6 / 23
05.家族会議
しおりを挟む
自宅に着いてしばらくすると、晩御飯の呼びかけが聞こえてきた。
部屋に一緒にいた藤真と階段を降りていき、一階、リビングの食卓に着く。
微かに鼻腔をくすぐるのは芳ばしい香辛料の匂い。
「うわ、カレー!?やった!」
恐らく台所まで今日の晩飯を確認しに行ったであろう藤真の声を聞き、さっき香った匂いに納得する。
椅子に座って少し待っていると、さっきより明瞭な匂いが香ってきた。
食卓にコトッという音を立ててカレーが盛られたであろう皿が置かれ、ホカホカと湯気を立てる様が容易に想像出来る。
「ただいまー」
その時、ちょうどリビングの扉がガチャッと開かれ、少し低めで聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「おかえり、父さん」
そう、我らが父親のご帰還である。
「おかえりー!」
「おかえりなさい」
仕事終わりの父さんに口々にねぎらいをかけていく。
「おっ、今日はカレーか。うわ、美味そう」
父さんも席につき、4人全員参加の晩御飯が開催される。
思えば、父さんがこの場に揃っていることはここ最近あまり無かったかも知れない。
元々そこまで時間的に遅くなる職業では無いが、別に早くもない。
大体いつも俺らが食べ終わったあとくらいに帰ってくる。
別に特段寂しかった訳でもないが、拒絶する理由もないし、何よりみんなで食べるご飯は美味しい。
待ちきれなくなったのであろう藤真が早口で「いただきます!」と言った後、はぐはぐとカレーを掻き込む声が聞こえてきた。
思わず笑いそうになりながらも、それに続いて俺も食べることにする。
「いただきます」
大きめに切られたじゃがいもが熱くて一口目を呑み下すのに苦難するが、何とか呑み込み、熱々のカレーを味わいながら食べていく。
「……蓮、お前最近どうだ。不自由……はしてるだろうが、慣れたか?」
突然名前を呼ばれてびっくりしたが、親としてはやっぱりそこら辺心配だよな、と思い、思ったままを口に出す。
「うん、藤真が手伝ってくれるし、そこまで不自由してないよ」
「そうか。なら良かった」
父さんは心底安堵したように息を吐き出す。
「……まぁ、時々誘導が下手な時あるけど。いや、わざとか」
「ん!?えほっえほっ、それは兄ちゃんが鈍臭いだけだろ!俺のせいにすんな!」
唐突に矛先を向けられたからか、藤真がむせながら反論してくる。
「何をぉ?お前、いっつも思っとったけどなぁ――!」
「あーあー、うるさいうるさいー」
こ、こいつ……!
「ほらほら、とりあえずカレー食べちゃいなさい!冷めたら美味しくないよ!」
今まで静観していた母さんが耐えきれなくなったのか完食を促す。
「「はーい」」
カレーだけに留まらず、食べ物全般冷めたら美味しくなくなることは重々承知しているので、素直に席に着く。
「あ、ほういやほうふぁんふぁー」
藤真がカレーを口に入れたまま父さんとの会話を始めようとする。
「ひとまずその口の中の呑み込んでから話せ」
父さんは呆れたように乾いた笑いを漏らした。
「……んぐっ、あれさ、オアリブって知ってる?」
「うーん、何だそりゃ」
どうやらあのゲームについて言及するらしい。
対する父さんは本当に分からないようで、困惑している。
「最近リリースしたゲームなんやけどさ」
「あ、ゲームか。知らんなぁ」
どうやら父さんは俺と同類らしい。
「兄ちゃんがさ、それやりたいらしくてさ」
「ほう」
「……えっ?」
……こいつ今なんて言った?
いやいやいや、え?俺そんなことひとっことも言ってないが!?
何言ってんのこいつ!?
「俺そんなこと言ってな――」
「目は?目はどうするの?」
えっ、ちょ母さん?なんでそんな前のめりなの?
声の圧が凄いよ?なんか怖いよ!?
「今日ちょっとゲーセン行って試してきたんやけどさ、ちゃんと見えとったんやって。
原理はよく分からんけど、目じゃなくて脳に直接情報を送るやらなんやらってことらしい」
「へぇ!なんてゲームだっけそれ」
どうやら母さんが興味を持ったらしい。
「オアリブ。あとそのゲームのやり方って二種類あってさ、さっき言った感じのやつと普通にVRゴーグルでやるやつとあるから、さっき言った感じのだと結構お高いと思う」
携帯を取りだしたのだろう、ポチポチと画面を叩く音がする。
「……あったあった。このオアリビングってやつ?」
「うん、そうそれ」
「……高っ!?」
「どれどれ……高っ」
「これ桁間違えてない……?」
母さんのガタガタと震える声が聞こえる。どうやらそのゲームの値段が信じられないくらい高いらしい。
「まぁ、写真見る感じだと結構大きそうだし、そんなもんなんだろうな」
対する父さんは物凄く冷静だ。
「ま、値段なら気にしなくていい。それを払う価値が俺らにはあるだろうし、俺がちょっと頑張ればいける額だしな」
「あなた……!」
「わー、父ちゃんイケメーン」
「おい藤真、うるさいぞ」
俺を置いて三人で笑っている。
え、何これもしかして買う方向に進んじゃってる感じ……?
え……?
◇◇◇
それから数日経って、件のゲーム機が我が家に運び込まれた。
そう、つまり買ったのだ。あの両親さんは。
俺が正気に戻って、止めようとした時にはもう遅かった。
あの父さんの発言の後すぐにポチりやがった。判断が早すぎる。
おかしくない?おかしいだろ。つまり俺は悪くない。悪くないったら悪くないのだ。
……さて、買ってしまったものは仕方ない。
うん、仕方ない!
ということで、あの挫折からまだそんなに日が経ってないが、もう一度あの世界に足を踏み入れようと思う。
無理そうだったら売る。そうする他ない。
とりあえずもう一回やってみよう。せっかくの厚意だ。無下にはできないしな。
部屋に一緒にいた藤真と階段を降りていき、一階、リビングの食卓に着く。
微かに鼻腔をくすぐるのは芳ばしい香辛料の匂い。
「うわ、カレー!?やった!」
恐らく台所まで今日の晩飯を確認しに行ったであろう藤真の声を聞き、さっき香った匂いに納得する。
椅子に座って少し待っていると、さっきより明瞭な匂いが香ってきた。
食卓にコトッという音を立ててカレーが盛られたであろう皿が置かれ、ホカホカと湯気を立てる様が容易に想像出来る。
「ただいまー」
その時、ちょうどリビングの扉がガチャッと開かれ、少し低めで聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「おかえり、父さん」
そう、我らが父親のご帰還である。
「おかえりー!」
「おかえりなさい」
仕事終わりの父さんに口々にねぎらいをかけていく。
「おっ、今日はカレーか。うわ、美味そう」
父さんも席につき、4人全員参加の晩御飯が開催される。
思えば、父さんがこの場に揃っていることはここ最近あまり無かったかも知れない。
元々そこまで時間的に遅くなる職業では無いが、別に早くもない。
大体いつも俺らが食べ終わったあとくらいに帰ってくる。
別に特段寂しかった訳でもないが、拒絶する理由もないし、何よりみんなで食べるご飯は美味しい。
待ちきれなくなったのであろう藤真が早口で「いただきます!」と言った後、はぐはぐとカレーを掻き込む声が聞こえてきた。
思わず笑いそうになりながらも、それに続いて俺も食べることにする。
「いただきます」
大きめに切られたじゃがいもが熱くて一口目を呑み下すのに苦難するが、何とか呑み込み、熱々のカレーを味わいながら食べていく。
「……蓮、お前最近どうだ。不自由……はしてるだろうが、慣れたか?」
突然名前を呼ばれてびっくりしたが、親としてはやっぱりそこら辺心配だよな、と思い、思ったままを口に出す。
「うん、藤真が手伝ってくれるし、そこまで不自由してないよ」
「そうか。なら良かった」
父さんは心底安堵したように息を吐き出す。
「……まぁ、時々誘導が下手な時あるけど。いや、わざとか」
「ん!?えほっえほっ、それは兄ちゃんが鈍臭いだけだろ!俺のせいにすんな!」
唐突に矛先を向けられたからか、藤真がむせながら反論してくる。
「何をぉ?お前、いっつも思っとったけどなぁ――!」
「あーあー、うるさいうるさいー」
こ、こいつ……!
