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56話 精霊魔法 side 歩夢
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森の奥へ進むほど、空気はひんやりと澱み、霧が足元を撫でるたび、肌が粟立つ。そんな中、メルエムが小さく息を吸い、僕の袖を引いた。
「着いたよ、あゆむ。」
指差す先は、森の色とは違う淡い光が揺れていた。
最初は朝霧の反射かと思ったけど、違う。
光の粒はゆらゆらと漂い、その中央に、無数の影のような精霊が重なりあって留まっていた。
いつも笑って近寄ってきてくれるあの子たちが、そこではまるで殻みたいに無表情で、色を失った瞳だけを僕らへ向けている。精霊だって生きているのに、あまりにも生気のない顔が胸をきつく締め付けた。
「まずこの子たちをどうにかしなくちゃ。あゆむ、準備はいい?」
メルエムの声は落ち着いてるのに、芯のある声がけが凛と響く。
「うん、大丈夫。」
自分の声が震えてないか気になったけど、立ち止まってる暇なんてなかった。
「前にも話したけど、精霊魔法を使うのは精霊と半分同化してるような状態だから、気を強く持つんだよ。」
その言葉が、教わった日の記憶と一緒に胸に戻ってくる。
精霊魔法は、人の魔力と精霊の魔力を重ね合わせて、初めて成り立つ。
もし気を保てなければ、精霊の魔力の濁流に呑まれて暴走してしまう──そんな話をメルエムから聞いた。
今日が初めての実戦。
足がすくむけど、ここを越えないと、優兄ちゃんのところには行けない。
「それじゃ、いくよ」
メルエムが小さな手が僕の額にゆっくりと触れる。そこから冷気がそっと溢れだしたのがわかった。
うっすら白い光が僕の身体へと流れ込んでいく。心臓の鼓動に合わせて、体内の温度が変わっていくを感じた。
自分の魔力じゃない。なのに、どこか心地よさを感じる。
「うわぁ、これは想像よりすごいや…、綺麗だよ歩夢!」
メルエムが嬉しそうに目を細める。
僕自身はどんな姿なのか見えないけど、身体の身体が自分のものじゃないような感覚があった。
世界との境目が曖昧になり、ついには不思議な浮遊感さえ感じる。
「っ! 来たよ歩夢!」
メルエムの鋭い声と同時に、精霊たちの群れがこちらへ押し寄せてきた。
ふわりと漂っていた光の粒がざわつき、僕たちを包囲するように輪を作っていく。
上級精霊の姿は見当たらないけど、この数は確かに無事に済まない。
ごめんね。
後で、君たちのことも絶対助けに戻るから。
胸の奥で小さく呟き、僕はメルエムに教わった動作を思い返した。
内にある冷気を、外へ、魔力の広がりを感じるように──。
「氷の雫《アイスドロップ》。」
呪文を口にした瞬間、空気がぴん、と弦を張るように震えた。
次の瞬間、僕を中心に白い波紋が円を描きながら広がり、触れた精霊たちを静かに、しかし一瞬で凍っていく。
氷は反射で煌めき、精霊たちは輪郭をそのまま閉じ込めたように固まっていく。
倒れる音も悲鳴もない。ただ静かに世界が色を変えた。
一度の魔法で、常軌を逸した威力を放つ精霊魔法に、僕は思わず息を呑んだ。
「精霊魔法がこんなに強いなんて…」
「驚いた?」
「…少し」
「僕も古参の上級精霊だからね」
胸の奥に芽生えた不安を隠せなかったのか、メルエムはすぐに僕の顔を覗き込んできた。
「もー、そんな不安な顔しないで! 僕がついてるんだから、歩夢はドンと構えてればいいんだよ! 大丈夫!」
冷えた空気の中で、メルエムの声だけがやわらかく響く。
「ふふ、そうだよね。ありがとう、メルエム。」
「どういたしまして! それより早く歩夢のお兄ちゃんのところに行こう! こっち!」
