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八章
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謎の感情に振り回されて、一睡も出来ないまま朝を迎えた。
後一時間で学校に行く時間になってしまったし、学校に行って寝た方が良いかもしれない。
遅刻をしなくて済むから、あの口煩い担任に怒られることもなくなるだろうし。
そう考えて学校に向かった俺は、今更やってきた眠気に逆らえず、大きな欠伸をしながら教室の入り口を開けた。
「は?」
何故か俺の席には見覚えのある先客がいて、静かな寝息を立てていた。
「……いやいや、意味がわかんねえ」
今は七時二十九分だし、毎日遅刻ギリギリで登校してくる宮田が此処にいる筈がない。
なのに何故、早く来た日に限って宮田が来ていて、俺の席で寝ているんだ。
俺の声が目覚まし時計の役目を果たしたのか、起き上がった宮田がぼんやりとした顔を俺に向けた。
視線と視線が絡み合った瞬間、昨夜の動悸が再び目を覚まして困惑した。
何だよコレ。何なんだよ、コレは。
「あき?」
いつもと違う様子を感じ取ったのか、俺を心配する宮田の声が聞こえた。
席を立って、俺へと向かってくる宮田から視線を外せないのに、足だけが後退る。
心臓がバクバクと鳴って、あと数歩で俺へと辿り着く宮田を見た瞬間、逃げるように廊下へと走り出していた。
「あき!?」
動揺を含んだ声が背中を追ってきたけど、振り返る事は出来なかった。
俺最低だなんて思っても、走り出した俺の足は止まっても戻ってもくれない。
それに、昨日の電話のこともあるし、今戻っても怒りに染まった宮田の顔を見るだけだろう。
それが何故か怖くて、目的地すらないのに必死に走り続けていた。
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