49 / 76
48話 恋敵?
しおりを挟む
「「よし、これで完成だ。それにしても、早く爺さんに見せてぇな」
ヨーゼフ爺さんがぎっくり腰で倒れてから一週間。
店は臨時休業となり、俺はというと工房に引きこもるように作業を重ねていた。静かだが、どこか物足りない日々だ。
そんなとき、窓辺に羽音がして、小さな影がとまる。
「ぴー!ぴーぴー!」
ぴーすけだ。今日も変わらず、嘴に小さく光る石を咥えている。
俺が頭を撫でてやると喉を震わせて満足げに鳴き、石だけ置いて飛び去っていく。
毎度のことながら、持ってくる石は妙に綺麗だ。
磨いたわけでもないのに光の質が良い。
それがつい気になった俺は、アイザックにそれとなく聞いてみた。
───────────────────
「──ってことで何かわからないか?」
「お前から来るなんて、やっと俺に懐いたのかと思ったら石のことか」
そう言って、呆れたように額を弾かれる。
とはいえ、面倒くさそうにしながらも場所を教えてくれる。
「ここからそう遠くはないが、そんなに欲しいのか?」
「欲しいというか、知りたいというか、……あわよくば通いたいというか」
「…はぁー、しょうがねぇ。連れてってやる。ただし──俺も一緒だ。」
「え、俺一人でも…」
「治安が悪い場所なんだよ。一人で行かせられるか」
その石場までの道のりは治安が悪いらしく、その顔つきには妥協の余地がなかった。
結局アイザックも同行することで許可が下り、その夜、歩夢にも確認すると珍しく「行きたい」と即答された。
そうして、いつの間にかディランまで同行することになり、結局四人での外出となった。
───────────────────
「相変わらずだな、ここは」
「そうだね、早く行くとしよう」
久しぶりの顔ぶれで治安の悪い街道を進むと、空気の色まで濁って見える気がした。
路地の奥に座り込む人影は皆どこか投げやりで、目だけが異様に光っている。
歩夢は眉間に力を入れ、ディランは視線を絶やさず周囲を警戒している。
その様子に、俺も通り抜けるだけで、肌にひやりとまとわりつくような感覚がした。
「なぁ、あとどれくらいで着く?」
「あとちょっとだ、怖かったら手でもつなぐか?」
そう言って、アイザックが振り返り手を差しだしてきた。
それが、気遣いなのか冗談なのか、絶妙にわからず照れ臭さが勝ってしまい、思わずその手を押し返してしまう。
その時、前方から年季の入った声が響いた。
「アイザック!久しぶりじゃないか!」
そうアイザックに歩み寄ってきたのは、歳を重ねながらも艶やかさがあり、どこか惹かれる雰囲気を漂わせた女性だった。アイザックの反応から顔なじみなのがわかる。
「相変わらず元気そうでよかったよ。よければ寄ってくかい?あたしらのよしみだからちょっとまけとくよ」
「リリー、お前も相変わらずだな。あと、俺はもうそういうのはやらねぇ、好いてるやつを今口説き中なんだ。悪いな」
その女性の場慣れした目つき、言葉の柔らかい押し──一目で“客商売のプロ”だとわかる。
けどアイザックは親し気に話しながらも、迷いなく線を引いた。
「おや、あんなに冷めてた男が好きなやつなんて!あんたにもついに春が来たんかい!」
「あぁ、逃がしたくないんでな」
「随分本気じゃないか。今度ゆっくり話でも聞かせておくれよ」
女性は驚きながらもどこか嬉しそうに、微笑んでいる。
だけど、その直後、今度は若い女性が駆け寄ってきた。
「あ!アイザックさん!」
若い女が勢いよく駆け寄り、いきなり腕にしがみつく。
その仕草には、あざとさと“自分なら許される”という甘えが露骨に混じっていた。
その押し付けがましい匂いに、胸の奥で鈍い苛立ちが膨らむ。
「リリー!アイザックはもう相手がいるんだ。ちょっかいかけてないで部屋に戻りな」
「なんでよリリーさん!せっかく会えたのにっ。──それに相手って誰よ!」
「お前には関係ないことだ。それより、離せ」
「嫌っ!!」
リリーが止めても、女は振りほどき、ひたすらアイザックにしがみつこうとする。
どうしたもんか。知らない苛立ちを落ちつけようと、目をそらすと、少し離れた場所でディランも似たような状況に巻き込まれていた。
見目の良い男はどこでも狙われるらしい。そちらの女もまた、あからさまな態度だ。
不意に横をみると、歩夢も落ち着かない顔をしている。それどころか──これ、怒ってないか?
そのことに少し驚きながらもその光景を傍観していると、女がようやく俺たちの存在に気づき、こちらを見た。
その目が、露骨に「敵」を見つけた獣のように尖る。
「もしかして、あんた?」
舌打ちのような声で吐き捨ててくる。
「どんな手使ったか知らないけど、あんたみたいな貧相な男じゃアイザックさんの相手は務まらないから。分かったら、どっか消えてくれる」
その言葉に、俺の中にも、冷たい怒りが溢れていく。
「さっきからうるせぇな。」
自分でも驚くほど冷めた声をしていた。
「外見だけで値踏みして、勝手に決めつけて……、そういう性格ブスだからアイザックにも振られんだろ」
「は、なにそれ?!」
女の顔が、怒りと羞恥で真っ赤になる。
本音を付かれたことに相当苛立ったのか、その女は急に間合いを詰めてくるやいなや、俺に鋭い爪を思い切り振りかざそうとした。
ヨーゼフ爺さんがぎっくり腰で倒れてから一週間。
店は臨時休業となり、俺はというと工房に引きこもるように作業を重ねていた。静かだが、どこか物足りない日々だ。
そんなとき、窓辺に羽音がして、小さな影がとまる。
「ぴー!ぴーぴー!」
ぴーすけだ。今日も変わらず、嘴に小さく光る石を咥えている。
俺が頭を撫でてやると喉を震わせて満足げに鳴き、石だけ置いて飛び去っていく。
毎度のことながら、持ってくる石は妙に綺麗だ。
磨いたわけでもないのに光の質が良い。
それがつい気になった俺は、アイザックにそれとなく聞いてみた。
───────────────────
「──ってことで何かわからないか?」
「お前から来るなんて、やっと俺に懐いたのかと思ったら石のことか」
そう言って、呆れたように額を弾かれる。
とはいえ、面倒くさそうにしながらも場所を教えてくれる。
「ここからそう遠くはないが、そんなに欲しいのか?」
「欲しいというか、知りたいというか、……あわよくば通いたいというか」
「…はぁー、しょうがねぇ。連れてってやる。ただし──俺も一緒だ。」
「え、俺一人でも…」
「治安が悪い場所なんだよ。一人で行かせられるか」
その石場までの道のりは治安が悪いらしく、その顔つきには妥協の余地がなかった。
結局アイザックも同行することで許可が下り、その夜、歩夢にも確認すると珍しく「行きたい」と即答された。
そうして、いつの間にかディランまで同行することになり、結局四人での外出となった。
───────────────────
「相変わらずだな、ここは」
「そうだね、早く行くとしよう」
久しぶりの顔ぶれで治安の悪い街道を進むと、空気の色まで濁って見える気がした。
路地の奥に座り込む人影は皆どこか投げやりで、目だけが異様に光っている。
歩夢は眉間に力を入れ、ディランは視線を絶やさず周囲を警戒している。
その様子に、俺も通り抜けるだけで、肌にひやりとまとわりつくような感覚がした。
「なぁ、あとどれくらいで着く?」
「あとちょっとだ、怖かったら手でもつなぐか?」
そう言って、アイザックが振り返り手を差しだしてきた。
それが、気遣いなのか冗談なのか、絶妙にわからず照れ臭さが勝ってしまい、思わずその手を押し返してしまう。
その時、前方から年季の入った声が響いた。
「アイザック!久しぶりじゃないか!」
そうアイザックに歩み寄ってきたのは、歳を重ねながらも艶やかさがあり、どこか惹かれる雰囲気を漂わせた女性だった。アイザックの反応から顔なじみなのがわかる。
「相変わらず元気そうでよかったよ。よければ寄ってくかい?あたしらのよしみだからちょっとまけとくよ」
「リリー、お前も相変わらずだな。あと、俺はもうそういうのはやらねぇ、好いてるやつを今口説き中なんだ。悪いな」
その女性の場慣れした目つき、言葉の柔らかい押し──一目で“客商売のプロ”だとわかる。
けどアイザックは親し気に話しながらも、迷いなく線を引いた。
「おや、あんなに冷めてた男が好きなやつなんて!あんたにもついに春が来たんかい!」
「あぁ、逃がしたくないんでな」
「随分本気じゃないか。今度ゆっくり話でも聞かせておくれよ」
女性は驚きながらもどこか嬉しそうに、微笑んでいる。
だけど、その直後、今度は若い女性が駆け寄ってきた。
「あ!アイザックさん!」
若い女が勢いよく駆け寄り、いきなり腕にしがみつく。
その仕草には、あざとさと“自分なら許される”という甘えが露骨に混じっていた。
その押し付けがましい匂いに、胸の奥で鈍い苛立ちが膨らむ。
「リリー!アイザックはもう相手がいるんだ。ちょっかいかけてないで部屋に戻りな」
「なんでよリリーさん!せっかく会えたのにっ。──それに相手って誰よ!」
「お前には関係ないことだ。それより、離せ」
「嫌っ!!」
リリーが止めても、女は振りほどき、ひたすらアイザックにしがみつこうとする。
どうしたもんか。知らない苛立ちを落ちつけようと、目をそらすと、少し離れた場所でディランも似たような状況に巻き込まれていた。
見目の良い男はどこでも狙われるらしい。そちらの女もまた、あからさまな態度だ。
不意に横をみると、歩夢も落ち着かない顔をしている。それどころか──これ、怒ってないか?
そのことに少し驚きながらもその光景を傍観していると、女がようやく俺たちの存在に気づき、こちらを見た。
その目が、露骨に「敵」を見つけた獣のように尖る。
「もしかして、あんた?」
舌打ちのような声で吐き捨ててくる。
「どんな手使ったか知らないけど、あんたみたいな貧相な男じゃアイザックさんの相手は務まらないから。分かったら、どっか消えてくれる」
その言葉に、俺の中にも、冷たい怒りが溢れていく。
「さっきからうるせぇな。」
自分でも驚くほど冷めた声をしていた。
「外見だけで値踏みして、勝手に決めつけて……、そういう性格ブスだからアイザックにも振られんだろ」
「は、なにそれ?!」
女の顔が、怒りと羞恥で真っ赤になる。
本音を付かれたことに相当苛立ったのか、その女は急に間合いを詰めてくるやいなや、俺に鋭い爪を思い切り振りかざそうとした。
175
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる