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61話 暴走 side 優人
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パキィィンッ。
乾いた破裂音が、静まり返った部屋の空気を切り裂いた。
「何の音じゃ」
その音に、やつの視線が外れた瞬間、やっと苦痛から解放されなんとか意識を保つ。
息を吸うのも咳き込むのもやっとで、胸の奥が焼けついたまま上下している。それでも、震える首を無理やり持ち上げ、音のした方を見やった。
そこには──歩夢が倒れていた。
床に横たわったまま、まったく動かない。
静かで、冷たくて、まるで水を浴びたように胸が冷える。
「あ、あゆむ…?」
声にならない声が喉を抜けて、部屋に消えた。
返事のない恐怖で、胸の奥がぎゅっと縮まる。
痛みも何もかもを振り払って、僕は必死に身体を動かした。
這うように、腕を引きずって歩夢に近づくと、すぐそばには粉々に砕けた指輪が散らばっているのが見えた。
銀の欠片が光を反射して、まるで、涙みたいに見えた。
「なぜ動かん? 命に係わるものじゃないだろう」
やつの声が、やけに遠く聞こえる。
「はい、一時的に幻覚作用と麻痺が起こるだけなのですが……」
「なんにせよあやつは使える。魔力無効の鎖をつけ、牢に閉じ込めておけ」
「御意」
世界がゆっくり進むような感覚だった。
「や、やめて! お願いします……僕なら何でも言うこと聞くから、歩夢だけはっ……!」
必死で喉を震わせても、涙で視界が歪んでも、やつらの表情は微動だにしない。
僕の声なんて、風の音と同じ。それだけ叫ぼうと、届く気配すらない。
「ふ、お前もそんな顔ができたのか。まぁよい。これからもっと──『死んじゃえ』」
え……?
その言葉が言い終わるより先に、冷え切った声が割り込んだ。
無機質で、温度のない声。──歩夢の声だ。
「なんじゃ……?」
さっきまで動かなかったはずの歩夢が、嘘みたいに滑らかな動作で、ゆっくりと上半身を起こす。
「…………」
何か言うでもなく、歩夢はただその場に佇んでいた。
虚ろな瞳が正面を見据え、焦点はどこにも合っていない。
魂をどこかに置き忘れてきたみたいな目。
それを見た瞬間、僕の背中を嫌な寒気が走った。
そこにいるのは、歩夢の姿をした“別の何か”に見えて──。
数秒の沈黙が、異様なほど長く感じられる。
やがて歩夢がこちらに歩み寄り、そっと僕の首に収まるそれに触れた。
パキィン──!
理解するより先に、首輪が一瞬で弾け飛び、金属片が宙に舞った。
「なっ、無詠唱だと! それに、あの首輪を一度で……貴様、いったい何をした?」
問いに答えることなく、歩夢は静かに手を僕へかざす。
すると何もない空間に氷が成型され、頑丈な壁となって僕を丸く囲った。
氷なのに、冷たくない。
不思議な感覚に一瞬戸惑うが、それよりも歩夢の様子が気になって、胸騒ぎが止まらなかった。
「あ、歩夢……! 肩の怪我、早く止血しないと……」
「…………」
僕の声は氷に吸い込まれるように消え、歩夢には届いていないようだった。
歩夢は無反応のまま、ゆらりとやつの方へ歩き始める。
「捕えろ」
短い命令と同時に、部下たちが一斉に動いた。
ざっと数十人。全員が殺気を押しつけるように武器を構えている。
歩夢……ッ!
肩の大怪我、全方位を囲む敵。
俺の心配をよそに、歩夢は聞こえていないはずの名を、僕は何度も叫んだ。
けれど──次の瞬間、その心配が無意味だったと理解する。
張り詰めた空気を先に破ったのは歩夢の方で、両手を静かに頭上へ上げた。
その仕草を合図に、空気が震え、風が渦を巻き……やがて吹雪へと変わる。
「うあぁぁッ!」
「ぐはぁっ!」
悲鳴が連続して響き、僕は思わず耳を塞いだ。
目の前で何が起きているのか、怖くて見られない。
ただ、風の牙が空間を切り裂く音だけが耳に届く。
どれくらい経っただろう。
気づいたときには吹雪は止み、俺を囲っていた氷の球体も消えていた。
同時に感じた日差しと、肌を撫でる風。
──そこに、さっきまであった部屋は存在していなかった。
結界も壁も崩れ、地面すら抉られた惨状。
周囲を見渡すと、氷像と化した部下たちが散らばり、誰一人として動かない。
全部……歩夢が……?
現実感が、まるで追いつかなかった。けど──。
「歩夢……」
よろめきながら、僕は歩夢の姿を探した。
同じ場所にいたはずなのに、いつの間にか見当たらない。
だが少し離れた場所に、二つの影が見えた。
一つは歩夢で。
もう一つは、膝をつき、震えるジオナルド侯爵。
歩夢は無表情のまま、侯爵を見下ろしている。
そのまるで感情が抜け落ちたような冷たさに、息が詰まりそうになる。
けど、そのとき──歩夢の足元が、ふらついた。
倒れる……!
「歩夢ッ!」
身体が大きく傾き、倒れる寸前で膝をつく。
そうだ……。
歩夢は矢で撃たれたまま、血を流し続けている。
こんな無茶をしたら……。
「ふ、」
俺の心配をよそに、侯爵が薄く笑った。
その笑みが、胸の奥に嫌な予感を深く刻みつける。
乾いた破裂音が、静まり返った部屋の空気を切り裂いた。
「何の音じゃ」
その音に、やつの視線が外れた瞬間、やっと苦痛から解放されなんとか意識を保つ。
息を吸うのも咳き込むのもやっとで、胸の奥が焼けついたまま上下している。それでも、震える首を無理やり持ち上げ、音のした方を見やった。
そこには──歩夢が倒れていた。
床に横たわったまま、まったく動かない。
静かで、冷たくて、まるで水を浴びたように胸が冷える。
「あ、あゆむ…?」
声にならない声が喉を抜けて、部屋に消えた。
返事のない恐怖で、胸の奥がぎゅっと縮まる。
痛みも何もかもを振り払って、僕は必死に身体を動かした。
這うように、腕を引きずって歩夢に近づくと、すぐそばには粉々に砕けた指輪が散らばっているのが見えた。
銀の欠片が光を反射して、まるで、涙みたいに見えた。
「なぜ動かん? 命に係わるものじゃないだろう」
やつの声が、やけに遠く聞こえる。
「はい、一時的に幻覚作用と麻痺が起こるだけなのですが……」
「なんにせよあやつは使える。魔力無効の鎖をつけ、牢に閉じ込めておけ」
「御意」
世界がゆっくり進むような感覚だった。
「や、やめて! お願いします……僕なら何でも言うこと聞くから、歩夢だけはっ……!」
必死で喉を震わせても、涙で視界が歪んでも、やつらの表情は微動だにしない。
僕の声なんて、風の音と同じ。それだけ叫ぼうと、届く気配すらない。
「ふ、お前もそんな顔ができたのか。まぁよい。これからもっと──『死んじゃえ』」
え……?
その言葉が言い終わるより先に、冷え切った声が割り込んだ。
無機質で、温度のない声。──歩夢の声だ。
「なんじゃ……?」
さっきまで動かなかったはずの歩夢が、嘘みたいに滑らかな動作で、ゆっくりと上半身を起こす。
「…………」
何か言うでもなく、歩夢はただその場に佇んでいた。
虚ろな瞳が正面を見据え、焦点はどこにも合っていない。
魂をどこかに置き忘れてきたみたいな目。
それを見た瞬間、僕の背中を嫌な寒気が走った。
そこにいるのは、歩夢の姿をした“別の何か”に見えて──。
数秒の沈黙が、異様なほど長く感じられる。
やがて歩夢がこちらに歩み寄り、そっと僕の首に収まるそれに触れた。
パキィン──!
理解するより先に、首輪が一瞬で弾け飛び、金属片が宙に舞った。
「なっ、無詠唱だと! それに、あの首輪を一度で……貴様、いったい何をした?」
問いに答えることなく、歩夢は静かに手を僕へかざす。
すると何もない空間に氷が成型され、頑丈な壁となって僕を丸く囲った。
氷なのに、冷たくない。
不思議な感覚に一瞬戸惑うが、それよりも歩夢の様子が気になって、胸騒ぎが止まらなかった。
「あ、歩夢……! 肩の怪我、早く止血しないと……」
「…………」
僕の声は氷に吸い込まれるように消え、歩夢には届いていないようだった。
歩夢は無反応のまま、ゆらりとやつの方へ歩き始める。
「捕えろ」
短い命令と同時に、部下たちが一斉に動いた。
ざっと数十人。全員が殺気を押しつけるように武器を構えている。
歩夢……ッ!
肩の大怪我、全方位を囲む敵。
俺の心配をよそに、歩夢は聞こえていないはずの名を、僕は何度も叫んだ。
けれど──次の瞬間、その心配が無意味だったと理解する。
張り詰めた空気を先に破ったのは歩夢の方で、両手を静かに頭上へ上げた。
その仕草を合図に、空気が震え、風が渦を巻き……やがて吹雪へと変わる。
「うあぁぁッ!」
「ぐはぁっ!」
悲鳴が連続して響き、僕は思わず耳を塞いだ。
目の前で何が起きているのか、怖くて見られない。
ただ、風の牙が空間を切り裂く音だけが耳に届く。
どれくらい経っただろう。
気づいたときには吹雪は止み、俺を囲っていた氷の球体も消えていた。
同時に感じた日差しと、肌を撫でる風。
──そこに、さっきまであった部屋は存在していなかった。
結界も壁も崩れ、地面すら抉られた惨状。
周囲を見渡すと、氷像と化した部下たちが散らばり、誰一人として動かない。
全部……歩夢が……?
現実感が、まるで追いつかなかった。けど──。
「歩夢……」
よろめきながら、僕は歩夢の姿を探した。
同じ場所にいたはずなのに、いつの間にか見当たらない。
だが少し離れた場所に、二つの影が見えた。
一つは歩夢で。
もう一つは、膝をつき、震えるジオナルド侯爵。
歩夢は無表情のまま、侯爵を見下ろしている。
そのまるで感情が抜け落ちたような冷たさに、息が詰まりそうになる。
けど、そのとき──歩夢の足元が、ふらついた。
倒れる……!
「歩夢ッ!」
身体が大きく傾き、倒れる寸前で膝をつく。
そうだ……。
歩夢は矢で撃たれたまま、血を流し続けている。
こんな無茶をしたら……。
「ふ、」
俺の心配をよそに、侯爵が薄く笑った。
その笑みが、胸の奥に嫌な予感を深く刻みつける。
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