凍りついた精霊たちの間を抜け、僕たちはさらに奥へと足を踏み入れた。
その先にある建物──優兄ちゃんがいる場所へ向けて、森は静かに道を開きはじめていた。
「着いたよ、あゆむ。」
指差す先は、森の色とは違う淡い光が揺れていた。
最初は朝霧の反射かと思ったけど、違う。
光の粒はゆらゆらと漂い、その中央に、無数の影のような精霊が重なりあって留まっていた。
いつも笑って近寄ってきてくれるあの子たちが、そこではまるで殻みたいに無表情で、色を失った瞳だけを僕らへ向けている。精霊だって生きているのに、あまりにも生気のない顔が胸をきつく締め付けた。
「まずこの子たちをどうにかしなくちゃ。あゆむ、準備はいい?」
メルエムの声は落ち着いてるのに、芯のある声がけが凛と響く。
「うん、大丈夫。」
自分の声が震えてないか気になったけど、立ち止まってる暇なんてなかった。
「前にも話したけど、精霊魔法を使うのは精霊と半分同化してるような状態だから、気を強く持つんだよ。」
その言葉が、教わった日の記憶と一緒に胸に戻ってくる。
精霊魔法は、人の魔力と精霊の魔力を重ね合わせて、初めて成り立つ。
もし気を保てなければ、精霊の魔力の濁流に呑まれて暴走してしまう──そんな話をメルエムから聞いた。
今日が初めての実戦。
足がすくむけど、ここを越えないと、優兄ちゃんのところには行けない。
「それじゃ、いくよ」
メルエムが小さな手が僕の額にゆっくりと触れる。そこから冷気がそっと溢れだしたのがわかった。
うっすら白い光が僕の身体へと流れ込んでいく。心臓の鼓動に合わせて、体内の温度が変わっていくを感じた。
自分の魔力じゃない。なのに、どこか心地よさを感じる。
「うわぁ、これは想像よりすごいや…、綺麗だよ歩夢!」
メルエムが嬉しそうに目を細める。
僕自身はどんな姿なのか見えないけど、身体の身体が自分のものじゃないような感覚があった。
世界との境目が曖昧になり、ついには不思議な浮遊感さえ感じる。
「っ! 来たよ歩夢!」
メルエムの鋭い声と同時に、精霊たちの群れがこちらへ押し寄せてきた。
ふわりと漂っていた光の粒がざわつき、僕たちを包囲するように輪を作っていく。
上級精霊の姿は見当たらないけど、この数は確かに無事に済まない。
ごめんね。
後で、君たちのことも絶対助けに戻るから。
胸の奥で小さく呟き、僕はメルエムに教わった動作を思い返した。
内にある冷気を、外へ、魔力の広がりを感じるように──。
「氷の雫《アイスドロップ》。」
呪文を口にした瞬間、空気がぴん、と弦を張るように震えた。
次の瞬間、僕を中心に白い波紋が円を描きながら広がり、触れた精霊たちを静かに、しかし一瞬で凍っていく。
氷は反射で煌めき、精霊たちは輪郭をそのまま閉じ込めたように固まっていく。
倒れる音も悲鳴もない。ただ静かに世界が色を変えた。
一度の魔法で、常軌を逸した威力を放つ精霊魔法に、僕は思わず息を呑んだ。
「精霊魔法がこんなに強いなんて…」
「驚いた?」
「…少し」
「僕も古参の上級精霊だからね」
胸の奥に芽生えた不安を隠せなかったのか、メルエムはすぐに僕の顔を覗き込んできた。
「もー、そんな不安な顔しないで! 僕がついてるんだから、歩夢はドンと構えてればいいんだよ! 大丈夫!」
冷えた空気の中で、メルエムの声だけがやわらかく響く。
「ふふ、そうだよね。ありがとう、メルエム。」
「どういたしまして! それより早く歩夢のお兄ちゃんのところに行こう! こっち!」
凍りついた精霊たちの間を抜け、僕たちはさらに奥へと足を踏み入れた。
その先にある建物──優兄ちゃんがいる場所へ向けて、森は静かに道を開きはじめていた。
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