愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん

文字の大きさ
36 / 76

35話 貴族の噂

しおりを挟む
side アイザック


「お前、何かしたのか?」

「いや、さっき会ったばかりだよ。ちょっと怖がらせちゃったかな…」


ディランはいつも柔らかい物腰だから、あんなふうに怯えられるのは珍しい。

「お前に懐かないやつなんて滅多にいねぇのにな」

歩夢は人見知りだと言っていたし、仕方ないか――そんなふうに考えながら酒を取り出す。
そこでふと思い出して、本題を切り出した。

「で、例の情報はどうだ?」

「少しずつだけど順調だよ。もう少しで黒幕にたどり着けそうだ」

今俺たちが話しているのは、貴族の裏で噂される“人身売買”についてだ。
獣人だけでなく、中には落ち人まで含まれているらしい。
人身売買は違法だが、裏では流行っているという最悪の話だ。

そもそも俺とディランが調査を始めたのは、こいつが番探しの旅の途中で、突然その相手の匂いが消えたと言い出したからだ。
匂いが完全に途切れるなんて、普通じゃありえない。
もし監禁されてたら――そんな最悪、考えたくもねぇ。

ディランの番がどこかで苦しんでいるかもしれない。
そう思えば、協力しないという選択肢はなかった。
騎士団にいる幼なじみも巻き込んで、俺たちは少しずつ真相に近づいている。

「もし見つからなくても、事件と無関係ならそれでいい。だけど、もし何かあったときは、自分でも何をするかわからないよ」

「……今ならその気持ち、よく分かる」

運命の番なんて、自分には一生関係ないと思っていた。
だが太一に出会ってしまった。

もしあいつに何かあったら。
俺も正気でいられる自信はない。
番ってのは、それくらい自然と求めてしまう相手だ。

そんな思いを胸の奥で噛みしめながら、俺たちは酒を酌み交わし、情報を交換しつつ夜が深まるまで語り合った。

───────────────────

side ディラン

ノウゼンカズラに到着した私は、友人であり幼なじみであるアイザックの家に滞在していた。
番の匂いはまだ感じない。
それでも“この街にいる”という確かな確信だけは胸の奥にずっと灯っている。

しばらく過ごすうちに、貴族の間で人身売買が行われていると耳にした。
落ち人までも売り買いされていると知った時、胸の奥がひどく冷えた。
もしや――最悪の事態が起きているのでは。
そう考えたら、じっとしていられなくなり、毎日情報集めに奔走した。
騎士団の幼なじみも協力してくれて、ようやく事件の姿が少しずつ見えてきたところだ。

今日も変わらず、情報収集を終え、アイザックの家へ戻る。

ガチャ

「よ、おかえり。昨日言った通り俺の知り合いが今日から泊まるから、一応紹介しとくな」

家に上がるなり、アイザックは私をリビングへ連れて行き、ソファに座る二人の少年に向かって紹介し始めた。

一人はアイザックの運命の番。もう一人はその弟だという。

話には聞いていたが、実際に目の前に立つ二人は想像以上に可愛らしくて、少し驚いてしまった。
だが失礼がないようすぐ気持ちを切り替える。

「はじめまして。ディラン・カーライルと言います。気軽にディランと呼んでください。まさかアイザックに、こんな可愛らしい友人がいるとは驚きました」

アイザックの番はクールな雰囲気なのに、人当たりがよくて気さくな印象だ。
けれど……弟のほうは、私を見た瞬間に目を大きく見開き、それきり固まってしまった。

なにか失礼なことをしてしまったのだろうか。
胸がざわつく。

そのまま会話も続かず、二人は早めに部屋へと戻っていった。

どうしてだろう。
番は必ずこの街にいるはずなのに、何故かあの弟くんが気になって仕方がない。
けれどこんな至近距離にいて匂いがしないのなら、彼が番であるはずがない。
私は嗅覚が鋭い。どれだけ匂いを隠されても、微かな気配くらいは拾えるはずなのに。

なのに――気になってしまう。
理由が分からないまま胸の奥だけがざわつき、答えの見えないもどかしさを抱えて、私はアイザックの差し向けてきた話題に意識を向けることにした。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

処理中です...