愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん

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54話 決断 side歩夢

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太一兄ちゃんもう寝たかな。

僕たちはリサさんに軽く挨拶をして部屋に戻ってきたところだった。太一兄ちゃんは疲れが限界だったのか、ベッドに身体を沈めた途端、静かな寝息を立てはじめた。
枕元に落ちかけた彼の髪を整えながら、アイザックさんとの和解がうまくいったことを思い返す。
あれだけぎこちなかった二人が、ようやく肩の力を抜けたことに、胸の奥がほっと温まった。

だけどその温度は、帰り際にかけられたディランさんの言葉を思い出した途端、すっと曇ってしまう。

――明日、話たいことがある。

その声が耳に残っていて、胸の奥がざわつく。
そんなとき、窓が叩き割られそうな勢いで揺れた。

「あゆむっ!」

「メ、メルエム?」

冷気とともに飛び込んできたメルエムは、普段の余裕ある顔つきとはまるで違う。焦りに縁が滲み、肩が大きく上下している。僕は反射的に防音壁を張り、彼を部屋の中へ招き入れた。

息を荒げたまま、メルエムは探していた言葉をようやくつかんだ。

「やっと見つかったよ」

「え……?」

「歩夢のお兄ちゃんの居場所が」

その瞬間、胸の奥で何かが弾け、同時に震えが走った。
優兄ちゃんが――見つかった?

何度聞いても、信じたいのに信じきれない。そんな僕の様子を見てか、メルエムは視線を伏せた。

「あゆむが描いた絵と……すごく似てた。間違いないと思う。ただ――」

言いづらそうなその間の取り方に嫌な予感が走る。

「何を見たの?」

「歩夢のお兄ちゃんは……性奴隷として地下に監禁されてた」

胸の奥に冷たい手を突っ込まれたみたいに、血の気が一気に引いた。

「身体も心も、もう限界が近かった。あのままだと――」

言葉が終わる前に、喉が焼けるほど苦しくなった。

さらに追い打ちをかけるように、メルエムは声を潜めて続ける。

「それに……禁術精霊たちが無理やり従わされてる。あの様子だと、ベンさんやディランでも厳しいと思う」

世界がきゅっと狭くなる。耳の奥が痛いほど脈打ち、視界の端が歪んだ。

「メルエム……僕が前に話したこと、覚えてるよね」

「……優兄ちゃんを見つけたら、あゆむ一人でも助けに行くって話」

「うん。……僕なら、精霊たち止められる。精霊魔法を使えば」

「でも、それだと歩夢の寿命が……」

「覚悟はできてる」

その言葉は自分の声なのに、自分じゃないみたいに落ち着いていた。
メルエムはしばらく僕の目を見つめ、それから静かに頷く。

「……わかった。そこまで決めてるなら、僕は力を貸すだけだよ。一緒に助けに行こう」

「ありがとう、メルエム」

僕は、眠りを妨げぬよう太一兄ちゃんに軽い睡眠魔法をかけ、このことが悟られないよう”もう一人の”を残し、部屋を後にした。

───────────────────

side ベン

そろそろ二人が来る頃だろう。
私は酒の香りが染みついた木のテーブルに肘を置き、じっと入口を見つめていた。話すべきことは重い。胸の奥がゆっくり沈んでいく。

扉のベルが鳴き、アイザックとディランが姿を現した。

「急に呼んですまないね」

いつものやり取りを交わし、二人が席につく。だが二人とも私の表情を見た途端、眉を寄せた。

「顔を見ればわかる。悪い話なんだろ?」

「……」

私は無言でその問いを肯定した。
覚悟を整えるように一度息を吐き、それから情報を口にする。

「人身売買の組織の裏に貴族がいたのは知っているだろう。そいつが……落ち人の少年を一人、囲っている」

空気がわずかに沈んだ。
だが続く言葉が、さらにその沈黙を深くする。

「その少年は――太一くんと歩夢くんのお兄さんだ」

椅子がわずかに軋むほど、二人の身体が硬直した。

説明を続けながら、自分の胸の奥に渦巻く不快な“確信”を噛みしめる。
容姿が似ている。長年の勘が否定を許してくれない。

「……で、どうするつもりです?」

ディランの声は静かだったが、その奥に熱がある。

ディランの声は静かだったが、その奥に熱がある。

「どうするも何も、身内に手を出されたんだ。容赦はしない。だが――問題がある」

私は苦い言葉を絞り出した。

「相手は禁術で精霊を使役している。私やディランが相手でも手こずるだろう」

その言葉に酒屋の奥の空気がわずかに震えるようだった。
それでも、二人の目は揺らがない。

「そんなん上等だろ。そんなクズ連中、放っておけるかよ。それに太一を安心させてやりてぇ」

「私も同じ気持ちです。早く助けてあげたい」

そのまっすぐな言葉に、胸の奥の重さが少しだけ和らいだ。

「……ありがとう。」

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