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1日目 第5話
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北島がいる第2戦車連隊が上富良野駐屯地から出動したのは午前8時30分であった。
連隊は第4中隊からまず出動した。5個ある戦車中隊の中で第4中隊は最新鋭の10式戦車を装備している。師団司令部と戦車連隊は協議して通信能力が高く他の職種(兵科)とも協同し易い10式をまず前線に投入して普通科連隊に小隊ごとで編入させる事を決めていた。
なのでまず10式部隊である第4中隊が上富良野を出発した。
「この90式がもう旧式だものなあ」
第4中隊の出動を見送りながら北島は自分の愛車である90式戦車について思う。
1990年に採用された90式戦車は日本製鋼がライセンス生産するドイツのラインメタル社が開発した44口径120ミリ滑腔砲を装備し、溶接構造で組み上げた砲塔には初の採用となる複合装甲が用いられた。更には日本戦車にコンピューターが初めて搭載(射撃管制に用いられた)された戦車でもあり最新技術を盛り込んでいた。
だが20年過ぎて今や90式も旧式になってしまった。
10式戦車は主砲の大きさこそ変わらないが日本製鋼が開発した純国産になり新型砲弾もあり火力は強化され装甲を取り外し可能なモジュラー装甲にして軽量化も実現した。またアクティブ・サスペンションは高速走行でも主砲を安定させ走行中の正確な射撃を可能にさせた。
また何よりもC4Iのネットワークに繋がる通信能力は前線の戦況を全て把握できるようにもなっている。まさに90式を超える新世代の戦車だった。
「新型だからって言い訳じゃないですよ」
下田が言う。
「幾ら10式が凄くても腕は機械に負けないです」
10式は射撃や走行・通信の能力が装備として高いが、自分達の訓練を重ねた腕はテクノロジーには負けないと下田は自負しているのだ。
「それに90式で切なくしていたら74式の方が悲しくなりますよ」
北島の戦車で操縦手を務める吾野真一等陸曹が言う。第2戦車連隊の有する戦車は10式に90式と74式と現役の陸自戦車が全種類ある。74式は1974年採用の戦車であり一番古い戦車だ。主砲は105ミリでコンピューターなんて無縁である。
「言うとおりだ。俺はどうも贅沢を言っていたな」
北島がそう言うと下田と吾野が笑う。
「それにしても出動がまだなのが落ち着かないですよ」
下田が訴える。
上富良野駐屯地から出動するのは第2戦車連隊だけではない。第2師団所属では96式多目的誘導弾システムを装備する第2対舟艇対戦車中隊もあり方面隊直轄部隊である第1特科団の第4特科群もである。一度にまとまった部隊ごとでは無く中隊ごとや大隊ごとに出動する為に北島の居る第2中隊の出動は2時間後であった。
「この間に空爆でもされなければいいが」
北島は空を見上げながら心配する。千歳の空自基地は攻撃を受けてから復旧したとは聞いていない。北海道の空はまだ敵の手にあると言っても良い。
その心配をしていると苛立つ気分に北島はなり胸のポケットに入れた煙草に手を伸ばそうとした時だった。先任陸曹の阿藤が書類を持ってやって来た。
「段列の準備が整いました。トラックも十分に確保できました」
阿藤は出動する第2中隊の物資を運ぶトラックの準備を指揮していた。物資の輸送と言うと補給科の後方支援隊がする仕事に思えるが部隊で使う物は自前で運び出すようになっている。
だから中隊や大隊・連隊ごとに自前の輸送車輌を持ち必要があれば更にトラックなどを確保して弾薬に食料・天幕などの物資を運ぶのである。
「よし確認する」
北島は不安に苛立たせる事からまだ片付けねばならない中隊長の仕事へ頭を切り替えた。
北島が不安になる北海道上空はソ連空軍が続々と侵入をしていた。
沿海州とサハリンから出撃したソ連空軍は戦闘機であるSu27やSu33・Mig29で北海道北部から中部の制空権を確保した。
その確保した制空権内でSu24戦闘攻撃機やSu25攻撃機が移動する自衛隊部隊や駐屯地を爆撃する。まだ動いたばかりの自衛隊は組織的な防空態勢がまだ整わずソ連軍の為すがままである。
爆撃を受けた陸自部隊では誰もが「空自はどうした?」「こっちの戦闘機は何をやっているんだ」と愚痴がこぼれる。
その空自の戦闘機はどうしているのか?
千歳基地はまだ破壊された滑走路や基地機能を修復中だ。北海道へ戦闘機を送り出せるのは青森県の三沢基地だけである。
その三沢基地にある戦闘機部隊は第3航空団である。以前はF-2戦闘機2個部隊であったが対中国を念頭にした南西への戦力移転で第8飛行隊が九州の築城基地へ移動し第3航空団は一時的に第3飛行隊だけの1個飛行隊になったが今では新たに第307飛行隊が加わった。
この第307飛行隊は空自初となるステルス戦闘機F-35Aを装備する部隊だ。10カ国が共同開発するこの戦闘機はまだ配備の途上であり307飛行隊には12機しかない。
そして第3飛行隊のF-2は20機であり当面は32機の戦闘機が北海道の守りを担う。その32機がすぐに全力出撃ができる訳ではない。
防衛出動が出てすぐにF-2が4機で三沢基地上空の防空に発進し、午前9時10分には北海道上空の要撃戦を展開すべく第3飛行隊からF-2が4機と第307飛行隊からF-35が4機に昨晩千歳基地から発進し三沢基地へ退避した第201飛行隊に所属する2機のF-15も加わる。
合わせて10機の要撃機は旭川上空で作戦を展開する予定であったがE-2D早期警戒機が日本海から迫る敵編隊を探知した事から作戦は変わる。
「この編隊はどうも妙だな」
三沢基地でモニターに表示されるE-2Cが探知した敵機の位置情報を見ていた伊東がある一点を凝視している。
その気になる編隊は日本海側から迫る30機ほどの編隊だった。おそらく沿海州から来たのだろう。
「この編隊の動きは昨夜の千歳基地を攻撃した時と同じコースじゃないか?」
伊東は井本へ尋ねる。
「私もそう思います」
その編隊は千歳基地攻撃と同じく積丹半島を目指すように進んでいる。
「基地の復旧を妨害する気だな。さっき出撃させた要撃機で阻止させろ」
伊東の決心により10機の要撃機は針路を北西へと変える。
「三沢DC(防空指令所)よりシャドウは先行し先制攻撃をせよ」
コースサインシャドウのF-35の小隊はF-2とF-15より先へ進む。ステルス戦闘機の優位性である探知され難い特性を生かすために編隊より離れて先へ行くのだ。
この時のF-35はステルス性を低下させる機外の装備は装着せず機体内部の兵器倉にだけ空対空ミサイルを装備している。レーダー波吸収素材など機体はレーダー対策を施してあるがミサイルや増槽にはそんなものは施されていない。機内に収容する事でステルス性の低下を防いでいるのだ。
「シャドウ1目標コンタクト!」
シャドウ小隊を指揮するシャドウ1もとい原村一等空佐はHMD(ヘルメット装着式表示装置)に映るレーダー探知の情報から愛機が敵機を捕捉したと分かった。
「敵機はこちらに気づいてないようだな」
原村が見るコクピットのモニターに映る情報。このF-35の機首にあるAESAレーダーのみならずE-2Cの探知情報も交えたものだった。F-35は友軍が伝える様々な情報を一元化して表示できる融合サーバーによる整理された戦況の様子だ。
迫る敵編隊はF-35の存在を知らないように積丹半島へ近づいている。
「ん、護衛の戦闘機か?」
敵編隊が前後に分かれた前へ出る編隊が先行し始めた。
「敵前衛編隊を攻撃する」
原村は部下へ命じる。後続のF-2とF-15が戦い易いようにまず敵戦闘機に打撃を与えるのだ。
「目標をロックでき次第攻撃せよ!」
原村の命令で4機のF-35は交戦に入る。敵機は肉眼では見えない。レーダーに映るその光点へ向けてミサイルの標準を合わせ放つ。
F-35の機体下部にある兵器倉の扉が勢いよく開くとすぐさまミサイルが放たれ瞬時に閉まった。放たれたミサイルはAAM-4(99式空対空誘導弾)である。ミサイルに装備されているレーダーで目標へ向かうアクティブ・レーダー・誘導方式のAAM-4は回避機動を始めた敵機、Suー30を探知しながら進む。
だから一度放ったミサイルをパイロットが誘導する必要は無く次の目標を狙う事が出来る。しかし機内の兵器倉にだけミサイルを積んだF-35が積めるミサイルは4発だけだ。
交戦している敵の前衛部隊は12機である。原村のシャドー小隊が撃てる16発のAAM-4を全部使っても余裕がある。
なんとかAAM-4を回避できたSu-30もあったが4発の余裕は12機を追い込む事ができる。ましてやSu-30からはまだF-35の存在を探知できていないのだから。
「シャドーより敵機12機を撃墜した。ミサイルはもう無い帰還する」
「こちら三沢DC了解」
露払いを済ませたシャドー小隊は三沢へと引き返す。
帰還する原村らシャドー小隊のパイロット達は圧倒的勝利に高揚し気分は凱旋する勝者であった。
「シャドーが露払いをしてくれた。俺達も行くぞ」
F-2小隊の隊長がF-15の2機へもそう呼びかける。
「千歳の仇を討つぞ」
バッターもとい2機のF-15を率いる高梨は早くも自分の基地を襲った仇を討てるとは思わず身体の奥で疼く戦意が高まるのを感じていた。
高梨は三沢基地に着いてから千歳基地でよく知る仲の良い何人かが亡くなったのを知った。まだ千歳基地は復旧できず生き残った飛行隊も出撃できない。仇を討てるのは高射隊か三沢に居る俺達だけだと高梨は考え悲しむよりも仇を討つ機会を待っていた。
そこへこの出撃であり千歳を再び攻撃しようと企む敵との再戦である。希望が早くも叶うとは高梨も思わなかった。
バッターの2機はF-2と共に前進する。しかし高梨はまずは俺がやるんだと意気込んだ。先陣こそF-35のシャドー小隊に先を越されたがステルス戦闘機ならば仕方ないと諦められる。
しかし世代こそF-2が新しいとはいえF-15は現代航空戦の戦歴では最強の戦闘機である。なんとしてでも先を越されたくないという意識があった。
「くっそう同時か」
F-15からAAM-4を発射したと同時にSuー30もR-77空対空ミサイルを発射した。次いでF-2もAAM-4を放つ。
双方の戦闘機は迫るミサイルを避ける。敵機やミサイルから出るレーダー波に捕まらないようにである。それでいて敵機の位置を把握し続ける。
そうして動き回り重力の痛みを感じながら高梨は自分の放ったミサイルがSu-30を1機撃墜したのを確認した。
この空中戦はソ連軍戦闘機の壊滅という結果で終わる。空自側はF-2が1機ミサイルの命中でエンジンを損傷して北海道沖の太平洋に落ちた。パイロットは三沢基地の空自航空救難団が二日後に発見して収容した。
高梨は2機のSu-30を撃墜して帰還したが高梨はどこか乾いた気分であった。
まだR-77から逃げているのもあるし千歳基地を爆撃した爆撃機を落とした訳ではないのもあるが1機の敵機を撃ち落しただけでこの戦いが終わりではないと分かっているからだ。
「まだこれからだぞ」
高梨は熱意を持ちながらもストイックに空戦を続ける。
自分達が千歳基地の戦闘機代表なのだ。まだ緒戦でやられてはいけない。そうしなければ仇を討つのは出来ないのだと。
残ったTu-163爆撃機は護衛戦闘機が無くなり引き返して行く。
「これで千歳基地への攻撃には慎重になるでしょう」
空戦の模様をレーダー情報の画面で見守っていた井本は同じく見ていた伊東へ言った。
「いや、爆弾からミサイルに代わるかもしれん」
伊東が知っている知識ではソ連軍はKn-55という巡航ミサイルがあり爆撃機に搭載できる。しかも射程は2000kmもあるこれなら日本海の上空で発射すればいいのだ。
「日本海まで要撃戦を広げるには戦力が足りません」
井本の楽観は無くなる。千歳基地が機能を回復して北部方面航空隊の全力戦力が使えても日本海まで足を伸ばす余力は無い。北海道上空の制空権獲得に全力を注がねばならないからだ。
「日本海に護衛艦が展開すれば少しは楽になるが…まあ無い物を言っても仕方ない」
広い探知能力と対空ミサイルを装備した護衛艦が日本海にあれば海の高射隊として期待できると考えたが出動命令が出たばかりでは無い物ねだりに他ない。
「増援が来るまでは千歳や津軽海峡を守るしかできん」
現状の北部方面航空隊は千歳基地に本州と北海道を隔てる津軽海峡上空を守るのを当面の方針にしていた。千歳基地は基地の復旧を妨害されないため。津軽海峡は本土からの増援部隊が北海道へ渡れるようにするためだ。避難する民間人は鉄道で青函トンネルを通り本州へ向かわせる事が北海道庁とJRとの協議で決まっていた。
自衛隊の部隊や物資も鉄道輸送が決まっていたが貨車に載らない戦車や自走砲などの大型装備はフェリーに乗せて海路で運ぶ事になっていた。だから津軽海峡上空を守らなければならない。
では北海道への増援はどうなっているのか?
防衛準備出動命令が出てから全国の陸海空自衛隊は臨戦態勢に入り出動準備を進めていた。
統合幕僚監部ではどの部隊を動かすかすぐに決定する。
地理的に近いとして東北方面隊の第6師団が選ばれた。同じ方面隊の第9師団は青函トンネルや三沢の空自基地・大湊の海自基地を警備する任務を与えた。特にソ連軍の特殊部隊が潜入し青函トンネルの出入り口やトンネル内に浸水しないように海水を排出するポンプ設備を破壊するおそれがあったからだ。
その警備任務で出番が無い野戦特科と機甲科は増援部隊として北海道へ行く事になった。第9特科連隊と第9戦車大隊が青森港から民間のフェリーで函館まで移動する。
室蘭まで行く事は出来たがソ連潜水艦がどこまで来ているか不明であり太平洋へ出るのは躊躇われた。近い位置の部隊とはいえ戦車と榴弾砲を弾薬などの物資を含めた大移動はすぐには出来ず本州からの増援第一陣とはならなかった。
その第一陣は中央即応連隊だった。
栃木県宇都宮駐屯地に在る中央即応連隊は名前の通りにすぐ動ける即応部隊として編成された部隊で総勢700人である。しかもこの700人は第一空挺団と並ぶ精鋭部隊として知られる。
その精鋭部隊はジブチの基地警備をはじめ南スーダンなど海外派遣の先遣部隊として活躍している。また即応部隊として有事があればすぐに駆けつける役目もある。その役目を果たすべく中即連は出動しようとしていた。
移動には木更津の第1ヘリコプター団に所属するV-22オスプレイが使われた。ヘリであるが主翼とローターの向きを変えれば回転翼機から固定翼機へ変わり最大で509km/hの速度を出せる高速の輸送機となる。
この時に陸自が保有するオスプレイは5機であり隊員を120人運べる。だが中央即応連隊全部は運べない。第1中隊の120人を先遣隊として送り出す事になった。
オスプレイで一気に三沢基地まで飛び、夜になってから札幌近郊の飛行場がある丘珠駐屯地で中即連の中隊は降ろされた。これと同じ行程で乗る機体をC-1輸送機2機で三沢まで移動し、そこからCH-47輸送ヘリで丘珠へ夜間移動した。
残る第3中隊や連隊本部は車輌で青森まで陸路移動する事となる。
また毒ガスや核攻撃の汚染に対処する中央化学防護隊も送り出し第1ヘリコプター団も中即連の輸送をはじめ既に本州から北海道への輸送任務に従事していた。
これら陸自部隊の移動を立案し命令を下しているのは陸上総隊である。
陸上総隊は全ての陸自部隊を指揮する上位組織である。これは従来の方面隊や集団という地域や組織で指揮運用が固定化されていた陸自部隊を全国規模で動かすためのものだ。
また陸上総隊は九州の第8師団に中部地方の第10師団と北陸の第12旅団へ青森への移動命令を出していた。第10師団は戦略機動師団という有事になれば増援部隊となる師団でありその役目だが、空中機動旅団である第12旅団は反撃の部隊として期待されていた。
また反撃の部隊として富士教導団の投入も検討された。陸自の各種装備の試験や戦術研究を部隊を動かす実地で行ったり、それぞれの職種について幹部自衛官への教育が行われる部隊であり10式戦車に90式戦車を装備する有力な戦力とも見られていた。
なので富士教導団が実戦に出るにあたり戦闘団が組まれる。
戦車教導隊は90式戦車を装備した第2中隊と第3中隊に10式戦車を装備した第1中隊
特科教導隊は99式155ミリ自走榴弾砲を装備した第3中隊
普通科教導隊から89式装甲戦闘車を装備した第1中隊・96式装輪装甲車を装備した第4中隊
に重迫撃砲中隊
偵察教導隊から軽装甲機動車の第中隊と87式偵察警戒車を装備した第3中隊
この抽出部隊が組まれた意図は機甲打撃部隊として戦闘団であった。戦車に自走砲・装甲車に乗る普通科という機械化部隊としての。
残る部隊は別に滝ヶ原戦闘団として編成された。
普通科教導隊から軽装甲機動車の第2中隊・高機動車の第3中隊
特科教導隊の155ミリ榴弾砲FH70を装備した第1中隊と第3中隊に203ミリ自走榴弾砲を装備した第4中隊
戦車教導隊から74式戦車を装備した第4中隊
偵察教導隊は偵察オートバイの第1中隊
地上部隊以外では北海道以南にある4つの対戦車ヘリコプター隊が移動を始めていた。
陸自部隊の大移動は本州であれば高速道路や鉄道輸送が行われ、九州の第8師団の場合は海自護衛艦隊に守られたカーフェリーにより博多港から瀬戸内海を経て神戸港へ運ばれてから陸路青森へ向かうようになっていた。
何よりもソ連海軍の動向が掴めなかった。ソ連潜水艦がどこまで来ているか?海自はP-3CやP-1対潜哨戒機を太平洋と日本海へ向かわせ捜索させる。
北海道は攻められているがどこまで囲まれているのか動き出した自衛隊はまだこの事態の全容は掴めていないが反撃へと確実に動いていた。
連隊は第4中隊からまず出動した。5個ある戦車中隊の中で第4中隊は最新鋭の10式戦車を装備している。師団司令部と戦車連隊は協議して通信能力が高く他の職種(兵科)とも協同し易い10式をまず前線に投入して普通科連隊に小隊ごとで編入させる事を決めていた。
なのでまず10式部隊である第4中隊が上富良野を出発した。
「この90式がもう旧式だものなあ」
第4中隊の出動を見送りながら北島は自分の愛車である90式戦車について思う。
1990年に採用された90式戦車は日本製鋼がライセンス生産するドイツのラインメタル社が開発した44口径120ミリ滑腔砲を装備し、溶接構造で組み上げた砲塔には初の採用となる複合装甲が用いられた。更には日本戦車にコンピューターが初めて搭載(射撃管制に用いられた)された戦車でもあり最新技術を盛り込んでいた。
だが20年過ぎて今や90式も旧式になってしまった。
10式戦車は主砲の大きさこそ変わらないが日本製鋼が開発した純国産になり新型砲弾もあり火力は強化され装甲を取り外し可能なモジュラー装甲にして軽量化も実現した。またアクティブ・サスペンションは高速走行でも主砲を安定させ走行中の正確な射撃を可能にさせた。
また何よりもC4Iのネットワークに繋がる通信能力は前線の戦況を全て把握できるようにもなっている。まさに90式を超える新世代の戦車だった。
「新型だからって言い訳じゃないですよ」
下田が言う。
「幾ら10式が凄くても腕は機械に負けないです」
10式は射撃や走行・通信の能力が装備として高いが、自分達の訓練を重ねた腕はテクノロジーには負けないと下田は自負しているのだ。
「それに90式で切なくしていたら74式の方が悲しくなりますよ」
北島の戦車で操縦手を務める吾野真一等陸曹が言う。第2戦車連隊の有する戦車は10式に90式と74式と現役の陸自戦車が全種類ある。74式は1974年採用の戦車であり一番古い戦車だ。主砲は105ミリでコンピューターなんて無縁である。
「言うとおりだ。俺はどうも贅沢を言っていたな」
北島がそう言うと下田と吾野が笑う。
「それにしても出動がまだなのが落ち着かないですよ」
下田が訴える。
上富良野駐屯地から出動するのは第2戦車連隊だけではない。第2師団所属では96式多目的誘導弾システムを装備する第2対舟艇対戦車中隊もあり方面隊直轄部隊である第1特科団の第4特科群もである。一度にまとまった部隊ごとでは無く中隊ごとや大隊ごとに出動する為に北島の居る第2中隊の出動は2時間後であった。
「この間に空爆でもされなければいいが」
北島は空を見上げながら心配する。千歳の空自基地は攻撃を受けてから復旧したとは聞いていない。北海道の空はまだ敵の手にあると言っても良い。
その心配をしていると苛立つ気分に北島はなり胸のポケットに入れた煙草に手を伸ばそうとした時だった。先任陸曹の阿藤が書類を持ってやって来た。
「段列の準備が整いました。トラックも十分に確保できました」
阿藤は出動する第2中隊の物資を運ぶトラックの準備を指揮していた。物資の輸送と言うと補給科の後方支援隊がする仕事に思えるが部隊で使う物は自前で運び出すようになっている。
だから中隊や大隊・連隊ごとに自前の輸送車輌を持ち必要があれば更にトラックなどを確保して弾薬に食料・天幕などの物資を運ぶのである。
「よし確認する」
北島は不安に苛立たせる事からまだ片付けねばならない中隊長の仕事へ頭を切り替えた。
北島が不安になる北海道上空はソ連空軍が続々と侵入をしていた。
沿海州とサハリンから出撃したソ連空軍は戦闘機であるSu27やSu33・Mig29で北海道北部から中部の制空権を確保した。
その確保した制空権内でSu24戦闘攻撃機やSu25攻撃機が移動する自衛隊部隊や駐屯地を爆撃する。まだ動いたばかりの自衛隊は組織的な防空態勢がまだ整わずソ連軍の為すがままである。
爆撃を受けた陸自部隊では誰もが「空自はどうした?」「こっちの戦闘機は何をやっているんだ」と愚痴がこぼれる。
その空自の戦闘機はどうしているのか?
千歳基地はまだ破壊された滑走路や基地機能を修復中だ。北海道へ戦闘機を送り出せるのは青森県の三沢基地だけである。
その三沢基地にある戦闘機部隊は第3航空団である。以前はF-2戦闘機2個部隊であったが対中国を念頭にした南西への戦力移転で第8飛行隊が九州の築城基地へ移動し第3航空団は一時的に第3飛行隊だけの1個飛行隊になったが今では新たに第307飛行隊が加わった。
この第307飛行隊は空自初となるステルス戦闘機F-35Aを装備する部隊だ。10カ国が共同開発するこの戦闘機はまだ配備の途上であり307飛行隊には12機しかない。
そして第3飛行隊のF-2は20機であり当面は32機の戦闘機が北海道の守りを担う。その32機がすぐに全力出撃ができる訳ではない。
防衛出動が出てすぐにF-2が4機で三沢基地上空の防空に発進し、午前9時10分には北海道上空の要撃戦を展開すべく第3飛行隊からF-2が4機と第307飛行隊からF-35が4機に昨晩千歳基地から発進し三沢基地へ退避した第201飛行隊に所属する2機のF-15も加わる。
合わせて10機の要撃機は旭川上空で作戦を展開する予定であったがE-2D早期警戒機が日本海から迫る敵編隊を探知した事から作戦は変わる。
「この編隊はどうも妙だな」
三沢基地でモニターに表示されるE-2Cが探知した敵機の位置情報を見ていた伊東がある一点を凝視している。
その気になる編隊は日本海側から迫る30機ほどの編隊だった。おそらく沿海州から来たのだろう。
「この編隊の動きは昨夜の千歳基地を攻撃した時と同じコースじゃないか?」
伊東は井本へ尋ねる。
「私もそう思います」
その編隊は千歳基地攻撃と同じく積丹半島を目指すように進んでいる。
「基地の復旧を妨害する気だな。さっき出撃させた要撃機で阻止させろ」
伊東の決心により10機の要撃機は針路を北西へと変える。
「三沢DC(防空指令所)よりシャドウは先行し先制攻撃をせよ」
コースサインシャドウのF-35の小隊はF-2とF-15より先へ進む。ステルス戦闘機の優位性である探知され難い特性を生かすために編隊より離れて先へ行くのだ。
この時のF-35はステルス性を低下させる機外の装備は装着せず機体内部の兵器倉にだけ空対空ミサイルを装備している。レーダー波吸収素材など機体はレーダー対策を施してあるがミサイルや増槽にはそんなものは施されていない。機内に収容する事でステルス性の低下を防いでいるのだ。
「シャドウ1目標コンタクト!」
シャドウ小隊を指揮するシャドウ1もとい原村一等空佐はHMD(ヘルメット装着式表示装置)に映るレーダー探知の情報から愛機が敵機を捕捉したと分かった。
「敵機はこちらに気づいてないようだな」
原村が見るコクピットのモニターに映る情報。このF-35の機首にあるAESAレーダーのみならずE-2Cの探知情報も交えたものだった。F-35は友軍が伝える様々な情報を一元化して表示できる融合サーバーによる整理された戦況の様子だ。
迫る敵編隊はF-35の存在を知らないように積丹半島へ近づいている。
「ん、護衛の戦闘機か?」
敵編隊が前後に分かれた前へ出る編隊が先行し始めた。
「敵前衛編隊を攻撃する」
原村は部下へ命じる。後続のF-2とF-15が戦い易いようにまず敵戦闘機に打撃を与えるのだ。
「目標をロックでき次第攻撃せよ!」
原村の命令で4機のF-35は交戦に入る。敵機は肉眼では見えない。レーダーに映るその光点へ向けてミサイルの標準を合わせ放つ。
F-35の機体下部にある兵器倉の扉が勢いよく開くとすぐさまミサイルが放たれ瞬時に閉まった。放たれたミサイルはAAM-4(99式空対空誘導弾)である。ミサイルに装備されているレーダーで目標へ向かうアクティブ・レーダー・誘導方式のAAM-4は回避機動を始めた敵機、Suー30を探知しながら進む。
だから一度放ったミサイルをパイロットが誘導する必要は無く次の目標を狙う事が出来る。しかし機内の兵器倉にだけミサイルを積んだF-35が積めるミサイルは4発だけだ。
交戦している敵の前衛部隊は12機である。原村のシャドー小隊が撃てる16発のAAM-4を全部使っても余裕がある。
なんとかAAM-4を回避できたSu-30もあったが4発の余裕は12機を追い込む事ができる。ましてやSu-30からはまだF-35の存在を探知できていないのだから。
「シャドーより敵機12機を撃墜した。ミサイルはもう無い帰還する」
「こちら三沢DC了解」
露払いを済ませたシャドー小隊は三沢へと引き返す。
帰還する原村らシャドー小隊のパイロット達は圧倒的勝利に高揚し気分は凱旋する勝者であった。
「シャドーが露払いをしてくれた。俺達も行くぞ」
F-2小隊の隊長がF-15の2機へもそう呼びかける。
「千歳の仇を討つぞ」
バッターもとい2機のF-15を率いる高梨は早くも自分の基地を襲った仇を討てるとは思わず身体の奥で疼く戦意が高まるのを感じていた。
高梨は三沢基地に着いてから千歳基地でよく知る仲の良い何人かが亡くなったのを知った。まだ千歳基地は復旧できず生き残った飛行隊も出撃できない。仇を討てるのは高射隊か三沢に居る俺達だけだと高梨は考え悲しむよりも仇を討つ機会を待っていた。
そこへこの出撃であり千歳を再び攻撃しようと企む敵との再戦である。希望が早くも叶うとは高梨も思わなかった。
バッターの2機はF-2と共に前進する。しかし高梨はまずは俺がやるんだと意気込んだ。先陣こそF-35のシャドー小隊に先を越されたがステルス戦闘機ならば仕方ないと諦められる。
しかし世代こそF-2が新しいとはいえF-15は現代航空戦の戦歴では最強の戦闘機である。なんとしてでも先を越されたくないという意識があった。
「くっそう同時か」
F-15からAAM-4を発射したと同時にSuー30もR-77空対空ミサイルを発射した。次いでF-2もAAM-4を放つ。
双方の戦闘機は迫るミサイルを避ける。敵機やミサイルから出るレーダー波に捕まらないようにである。それでいて敵機の位置を把握し続ける。
そうして動き回り重力の痛みを感じながら高梨は自分の放ったミサイルがSu-30を1機撃墜したのを確認した。
この空中戦はソ連軍戦闘機の壊滅という結果で終わる。空自側はF-2が1機ミサイルの命中でエンジンを損傷して北海道沖の太平洋に落ちた。パイロットは三沢基地の空自航空救難団が二日後に発見して収容した。
高梨は2機のSu-30を撃墜して帰還したが高梨はどこか乾いた気分であった。
まだR-77から逃げているのもあるし千歳基地を爆撃した爆撃機を落とした訳ではないのもあるが1機の敵機を撃ち落しただけでこの戦いが終わりではないと分かっているからだ。
「まだこれからだぞ」
高梨は熱意を持ちながらもストイックに空戦を続ける。
自分達が千歳基地の戦闘機代表なのだ。まだ緒戦でやられてはいけない。そうしなければ仇を討つのは出来ないのだと。
残ったTu-163爆撃機は護衛戦闘機が無くなり引き返して行く。
「これで千歳基地への攻撃には慎重になるでしょう」
空戦の模様をレーダー情報の画面で見守っていた井本は同じく見ていた伊東へ言った。
「いや、爆弾からミサイルに代わるかもしれん」
伊東が知っている知識ではソ連軍はKn-55という巡航ミサイルがあり爆撃機に搭載できる。しかも射程は2000kmもあるこれなら日本海の上空で発射すればいいのだ。
「日本海まで要撃戦を広げるには戦力が足りません」
井本の楽観は無くなる。千歳基地が機能を回復して北部方面航空隊の全力戦力が使えても日本海まで足を伸ばす余力は無い。北海道上空の制空権獲得に全力を注がねばならないからだ。
「日本海に護衛艦が展開すれば少しは楽になるが…まあ無い物を言っても仕方ない」
広い探知能力と対空ミサイルを装備した護衛艦が日本海にあれば海の高射隊として期待できると考えたが出動命令が出たばかりでは無い物ねだりに他ない。
「増援が来るまでは千歳や津軽海峡を守るしかできん」
現状の北部方面航空隊は千歳基地に本州と北海道を隔てる津軽海峡上空を守るのを当面の方針にしていた。千歳基地は基地の復旧を妨害されないため。津軽海峡は本土からの増援部隊が北海道へ渡れるようにするためだ。避難する民間人は鉄道で青函トンネルを通り本州へ向かわせる事が北海道庁とJRとの協議で決まっていた。
自衛隊の部隊や物資も鉄道輸送が決まっていたが貨車に載らない戦車や自走砲などの大型装備はフェリーに乗せて海路で運ぶ事になっていた。だから津軽海峡上空を守らなければならない。
では北海道への増援はどうなっているのか?
防衛準備出動命令が出てから全国の陸海空自衛隊は臨戦態勢に入り出動準備を進めていた。
統合幕僚監部ではどの部隊を動かすかすぐに決定する。
地理的に近いとして東北方面隊の第6師団が選ばれた。同じ方面隊の第9師団は青函トンネルや三沢の空自基地・大湊の海自基地を警備する任務を与えた。特にソ連軍の特殊部隊が潜入し青函トンネルの出入り口やトンネル内に浸水しないように海水を排出するポンプ設備を破壊するおそれがあったからだ。
その警備任務で出番が無い野戦特科と機甲科は増援部隊として北海道へ行く事になった。第9特科連隊と第9戦車大隊が青森港から民間のフェリーで函館まで移動する。
室蘭まで行く事は出来たがソ連潜水艦がどこまで来ているか不明であり太平洋へ出るのは躊躇われた。近い位置の部隊とはいえ戦車と榴弾砲を弾薬などの物資を含めた大移動はすぐには出来ず本州からの増援第一陣とはならなかった。
その第一陣は中央即応連隊だった。
栃木県宇都宮駐屯地に在る中央即応連隊は名前の通りにすぐ動ける即応部隊として編成された部隊で総勢700人である。しかもこの700人は第一空挺団と並ぶ精鋭部隊として知られる。
その精鋭部隊はジブチの基地警備をはじめ南スーダンなど海外派遣の先遣部隊として活躍している。また即応部隊として有事があればすぐに駆けつける役目もある。その役目を果たすべく中即連は出動しようとしていた。
移動には木更津の第1ヘリコプター団に所属するV-22オスプレイが使われた。ヘリであるが主翼とローターの向きを変えれば回転翼機から固定翼機へ変わり最大で509km/hの速度を出せる高速の輸送機となる。
この時に陸自が保有するオスプレイは5機であり隊員を120人運べる。だが中央即応連隊全部は運べない。第1中隊の120人を先遣隊として送り出す事になった。
オスプレイで一気に三沢基地まで飛び、夜になってから札幌近郊の飛行場がある丘珠駐屯地で中即連の中隊は降ろされた。これと同じ行程で乗る機体をC-1輸送機2機で三沢まで移動し、そこからCH-47輸送ヘリで丘珠へ夜間移動した。
残る第3中隊や連隊本部は車輌で青森まで陸路移動する事となる。
また毒ガスや核攻撃の汚染に対処する中央化学防護隊も送り出し第1ヘリコプター団も中即連の輸送をはじめ既に本州から北海道への輸送任務に従事していた。
これら陸自部隊の移動を立案し命令を下しているのは陸上総隊である。
陸上総隊は全ての陸自部隊を指揮する上位組織である。これは従来の方面隊や集団という地域や組織で指揮運用が固定化されていた陸自部隊を全国規模で動かすためのものだ。
また陸上総隊は九州の第8師団に中部地方の第10師団と北陸の第12旅団へ青森への移動命令を出していた。第10師団は戦略機動師団という有事になれば増援部隊となる師団でありその役目だが、空中機動旅団である第12旅団は反撃の部隊として期待されていた。
また反撃の部隊として富士教導団の投入も検討された。陸自の各種装備の試験や戦術研究を部隊を動かす実地で行ったり、それぞれの職種について幹部自衛官への教育が行われる部隊であり10式戦車に90式戦車を装備する有力な戦力とも見られていた。
なので富士教導団が実戦に出るにあたり戦闘団が組まれる。
戦車教導隊は90式戦車を装備した第2中隊と第3中隊に10式戦車を装備した第1中隊
特科教導隊は99式155ミリ自走榴弾砲を装備した第3中隊
普通科教導隊から89式装甲戦闘車を装備した第1中隊・96式装輪装甲車を装備した第4中隊
に重迫撃砲中隊
偵察教導隊から軽装甲機動車の第中隊と87式偵察警戒車を装備した第3中隊
この抽出部隊が組まれた意図は機甲打撃部隊として戦闘団であった。戦車に自走砲・装甲車に乗る普通科という機械化部隊としての。
残る部隊は別に滝ヶ原戦闘団として編成された。
普通科教導隊から軽装甲機動車の第2中隊・高機動車の第3中隊
特科教導隊の155ミリ榴弾砲FH70を装備した第1中隊と第3中隊に203ミリ自走榴弾砲を装備した第4中隊
戦車教導隊から74式戦車を装備した第4中隊
偵察教導隊は偵察オートバイの第1中隊
地上部隊以外では北海道以南にある4つの対戦車ヘリコプター隊が移動を始めていた。
陸自部隊の大移動は本州であれば高速道路や鉄道輸送が行われ、九州の第8師団の場合は海自護衛艦隊に守られたカーフェリーにより博多港から瀬戸内海を経て神戸港へ運ばれてから陸路青森へ向かうようになっていた。
何よりもソ連海軍の動向が掴めなかった。ソ連潜水艦がどこまで来ているか?海自はP-3CやP-1対潜哨戒機を太平洋と日本海へ向かわせ捜索させる。
北海道は攻められているがどこまで囲まれているのか動き出した自衛隊はまだこの事態の全容は掴めていないが反撃へと確実に動いていた。
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