大海だけじゃなくて、自分も。

「……」
「何だよ」
沈黙する大海に目線を向けると、彼はまたも別人のように、しゅんとしたような表情を浮かべていた。
「……ううん」
何か言いたいことを飲み込んだかのような表情で、大海は食事を再開する。
そんな姿をとても見ていられず、暖雪は皿の上のものをかきこむと食器を重ねて立ち上がった。少し足元がおぼつかないような気がする。自分の身体なのに他人に操作されてるような感覚が、まだ抜けない。

(……さっき)

ほんの数十秒前の光景。あの大海の目が、言葉が、激しく暖雪の中でフラッシュバックする。

(俺はさっき、大海にむかって手を伸ばしかけた)
なぜだろう。助けを求めるためだろうか。
終わりのないかのように思えるアプリでの恋人探し。辛く苦しいその暗闇から、抜け出したくて、彼に救い上げてほしいと直感的に思ってしまったのだろうか。
”アプリを使うのを止めろ”と優しい言葉をかけてくれた彼に、すがりつこうとして。だから自分はさっきあんな行動に出かかったのだろうか。

「……」

暖雪は力なく食器をシンクに置いた。

(俺は大海の”良いお兄ちゃん”でいないといけない。ずっと。いつまでも)
何度目になるか分からないその想いを、暖雪は心に浮かべる。いつもと違いやけに弱弱しく胸の内に響く、そのフレーズを。
(だからいくら恋人探しが嫌でも、大海に弱音を吐くわけにはいかないんだ。大海の中の”お兄ちゃん”である俺の姿を傷つけるわけにはいかないから)

そう、大海の前ではいつも頼れる人間でいなければ。さっきは危ないところだった。”実はアプリで会う男たちにはもううんざりしているんだ”などと、絶対に本音を零してはならないのに。それは彼に甘えるということだ。そんなことしてはいけないのだ。

(だからだ。だから……、なんだ)

だから、自分は大海の要望に沿うわけにはいかないのだ。
そうに違いないのだ。

(もしかしたら、思った以上に結構心配かけてたのかも)

大海が帰国してきたあの夜。うっかり口を滑らせてしまった自分に、大海は僅かに動揺する様子を見せた。てっきり誰彼構わず遊び回っている印象を与えてしまったかと思ったが、優しい大海は実は密かに心配してくれていて、それでアプリはもう使うなと言ってきたのかもしれない。

(よくないよな、うん。それはよくない)

その翌日に目玉焼きハンバーグを食べながら、大海は昔の暖雪のことを“かっこよかった”と言ってくれた。“憧れだった”とも。そのことを考えれば、絶対に大海に自分の弱みを見せられない。彼からの厚意を無駄にするようで悪いが、これは自分一人だけで解決すべき問題であり、遂行しなければならない任務なのだから。

「……」

何度も何度も自分に言い聞かせる。だが、込み上げるのは強烈な違和感ばかりだ。素早く皿を洗い、暖雪は努めて明るく大海のほうを振り返った。
「ごちそうさま。ありがとう、美味しかったよ。お前の食った分洗わなくていいからそこ置いときな。後で俺がやっとく」
なけなしの“良いお兄ちゃん”像だったとしても、それを必死で守り抜くしか自分には残された道はないのだ。
「なんか色々ごめんな。お前はどんどん結果出してるっていうのに。俺だってもっとしっかりしてないと。ははは」

そう笑って、暖雪はついでとばかりに大海の肩をポンポン叩く。

「俺のことなんて気にしてくれなくていいよ。お前は仕事頑張んな」
そう言って、暖雪は掃除の続きに取りかかろうとその場を後にする……、予定だった。それはまたも大海の予想外の行動でくじかれることとなる。
「雪ちゃん」
肩に乗せた腕に掴みかからんばかりの勢いで、大海は暖雪にこう尋ねてきたのだ。
「俺が仕事頑張ったら、アプリで出会うのやめてくれる!?」

「はあ?」
ぎょっとした暖雪は、思わず大海のその顔を凝視する。
真剣な目をしていた。これはその場のノリや思いつきで言っているのではない。
言葉の意味は分からない……、だが、自分も真摯に応えて返さねば。そう思わせられるような顔つきだった。
……なのに。

「……お、お前、どうしたんだよ。……なんで、そんなこと言うんだよ」

口から出てきたのはそんな言葉だった。
違う。絶対にそうではない。今言うことは絶対にこれではない。そう心でははっきり分かっているのに。

「……」
暖雪が胸の中で後悔の念をぐるぐる蠢めかせている間に、大海はしばし黙って、その後ふっと刺のない顔に戻った。
そして憑き物が落ちたかのように一言こう呟く。
「……ごめん。俺、……変だよね」
その表情はひどくしょんぼりとしていて、暖雪は咄嗟になぐさめてやりたい気持ちに駆られた。可愛い弟がこんな顔をしているのだ。“大丈夫だよ”と今すぐ優しく声をかけて、できる限りの望みを叶えてやりたい。

だが、そんなことが実行できるはずもなかった。“これ以上深入りすると後戻りできない”。またあの謎めいた感覚が襲ってきたからだ。
暖雪は結局ただやり場のないもやもやを抱えたまま、きゅっと口を結んでいることしかできなかった。
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