愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん

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58話 騙せない唯一の人

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コンコン。

木製の扉を叩く、乾いた音がその場に響く。

「ザックいるか?」

その返事より早く扉が開き、ザックが顔を出した。その顔は少しニヤついている。

「お前のほうから来るなんて珍しいじゃねぇか。」

軽口はいつものことだけど、今日に限っては受け止める余裕がなかった。
太一の胸の奥に、ずっと抜けない小さな棘みたいな違和感が刺さっている。

「歩夢の様子が…なんか変なんだ。」

冗談を返そうとしていたザックの眉がぴくりと動いた。

その後ろからディランも姿を見せる。静かな気配をまとい、こちらをじっと見ていた。

太一は言葉を選びながら続けた。

「歩夢なんだけど…確かに歩夢なんだ。姿も声も、全部。ただ、なんか、中身が少しだけ別の誰かみたいな…」

その感覚を言葉にした瞬間、胸がざわつき、自分でも何を言ってるんだと思う。
けれど、それでも“違和感”は消えない。

「行こう。」
ディランが短く言った。
迷いのない足取りで、三人は太一の家へ向かう。

───────────────────

家に入るとリサが明るく迎えてくれたが、太一は返す余裕もなく二階へ向かった。
歩夢の部屋の前に立つと、手のひらが汗ばむ。

「歩夢、入るぞ。」

しばらくして、部屋の奥から弱々しい声が返ってきた。

「何、太一兄ちゃん」

その声は確かに歩夢のものなのに、ひどく遠く感じた。
胸がぎゅっと潰れるような感覚が走り、太一は戸惑いを隠せなかった。

ディランは返事を待たずに扉を開ける。
中には、ベッドに腰掛けた歩夢が静かにこちらを見つめていた。

部屋の温度が一気に下がったような空気に、肌がざわつく違和感。

ディランは歩夢を見据えたまま、一言も発さない。
太一は耐えきれず声を出そうとしたその瞬間――「君は誰だい。」

切り裂くような声だった。

歩夢がわずかに瞬きをする。その奥に浮かぶのは、幼い弟のものではない。

ディランは淡々と続けた。

「歩夢君の魔力は確かにここにある。でも、違うだろう、君は本当の歩夢君じゃない」

太一の背中を冷たい汗が伝う。理解が追いつかないけれど、本能は告げていた――これは歩夢じゃなって。

ザックが静かに息を吐き、歩夢に視線を戻す。

「そろそろ隠すのは終わりにしろ。お前は何者だ?」

歩夢の肩がわずかに揺れ、その唇が開く。

「……僕は――」

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