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35話 貴族の噂
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side アイザック
「お前、何かしたのか?」
「いや、さっき会ったばかりだよ。ちょっと怖がらせちゃったかな…」
ディランはいつも柔らかい物腰だから、あんなふうに怯えられるのは珍しい。
「お前に懐かないやつなんて滅多にいねぇのにな」
歩夢は人見知りだと言っていたし、仕方ないか――そんなふうに考えながら酒を取り出す。
そこでふと思い出して、本題を切り出した。
「で、例の情報はどうだ?」
「少しずつだけど順調だよ。もう少しで黒幕にたどり着けそうだ」
今俺たちが話しているのは、貴族の裏で噂される“人身売買”についてだ。
獣人だけでなく、中には落ち人まで含まれているらしい。
人身売買は違法だが、裏では流行っているという最悪の話だ。
そもそも俺とディランが調査を始めたのは、こいつが番探しの旅の途中で、突然その相手の匂いが消えたと言い出したからだ。
匂いが完全に途切れるなんて、普通じゃありえない。
もし監禁されてたら――そんな最悪、考えたくもねぇ。
ディランの番がどこかで苦しんでいるかもしれない。
そう思えば、協力しないという選択肢はなかった。
騎士団にいる幼なじみも巻き込んで、俺たちは少しずつ真相に近づいている。
「もし見つからなくても、事件と無関係ならそれでいい。だけど、もし何かあったときは、自分でも何をするかわからないよ」
「……今ならその気持ち、よく分かる」
運命の番なんて、自分には一生関係ないと思っていた。
だが太一に出会ってしまった。
もしあいつに何かあったら。
俺も正気でいられる自信はない。
番ってのは、それくらい自然と求めてしまう相手だ。
そんな思いを胸の奥で噛みしめながら、俺たちは酒を酌み交わし、情報を交換しつつ夜が深まるまで語り合った。
───────────────────
side ディラン
ノウゼンカズラに到着した私は、友人であり幼なじみであるアイザックの家に滞在していた。
番の匂いはまだ感じない。
それでも“この街にいる”という確かな確信だけは胸の奥にずっと灯っている。
しばらく過ごすうちに、貴族の間で人身売買が行われていると耳にした。
落ち人までも売り買いされていると知った時、胸の奥がひどく冷えた。
もしや――最悪の事態が起きているのでは。
そう考えたら、じっとしていられなくなり、毎日情報集めに奔走した。
騎士団の幼なじみも協力してくれて、ようやく事件の姿が少しずつ見えてきたところだ。
今日も変わらず、情報収集を終え、アイザックの家へ戻る。
ガチャ
「よ、おかえり。昨日言った通り俺の知り合いが今日から泊まるから、一応紹介しとくな」
家に上がるなり、アイザックは私をリビングへ連れて行き、ソファに座る二人の少年に向かって紹介し始めた。
一人はアイザックの運命の番。もう一人はその弟だという。
話には聞いていたが、実際に目の前に立つ二人は想像以上に可愛らしくて、少し驚いてしまった。
だが失礼がないようすぐ気持ちを切り替える。
「はじめまして。ディラン・カーライルと言います。気軽にディランと呼んでください。まさかアイザックに、こんな可愛らしい友人がいるとは驚きました」
アイザックの番はクールな雰囲気なのに、人当たりがよくて気さくな印象だ。
けれど……弟のほうは、私を見た瞬間に目を大きく見開き、それきり固まってしまった。
なにか失礼なことをしてしまったのだろうか。
胸がざわつく。
そのまま会話も続かず、二人は早めに部屋へと戻っていった。
どうしてだろう。
番は必ずこの街にいるはずなのに、何故かあの弟くんが気になって仕方がない。
けれどこんな至近距離にいて匂いがしないのなら、彼が番であるはずがない。
私は嗅覚が鋭い。どれだけ匂いを隠されても、微かな気配くらいは拾えるはずなのに。
なのに――気になってしまう。
理由が分からないまま胸の奥だけがざわつき、答えの見えないもどかしさを抱えて、私はアイザックの差し向けてきた話題に意識を向けることにした。