「ほらほら、とりあえずカレー食べちゃいなさい!冷めたら美味しくないよ!」
今まで静観していた母さんが耐えきれなくなったのか完食を促す。
「「はーい」」
カレーだけに留まらず、食べ物全般冷めたら美味しくなくなることは重々承知しているので、素直に席に着く。
「あ、ほういやほうふぁんふぁー」
藤真がカレーを口に入れたまま父さんとの会話を始めようとする。
「ひとまずその口の中の呑み込んでから話せ」
父さんは呆れたように乾いた笑いを漏らした。
「……んぐっ、あれさ、オアリブって知ってる?」
「うーん、何だそりゃ」
どうやらあのゲームについて言及するらしい。
対する父さんは本当に分からないようで、困惑している。
「最近リリースしたゲームなんやけどさ」
「あ、ゲームか。知らんなぁ」
どうやら父さんは俺と同類らしい。
「兄ちゃんがさ、それやりたいらしくてさ」
「ほう」
「……えっ?」
……こいつ今なんて言った?
いやいやいや、え?俺そんなことひとっことも言ってないが!?
何言ってんのこいつ!?
「俺そんなこと言ってな――」
「目は?目はどうするの?」
えっ、ちょ母さん?なんでそんな前のめりなの?
声の圧が凄いよ?なんか怖いよ!?
「今日ちょっとゲーセン行って試してきたんやけどさ、ちゃんと見えとったんやって。
原理はよく分からんけど、目じゃなくて脳に直接情報を送るやらなんやらってことらしい」
「へぇ!なんてゲームだっけそれ」
どうやら母さんが興味を持ったらしい。
「オアリブ。あとそのゲームのやり方って二種類あってさ、さっき言った感じのやつと普通にVRゴーグルでやるやつとあるから、さっき言った感じのだと結構お高いと思う」
携帯を取りだしたのだろう、ポチポチと画面を叩く音がする。
「……あったあった。このオアリビングってやつ?」
「うん、そうそれ」
「……高っ!?」
「どれどれ……高っ」
「これ桁間違えてない……?」
母さんのガタガタと震える声が聞こえる。どうやらそのゲームの値段が信じられないくらい高いらしい。
「まぁ、写真見る感じだと結構大きそうだし、そんなもんなんだろうな」
対する父さんは物凄く冷静だ。
「ま、値段なら気にしなくていい。それを払う価値が俺らにはあるだろうし、俺がちょっと頑張ればいける額だしな」
「あなた……!」
「わー、父ちゃんイケメーン」
「おい藤真、うるさいぞ」
俺を置いて三人で笑っている。
え、何これもしかして買う方向に進んじゃってる感じ……?
え……?
◇◇◇
それから数日経って、件のゲーム機が我が家に運び込まれた。
そう、つまり買ったのだ。あの両親さんは。
俺が正気に戻って、止めようとした時にはもう遅かった。
あの父さんの発言の後すぐにポチりやがった。判断が早すぎる。
おかしくない?おかしいだろ。つまり俺は悪くない。悪くないったら悪くないのだ。
……さて、買ってしまったものは仕方ない。
うん、仕方ない!
ということで、あの挫折からまだそんなに日が経ってないが、もう一度あの世界に足を踏み入れようと思う。
無理そうだったら売る。そうする他ない。
とりあえずもう一回やってみよう。せっかくの厚意だ。無下にはできないしな。
1
あなたにおすすめの小説
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します
miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。
そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。
軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。
誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。
毎日22時投稿します。
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略
神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。
そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。
これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる