北海道防衛201X

葛城マサカズ

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1日目 第6話

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 第3普通科連隊第1中隊が音威子府へ展開したのは午前10時48分のことだった。
 偵察隊に続いて名寄駐屯地から出動した100人の中隊は防衛出動命令が出るやすぐに車輌で飛び出した。
 だが途上でSu-25による爆撃を受けて20人が死傷し移動も中断してしまったがなんとかソ連軍に先んじて音威子府へ辿り着いた。
 「80人で何時間持つか」
 中隊長の脇坂三等陸佐は自分の中隊だけで守れるとは思えなかった。小銃小隊3個だけで航空優勢を持って攻めて来る機械化部隊を食い止められるとは思えなかった。
 「音威子府で散るか。連隊主力が来るのが先か競争だな」
 自分のみならず部下である隊員達の運命がどちらが先に着くかで決まる。もしもソ連軍が先に来て戦闘となれば大きな犠牲が出るだろう。
 そうした中隊長脇坂の懸念はどの隊員も持っていた。
 だが今ここに居るのは自分達だけであり音威子府を先にソ連軍に取られる訳にはいかないとも理解していた。
 音威子府は西の天塩山地と東の北見山地に挟まれた防御に適した要地だからだ。第2師団は道北の防衛作戦を展開するにあたり音威子府を重要な地点だと認識していた。
 「偵察隊より報告!敵部隊来ます、戦車10両以上で装甲車20両以上!」
 第2偵察隊の先行した部隊は犠牲を既に出しながらも第1中隊の前哨を監視する任務に就いていた。
 「第1中隊、戦闘用意!」
 脇坂はそう命じたが背筋に冷や汗が流れていた。
 「中隊長!アレ!」
 脇坂は傍に居た中隊副官の一等陸尉が空を指差すのを見た。そこには飛行機らしい影が見えた。
 「まさか無人機か?」
 その通りだった。この世界でもソ連はアメリカとの競争を続けアメリカがプレデターを実戦配備したのを受けて無人機(UAV)の開発を加速させた。その成果である機体が脇坂の中隊を偵察していた。

 「ようやく敵の防衛線か」
 ボロディンはUAVからの情報を受け取っていた。情報とはいえUAVから直にではなく師団司令部を経ての伝達である。その内容は「およそ100人の歩兵部隊が音威子府に展開中」とあった。
 「このオトイネップで止められたら厄介だ。すぐに攻撃する」
 ボロディンも音威子府の重要性を理解していた。時間が経てば後続部隊が到着し防衛線は強化されてしまう。だから歩兵部隊だけの内に突破してしまおうと決めた。
 「ラヴィーナ11より全車へ。前進せよ」
 ボロディンが音威子府へ部隊を前進させたのは正午を少し回った時間であった。
 「航空支援を要請した方が良かったのでは?」
 ボロディンの副官であるノストロク大尉が意見をする。
 「いや待つ時間は無い。速攻でいかねばならん何よりも橋を早く確保せねば」
 支援砲撃も航空支援も無く戦車と歩兵戦闘車の攻撃力だけで動く。強引であり危険が大きいと普通は思えた。だがボロディンはそれよりも時間が惜しかった。すぐにあの山地に囲まれた地を占領せねばならない。何よりも音威子府には進撃路となる名寄国道の途上で橋がある。破壊される前に確保する必要があった。
 「本部小隊と第3小隊で援護する。第1小隊とリョート(機械化歩兵中隊)は橋を渡って対岸を確保しろ。第1小隊はいつでも橋を渡れるように待機しろ」
 ボロディンは名寄川西岸に敵が居ないと分かると音威子府橋を渡る作戦を立てた。ボロディン自身の本部小隊と第1小隊が敵が居れば戦車砲や機銃で援護し、戦車小隊と機械化歩兵中隊を一気に渡らせ対岸を確保するというものだ。
 だが橋を渡る時が危険である。
 橋の上は身を隠せない射撃を浴び続ける事になってしまうからだ。また橋が既に爆破する準備が整えられ部隊が通過中に爆破される危険もある。(だからと言って隅々まで確認する暇は無い)
 ボロディンにしろ橋を渡る方も対岸へ行くまで気が気でない。
 「ラヴィーナ1前進する」
 戦車小隊が進むと機械化歩兵中隊のBMP-3歩兵戦闘車も続く。そのスピードは50km/hと速い。素早く対岸へ渡るためだ。
 「敵だ!ミサイル!」
 ソ連軍が橋の中央まで来た時だった。
 音威子府の町からミサイルが飛んで来た。直線的な軌道ではなく修正をしているであろう小刻みな動きをしながら先頭のT-90へ向かう。
 「くそたれ!対岸を撃て!」
 ミサイルはT-90のエンジンの真上を直撃して炎上させる。それを見たボロディンは援護部隊で対岸へ怒り狂うように砲撃や銃撃を加える。
 「ラヴィーナ1前進を続ける」
 第1小隊は燃えて撃破されたT-90を後続のT-90で押して前進を続行しようと試みる。止まっていては更に狙われるだけだ。
 「またミサイルだ!」
 「畜生め!」
 最初のミサイルとは別の場所からミサイルが飛んで来た。そのミサイルも軌道を修正しながら燃える戦車を押して前進を続けるT-90へ向かう。その数は2発だ。
 2発のミサイルはT-90を左右から刺すように命中した。1発は車体左の側面、1発は砲塔の右側にである。
 砲塔は戦車が纏う防弾装備であるリアクティブ・アーマー(爆発反応装甲)によりミサイルの直撃を無力化されたが車体側面に命中したミサイルは車内へまで爆発の熱を吹き込み乗員を殺傷し砲弾を炙った。
 「ラヴィーナ1とリョートへ。後退だ」
 2両の戦車が撃破されボロディンは作戦中止を決めた。やはり副官の言うとおり航空支援をしてからにするべきだったのかもしれない。
 「いかんな同志大尉」
 ボロディンへ注意するように言うのは政治将校のドスタム中尉だった。政治将校は反乱防止の監視役でもあり作戦行動においては進捗を監視する役目もある。
 「これでは敵に時間を与えてしまうではないか」
 ドスタムは険しくボロディンを見つめていた。
 「敵は歩兵に対戦車ミサイルを撃たせているのだろう。こちらも歩兵で対抗させてはどうか?」
 「しかし橋の上からの進撃は敵の火力を受けて困難です同志中尉」
 ボロディンは丁寧に歩兵を使う作戦を断ろうとした。
 「では同志大尉には今すぐ打開できる作戦があるのか?」
 「航空攻撃により敵を弱体化させ航空支援を特に攻撃ヘリによる支援を上ながら前進したいのです」
 「航空戦力を待つ余裕はないとは思わんか?」
 ドスタムの反論が返せなかった。
 まだ空軍は十分な展開はできていない。稚内空港にヘリ部隊が展開し整備・補給部隊も空港内で活動を始めたばかりである。
 空軍との調整だけでも時間が取られる。それは相手に時間を与えているのと同じだ。
 「分かりました同志中尉」
 ボロディンはしぶしぶ作戦実行を了解した。


 「負傷8名、重傷は2名です。戦死者は無し」
 「まずは良しとせねばな」
 脇坂は戦闘が終わり部隊の損害を聞いた。
 隊員は戦車による砲撃や銃撃で8人が傷を負うだけに済んだ。傷が深い2人を後方へ送らねばならないが戦死者は無く部隊の戦力はあまり減らない軽微な損害だと言える。
 「施設はまだか?」
 脇坂は戦車や野戦特科よりも施設科(工兵)を待ち望んでいた。
 この音威子府の戦場で最も大きな要所がこの音威子府橋だ。稚内から進撃する敵にとってはこの橋を渡らなければ南下できない。だからこそ橋を施設科により橋を爆破して戦車や装甲車が簡単に渡れないようにするのだ。
 「まだですね。敵の空爆を恐れて少しづつ進んでいるようです」
 脇坂の部下はノートPCを見ながら報告する。そのPCには基幹連隊指揮システムと呼ばれる情報共有システムである。敵味方の位置情報をシステム内で部隊が共有するものであり従来の無線による呼び出しと応答による口頭で知るのではなく、目で見て読んで瞬時に知る利点があるし何よりもリアルタイムで情報の更新がなされている。
 「まったく空自はどうしておるんだ」
 脇坂はぼやく制空権が無いままでは敵が自由に爆撃するだけではなく空挺作戦もやれる事を意味する。ヘリで歩兵部隊を展開させるヘリボーン作戦やられたら橋を爆破しても効果が半減してしまう。ましてや橋が無事なままでは挟み撃ちだ。
 「敵が動き始めました!」
 脇坂はその声を聞くや双眼鏡を瞬時に取り名寄川西岸を見る。最初の攻勢が失敗に終わり下がった敵が戦車と装甲車を連ねてまた河岸にやって来たのだ。
 「戦闘用意!」
 脇坂は命じた。戦闘糧食で昼飯をしていた隊員達はすぐに小銃や携帯式誘導弾の発射機を持って配置に就く。
 双方の配置が終わった頃にボロディンの部隊が河岸から戦車砲による砲撃を始めた。
 「同じパターンなら勝てるな」
 最初の攻勢と同じく砲撃支援を受けながらまた戦車と装甲車の車列が橋を渡り始めるのを見て脇坂は勝てると思った。また橋の上で01式軽対戦車誘導弾や87式対戦車誘導弾を浴びせてしまえばいいと。
 「ここで歩兵を降ろすのか?正気か?」
 最初の戦闘で撃破された2両のT-90の残骸の傍まで車列が来るとBMP-3から歩兵が降り始めた。位置は橋の中央であり隠れる場所の無いところでは自殺行為だと脇坂には見えた。
 「橋の敵歩兵を撃て!」
 だが容赦はしない。橋を渡られれば橋を確保され施設科に爆破準備の作業ができなくなる。
 脇坂中隊は89式小銃やMINIMI機関銃で銃撃し、81ミリ迫撃砲L16で砲撃も行いソ連軍機械化狙撃兵が来るのを阻む。
 ソ連軍側は戦車と装甲車からの援護射撃で幾らか自衛隊員が頭を上げられず射撃ができないようにしていたが自衛隊員の銃撃を完全には止められない。
 「怯むな。あともう少しだ!」
 橋の上を駆けるソ連軍兵達は指揮官に激励されながら対岸を目指す。だが全身を晒しながらでは銃弾も迫撃砲弾も防げない。
 次々に兵士達は倒れるばかりで対岸には辿り着けない。
 「迫撃砲陣地をどうにかできんか?」
 ドスタムは幾らか押さえられる銃撃とは違いこちらの砲撃が効いているとは見えない自衛隊の迫撃砲に苛立っていた。
 「こちらからは正確な位置は分からん。敵の居る辺りをしらみ潰しに砲撃するしかない」
 ボロディンも歩兵を助けたいがどこかに隠れて射撃している2000mほど離れている迫撃砲を見つけるのは難しい。
 「このままでは…くそっ」
 ドスタムは部隊をいくらでも潰してでも目標は達成されるべきであると思っていた。だが現実はいくら潰しても目標には届かないのを目の当たりにしていた。
 自分が言い出した作戦が失敗する汚名やメンツが潰れる事を恐れたが部隊が大損害に陥り今後の作戦により支障が出ると自分の責任となるだろうと考え至る。
 「作戦を中止すべきだな」
 ドスタムは落ち着かない何かを堪えている顔でボロディンへ言った。
 「同感です」
 ボロディンは内心ではドスタムを「無駄に部下を死なせた馬鹿野郎」と罵りつつも作戦中止の意志を受け止めた。
 「作戦中止だ。引き揚げろ」
 

 他の戦線では根室の上陸したソ連軍に対して第5旅団が防衛戦を展開していた。
 第5旅団は根室半島にソ連軍を押し留める作戦を当初の方針にしていた。その作戦に基づき別海駐屯地の第27普通科連隊第3中隊と第5偵察隊が出動する。
 根室半島の封鎖をする場合は国道44号と国道243号を塞ぐ必要がある。
 27普連第3中隊は243号の途上である昆布盛に中隊主力を置き、1個小隊を243号の途上にある温根沼大橋西岸に配置した。
 ソ連軍は第88海軍歩兵連隊の1個大隊を前進させ27普連第3中隊主力を昆布盛より正午前には撃退してしまう。
 中隊主力は落石へ新たに布陣した。 温根沼大橋西岸にある小隊はそのまま守備に就く。
 ソ連軍は昆布盛と温根沼大橋東岸に海軍歩兵を置き後続部隊の進撃に備えた。また27普連第3中隊を海からフリゲート艦が砲撃を加えて弱体化を図っていた。
 第5旅団の方は出動していたが国後島から出撃する空軍機やソ連空母「ミンスク」から出撃するYak‐141戦闘機が第5旅団を爆撃し始め根室半島へなかなか急行できずにいた。
 一方で道南・道央を守る第11旅団は日本海沿岸を進撃するソ連軍の南下を防ぐのを当面の作戦方針とした。
 また第11旅団は可能であれば苫前まで前進し第2師団左翼の防衛を代わり第2師団の負担を減らす意図もあった。
 だがこちらもソ連空母空母「ウリヤノフスク」から出撃したSu‐33戦闘機による爆撃やソ連艦艇による砲撃やミサイル攻撃を受けて第11旅団の前進は日中ではスムーズには行かなかった。
 どの戦線も自衛隊はソ連軍による空海からの攻撃や地理的な位置でなかなか戦力を集中して防衛線を展開できなかった。
 その一方でソ連軍は確保した港から部隊と物資を次々に揚げて戦力を増大させていた。
 開戦1日目の午前が終わり午後へと入っていく。

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