「お前、何かしたのか?」
「いや、さっき会ったばかりだよ。ちょっと怖がらせちゃったかな…」
ディランはいつも柔らかい物腰だから、あんなふうに怯えられるのは珍しい。
「お前に懐かないやつなんて滅多にいねぇのにな」
歩夢は人見知りだと言っていたし、仕方ないか――そんなふうに考えながら酒を取り出す。
そこでふと思い出して、本題を切り出した。
「で、例の情報はどうだ?」
「少しずつだけど順調だよ。もう少しで黒幕にたどり着けそうだ」
今俺たちが話しているのは、貴族の裏で噂される“人身売買”についてだ。
獣人だけでなく、中には落ち人まで含まれているらしい。
人身売買は違法だが、裏では流行っているという最悪の話だ。
そもそも俺とディランが調査を始めたのは、こいつが番探しの旅の途中で、突然その相手の匂いが消えたと言い出したからだ。
匂いが完全に途切れるなんて、普通じゃありえない。
もし監禁されてたら――そんな最悪、考えたくもねぇ。
ディランの番がどこかで苦しんでいるかもしれない。
そう思えば、協力しないという選択肢はなかった。
騎士団にいる幼なじみも巻き込んで、俺たちは少しずつ真相に近づいている。
「もし見つからなくても、事件と無関係ならそれでいい。だけど、もし何かあったときは、自分でも何をするかわからないよ」
「……今ならその気持ち、よく分かる」
運命の番なんて、自分には一生関係ないと思っていた。
だが太一に出会ってしまった。
もしあいつに何かあったら。
俺も正気でいられる自信はない。
番ってのは、それくらい自然と求めてしまう相手だ。
そんな思いを胸の奥で噛みしめながら、俺たちは酒を酌み交わし、情報を交換しつつ夜が深まるまで語り合った。
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side ディラン
ノウゼンカズラに到着した私は、友人であり幼なじみであるアイザックの家に滞在していた。
番の匂いはまだ感じない。
それでも“この街にいる”という確かな確信だけは胸の奥にずっと灯っている。
しばらく過ごすうちに、貴族の間で人身売買が行われていると耳にした。
落ち人までも売り買いされていると知った時、胸の奥がひどく冷えた。
もしや――最悪の事態が起きているのでは。
そう考えたら、じっとしていられなくなり、毎日情報集めに奔走した。
騎士団の幼なじみも協力してくれて、ようやく事件の姿が少しずつ見えてきたところだ。
今日も変わらず、情報収集を終え、アイザックの家へ戻る。
ガチャ
「よ、おかえり。昨日言った通り俺の知り合いが今日から泊まるから、一応紹介しとくな」
家に上がるなり、アイザックは私をリビングへ連れて行き、ソファに座る二人の少年に向かって紹介し始めた。
一人はアイザックの運命の番。もう一人はその弟だという。
話には聞いていたが、実際に目の前に立つ二人は想像以上に可愛らしくて、少し驚いてしまった。
だが失礼がないようすぐ気持ちを切り替える。
「はじめまして。ディラン・カーライルと言います。気軽にディランと呼んでください。まさかアイザックに、こんな可愛らしい友人がいるとは驚きました」
アイザックの番はクールな雰囲気なのに、人当たりがよくて気さくな印象だ。
けれど……弟のほうは、私を見た瞬間に目を大きく見開き、それきり固まってしまった。
なにか失礼なことをしてしまったのだろうか。
胸がざわつく。
そのまま会話も続かず、二人は早めに部屋へと戻っていった。
どうしてだろう。
番は必ずこの街にいるはずなのに、何故かあの弟くんが気になって仕方がない。
けれどこんな至近距離にいて匂いがしないのなら、彼が番であるはずがない。
私は嗅覚が鋭い。どれだけ匂いを隠されても、微かな気配くらいは拾えるはずなのに。
なのに――気になってしまう。
理由が分からないまま胸の奥だけがざわつき、答えの見えないもどかしさを抱えて、私はアイザックの差し向けてきた話題に意識を向けることにした。
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