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63話 傍観者 side優人
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歩夢が膝をつき、体勢を崩したその一瞬、ジオナルド侯爵は、その隙を見計らったように魔法を構えた。
狙いは明らかに歩夢で、歩夢が反応するよりも先に攻撃が繰り出される。
けど、考えるより先に、僕の体は必死に走り出していて──。
「痛ッ……!」
魔法を向けられた歩夢を庇うように抱きしめ、そのまま力任せに横に倒れる。
けど完全に避けきれなかった攻撃は、僕の脇腹を掠めた。
焼けるような痛みに、思わず息が詰まり、視界が揺れた。
この感覚を、僕は知っている。
“お仕置き”と称して、何度も向けられた魔法だ。
火を纏った腕で焼かれ、そのたびに回復魔法をかけられ、何度も逃げ場を奪われた。
今も脇腹の奥が、じくじくと嫌な熱を帯びている。
しかも、さっき歩夢に向けられたあれは、僕に使われていたものより、遥かに威力が強かった。
「ふ……。多少傷がつこうと、そいつを従わせられれば問題はない」
ジオナルドは嗤いながら、さらに魔法を練り上げていく。
「この際、意識の奥底まで支配してやる」
それから僕たちに向けられた魔法に、思わずぞっとした。
あれは、ただの攻撃魔法じゃない。
闇魔法──精神をコントロールし、支配する魔法。
霊聴で何度も耳にしてきた、あいつが一番得意とする魔法だ。
それにまずいと頭が理解した瞬間、──同時に周りの景色が一変した。
「な、なんだ……⁉」
ジオナルドの声と同時に、世界が白に塗り替えられる。
雪が舞い、地面が凍りつき、空気が一気に冷え込む。
この魔法……、間違いない。歩夢のだ。
さっきの吹雪からすぐにわかった。
そうして僕の腕の中で静かにしていた歩夢が、ゆっくりと手をかざす。
すると―― ドドドッ──!!
突然地面を突き破るように、現れた氷の槍。
それは次から次へと出現し、確実に侯爵の立つ場所を狙って突き上げていた。
「っく……!」
さすがに侯爵も避けるので精一杯だった。けど無慈悲にも歩夢は、止まらない。
さらに魔法を展開した歩夢。
それに呼応するよう、さっきまで地面に伏して、氷の石像と化していた手下たちが、音を立てて這い上がり始める。その手には武器を構え、完全に歩夢の兵隊となり、じわじわと侯爵との距離を詰めていく。
もはや逃げ場はない。
侯爵は次第に傷を増やし、致命傷だけを避けながら追い詰められていく。
あまりにも一方的で、目を背けたくなるような光景だった。
「歩夢……もう十分だよ……!」
必死に呼びかけ、腕の中の歩夢を揺する。
「……あゆ……ッ!」
けれど、その瞬間、触れていた手に、耐えがたい冷気が走った。
まるで氷に焼かれたような痛みに、反射的に手を引く。
声が、届かない。すぐ目の前にいるのに、……何もしてやれない。
僕が不甲斐なさに打ちひしがれている間に、歩夢はふらつきながら立ち上がると、ぼろぼろになったジオナルドのもとへと歩き出した。
近づくとともに、右手を前に出す歩夢。そこにはどこからか現れたように、透明に透き通る氷の剣が握られていた。
「……わしを殺すつもりか」
それでも侯爵は、最後まで笑っていた。
「そんな非力な腕で、殺れるものならやってみるがいい」
その言葉に躊躇なく、振り下ろされる剣。
「歩夢!!」
そう叫んだ、その時だった──。
「――もう十分だよ、歩夢くん」
低く、けれど確かな声がその場にこだまする。
剣を握る歩夢の腕を、誰かが掴んでいるのが目に映る。
その手からは蒸気が立ち上っていて、鋭い冷気に晒されていることが見てわかった。
火傷をしているはずなのに――それでも、その手は離れない。
「よく頑張ったね」
優しく、包み込むような声音。
「もう休んで大丈夫だよ。君のお兄さんも、君のおかげで無事だ」
その言葉に、歩夢の表情がわずかに揺れた。
次の瞬間、大きな瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。
「……おいで」
甘く、穏やかな声に導かれるように、歩夢はその腕の中へ身を預けた。
途端に、一気に力が抜けた身体。それを、その男性は軽々と抱き上げる。
そうして瞬きをした一瞬。
その彼は、僕の目の前にいた。
「……っ!?」
「君が、歩夢くんたちのお兄さんだね」
そう言って、穏やかに微笑む。
脇腹の傷に気づくと、迷いなく手をかざされ、次の瞬間には、痛みだけでなく、傷跡すら残っていなかった。
あまりの出来事に、ただ呆然とする僕をよそに、彼は歩夢をそっと僕に預ける。
「歩夢くんを、お願いするよ」
腕の中の歩夢は、安らかな顔で眠っている。
奪われていた体温も、ちゃんと戻ってきていることに、張りつめていたものが、一気に音を立てて崩れる。
気づけば、僕の頬を涙が伝っていた。
狙いは明らかに歩夢で、歩夢が反応するよりも先に攻撃が繰り出される。
けど、考えるより先に、僕の体は必死に走り出していて──。
「痛ッ……!」
魔法を向けられた歩夢を庇うように抱きしめ、そのまま力任せに横に倒れる。
けど完全に避けきれなかった攻撃は、僕の脇腹を掠めた。
焼けるような痛みに、思わず息が詰まり、視界が揺れた。
この感覚を、僕は知っている。
“お仕置き”と称して、何度も向けられた魔法だ。
火を纏った腕で焼かれ、そのたびに回復魔法をかけられ、何度も逃げ場を奪われた。
今も脇腹の奥が、じくじくと嫌な熱を帯びている。
しかも、さっき歩夢に向けられたあれは、僕に使われていたものより、遥かに威力が強かった。
「ふ……。多少傷がつこうと、そいつを従わせられれば問題はない」
ジオナルドは嗤いながら、さらに魔法を練り上げていく。
「この際、意識の奥底まで支配してやる」
それから僕たちに向けられた魔法に、思わずぞっとした。
あれは、ただの攻撃魔法じゃない。
闇魔法──精神をコントロールし、支配する魔法。
霊聴で何度も耳にしてきた、あいつが一番得意とする魔法だ。
それにまずいと頭が理解した瞬間、──同時に周りの景色が一変した。
「な、なんだ……⁉」
ジオナルドの声と同時に、世界が白に塗り替えられる。
雪が舞い、地面が凍りつき、空気が一気に冷え込む。
この魔法……、間違いない。歩夢のだ。
さっきの吹雪からすぐにわかった。
そうして僕の腕の中で静かにしていた歩夢が、ゆっくりと手をかざす。
すると―― ドドドッ──!!
突然地面を突き破るように、現れた氷の槍。
それは次から次へと出現し、確実に侯爵の立つ場所を狙って突き上げていた。
「っく……!」
さすがに侯爵も避けるので精一杯だった。けど無慈悲にも歩夢は、止まらない。
さらに魔法を展開した歩夢。
それに呼応するよう、さっきまで地面に伏して、氷の石像と化していた手下たちが、音を立てて這い上がり始める。その手には武器を構え、完全に歩夢の兵隊となり、じわじわと侯爵との距離を詰めていく。
もはや逃げ場はない。
侯爵は次第に傷を増やし、致命傷だけを避けながら追い詰められていく。
あまりにも一方的で、目を背けたくなるような光景だった。
「歩夢……もう十分だよ……!」
必死に呼びかけ、腕の中の歩夢を揺する。
「……あゆ……ッ!」
けれど、その瞬間、触れていた手に、耐えがたい冷気が走った。
まるで氷に焼かれたような痛みに、反射的に手を引く。
声が、届かない。すぐ目の前にいるのに、……何もしてやれない。
僕が不甲斐なさに打ちひしがれている間に、歩夢はふらつきながら立ち上がると、ぼろぼろになったジオナルドのもとへと歩き出した。
近づくとともに、右手を前に出す歩夢。そこにはどこからか現れたように、透明に透き通る氷の剣が握られていた。
「……わしを殺すつもりか」
それでも侯爵は、最後まで笑っていた。
「そんな非力な腕で、殺れるものならやってみるがいい」
その言葉に躊躇なく、振り下ろされる剣。
「歩夢!!」
そう叫んだ、その時だった──。
「――もう十分だよ、歩夢くん」
低く、けれど確かな声がその場にこだまする。
剣を握る歩夢の腕を、誰かが掴んでいるのが目に映る。
その手からは蒸気が立ち上っていて、鋭い冷気に晒されていることが見てわかった。
火傷をしているはずなのに――それでも、その手は離れない。
「よく頑張ったね」
優しく、包み込むような声音。
「もう休んで大丈夫だよ。君のお兄さんも、君のおかげで無事だ」
その言葉に、歩夢の表情がわずかに揺れた。
次の瞬間、大きな瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。
「……おいで」
甘く、穏やかな声に導かれるように、歩夢はその腕の中へ身を預けた。
途端に、一気に力が抜けた身体。それを、その男性は軽々と抱き上げる。
そうして瞬きをした一瞬。
その彼は、僕の目の前にいた。
「……っ!?」
「君が、歩夢くんたちのお兄さんだね」
そう言って、穏やかに微笑む。
脇腹の傷に気づくと、迷いなく手をかざされ、次の瞬間には、痛みだけでなく、傷跡すら残っていなかった。
あまりの出来事に、ただ呆然とする僕をよそに、彼は歩夢をそっと僕に預ける。
「歩夢くんを、お願いするよ」
腕の中の歩夢は、安らかな顔で眠っている。
奪われていた体温も、ちゃんと戻ってきていることに、張りつめていたものが、一気に音を立てて崩れる。
気づけば、僕の頬を涙が伝っていた。
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